分科会番号:8-03 部門名:財政学

テーマ:財政

サブテーマ:あるべき公共事業のかたち

参加パート名:専修大学 経済学部 

望月ゼミナール B

 

 

代表者名:関 和典(TEL 090-4438-6116 Mail kazunoriseki@hotmail.com

 

参加者名:(3年)金子 杏奈 ・ 山本 真梨子

2年)真田 博幸・・佐藤 藍

目次

序章

第一章 公共事業の歴史と問題点

第一節 公共事業の歴史

  第二節 公共事業の問題点

 

第二章              公共事業の有効性

第一節 公共投資の乗数効果の変化

第二節 従来型公共投資の問題点

 

第三章 地方自治体の公共事業

第一節 無駄な公共事業

第二節       無駄な公共事業の原因

 

第四章    公共事業の改善策

第一節 費用対効果の査定厳格化 

第二節 情報の共有の実現

第三節 社会保障への投資効果

終章

序章

 

財政赤字が拡大する中で、日本の公共事業依存型の体制は限界にきている。財政のサステイナビリティを回復するためには、歳出部分で問題点の多い公共事業の見直しが必要であると考えている。これまでの道路、橋、ダムなどの建設中心の公共事業は、社会的インフラが整備されていない時代には経済への波及効果があった。しかし、経済の成熟により産業構造が変化に対応してニーズも変化し、既存の公共事業では波及効果を失っている。

現在、公共事業は経済の下支え程度であるが、削減するだけでは経済に多大な影響を与える。もし、公共事業費を50%削減するとGDPが約41兆円減少、雇用数は約248万人減少するといわれているのだ。このように削減するだけではなく、削減分を有効に活用していかなければならないと考える。

この論文では、公共事業の現状分析を行い、経済への波及効果を見て有効性について考え、マクロ的、ミクロ的に見ることによって多角的に公共事業を捉え、あるべき姿を導き出していきたいと考えている。

 

第一章       公共事業の歴史と問題点

 

日本の財政運営は第二次世界大戦後、伝統的に日本の政府は均衡財政に従って財政運営をおこなってきた。しかし、積極財政になり財政赤字が増え、今では財政危機により日本経済に大きな影響を及ぼしている。日本がサステイナビリティな財政を作っていくには無駄な公共事業の効率化、公共事業依存体質から抜け出すようなシステム作りが必要であると考える。

 

第一節 公共事業の歴史

 

第1期(敗戦直後)

日本の国家予算にはじめて公共事業費の文字が出てきたのは、終戦後の翌年度になってからである。戦争の影響で日本国内は建物が破壊され水道も断水や水害が多く、社会資本設備の必要性も高かったと考えられる。また、戦地から帰還した人々が増え、失業者があふれていた。このような時代背景のもと基礎的必需品を生産する基礎整備のハード事業に資金をつぎ込むことで、社会的インフラを整備すると同時に失業対策をしようとしたのが始まりである。このようにして、公共事業は戦後の復興に重要な役割を果たしていたのである。

 

第2期(高度経済成長)

戦後復興を経て高度経済成長になると公共事業が巨額になっていき財政を圧迫していった。特に、1970年代後半からの財政赤字の増大は大きかった。赤字の増大の理由の一つとして公共事業費の財源調達が国債の大量発行によってまかなわれてきたことがあげられる。この時期になると第1期の臨時的な応急処置としての性格を捨てて、経済成長を続けるための事業としての性格を強め、「公共投資国家」日本と言われるまでになった。そして、全国各地で工業化、都市化が進み、次々と地域開発政策が行われ公共事業は、そのための先行投資の役割を負わされてきた。

社会資本整備に関しては道路整備を中心に産業基盤の整備が最優先され、生活基盤が後回しにされてきた。このため、多額のお金が使われてきたにもかかわらず国民に生活の豊かさが実感されない「生活小国日本」が形成されていった。

 

