角田 真紀子

私は教職課程を受講するなかで、特に子どもの「こころ」に対して強い興味を持ち、演習においては、個人的に、経済・社会の「情報化」の進展による教育・子どもへの影響及び将来的可能性について調査・研究を進めている。
 臨床心理士になることを将来的に計画しており、その能力・資質養成のため、大学院進学に向け努力している。


3年次進級論文
《 目 次 》


はじめに
○情報化社会と情報教育
○本論の研究意義
○本論の概観

第一章.情報化社会の進展と学校教育におけるコンピュータ教育の重要性
1.1. 情報化社会の進展と学校教育での対応
1.2. 情報教育におけるコンピュータ教育の重要性と教育へのコンピュータ導入の推移

第二章.日本の情報教育に関する諸政策の内容
2.1.情報活用能力の育成に関わる諸答申等
2.2.政策による教育の情報化
2.3.日本における最近の教育の情報化政策
2.4.アメリカにおける情報教育政策

第三章 コンピュータ等の導入・整備状況
3.1. コンピュータ等の導入・整備に当たっての準備と留意点
3.2. コンピュータ等の導入台数と,設置形態について
3.3. コンピュータの設置状況,設置率,機種別設置台数等の状況
3.4. コンピュータ等の設置場所について
3.5. コンピュータ等の設置場所別学校数等の状況

第四章 コンピュータ等の設置方法,導入・整備のための資金調達法,周辺機器の状況
4.1. コンピュータ等の設置方法について
○情報・通信ネットワークについて
4.2. コンピュータの設置方法等の状況
4.3.コンピュータ等情報機器の導入・整備・運用にあたっての資金調達法について
4.4.コンピュータ等の購入方法別設置台数の状況
4.5.その他,コンピュータの周辺機器等について

まとめにかえて





はじめに

○情報化社会と情報教育

今日の社会は,その特徴の一つとして,情報化社会が挙げられる.アメリカのゴア副題統領による情報スーパーハイウェイによって,日本でもマルチメディア・ブームが刺激され,パソコン通信,インターネットもブームになっている.1995年末には,「Windows 95日本語版」が発売され,東京の秋葉原では,カウント・ダウンをして午前0時に発売という,まさにお祭り騒ぎであったことは周知の通りである.それらの事情と,コンピュータ等情報機器の低価格化ということもあって,これまでは,企業や,「パソコンおたく」と称される人々だけでなく,一般の家庭にもそれは普及しはじめた.
教育界においても,世相を反映して,1994年は,マルチメディア元年といわれている.各教育機関においても,マルチメディアに対応すべく,マルチメディア教育が行われはじめている.1995年は,コンピュータ教育元年といわれた1985年から10年の節目にあたる年である.1989年の新学習指導要領の告知に伴って,情報教育は啓蒙と開発と試行の時代から,本格的実施の時代となり,各教育機関においても,情報教育が取り入られるようになった.
情報という言葉は,極めて広い概念を持ち,したがって,情報教育に対する定義についても,広範なものから狭義のものまでいろいろ考えられる.人間が文化として作り上げてきた情報の授受や処理の手段やメカニズムに関する教育を,すべて情報教育と言うことも理論的には可能であるが,それでは,従来の教育のほとんどが情報教育に包含されることとなり,新しく情報教育を取り入れた意味が損なわれてしまう恐れがある.それとは対照的に,狭義の情報教育として考えると,急速に発達し現代社会における情報処理の最も主要な手段となっているコンピュータに関わる教育に限定することも可能である.そうすると,問題が具体的になり,カリキュラム化もし易くなる.

○本論の研究意義

コンピュータ教育のみに情報教育を限定してしまうのは,情報教育が本来持っている意義や意味を,一側面からしか捉えていないことになる.しかし,本進級論文では,あえて情報教育の一側面であるコンピュータ教育に着眼し,日本におけるコンピュータ教育,特にハードウェアに関しての導入・整備状況を概観することにする.そして,その対象を初等中等教育機関に限定する.高等教育機関においては,その導入・整備は,初等中等教育機関よりも進んでいるからである.これらの範囲の設定によって,欧米の先進諸国に10年遅れているといわれる日本のコンピュータ教育の現状を,基礎的な部分で把握することが可能になる.コンピュータ教育を実施する上で,最も基本的なインフラストラクチャーである,ハードウェア関連の情報機器の導入・整備状況を,初等中等教育段階で研究・調査・分析することは,これからの初等中等教育機関のコンピュータ教育並びに情報教育に一つの示唆を示すことになり,調査対象として,また,論文として,研究意義のあることと思われる.
コンピュータ教育に関する議論の対象は,ハードウェアの他にも,ソフトウェアの導入・整備,校内体制の整備,日本において最も遅れているといわれている教員研修の充実,情報教育推進のための政策的補助,その他民間の情報教育産業の育成・教育機関,関係省庁との連携等,基本的なインフラとして捉えられる点は多くあるが,それらは,卒業論文時に委ねるとして,本論では,ハードウェア関連に限定して,現状分析を行っていくものとする.

○本論の概観

本論の概観を示すと次のようになる.ます,第一章においては,情報化社会の進展と学校教育での対応を述べ,情報教育におけるコンピュータ教育の重要性を触れた後,第二章では,日本における情報教育に関する諸政策の内容として,情報活用能力の育成に関わる諸答申等や,政策による教育の情報化についての概観を述べる.第三章では,実際のハードウェアの導入・整備状況として,コンピュータ等の導入・整備に当たっての準備と留意点を述べ,コンピュータ等の導入台数,設置形態,そして設置場所等について,その種類や方法,あるいは,状況のデータ分析や,欧米諸国との比較を行なう.第四章においては,第三章に続いて,コンピュータ等の設置方法について,あるいは,その状況と,欧米諸国との比較を述べ,それらと関連する情報・通信ネットワークについても軽く言及する.そして,コンピュータ等情報機器の導入・整備・運用にあたっての資金調達法についてのカナダ・アメリカとの違いを述べ,購入方法別設置台数の状況に触れた後,コンピュータの周辺機器等について概要を記す.そして,まとめでは,今回の研究・調査の結果によって明らかになった,日本のコンピュータ教育全体としては,政策的にも立ち遅れているが,ハードウェアの導入・整備に関しては,積極的且つ強力に行われたため,数年の間で先進諸国に劣らない環境が整備されたことについて再度確認をする.


第一章.情報化社会の進展と学校教育におけるコンピュータ教育の重要性

第一章では,急速に変化し,発展していく情報化社会への学校教育の対応と,社会的要請による,学校教育におけるコンピュータ教育の重要性の高まりの変遷を,歴史的に概観していきながら,学校教育へのコンピュータ導入の経緯を見ていく.

