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学外の研究の場にも出ています。学ぶ場はたくさんあります。



By 木村亮

2008年6月7日・8日、日本ラテンアメリカ学会(会場:筑波大学)

 日本ラテンアメリカ学会に参加して  6月7日(土曜日)、6月8日(日曜日)に日本ラテンアメリカ学会の第29回定期大会が筑波大学で行われ、私も参加させていただいた。様々な発表があり、時間やプログラムの都合上すべてを聞けたわけではないが、非常に大きな学会でとても刺激的であった。ここでは、二時間参加させていただき、興味を持った歴史の分科会について書きたいと思う。
 歴史の分科会は司会に横山和加子氏(慶応義塾大学)、発表者に谷口智子氏(愛知県立大学)、長尾直洋氏(三重大学非常勤講師)、大平秀一氏(東海大学)、松久玲子氏(同志社大学)の四名を迎えて行われた。特に面白いと思ったのは谷口氏と松久氏の発表である。
 谷口氏の発表は「16-18世紀偶像崇拝・魔術撲滅巡察について―カハタンボ地方の史料から―」というものであった。カハタンボ地方とはアンデス地域にあり、谷口氏はここで行われた「異教」をめぐる多数の訴訟に関する史料を使い、自身の研究成果を発表した。同氏によれば、この訴訟は先住民が持つ土着信仰を撲滅しようともともとは行われていたが、実のところ訴訟は先住民の偶像崇拝に対して行われたというよりは、巡察使やスペイン人司祭が被告となって行われていたことや先住民が原告となっていたこともあったと指摘する。この背景には、偶像崇拝・魔術といったレッテルを被告人に貼り付けることで、被告人と原告の間で持たれた土地問題、財産問題をめぐる争いを解決しようという原告の意図があった、という。そこで、谷口氏は、偶像崇拝・魔術撲滅に関する訴訟が、個人的な恨みや土地のたたかいに使われていたと結論付けた。同氏の発表において注目すべき点は、先住民までもがスペイン人や敵対者を個人的な恨みから訴訟を起こしていることである。ここからは、植民地時代という支配体制の中で、先住民も法の中でならばチャンスをつかむことができること、さらに彼らが法の中で生きようとしていたことが明らかにされている。谷口氏の出した結論も実証的でわかりやすく、納得のいくものであった。
 松久氏の発表は「エレナ・トレスとメキシコ革命期の農村教育―フェミニズム運動と近代公教育の形成に関する一考察―」であった。エレナ・トレスはメキシコ革命期(1920年代)に教育省で農村教育に従事したフェミニストである。松久氏はトレスがメキシコ農村教育において自己犠牲的母親像、そして「家庭」を中心とする近代国家づくりにおける主婦の重要性を説いていたことから、国家建設に参加する新しいジェンダー規範を提示したことを一つ目の結論としている。さらに、女性の権利を望む民衆と国家の折衷的役割をトレスが果たしていたことから、革命は革命政府が民衆に政策を押し付けられた「場」ではなく、民衆と政府の交渉の「場」となっていたことを二つ目の結論としている。同氏の発表で興味深いのは、農村で活躍した、あまり知られていない官僚であるトレスの政策を取り上げて、二つ目の結論として挙げたように革命というものについて結論づけていることである。同氏が出した革命像は近年捉えられてきた革命像ではあるが、一人の農村官僚の政策からこの革命像を導き出した手法が、私には興味深かった。
 以上2名の発表は非常に実証的であり、興味深かった。他の2名も面白かったが、表象についての発表ということで、私の研究テーマとは少し離れていたのでここでは割愛させていただく。さて、この分科会の後に、元ボリビア共和国副大統領ビクトル・ウゴ・カルデナス氏の講演があるということで楽しみにしていたのだが、彼は空港の検問で政治的問題から出国を許可されず、日本来日が不可になり、代理としてエクアドルの大学教師が講演したというアクシデントがあった。現在においても、ラテンアメリカではまだまだそういった政治的問題が人の移動に関わるということに驚かされた。そういった現在の問題はどこから来るのか。歴史を糧にこういったことを考えていくことも、歴史を勉強する我々の役割であるのだろうなと思いながら、筑波大学を後にした。









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