第3期(低成長時代)

経済の低迷から脱出する方法として公共事業に大きな期待が寄せられた。75年度から赤字国債(特例国債)・建設国債の発行が当たり前のようになり積極財政運営が繰り返し行われることとなる。こうして不況対策のための公共投資が当たり前のように行われるようになった。施設の社会的な有用性よりも建設すること自体に意味があるとなり、無駄な公共事業が多く行われるようになった。

 

第4期(バブル時代〜崩壊)

財政赤字が問題となるなか、1983年、増税なき財政再建として、公務員制度改革・国と地方の改革・3公社の民営化が行われたり、福祉・教育分野についても「国民の自助・自立」「自己責任」として財政支出を削減しようとする努力がみられた。しかし、公共事業に関しては総額が前年度と同額以下にし、新規事業を抑制する大型事業の見直しが行われる程度のあまいものであった。そして、このころ行われた東京の再開発は、実体のない活況(バブル)を作り出し地価や株価の上昇などをまねいた。開発の波は全国に広まりゴルフ場・スキー場・リゾートホテルなど企業誘致のための投資が進められたが、バブルの崩壊によって、これまで行ってきた事業が実を結ばないまま財政負担となってしまった地方もあった。

このように戦後から日本の財政は大規模な公共事業を急な速さで拡大し定着させてきた。この公共事業が事業の拡大と債務の拡大を作る財政装置となって日本の財政の膨張と国債依存体質を作り出してきたのである。したがって景気後退局面に入り税収が減ると歳入を補うために国債が発行され、景気対策としての公共事業が追加していき、国債・地方債の依存度が高まるのでる。このような状況から抜け出すには、公共事業の改革が必要になってくると考える。

 

第二節 公共事業の問題点

 

このように公共投資の現状を見てみると、バブル崩壊後からの税収の減少により、財政赤字が拡大してきている。公共投資も財源は国債発行によってまかなわれており、景気が回復し、増収になれば返済していくという考えに基づいている。

公共事業の問題点は、これまで政官財の癒着により非効率部門への投資が行われてきたこと。そして、公共事業依存体質から抜け出せないことである。

その背景には、政官財の鉄のトライアングルの癒着など構造的問題があげられる。政治家が行政に業者を口利きする。その業者はその見返りとして政治家に寄付や票を納める。そして行政は、その分だけ事業費を上澄みして落札させる。また、政治家と企業は、その行政官に天下りなどを行うという三者による既得損益構造になっている。また、中央と地方自治体との問題で、地元の事業の計画を中央に持って行き、中央が決めるため人々のニーズに合わない事業が行われるなど、多くの問題がある。

そして、公共事業の景気刺激効果が小さくなってきているといわれている。ケインズ政策では、景気刺激策として公共投資により有効需要を拡大させて総需要を調整する。不景気の時に経済を活性化させるとういもので日本でも昔から行われてきた。この政策はもともと、公共投資によって需要面での短期的な景気浮揚効果を期待するもので長期的な効果を問うものではなかったのである。(詳しくは二章で考察する)

景気刺激効果を示す指標として公共投資の乗数がある。(消費需要面から公共投資の効果を見るもので1兆円の公共投資で何兆円のGDP増加効果があるのか示したもの)これを見ると、高度経済成長時には2.27あったのが最近では1.32(H9)まで下がっている。これは、財政支出を拡大しても景気を刺激する効き目が小さくなっていることを示している。

乗数が小さくなった理由として増税や福祉・医療費の国民負担の増加によって消費性向が低下したこと、また、将来不安(今後も増税や国民負担の増加が予想されること・少子高齢化で将来公的年金が期待できないことなど)将来のために貯金をしようとして消費が控えられ、効果をかき消していると考えられる。

 

第二章 公共事業の有効性

 