1.1. 情報化社会の進展と学校教育での対応

今日の情報化社会において,突然コンピュータが世間から姿を消したら大惨事が起きることは予測可能なことである.テレビやビデオ等の家電製品,自動車,ゲーム機器など,挙げたらきりがないほど,人々はコンピュータに囲まれて生活している.産業の情報化や,情報の産業化も見られ,その多くはネットワークで結ばれている.また,生涯学習社会の到来もあって,地域での情報ネットワークも結ばれている.
日常生活,産業,そして,地域の情報化の進展は極めて急速であり,それは高度なものとなっている.それらの特徴をまとめると,次の四つが挙げられる.※1−1
@情報のデジタル化
A情報の処理と通信の一元化(ネットワーク化)
B情報のデータベース化
Cメディアの統合・総合化
これらの情報化は,情報の複雑化をもたらした.情報が氾濫しているため,情報の収集,選択,処理等が難しくなっている.したがって,自分にとって有益であり,正しい情報を選択,活用,処理して,新たな情報を創造するといった能力が求められるようになり,学校教育において,情報化社会に対応するための,それらの能力を育成することが不可欠となった.こうした,社会的要請のもとで,学校教育の中に情報教育あるいはコンピュータ教育が考えられ,実施されるようになった.
学校教育は,児童生徒に過去の文化遺産を適切に伝達し,変化の激しい社会に主体的に対応できる能力や態度の育成を行う.情報化社会においては,既に情報化の中に児童生徒がいることを考慮して,将来の高度情報社会に生きるために必要な資質(情報活用能力)の育成のための教育を行うことが必要である.このような社会では,情報化の持つ光と影にも十分配慮して,最適な情報化社会となるよう,学校教育において情報教育が適切になされることが重要である.

1.2. 情報教育におけるコンピュータ教育の重要性と教育へのコンピュータ導入の推移

先にも述べたが,情報教育を広義の意味で設定すると,今新しく情報教育が急務であるとされている問題意識から,焦点がずれてしまう.そうではなくて,狭義の意味で情報教育を捉えると,今日の情報化社会で主要な情報処理手段となっているコンピュータに関わる教育に限定して考えると,問題が具体的に見えてきて,カリキュラムを組むのにも都合が良い.コンピュータは,他の機械と違って,機械をコントロールする機械であり,機械に「知的なふるまい」をさせる機械であるということができる.コンピュータは,シンボルを操作することによって動くので,人々の思考活動と深く関わり,相互に影響を及ぼし合う.(佐伯,pp.6-8.)※1−2したがって,コンピュータに関連した教育を行うことは,教育的であり,また,重要であると考えられる.
そこで,教育へのコンピュータの導入がはじまる.しかしながら,日本の教育にコンピュータが導入された時は,まるで黒船が到来したかのようであったという.(佐伯,pp.3-6.)※1−3諸外国に遅れを取っており,これからそれは必要不可欠であるとの認識から,とにかくそれを導入しようとしていたことと感じられる.そして,第三章で述べるような,右肩上がりのコンピュータの導入を記録することになるのである.
情報教育並びにコンピュータ教育,コンピュータの導入の推移の詳細に関しては,第二章に述べることとする

【註:第一章】

※1−1 
文部省『情報教育に関する手引き』,ぎょうせい,pp.3-4.
※1−2佐伯 著『コンピュータと教育』,岩波書店,pp.6-8, 1986.
※1−3佐伯 著,上掲書,pp.3-6.


第二章.日本の情報教育に関する諸政策の内容

変化が急速で,一層高度に進展していく情報化社会に対して,日本の政策的対応や,各省庁の対応は,極めて遅いことが指摘されている.情報化の浸透は,特に公的機関である,教育をはじめとして,研究・医療・福祉・行政,図書館等,民間部門に比べて立ち遅れており,情報化の推進を続けている.※2−1
第二章では,情報教育に関する諸政策の内容を,情報活用能力や教育の情報化といった観点から概観していく.

2.1.情報活用能力の育成に関わる諸答申等

『情報教育に関する手引き』(1991)によると※2−2,日本において,情報化社会に対応する学校教育は,1950年代に高等学校の専門教育において,情報教育が行われるようになったのがはじめである.その後,この情報処理教育は高等学校を中心に徐々に拡大された.しかし,情報化社会の急速な発展のもとで,それに対応した,学校教育全体を通じての情報教育の在り方などの提言がなされた.
情報活用能力の育成に関しては,まず,1983年11月に,「自己教育力」の育成という側面から取り上げられている.そこでは,「自己教育力」の育成にあたって,以下のような事柄が示されている.※2−3
・困難に立ち向かい,主体的に学ぶ強い意志
・問題の解決に積極的に挑む知的探求心
・主体的に目標を設定し,必要な情報を選択,活用していく能力
・何をどのように学ぶかといった学習の仕方の習得
これらは,現在のような情報が氾濫している社会において,情報に振り回されたり,情報の波にのまれて,自己を見失ってしまうこたがないようにするためにも,主体的に情報を選択し,考え,判断したり処理できる能力や態度を育成することが重要であること,そのためには,主体的に学ぶ意欲をもつこと,体験的学習や,問題解決的,問題探求的な学習方法を重視する必要があることを強調している.それは,従来までのいわゆる「偏差値」
や「知識」重視的な指導や学習の在り方から,思考力,判断力,創造力など「生きた知識」を知育の基本に据え,生徒の興味,関心,意欲,態度を重視する現在の新しい学力観につながるものでもある.
1985年6月には,情報化への対応として,学校等を通じた教育へのニューメディアの健全な活用,情報化社会に対応した人材の育成などについて検討することを求める提言が出された.※2−4
1985年8月には,文部省による「第一次審議とりまとめ」が出された.そこでは,「今後一層の進展が予想される情報化に対して学校教育において適切な対応が求められていることや,小学校,中学校及び高等学校の各学校段階におけるコンピュータを利用した学習指導の在り方」などについて提言が行われた.※2−5
その中では,学校教育におけるコンピュータの基本的な考え方において,
・学校教育本来のねらいの達成
・新しい資質の育成
・発達段階に応じた導入
・諸メディア活用における学校の活性化
などをあげている.当面は,コンピュータ等に触れさせることにより,このような資質の育成を図るとともに,将来的には,共通に履修又は利用させる部分は精選を図ったうえで,それらを着実に身に付けさせる機会を与えていくことが期待されるとしている.「情報活用能力」という言葉は見られないが,その基本的な考え方や資質の育成などは,ここでも十分に意識されていたと考えられる.
1985年9月には,教育課程審議会が開催され,教育課程の基準の改善について諮問が行われ,翌1986年に「教育課程の基準の改善に関する,基本方向について」「中間まとめ」が公表された.この「中間まとめ」における四つの改善のねらいの一つとして,自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成の重視があげられるとともに,中学校技術・家庭科の新しい領域として「情報基礎」を設定すること,高等学校においては社会の変化に対応するなどの観点から設置者の判断により新しい教科,科目が設けられることなどが示された.※2−6
この「中間まとめ」以降,教育課程審議会に対して,「情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議」から,「情報化社会に対応する初等中等教育の教育内容の在り方」についての資料が提出され,審議の参考とされた.
そこでは,臨時教育審議会の第二次答申で示された情報活用能力を,より具体的,包括的に概念規定がなされており,情報活用能力の内容として,以下の四つが示された.
@情報の判断,選択,整理,処理能力及び新たな情報の創造,伝達能力
A情報化社会の特質,情報化の社会や人間に対する影響の理解
B情報の重要性の認識,情報に対する責任感
C情報科学の基礎及び情報手段(特にコンピュータ)の特徴の理解,基本的な操作能力 の習得
ここで,情報活用能力とは,「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基本的な資質」※2−7をいい,これによって,情報活用能力についての新たな概念が確立されることとなった.今後の学校教育では,情報化の進展に伴う社会の変化に主体的に対応し,社会的・職業的活動を行うための基礎となる情報活用能力を育成することが大切である.そのためには,児童生徒の発達段階に応じて,各教科等の目標,内容及び相互の関連を踏まえつつ,学校教育活動全体を通じて,情報活用能力の育成に関する指導を意図的,目的的,組織的,計画的かつ継続的に進める必要がある.
このように,1985年は,コンピュータ教育にとって飛躍的な進展を見せた年であったため,コンピュータ教育元年と呼ばれている.※2−8
1987年12月には,教育課程審議会の答申において,示されている四つの柱のうち,第二の柱の中では,「科学技術の進歩や情報化の進展に対応するために必要な能力の育成にも留意しなければならない」とされている.また,各教科,科目等の共通的な改善方針として,改善の基本的なねらいを受け,以下のように示している.
「社会の情報化に主体的に対応できる基礎的な資質を養う観点から,情報の理解,選択,処理,創造などに必要な能力及びコンピュータ等の情報手段を活用する能力と態度の育成が図られるよう配慮する.なお,その際,情報化のもたらす様々な影響についても配慮する.」※2−9
これは,この答申においては,情報化対応のねらいを広く「情報活用能力」の育成におき,単なるコンピュータ等の理解や操作等に限定して考えているわけではないということが考えられる.しかしながら,それと同時に,教育における情報手段の,特にコンピュータの利用が,日本の教育の中に正式に位置付けられることになったともいうことができる.※2−10
1989年3月には,文部省が,小学校,中学校及び高等学校の学習指導要領の全面的改定を行った「新学習指導要領」が告示された.この改定では,これからの社会の変化とそれに伴う児童生徒の生活や意識の変化に配慮しつつ,生涯学習の基盤を養うという観点に立ち,21世紀を目指し社会の変化に自ら対応できるたくましく心豊かな人間の育成を図ることを基本的なねらいとしている.そこでは,「情報活用能力」という言葉は用いられていないが,関連する教科や特別活動等でその内容が取り入れられている.新学習指導要領における情報化対応についてまとめたものを見ると(別表2-1),先にあげた情報活用能力の四つの柱を中心に,コンピュータを使った学習活動が多く,その内容は多岐にわたっていることが分かる.※2−11