公共事業は、社会資本の整備のために使われる支出であることが本来の目的である。したがって、本来ならば、長期的な視点において、公的資本ストックとして有益なものが建設されなくてはいけない。しかし現実的には、公共投資は短期的に景気対策として使われている。すなわち、景気が低迷しているときに経済を刺激させるために、公共事業が行われ、有効需要を押し上げ、経済の活性化に役立てようとする。この観点からは、必ずしも長期の公的ストックとしての効果を期待するものではない。

従来型の公共事業は、景気対策のために、短期的な視点の効果を期待し公共事業が行われたために、国民のニーズの伴わない「無駄な」公共事業が行われることとなったと考えられる。本章では、第1節で、公共事業の乗数効果を調べ、第2節では財政赤字の増加を考え、なぜ、従来型公共投資に問題点があると考えているのかを述べていく。

 

第一節    公共投資の乗数効果の変化

 

本節では、現在の公共投資の経済への波及効果を検討するために、財政支出乗数を用いて考察する。公共投資に対しての乗数の計測により、公共投資が現在どれほど経済への波及効果を与えているのか分析していく。

需要面での公共投資の有効性を図る指標が、この乗数効果である。これは、需要面からの公共投資の刺激効果の大きさを測っている。公共投資により、まず直接その事業で使われる資材などの関連の建設業での景気が良くなると、そこで雇用されている人々の消費意欲が活発になり、それがほかの産業でも消費意欲が活発になれば、経済全体の有効需要が拡大し、景気が全体的に活性化する。このような消費意欲の波及効果を合計したものが乗数効果であり、限界消費性向が高いほど、大きな値になる。

財政政策乗数効果の結論としては、財政支出の効果は経済へ与える影響は弱まっていることが見うけられた。(図A

ここで、乗数効果の値が小さくなった原因を考えていく。

 

1)まずその原因として考えられるのが、経済の成熟化による原因が挙げられる、産業構造の変化や社会インフラが整備されたなどの原因から経済への波及効果が減少したと考えられる。

 

2)日本経済の国際化の進展、これについての問題点は2点ある。

@国際化が進展し、輸入が増大しているので、所得が増加しても、そのうち一部が外国の財の購入=輸入にあてられ、限界輸入性向が高まり、国内での需要を刺激する効果が小さくなり、財政政策による国際需要の創出効果が小さくなってしまっているという点

Aまた、変動性為替レートのもとでは、景気が良くなると金利の上昇圧力が生まれるが、これは円高要因となり、日本の輸出を抑制し、輸入を刺激して、日本の総需要の拡大を相殺する方向に働くという点。

 

3)公債の中立命題(リカードの中立命題、バローの中立命題)

公共投資拡大の財源として公債の発行をしてまかなっているが、公債はいずれ償還されなくてはいけない。これが将来の増税の可能性を予想させ、消費よりは貯蓄意欲を充実させようと家計は行動するので、追加的な消費の拡大効果が生じない。

 

第二節       従来型公共投資の問題点

 

従来型のケインズ的な公共投資と財政赤字の増大についての問題点について考える。

日本経済のマクロ的な基本方針は、ケインズ政策であり、その結果、90年代に入り景気が低迷するとともに、公共事業の拡大や所得税の減税の財源として公債発行による景気対策を意図した補正予算案が編成された。

財政政策は、短期的に国民所得の上昇、利子率の上昇、物価の上昇が短期的な効果がある。現実的に、公共事業は経済の下支えとも言うべき役割を果たしてきた。しかしながら、前節で見られたように、その乗数効果は、年々減少傾向にある。

財政赤字がどのように人々へ影響を与えるのかを述べていく。財政赤字のコストとして重要なのは、財政の硬直性である。政府が本来なら一般支出に使える資金が利払い日へと向かうから、その分だけ財政が硬直化することとなる。その結果、将来の財政支出がへり、財政赤字は現在よりもより深刻なものとなってしまう。(図B、財政赤字の各国比較)

以上のように、公共事業は、短期的には、主に建設業を通じ経済の下支えを行ってきた。しかし、公共事業の乗数の推移を見てみると、公共事業自体の波及効果の影響が薄いということが見られた。また、赤字財政を続け公共事業を行うことで、短期的には効果はあるかもしれないが、長期的に見れば赤字国債の増加が、日本経済へ悪影響を与えることになる。したがって、現在必要なのは、確かな費用対効果のある公共投資であり、また、来るべき高齢化社会に向けて(推計では2025年といわれている)人々への社会福祉に財源を当てていくべきであり、また、社会保障へ財源をあてていくべきだとも考えられる。社会保障についての波及効果は4章で述べる。

次の章では、「無駄な」公共投資の具体的な事例を見ていくことにする。

 

第三章 地方自治体の公共事業

 

この章では実際に多くの公共事業を行なっている地方自治体の現状や問題点をみていきたい。現在国と地方の財政は危機的な状況に陥っており、特に地方では人口の減少、高齢化などで歳入も年々減少している。それに対して、各財政は地方債などが積み重なり事態は深刻になっている。

 

第一節       無駄な公共事業

 

公共投資は住民の生活や企業の経済活動のためにつくられるものだから、本当なら喜んでうけいれられるもののはずであった。しかし、現在、経済社会の構造や国民のニーズの変化に対応しつつ効率的な社会資本整備を行なわれていないのが現状である。公共関係費内訳でもっとも大きい割合を占めているのが、道路整備である。かつては事業の半分を占めるときもあったが、現在では29.7%を占めている。しかし、これだけの投資額に見合った受益がえられているのか疑問なところだ。よく言われるのは、他の先進国に比べて整備率が小さい、依然混雑が解消されていない、高速道路の整備水準が低いなどがある。たしかに、都市圏の主要道路は渋滞がなかなか解決されないし、通勤ラッシュもある。しかし、このようなことは日本中のどこでも言えることではなく、都市圏から離れれば、立派な道路はあるが、投資された分に見合った利用がされていないのが現状である。そのほかのシェアを占めているのが下水道・環境衛生など(18%)、治山・治水(15.9%)、住宅・都市環境(12.6%)、農業農村整備(11.7%)となっている。3番目にシェアの大きい治山・治水の一部である港湾は全国で1998年度現在での数は1093港にもおよぶ。運輸省の需要予想の甘さがめだつ。北海道では港湾は43あるので当然需要量は限られてくるのであとはパイの取り合いになってくる。石狩新湾での貨物取扱量は今でも計画の20%を下回っている。また、近年話題になっている地方空港についても見てみたい。過去をみてみても日本の航空会社は国内路線の経営が行なえない状況になっている。1998年度に運休した路線は30を超えた。1969年に56であった空港は、地方空港を中心に急増したため97年には91箇所となった。利益があるのはゼネコンや地元の建設業者だけであって、地方自治体の財政はさらなる不負担をかされた。また、農道空港は農業復興のために何十億もかけてつくられている。しかし、それを活用したくてもまず、コストがかかりすぎる。大きい飛行機なら規模の経済でコスト削減になり、安く運ぶことができるが、農道空港にくる飛行機はそのような大きさはない。明らかに無駄な投資であるといえる。その上維持費もかかりその地域のお荷物でしかない。

 また最後に、都道府県別のデータで65 歳以上の人口比率と土木費、民生費(福祉関係の費用)、衛生費(病院・保健所・清掃関係の費用)の歳出シェアとの相関をみると、65 歳以上の人口比率と正の相関を有するのは土木費のみで、本来ニーズの高いはずの民生費や衛生費とは負の相関を持つ(図表)。これは、65 歳以上の高齢者比率の高い地方圏において、交付税措置によるインセンティブ付与の影響を受けて公共投資を過剰に拡大していることを表している。このことについては3節でふれたい。

 

第二節       無駄な公共事業の原因

 