2.2.政策による教育の情報化

学校教育における情報活用能力の育成に関する諸答申等は先にあげた通りであるが,その他に情報教育に関する諸政策は最近になって次々と実施されている.民間部門の情報化に比べると,教育だけでなく,研究,医療・福祉,行政,図書館等の公的分野の情報化は相当遅れており,ほとんど情報化が進んでいないところも見受けられる.文教分野の情報化とりわけ教育の情報化が,アメリカなどに比較して極めて遅れた状況にあることは,1983年の文部省の調査によって明らかであり,1986年に出版された佐伯教授の著書※2−12においてもそのことが書かれている.しかしながら,文教施策においてそのことが指摘されたのは1993年度からである.政策的対応は何においても遅れが目立つが,急速な進歩を遂げ,変化が著しいこの情報化社会にあって,対応だけでなく,認識においてもその遅れが目立つことは,日本という国全体が遅れをとるということであり,特に教育分野に限っては,小学校,中学校,そして義務教育化した感のある高等学校などの情報化に対して大きな危機感が持たれた.現在,各省庁は,文部省を中心に省の壁を越えて種々の共同プロジェクトを推進しており,政府とともに,国をあげてその情報基盤の整備とその利用を促進するための公的アプリケーションの立ち上げに取り組んでいる.※2−13
以下の2.3. では,日本における最近の教育の情報化政策を具体的に幾つか取り上げることとする.

2.3.日本における最近の教育の情報化政策

日本における最近の教育の情報化政策を幾つか列挙してみると,その多くは,各省庁連携であったり,官民を超えたさまざまな取り組みがなされている.政府は,1994年に,「高度情報通信社会推進本部」(本部長は首相,本部員は全閣僚)という組織を発足し,1995年には,政府全体の積極的な取り組みを打ち出している.※2−14
各省庁のうごきとしては, 後に述べるが,1994年度から,文部省と自治省が共同で,教育用コンピュータ整備計画を推進している.それを踏まえて,学校におけるパソコンの整備を促進するために,教育用コンピュータレンタル事業に対する低利融資措置を講じている.また,教育ソフトウェア開発.利用促進センターの充実を図り,学校のネットワーク化を通じた各種実験(遠隔教育など)等を実施する.同年,通商産業省は,「高度情報化プログラム」を発表し,その中でも,教育,研究,医療・福祉,行政,図書館の公的分野については,各省庁との緊密な連携のもとに将来展望を踏まえた実行プログラムを,具体的に提示している.※2−15そして,通商産業省と文部省は,全国の小・中・高等学校を対象とした,「100校プロジェクト」を1995年度から実施した.これについては,後述するが,データーベースへのアクセスや,インターネットへの接続等が可能となり,ネットワーク環境が整備されるというものである.※2−16さらに,郵政省の遠隔教育のモデル実験,2000年までに,全国の学校,図書館等公共機関への光ファイバー通信網の整備をするという目標,また,国立・私立大学の16校が参加して,講義のデータベースや研究情報を相互に利用する「オン・ライン・ユニバーシティ構想」が1995年春から始動している.これは,NTTが無償提供する高速ネットワーク(2.4Gbps)を利用し,インターネットを通じて各大学を結ぶというものである.当面は,大学内に置かれた端末同士でのやり取りで実験を進めるが,将来的には,自宅から講義を受けられることを目指しており,遠隔教育について研究していく.※2−17
その他にも,教育ソフトの開発の推進のための政策や整備を行っているが,それらについては,卒業論文時に言及するとし,ここでは省略する.
以下2.4. では,比較参考のために,アメリカにおける情報教育の諸政策について述べることとする.