公共投資に占める地方自治体のシェアはかなり高い。公的総資本形成(1999年度)のうち、地方自治体・普通会計が占める比率は50%であり、地方公営企業を含めると72%に達している。また、地方自治体・普通会計の公共投資は、国の補助を受けて主な割れる補助事業、地方自治体のみの負担で行われる単独事業からおもに構成されている。単独事業は175000億円、直轄・補助事業は9兆6000億円となっている。また、地方交付税にも非効率的な公共投資を行い、量的にも多き原因があるのではないかと考えた。地方交付税は総務省によって毎年自治体に分配される。約3300ある自治体のうち不交付自治体はわずか100を超える程度である。80年代前半までは自治体が公共事業を行えば補助金も増えるというシステムができていた。しかし、国の財政が窮屈になり補助金にもブレーキがかかり、代わって政府は自治体に、交付金をたくみに使うことによって単独事業を誘致した。その成果で平成に入るころには単独事業費が補助事業費を上回った。しかし、自治体はこれまで負担感なしに公共事業をすすめてきたので、近年になってようやく財政危機に気づきはじめた結果が、単独事業の減少に表れていると考えられる。これは自由に使えるはずの交付税の用途を制限され、公共事業のために起債の元利償還費の負担額も当初の予定よりかなりの重圧になってしまった。また、地方交付税特別会計は国の一般会計での負債になっているため、地方はその返済負担を意識しにくい。このように、自治体が公共事業を行なううえで負担している額を把握していなく、また政府がこのような不透明なシステムをつくったことが無駄な公共事業を誘致してしまう原因であることが言える。

都道府県別のデータによる、自治体の普通会計での交付税率と社会資本の効率性との関係をみてみる。都道府県、市のいずれも負の相関関数を持っていることが下のグラフから分かる。社会資本の投資効率が低い地域において、交際費の実質負担率が小さいために、公共投資額が増加しやすく、効率性を引き下げる要因となっている。実際に、91年より98年度のほうがそのトレンド線の傾きが大きく、さらに非効率になってきているといえる。このように地方交付税は自治体に非効率的な公共投資を増加させるインセンティブを持たせるため、全体の効率を低めている。

地方自治体の財政は13年度の公債返済は12兆円を上回り、歳出額の14.3%を占めた。そして、投資的経費は27兆円となり、全体の30%を占めている。また日本のGDPにしめる公的固定資本形成の比率が先進国各国では70年代から減少し、平均で2%であるが、日本は全体的に増加傾向であり、99年度で5.7%という高水準であった。このように、日本はいまだに建設国家から変化しきれていないのである。

以上のことから財政のバランスから考えても公共投資の割合が大きな負担になり、また不必要な社会資本整備がなされるほど余裕もない。今度の課題は無駄な公共投資をなくすことで、公共投資費を抑えることであるといえる。

そもそも公共事業は将来に対しても便益性があるとされているから、公債、地方債の発行が認められている。しかし、現状では便益よりかえって負担の方が大きくなってしまっているのではないか。地方自治体が中央に頼るばかりではなく、各自で公共事業の便益性を考え、より市民の意欲向上につながる行動をとる必要性にせまられている。しかし、そのようなことができない状態になっているのは、官僚が国の直轄事業ばかりでなく、地方自治体の事業にいたるまで、計画から工事、管理、運営までを取り仕切っていることが根本的な問題ともいえる。上で述べた分配の偏りの原因のひとつに公共投資がいくつかの省庁別に分配されていることにあると考えられる。一般会計予算の公共事業費のうち、旧建設省か7割、農林水産省が2割、そして旧運輸省が一割弱となっており、国土交通省が全体の8割弱を占めている。旧建設省は治山治水、道路、下水道、公園などが主な内容であり、農林水産省は農村創業整備、林農・水産公共事業を行なっている。旧運輸省は海岸、港湾、空港、都市、幹線道路、新幹線などである。問題なのはこの各省の公共事業額の割合が依然変わらないということで、特に農林水産省によって実施されている事業は人口の少ない農村などで行なわれており、また全産業における一次産業の割合が大きく縮小していることもあり、農業 農村整備は便益性がとても小さい。だが、農村農業整備は全体の1割強を占めている。これは官僚が自分の利権を失いたくないばかりの行動であると考えられる。