2.4.アメリカにおける情報教育政策

世界において,マルチメディア,特に情報・通信ネットワークがこれほど注目されているのは,アメリカのゴア副大統領が1993年に提唱した,「情報スーパーハイウェイ構想」が火付け役となっている.それは,全米情報基盤構想(NII: National Information Infrastructure) の一環をなすものである.また,1994年には,地球規模の情報・通信基盤であるGII構想(Grobal Information Infrastructure) を提唱した.さらに彼は,1991年に法案を成立させたHPCC(High Performance Computing and Comunications)という,大規模コンピュータ・ネットワーク計画の中核をなす壮大なプロジェクトとして,NREN(National Reserch and Education Network) という学術研究用ネットワークを自ら推進している.※2−18
GII構想は, 1994年のナポリ・サミットの経済宣言の中に,WII(World Informa-tion Infrastructure) 整備として盛り込まれ,さらにその具体的整備を推進していくための政策が1995年にブリュッセルで開催された「情報社会に関する関係閣僚会合(G7)」で検討された.これらのことから,情報・通信基盤整備は世界的な共通課題となっているといえる.※2−19
これらの世界的にも注視されているさまざまな構想のもとで,アメリカの各教育機関も多様なプログラムを実施している.しかし,アメリカでは,教育における決定権は連邦政府にはなく,各州政府が持っている.全米に1,600ある学校区では,その教育内容や教育方法にかなりのばらつきがみられ,教師もかなり自由に教鞭を取ることができる.政府が音頭をとらないと新しい教育が施行されない日本と違って,州単位で,あるいは,各学校単位でいろいろな教育を試みることが可能なので,新しい技術を用いた教育が行われ易い環境にある.実施した教育が効果的であれば,その学校は援助や補助を受け,それによって,より良い教育環境を構築していくという関係ができ,新しい教育による効果を素早く取り込めば,それ以上の教育環境が実現されるというメリットがある.※2−20このことから,コンピュータ教育も早くから比較的簡単に導入されたと考えられる.ただ,教育の質の向上に必要なものとして,教師の質の向上も挙げられるが,それについて連邦政府は口を開かない一方,資金があれば向上が見込める技術面に対してのみ,異常なほどの期待を持っているようであるという意見もある.(浜野,pp.13-22,1991.)※2−21
しかし,その反面で,地域によって教育レベルに大きな格差を生じさせていることも事実である.連邦政府教育省では,各地域・教師の足並みをそろえさせるべく,「2000年へのゴール」というプロジェクトを開始させ,カリキュラムのガイドラインを2000年までに作成するとしている.※2−22この教育再活性化プログラムは,大統領自身が教育大統領であると宣言し,アメリカの教育レベルを世界一にしようという目標を掲げている.教育は,州の管轄であるが,アメリカの教育の危機は,1983年から既に指摘されており※2−23,この宣言は,連邦政府が教育問題に真剣に取り組もうとする姿勢を示すものとして注目されている.※2−23
以上のことから,アメリカの教育施策は日本よりも柔軟性に富んでいるといえるが,教育格差が大きく,問題となっている.日本の場合は,突出した,他とは異なる教育を行ないにくい環境であるが,そのため,教育の質もほぼ均質であるといえる.どちらが良いとは,一概にはいえないが,さまざまな角度から比較検討することは,より良い教育を行っていく上で重要であると考えられる.

【註:第二章】

※2−1 
通商産業省機械情報産業局 監修,情報サービス産業協会 編『情報サービス産業白 書 1995−再生・共性・新生のシナリオ−』コンピュータ・エージ社,pp.332-337.
※2−2 文部省『情報教育に関する手引き』,ぎょうせい,pp.15-31.
※2−3 1983年11月に出された「中央教育審議会教育内容等小委員会の審議過程報告」 (第13期中教審)によるものである.
※2−4 1985年6月の臨時教育審議会の,情報化への対応として,「社会の情報化を真に人々 の生活の向上に役立てる上で人々が主体的な選択により情報を使いこなす力を身に 付けることが今後への重要な課題である」という第一次答申によるものである.
文部省,上掲書,p.159.
※2−5 文部省の「情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会 議」による答申である.
文部省,上掲書,pp.16-17, 145-156.
※2−6 文部省,上掲書,p.17.
※2−7 文部省,上掲書,p.18.
※2−8 坂元昂 著「第一章 21世紀に真に力を発揮する子どもたちを育てるためには−子ど もたちをとりまく21世紀の世の中は−」『マルチメディア時代の子どもたち』産調 出版, pp.12-27,1995.
※2−9 答申では改善の基本的なねらいとして四つの柱が示されている.その第二の柱は
「自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること」であ る.
文部省,上掲書,p.19, 174-17.
※2−10大島聡 稿「コンピュータ教育」『教育キーワード 137』時事通信社,pp.204-205, 1995.
※2−11資料の,情報の判断,選択,処理能力及び新たな情報の創造,伝達能力の育成につ いては,学習指導要領の内容を,コンピュータの利用を中心にまとめてあるもので ある.
文部省,上掲書,p.21-31,178-214.
※2−12佐伯 著『コンピュータと教育』岩波書店,1986.
※2−13通商産業省機械情報産業局 監修,情報サービス産業協会 編,前掲書,p.149
※2−14小松親次郎 稿「マルチメディア時代に向けた教育施策の最新動向」『マルチメディ ア時代の子どもたち』産調出版,pp.362-374.
※2−15日本情報処理開発協会 編,前掲書,pp.349.
※2−16本論 第四章を参照されたい.
※2−17日本情報処理開発協会 編『情報化白書 1995』,コンピュータ・エージ社,pp.348- 359.
※2−18西垣通 著『マルチメディア』岩波書店,pp・90-108,1994.
※2−19日本情報処理開発協会 編,前掲書,pp.348-359.
※2−20清水康敬 著「第10章 活かされているアメリカのマルチメディア教育−自主的な教 育ができる環境をもつアメリカ−」『マルチメディア時代の子どもたち』産調出版, pp.347-354.
※2−21浜野保樹 著「第2章 全体報告−アメリカにおけるマルチメディアの教育利用−」 コンピュータ教育開発センター 編『アメリカにおけるマルチメディアの教育利用』 コンピュータ教育開発センター,pp.11-22, 1991.
※2−22清水康敬 著,前掲書,前掲ページ.
別の報告書には,「アメリカ2000」という,内容のよく似たプロジェクトがあるに で,同一のものとみなして述べている.
コンピュータ教育開発センター 編,前掲書,pp.13-14.
※2−23当時,教育長官であったアーネスト・ボイヤーの『危機に瀕する国家』(1983)と いう報告書によって,すでに教育の危機が指摘されていた.
コンピュータ教育開発センター 編,前掲書,pp.13-14.


第3章 コンピュータ等の導入・整備状況

第3章では,コンピュータ等の導入・整備状況について,ハードウェア,ソフトウェア,校内体制,教員研修の側面から具体的な数値を挙げつつ,現在の日本のコンピュータ教育の進捗度を考えることを試みる.また,アメリカをはじめとして,世界各国において,コンピュータ等の導入・整備状況がどのようであるかを比較・検討しながら,日本のコンピュータ等の導入・整備状況について述べ,その在り方を考えることとする.
絶え間ない技術革新によって,コンピュータ等情報機器や,情報化社会それ自体が急速に進歩しており,したがって,できるだけ新しい年に計測した数値を探したが,各国によってその計測年次や計測方法に多少のずれがあり,古いデータがあることを最初に断っておく.