そして、公共投資に無駄が多いといわれる原因にその評価が曖昧であり、組織的な利権に基づいたものになってしまっていることがある。利用度の低いところにばかり社会資本をつくらないように分配配分を改善する必要がある。また公共財であるがゆえ、収益が見込まれないモノも作る必要があるが各地域でニーズがあり、投資額に見合った便益のあるものを作っていくべきなのではないだろうか。

 

第四章       公共事業の改善策

 

 公共投資はかつての高度経済成長期には日本経済の発展に大変貢献した。しかし、社会資本設備がある程度と整った現在では、その投資内容のニーズの変化は当然のことと思われる。しかし、3章までで述べてきたとおり、事業内容の変化は近年になればなるほど硬直化している。そのため、公共投資の乗数効果は低下し、事業が経済に与える影響がますます少なくなっている。しかし、高齢化に伴い高齢者介護施設やバリアフリーなど、ニーズのある事業もあることは確かである。最低限の基本的人権の保障以外は効率的なものだけ残し、より少ない金額で多くの波及効果を生み出せるよう努力が必要とされている。

基本的に絶対に必要な公共投資は少なくなっているので、公共投資額を少なくしていかなくてはならない。しかし、地方が公共投資を削ることができないのは失業者が急増してしまうからというのが自治体が踏み切れない一番の問題である。しかし、今おきている産業構造の変化の過程で、失業者は増大してしまっても、変わりつつあるニーズについていくには建設関係の仕事も減らしていくしかない。そして、その対策も提案していく必要がある。

第一節 費用対効果の査定厳格化 

 

公共事業は民間がつくる財とは違った便益も目的としているので、成果も評価しにくく、甘い査定に傾きがちである。また公共の福祉という概念が過大に用いられやすく、打算にあわないサービスでも許されてしまっていた。しかしある公共支出を実行するのが社会的に望ましいかそうか、どの規模の公共支出を実施するのが望ましいのかを考える必要がある。このような評価を取り扱うもっとも有力な方法は費用便益分析です。これは公共事業が生み出す社会的便益を現在から将来まで割引して求めた現在価値が、公共事業の費用を上回る限り、その公共事業計画は実行するのが望ましいと考えられる。民間とは違ってすべての生産物を市場で販売することができず、何らかの外部性も排除できないのが通例であるから、利潤原理をそのまま適応することはできない。市場メカニズムを用いないで利潤原理を間接的に適応しようというのが、費用便益分析の考え方である。

ある公共事業を行なうことで消費者の効用がどれだけ増加するかを金銭に換算する。そのためには、消費者の効用に及ぼす効果の経路を特定して、その大きさを推定する。代表的なルートとして市場があり、民間で似たようなものが供給されている場合はそこでの価格を利用できる。これを代替法と呼ぶ。しかし、公共事業は市場価格を利用して分析することができない場合も多い。市場価格を用いないで消費者の便益を間接的に推定する代表的なものに、トラベルコスト(TCM)というものがある。これは特定の場所から受ける便益を、その場所を訪問するための旅行費用によって評価する。これによって評価できるのは、公園や図書館などの公共施設にかぎられるがいわゆるハコモノの便益をはかる目安にはなる。

以上のように審査は事業によって手法はことなり、すべてにおいて適切な判断ができりとはいえない。しかし、官僚のより精密に審査しようという努力が大切で、そして完璧な予想は無理だとしても、実際に近い予想を立てることができるのではないでしょうか。また、その土地に必要と考えられるものはその土地の人間が一番よく知っているわけで、住民の声をより大切にするべきである。そのためにも公共事業の便益評価の方法や具体的な推計上の前提など、政策のプロセスについて広い情報開示が必要である。