3.1. コンピュータ等の導入・整備に当たっての準備と留意点

コンピュータ等の導入に当たって,まず考えなければならないことは,その利用目的と利用方法を明確にすることである.導入計画においては,一部のコンピュータに堪能な教員に任せるのではなく,全職員で討議し,共通理解の下に立てることが大事である.また,コンピュータは高価なため,一度に大量に導入することが難しい.したがって,コンピュータは,順次台数を増やしながら整備されることが予想されるため,当初の導入計画だけでなく,長期的な視点を持って,運営の継続が可能であるような整備の在り方を検討する必要がある.※3−1
一方,1988年に行われた北米におけるコンピュータ教育実態調査団の報告において,カナダのオンタリオ州トロント市郊外のミルトンにあるサム・シェラット小学校の校長は,学校でのコンピュータ利用を成功させるためのポイントを4点挙げている.
@学校でのコンピュータ利用について,明確なヴィジョン(識見)をもつこと.
A授業の時間割りの中にコンピュータを利用する時間を組み込んで,全員の教師がコン ピュータを使わなければならないように仕向けること.
B教師がコンピュータを授業に使う際の援助をするために,コーチの役をする教師を雇 い一緒に授業に参加するようにすること.
C校長が強力なリーダーシップと実行力をもつこと.
視察者の一人は,これらの4原則は,カナダ,アメリカのみならず,日本においてもあてはまることであり,@,A,Cについては,日本でも,やろうと思えば,即実践可能なことであるという.しかし,彼は,現在の日本に存在しておらず,また近い将来においても実現には困難を伴うが,ぜひとも導入したいのは,Bの授業にコンピュータを使用する際にそのクラスを担任している教師の援助をしてくれる,コンピュータ・コーチあるいはコンピュータ・コーディネーターの名称で呼ばれている教師を用意することであるとの見解を示している.オーストラリアのクインランド州立の学校においても,コンピュータの指導にあたる教師と,コンピュータを使用していない児童生徒の個別指導にあたる教師とを置く,ティーム・ティーチングの形をとっている.
確かにコンピュータ専門教員がいれば,コンピュータが円滑に使用できるように,操作上の指導,補助をし,従来の教師は,児童生徒の学習において必要な専門知識や助言を与えるという具合にすることが可能となり,授業はよりスムーズに行われると考えられる.日本でも,こうしたティーム・ティーチングの方法を取り入れるべきだという声が多くなってきているようである.しかしながら,現状は,後でも述べるが,ティーム・ティーチングの実現は,まだ先の話であろう.
以下3.2. では,ハードウェアに関連すると位置付けることができるコンピュータの導入台数,その性能,設置場所,設置方法等について,データを挙げながら,各国との比較も交えて現在の日本の導入・整備状況を見ていくこととする.

3.2. コンピュータ等の導入台数と,設置形態について

コンピュータ等の導入台数は,その利用目的や利用方法,学校の規模,導入・整備のための経費の出資先等によって異なるが,コンピュータを初めて導入する学校の場合,最初に考えられなくてはならないのが,コンピュータの設置形態である.コンピュータの利用目的や利用方法をどのように設定するかによって,設置形態は変わってくるが,設置形態は,おおむね次の三つに分けることができる.
@一箇所に設置する集中型
A数箇所に分散して設置する分散型
Bある台数を一箇所に設置し,残りを分散する一部分分散型
集中型では,1台のコンピュータをより少ない人数で利用することができるため,授業の中で,一人ひとりの児童生徒がコンピュータに触れる機会が増える.また,LANなどの学校内ネットワークを整備することによって多様な利用方法が可能となる.しかしながら,教育現場の現状を見ると,コンピュータ専用教室は校舎の隅にたたずみ,普段は施錠されていて,児童生徒が自由に出入りできないことが多い.特に,コンピュータに詳しい教員がいない学校においては,そのほとんどがこのような状況にあり,使用する教科も少なく,せっかくのコンピュータも埃をかぶってしまっている.
その点,分散型では,いつでも児童生徒が好きな時間にコンピュータに触れる機会があり,また,いろいろな目的のために利用することも可能である.しかしながら,少ないコンピュータを分散させることによって,授業の中で一人ひとりの児童生徒がコンピュータを使用する機会が減ってしまうことが考えられる.※3−7 コンピュータ等情報機器の管理という面からも,問題が生じる恐れがある.
したがって,導入台数とその設置形態においては,事前に十分な話し合いがなされていることが大切である.コンピュータの利用目的や利用方法,学校の規模や予算額等に応じてそれらが決定されることが望ましいと考えられる.
以下の3.3. では,実際の各学校段階におけるハードウェア関連機器の導入・整備状況,設置率,機種別設置台数等を,いくつかのデータを挙げながら見ていくことにする.※3−8

3.3. コンピュータの設置状況,設置率,機種別設置台数等の状況

まず,日本の初等中等教育機関の公立学校におけるコンピュータの設置状況を見ると(図表3-1,3-2),コンピュータの設置率は,1983年−1994年の間に,小学校0.6%→77.7%,中学校3.1%→99.4%,高等学校56.4%→100%,特殊教育諸学校が1985年21.1%→1994年97.2%と,中等教育機関においては,ほとんどの学校においてコンピュータが設置されたということができ,初等中等機関を合わせると,コンピュータを設置している学校は86.3%になった.コンピュータを設置する学校における平均設置台数は,1992年−1994年の間に,小学校3.8台→6.1台,中学校12.8台→23.1台,高等学校40.6台→57.6台などとなっている.
それらと比較して,アメリカの初等中等教育機関におけるコンピュータの設置状況を見ると(図表3-3,3-4,3-5),コンピュータの設置率は1984年には中等教育機関,1985年には初等教育機関がそれぞれ90%を超えている.
1988年の時点では,コンピュータ1台あたりの生徒数は小学校23人,中学校18人,高等学校14人と一人1台とまではほど遠いものの,ほとんどの学校で導入しており,1992年の日本のコンピュータ1台あたりの生徒数は75.3人とその差は歴然としている.そして,1週間の使用時間は,アメリカにおいて各学校とも20時間以上であり,早くからアメリカの児童生徒はコンピュータに触れていたことになる.
各国の1989年と1992年の時点でのコンピュータを教授学習のために使用している学校の割合の変化を見ても(図表3-6),日本が欧米諸国に比して立ち遅れており,特に小学校,中学校での遅れが目立っている.
欧米諸国に対して日本のコンピュータ教育が10年遅れているというのは,これらのデータから予測できる.そして,1990年度から1995年度にかけて,新学習指導要領を踏まえて,全国の初等中等教育機関に教育用コンピュータを計画的に整備していくための「教育用コンピュータ整備補助制度」を発足し,小学校では1校あたり約3台,中学校では1校あたり約22台(生徒2人に1台),高等学校では1校あたり約23台(生徒2人に1台)をそれぞれの整備目標として,総整備数は32万台を予定していた.さらに,1994年度からは,新たな整備計画として,文部省は,学校における教育用コンピュータの整備目標を,小学校で22台(児童1人に2台),中学校で42台(生徒1人に1台),高等学校普通科で42台(生徒1人に1台),特殊教育諸学校で8台(児童生徒1人に1台)とし,2000年までに整備を図り,総整備台数を約46万台に増やす予定である.※3−9
各公立学校に導入されているハードウェアについて,機種別の設置台数を見ると(図表3-7,3-8),日本の場合,16ビットパソコンの保有率は1993年で全体の56.8%,32ビットパソコンは同36.7%となっており,16ビット以上のパソコン保有率を合わせると全体の93.5%を占めることになる.そして,1989年と1992年時点での16ビット以上のコンピュータ保有率を各国比較で見ると(図表3-9),日本の学校に導入されているコンピュータは他の諸国よりも高性能であることが分かる.
これは,日本の学校教育における情報化への対応としてのコンピュータ教育の導入が欧米諸国よりも遅かったため,最新機能を搭載したコンピュータを導入することができたものと考えられる.高性能の機種の導入が多いことは,これからますます増えるであろうマルチメディアを使った教育にも対応できるものが多いと考えられるので,今後のコンピュータ教育並びに情報教育にとって有利な条件であると考えられる.

3.4. コンピュータ等の設置場所について

導入台数や設置形態が決まると,次は設置場所を確保しなければならない.どの場所に設置するのが最も適切であるかは,利用目的によって異なってくるが,設置場所としては,以下のような場所が考えられる.※3−10
@コンピュータ専用教室
A教科の特別教室
B普通教室
C図書室
D職員室,準備室,事務室,保健室
E多目的教室 等
設置台数が多い場合は,コンピュータ専用教室を設けてそこに設置することが多い.この場合,学校内ネットワークを設置することが容易であり,学習用ソフトウェアを使用した学習指導,コンピュータを通しての教師と児童生徒とのコミュニケーションを活発に行うことを目的とした学習指導,コンピュータ等の情報手段の特徴の理解,操作能力の育成に適した設置の在り方である.グループ学習や個別学習用としての使用にも向いている.しかし,コンピュータ等の情報手段を利用目的に合わせて,さまざまな場所に移動して活用する場合には適切でない.コンピュータを移動できるように設置した場合,特別教室等に持ち込んで使用すれば,その活用範囲が広くなるだけでなく,児童生徒のコンピュータ
あるいは教科への興味・関心・意欲を引き出す機会が多くなると考えられる.特に,ラップ・トップ型コンピュータの場合には,さらに活用範囲は拡大できると予測できる.
教科の特別教室に設置する場合は,上記のように,児童生徒の動気付けが期待できるほかに,各教科が新しい学習形態や学習方法を実践することが可能となる.先にも述べたが,例えば,美術では,瞬時に色を付けたり消したり,拡大・縮小あるいは縦横を変えたり,複数のパターンを並べたりできることから,児童生徒はいろいろなパターンを考えることが可能である.また,デザインを他の人と比べたり,他の人との合作や,普通なら出来ないような,有名な画家が描いた絵に手を加えることによって,元の絵の素晴らしさを改めて実感することも可能である.(坂元,pp.12-27.)※3−11新学習指導要領の趣旨にもある,国際理解教育や環境教育なども,学校内だけでなく,学校と地域,学校と学校,そして日本を超えたグローバルな視点からのそれを児童生徒が学習することも可能である.現在は,予算や電話回線の少なさなどから,世界を相手に交流を行っている学校はほんの一握りであるが,いづれは,インターネット等を通じて,世界中が結ばれる日が来ると考えられる.
コンピュータを小数台導入する場合には,職員室,準備室,事務室,保健室等の管理室や図書室に設置することが多い.教師の研究,教材の作成のほか,成績処理,各種記録の管理指導計画の作成,文書の作成・管理,図書の管理等その活用方法は多岐にわたっている.このほかにも,これらを適切に組み合わせて幾つかの場所に設置することが多い.
コンピュータは,その機能を生かすことによって,効果的な指導方法や学習形態を新たに生み出す可能性を持っているので,教師や生徒にとって使い易い場所に設置するのが適当である.ある場所に設置しても,いろいろな目的,用途に合わせて使えるように設定し,特定の人物だけでなく,たくさんの人が使用できる場所を選択する.
以下の3.5. では,実際のデータを見ながら,コンピュータの設置場所には,どこが多いのかを考えていくこととする.

3.5. コンピュータ等の設置場所別学校数等の状況

まず,1993年の日本の初等中等教育機関の公立学校におけるコンピュータの設置場所別学校数を見ると(図表3-10,3-11),小学校では,職員室等に設置する学校が71.2%と多くなっている.このことは,上述したように,コンピュータ等の導入台数が少ない場合には,職員室,準備室,事務室,保健室,図書室等,コンピュータ等情報機器を学校の諸管理にあてていることを証明していると考えられる.小学校は,1校あたりの導入台数が少ないため,コンピュータ専用教室や教科の特別教室に設置している割合が,中学校,高等学校と比較して少ない.中学校,高等学校を見ると,コンピュータ専用教室を設置している学校数が最も多く,その割合は,それぞれ中学校74.4%,高等学校72.0%となっている.それに続いて多いのが,やはり職員室等である.その割合は,中学校58.9%,高等学校71.3%と高く,進路指導用のデータベース等で有効に活用されていることが予想される.また,発達段階に応じて,生徒の情報処理・情報活用能力は向上するので,小学校よりも,教科の特別教室にコンピュータを設置している学校の割合が多くなっている.
一方,1989年のアメリカの初等中等教育機関におけるコンピュータの設置場所の比率を見ると(図表3-4),全教育用コンピュータの置かれている場所の割合は,教室が小学校43%,中学校28%,高等学校32%となっており,コンピュータ研究室は,小学校42%,中学校58%,高等学校55%となっている.各学校に設置されているコンピュータを教育のために使用する割合は,全部のコンピュータのうち小学校96%,中学校95%,高等学校98%である.したがって,アメリカの場合,コンピュータのほとんどが,教室やコンピュータ研究室に設置されていると考えることができる.※3−12
学習にコンピュータを使用している学校の割合の変化を,1989年と1992年において欧米諸国と比較してみると(図表3-12),日本ではそれぞれ小学校12%→36%,中学校35%→71%,高等学校94%→93%となっているが,アメリカは1989年,その他の国も1992年までにはほぼ100%に達している.※3−1
日本においては,特に小学校においての利用が少なく,日本はコンピュータを導入しはじめてからまだ日が浅い.先進諸国の導入や整備の在り方を検討し,一つに偏ることなく,それぞれの学校に合った設置場所を設けることが望まれる.

【註:第三章】

*3−1
 文部省『情報教育に関する手引き』ぎょうせい, pp.60-61, 1991.
*3−2 コンピュータ教育開発センター 編『(昭和63年度調査報告書)北米におけるコンピ ュータ教育実態調査団報告書−カナダ,アメリカ合衆国−』コンピュータ教育開発 センター, pp.20-21.
*3−3 コンピュータ教育開発センター 編, 上掲書, pp.20-21.
*3−4 鈴木勢津子 稿「マルチメディア活用講座D オーストラリアにおけるマルチメディ アの教育の実情−見たままのクインランド州の情報教育」『教育と情報』第449巻, 平成7年8月号, pp.32-35.
*3−5 文部省, 前掲書, pp.60-61.
*3−6 論文提出者の母校である公立中学校では,1994年度にコンピュータ専用教室が二教 室設置されたが,いずれも通常は鍵がかかっており,コンピュータを使用できる生 徒は中学校三年生だけであり,週二時間程度ということであった.
※3−7 文部省, 前掲書, pp.60-61.
※3−8
※3−9
 通商産業省機械産業局 監修,日本電子工業振興協会 編『パソコン白書94-95』コン ピュータ・エージ社, pp.61-65,75-78.
※3−10文部省, 前掲書, pp.61-62.
※3−11坂元昂 著「第一章 21世紀に真に力を発揮する子どもたちを育てるためには−子ど もたちをとりまく21世紀の世の中は−」『マルチメディア時代の子どもたち』産調 出版, pp.12-27,1995.
成田顕宏 稿「第二章 今,活用し創造している子どもたちの現場から−学校内ネッ トワークを利用したデザイン指導−」, 上掲書, pp.92-99.
※3−12
※3−13
日本情報処理開発協会 編『情報化白書 1995』,コンピュータ・エージ社,pp.310- 312.