 

 

第一節       情報の共有の実現

 

現在の公共投資の査定

需要予測の誤りについては意図的なものも含まれる。経済予測については長くて10年くらいまでしか予測ができないため、短期的には予測できるが、作った物の何十年後までの需要は分からないのが実情である。しかし、そのほかに政治的圧力によって需要予想が書き換えられることもある。

アクアラインの需要予測も事実ではないということが言われていて、道路公団は 実行可能だと結論しているが予想とは開きがある。開通予定の1996年には1日33000台の自動車が 有料の道路を通り、それが2001年には45800台に増加するという予想を立てたが、現実は予測を下回った。 8年間の工事の後、アクアラインは1997年に開通した。直後の年間の交通量は1日11900台、当初予測の1/3であり、2001年には 13300台にすぎなかった。このように都合の良いようにデータが改ざんできるようになっている。今後の対策として事業に対して情報の非対称性をなくし、人々が多々強い判断ができるように情報の開示を進めていかなければならない。その手段の一つとして、電子政府の普及が上げられる。

 

解決策のひとつとして、人々のニーズと、政府側の媒介の透明性を高めるものとなりうるもののひとつとして考えられるのは、「電子政府」のさらなる活用が挙げられる。

電子政府は、行政内部の視点に立った情報ではなく、人々のニーズや市場の視点に立った情報を相互に交換し、行政内部にその情報を共有していくことが活用の目的となる。行政側の大きな問題点として、意思決定の際の密室化、非効率化が存在し、このために人々のニーズが反映されない公共投資が行われてしまう。この点を是正していくために、電子政府の実現は従来の行政全体の体質と組織の階層化を見直し、意思決定のプロセス、事業の創造性、内部統制等の質を飛躍的に改善するほか、放火システムの起動とともに、より本質的な問題として制度そのものを見直す要因となりうる。

電子政府は現在「利用者本位の行政サービスの提供」「予算効率の高い簡素な政府」を目標として現在も活用されている。電子政府は、国際的に見て15位となり(トップはカナダ、そのほか「成熟期」と呼ばれている国に、アメリカ、シンガポール、フランス等が挙げられる)電子政府の実現という点では、まだ発展途上の状態にあり、現在よりもさらに高度で利用価値が高いものを構築していくべきである。

 

第三節 社会保障への投資効果

 

先ほども述べたが公共投資乗数の低下について、低下の原因と考えられるのは福祉医療費の負担増大などの将来不安によって消費が控えられること、国内の資金循環が悪いことなど経済的要因も大きい。また、重化学工業のシェアが大きい時代には、道路・橋・港湾などの公共事業は、投入された資金が建設業のセメントや鉄鋼などの購入を通じストレートに基幹産業を刺激し波及効果も大きかったと考えられる。しかし、産業構造の変化により建設業は周辺産業になり、そのような周辺産業から情報産業・自動車産業などの中心産業へは幾度も迂回しないと波及しないので経済全体への波及効果を弱めている。また、公共事業が技術集約化し、大型機械・大型ダンプカーなど人の手による作業が減ってきているため雇用効果が小さくなってきている。公共事業の乗数効果が低下した現在、昔のように道路・橋・港湾などの建設だけでは景気刺激を期待することはできなくなってきているのである。

では、どこへお金を投入すればよいのか。かつては多くの自治体から「カネ食い虫」として扱われてきた社会保障事業費が多くの自治体で見直されてきている。そのきっかけとなったのが茨城県のまとめた「高齢者福祉の充実がもたらす経済効果に関する調査研究」という報告書である。それを参考にして多くの自治体では産業連関表を使い高齢者介護のほうが公共事業よりもはるかに多くの雇用を創出し経済波及効果も遜色はない(同様に医療・保健分野についてもいえる)という結果を導き出している。そして1999年版厚生白書では旧厚生省が最新の産業連関表を使って全国版の試算を公表している。