第四章 コンピュータ等の設置方法,導入・整備のための資金調達法,周辺機器の状況

第四章では,第三章に続いて,ハードウェア関連機器の導入状況について述べる.コンピュータ等の設置方法では,最近注目されているネットワークにも触れる.コンピュータ導入・整備のための資金調達には違いが認められるため,比較を試みた.そして,現状分析の最後として,コンピュータの周辺機器についても触れておく.

4.1. コンピュータ等の設置方法について

コンピュータの設置方法には,大別してスタンドアロンと学校内ネットワークとが考えられる.これらの設置の方法は,それぞれ固有の目的や特徴を有している.スタンドアロンには,固定式と移動式とがある.学校内ネットワークは,ある利用目的のためには非常に便利であるが,コンピュータ初心者にとっては,コンピュータの利用がかえって難しくなったり,利用範囲が狭まったりすることなども考えられる.そのため,設置の方法については,利用目的や設置場所との関連において適切に決定しなければならない.
また,将来的には,ラップトップ型のコンピュータの導入も考えられるので,このことも踏まえた上で,長期的展望に立って検討しておくことも大切である.

○情報・通信ネットワークについて

最近の世界各国における情報化社会の発展や,マルチメディア環境の進展,情報・通信ネットワークの整備に伴って,学校内ネットワークをLAN※4−1でつないだり,進んだ学校では,商用ネットワークやインターネットをつないでいるところも見られ,情報・通信ネットワークは,コンピュータの新しい利用法として世界中で注目されている.ネットワークは,学習環境としても有効に利用されており,その実践報告も,次々に出されている.
例えば,東京都港区立神応小学校の苅宿教諭は,ネットワークは子たちが自分らしさを発見していく中でそれを誘発していく触媒の役目を果たすとし,ネットワーク環境は授業での表現活動のうち,社会への表現活動にあたるとしている.彼の授業では,校内LANからはじめ,点と点,点と線,点と面という三つの環境から成る郊外とのネットワークを通して,カナダの小学校や北極の犬ぞり探検隊などとのコミュニケーションをとり,児童の個性を発揮させ,あるいは自覚させたり,感動を分かち合ったりすることができたようである.(苅宿,pp.48-56,1995.)※4−2
政策的には,前にも述べたが,通商産業省,文部省の協調体制のもと※4−3,全国の初等中等教育機関など約100校を対象に国際的なネットワークであるインターネットへ接続して高度な教育環境を提供する「100校プロジェクト」を1995年度から開始した.前年の8月-10月のコンピュータ教育開発センターからの募集には,期間が非常に短かったにもかかわらず,1543校もの応募があり,111校がインターネット等情報通信,マルチメディア環境を約ニ年間にわたって利用できることとなった.情報機器のランクは二種類で,速度の速いものと遅いものがあり,使い勝手は先進校グループの30校の方が良いと考えられるが,どちらに属しても,画期的且つ先進的な環境で学習することができるようになった.※4−4
コンピュータはこれまで単体で用いられてきたが,ネットワークの接続によって,さまざまな新しい機能が生み出されてきた.それらの機能は次のように分けられる.※4−5
@電子メール
Aニュース機能
B情報の共有
電子メールは,コンピュータ間の手紙のやり取りであるが,最大のメリットは,瞬時に,しかも複数の相手に送れたり,相手の生活時間を考えずに送ることができることである.相手がコンピュータの前にいれば,すぐに返事を受け取ることも可能である.そして,料金は全世界共通となっており,各学校でも利用しているところが多い.
ニュース機能は,1995年の阪神・淡路大震災の際に世界中で大きな反響を呼んだことでも知られているが,課題は残るものの,世界のニュースが瞬時にして送られてくるので,自分の興味・関心のある領域や事柄を選択して読むことができる.
情報の共有は,コンピュータを単体で用いていた時には,個人の作成したデータやプログラムなどは外部に知られることはなく,同様のデータやプログラムが複数存在していた.しかし,ネットワークを接続することによって,それらは蓄積され,誰もが利用可能となり,それらはインタラクティブに行われている.知的所有権,知的財産権の問題,プライバシーの問題,情報の濫用の問題など,解決すべきところは多くあるが,これからのネットワークの可能性は大きく,さらに拡大すると考えられる.
以下の4.2.では,コンピュータの設置方法等の状況について,データを挙げながら考察していくこととする.

4.2. コンピュータの設置方法等の状況

1993年までに,コンピュータをLANによって設置している学校数を見ると(図表4-1),小学校7%,中学校46.4%,高等学校43.2%,特殊教育諸学校3%となっており,全体でもその割合は25.8%にとどまっている.これらのデータの結果には,「100校プロジェクト」や,その他に1995年までにLANを接続した学校は含まれていないので,現在の数値はこれらよりも若干伸びていると考えられるが,依然として,電話回線や専門教師・講師等の不足,設備費や継続して使用するためにはコストがかかることなどから,特別に予算を組んでいないと,設置は難しいと思われる.
アメリカにおいても,1989年頃までは,LANによるコンピュータ間のコミュニケーション・ネットワークについては一部特殊な学校を除いて,考慮の対象にもなっていなかったようである.※4−6しかし,現在では,LANは勿論,インターネットを利用しているという恵まれた環境にある学校も上昇していることが予測できる.
全米の二つあるうちのモデル校の一つであるサンフランシスコにある,モンタビスタ高等学校は,約200台のマックと,20台のDOS機種がネットワークされている.最新のワークステーションも導入されており,外部とは,スタンフォード大学と,1.5メガビット/毎秒の伝送速度で接続されている上,インターネットも使用できる状況にある.また,全米に八校あるというコンピュータ教育先進校の一つであるアトランタのキャロルトン公立小・中・高等学校は,校内に五つのコンピュータ・ラボラトリーがある.全校に設置されているコンピュータは1200台で,子ども三人に1台の割合となっている.これらは,イーサネット(10メガビット/毎秒)と,トークリング(16メガビット/毎秒)による,校内コンピュータネットワークに接続されている.また,光ファイバー(100メガビット/毎秒)によるビデオネットワークがある.各教室には,コンピュータネットワークと連動した,テレビカメラやテレビモニターの他に,電話も設置されている.インターネットの本格的接続は1995年からであり,2マイル離れた西ジョージア大学経由(1.5メガビット/毎秒)で,全世界と結ばれている.いずれの学校も日本の学校では想像もできないような恵まれた環境にあるといってよいであろう.(清水,pp.333-346,1995.)※4−7
それでは,なぜ,このような素晴らしい環境が整備されているのか.以下4.3. では,コンピュータの導入・運営資金の調達方法の違いからこれらを考察していくことにする.