よって、今後の公共投資は非効率部門の削減により、その分を社会保障・医療・保健にまわすことが考えられる。経済効率を考えると「社会保障の経済効果は公共事業より大きい」のである。ここに1兆円の事業を行った場合の公共事業と社会保障の経済効果を見たものがあるが生産効果では社会保障が公共事業よりも927億円(3.3%)少ないけれど、雇用効果では社会保障が公共事業よりも84871億円(41.0%)多い。また、粗付加価値では社会保障が公共事業よりも2695億円(19.6%)多いとなっている。この傾向は医療や保健にもいえることである。生産効果は多少落ちるが、失業率が上がる中、雇用効果で約4割も効果が上がる社会保障費を拡充することは意味のあることである。その上、粗付加価値についてもGDPの引き上げ効果が出てくるのである。

以上のように政官財のつながりや情報開示などを目的とした電子政府の促進によって無駄な公共事業を減らし、経済への波及効果の大きい社会保障・医療・保健分野へシフトしていくことが既存の公共事業からの脱却であると考えられる。

 

終章

 

公共投資は、これまでは歴史的に見て、日本経済を支える力として、おおいにその効力を発揮してきた。しかし、産業構造の変化、産業構造の成熟化から、従来型の公共事業の需要創出効果が低下してきていることが原因であり、短期的な効果しか生み出さない公共投資が無駄といわれる公共投資を実現させニーズのあるものへと活用していかなくは、公共投資のサスティナビリティともいうべき効果が得られることはないと考えます。そのためには、人々のニーズに即した公共投資を行う必要があり、来るべき高齢社会へのための社会福祉や経済に柔軟に対応した社会保障など、財源はより日本経済のニーズに即した部門に活用されていくべきである。

 

参考文献

「公共投資のしくみ」 東洋経済新報社 五十嵐敬喜・小川明雄

「図解 日本の財政」  東洋経済新報社 加藤直彦

「公共事業のウラもオモテもわかる」 東洋経済新報社 五十嵐敬喜・小川明雄

「公共事業の正しい考え方」 中公新書 井堀利彦

「現代の公共事業―国際経験と日本―」 日本経済評論社 金澤史雄

「日本の財政改革」  井堀利宏

「公共投資の経済効果」 吉野直行・中島隆信

「公共事業をどうするか」 五十嵐敬喜・小川明雄

「財政学入門」 日経文庫 入谷純

「公共事業をどう変えるか」 岩波書店 保母武彦

http://www.boj.or.jp/ronbun/01/data/cwp01j09.pdf

公共投資乗数の低下(経済企画庁経済研究所のモデル)

 

 

 

 

 

 

 

モデル

パイロットSP−15

第2次世界経済

第5次世界経済

短期日本経済

 

(74年12月)

(85年3月)

(94年12月)

     マクロ計量

推計期間

57年

66年第1四半期

83年第1四半期

85年

 

 〜71年

 〜82年第1四半期

 〜92年第4四半期

 〜97年

乗数

2.27

1.47

1.32

1.31

 

 

 

 

 

(注)第5次世界経済モデルまでは、財政政策名目1兆円あたりの乗数

 

   短期日本経済マクロ計量モデルは名目の公的固定資本形成を

 

     名目GDPの1%相当分だけ継続的に増加した場合の乗数  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社会保障・医療・保健と公共投資の経済的効果

 

 

 

 

 

 

 

 

社会保障

医療・保険

公共事業

 

生産効果(億円)

27164

27373

28091

 

雇用効果(人)

291581

225144

206710

 

粗付加価値(億円)

16416

14669

13721

 

 

 

 

 

 

1兆の需要=投資に対して

 

 

 

図1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

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