4.3.コンピュータ等情報機器の導入・整備・運用にあたっての資金調達法について

まず,先に述べたアメリカのキャロルトン公立小・中・高等学校においては,従来からIBMのサポートを受けて情報化を推進してきており,現在は,数多くの民間企業や団体等からの補助金を運営資金等にあてている.(清水,前掲.)
学校へコンピュータが導入される場合,そのコンピュータの導入のための資金調達の負担の形態によって,北米では以下の四つのタイプに分けることができる.※4−8
@研究プロジェクトとして,ある学校にコンピュータを導入する
A財団またはコンピュータ製造会社からの寄付により,コンピュータを導入する.
Bモデルスクールとして,州や自治体の教育委員会が導入する
C学校が,自らの意思で導入する
研究プロジェクトとして,ある学校にコンピュータを導入する場合,その学校は研究の実施校であるため,コンピュータを設置・整備するための経費,コンピュータの使用に伴う経常経費,その学校の教師に対する指導,コンピュータを授業に使用する際の指導の補助等の負担や責任は,すべて研究プロジェクトを行う側にある.
財団またはコンピュータ製造会社からの寄付によって,コンピュータを導入する場合,寄付を受けるのは,コンピュータのみであり,それ以外の設備費,運営経費,コンピュータの教育利用に関して必要とする人員配置のための費用は,学校の経常予算から支出されている.
モデルスクールとして,州や自治体の教育委員会が導入する場合,教育委員会等と学校が協力して特別なプロジェクトを実施するためのものであることが多い.プロジェクトはいずれも,マイノリティ・グループに対する対処のためにコンピュータの利用を計画し,それに基づいた教育を実施するというものである.コンピュータ導入のための必要な諸経費,それらのコンピュータを使用した教育を実践するために要する経費及び人件費等は,特別な予算として,教育委員会等から当該校に与えられている.
学校が自らの意思でコンピュータを導入するというのが最も一般的である.コンピュータ導入にあたっての必要経費を,すべて学校で独自に負担する場合と,州教育省(カナダの場合),教育委員会等の公的機関から,導入経費の一部を補助金として受けて導入する場合とがある.
日本の場合は,学校長の持っている予算枠は少なく,コンピュータを導入することは不可能である.カナダ,アメリカの学校長の権限は日本の学校長に比して大きく教育や設備等について何に重点を置くかを自分の意思で決定することができ,自分の学校に与えられている予算執行の際には,何に対してどれだけ支出するかを自由に決めることができる.その予算の枠内において,コンピュータ数台の導入が可能であり,PTAに働きかけて募金や,バザー等による収益の寄付等によって,必要な資金を集めてコンピュータを導入することもできる.日本の場合,PTAからの寄付金を用いて学校の教育に必要な備品等を購入することは禁止されているので,コンピュータ導入のための必要経費を外部から集めることはできない.
このように,カナダ,アメリカと比較して日本は,コンピュータ導入・整備のための資金調達が困難であるといえる.日本の各省庁は,コンピュータの導入等に対しての予算を計上し,補助,援助を行っており,上述したように,日本のコンピュータの導入率は86.3%になった.しかし,コンピュータは一度導入すれば終わりということはなく,その他諸経費,人件費等,経常支出となるものも多い.将来には,情報・通信ネットワークの整備,マルチメディア環境の充実等も予算に計上されていくことになるので,長期的展望の下で,計画的,目的的,継続的にコンピュータを導入していくことが肝心であると考えられる. 以下4.4. では,コンピュータ導入のための資金調達と関連した,コンピュータの購入方法別の設置台数についてのデータを検討していくこととする.

4.4.コンピュータ等の購入方法別設置台数の状況

1992年度における日本の初等中等教育機関でのコンピュータの購入方法別設置台数の調査を見ると(図表4-2),買い取りが,小学校72.9%,中学校79.8%,高等学校77.4%,特殊教育諸学校80.7%と,いずれの学校においてもその割合は最も高い.次いでレンタル・リース,その他となっている.その他には,寄贈や貸与が含まれており,寄贈についての扱いは寄付とどのように違うのかは分からないが,小学校3.9%,中学校0.8%,高等学校1.7とその割合は低い.特殊教育諸学校のみが7.8%とやや高く,その内訳を見ると,盲学校16.4%,聾学校11.1%,養護学校4.7%となっている.※4−9このため,寄贈というのは,目の見えない,あるいは,耳の聞こえない人たちのための特別な仕様がしてあるものに対して多いのではないかと推測することができると思われる.

4.5.その他,コンピュータの周辺機器等について

各学校に応じた利用目的に沿って,コンピュータの周辺機器として設置すると便利なものには,マウスやハードディスク等が挙げられる.特にマウスは,児童生徒の情報処理能力から,中学校・高等学校でもそうであるが,小学校において有効に活用したい.まずはコンピュータを恐れないで,簡単に操作できるような環境を設定することが必要である.また,各種の視聴覚機器やセンサー等の他のメディアと接続,併用して利用することもコンピュータの機能をより生かすことになる.また,マルチメディアとしてのコンピュータの利用は,マルチメディア教育にもつながるので,コンピュータをより有効に活用することにもなる.
しかし,専門的な立場から周辺機器を整備すると,コンピュータについて良く知っている者に対しては,便利な環境となるが,一般の教員や児童生徒にとっては,コンピュータが近づき難くなったり,利用する上での困難が生じたりする恐れがある.
そのため,周辺機器においては,最初からすべてを整備するのではなく,周囲の状況に配慮しながら,徐々に整備していくことが,より良い教育環境を構築する上で大切であろう.※4−10
初等中等教育機関における周辺機器の保有については,データがないので詳細についてはここで述べることはできないが,一般のパソコンユーザーに対しての調査を見ると(図表4-3),ユーザーが1994〜1995年までに既に所有している周辺機器は,モデムとCD−ROMドライブである.高速のデータ伝送が可能であるモデムについては,仕事や趣味でパソコン通信や電子メールを使うユーザーに対して,当然所持する周辺機器として捉えられている.最近のインターネット・ブームや,使用の多少に関わらず電話料金が一定である,固定電話料金制度の導入等により,パソコン通信を始める人も多い.
CD−ROMドライブについては,マルチメディアとWindowsを原動力に普及が急速に進んだ周辺機器である.動画や音声を組み合わせたマルチメディアCD−ROMソフトだけでなく,オフィスで使用するビジネス・ソフトもCD−ROMに収められているものが主流になりつつある.新しく発売されたパソコンについては,4倍速のCD−ROMドライブが装備されているモデルが大半を占めている.
その次に多い周辺機器は,カラープリンタであるが,これについては,マルチメディア・ソフトが大変カラフルであり,また,ディスプレイも高画質であるため,低価格化したこともあって,人気が高いものと思われる.年末のコマーシャルを見ても,年賀状の印刷用としてカラープリンタを宣伝していたので,その需要拡大が予測できる.光磁気ディスクにおいては,記憶量が膨大となる画像やサウンド等のマルチメディア・データを保存しておくための,新しい大容量記憶装置として,注目されていると考えられる.※4−11       これらのことから,一般ユーザーに限っては,マルチメディア対応の製品を周辺機器として既に保有あるいは購入希望があることが分かる.初等中等教育機関においても,これからはマルチメディア対応の周辺機器の保有が上昇してくるものと思われるが,予算や専門教師の不足等により,出足は遅れると考えられる.ただ,日本の場合,16ビット以上のパソコンを保有している学校が多いので,マルチメディア対応が可能であるものが多いのは,他の諸国に比較して有利であると考えられる.

以上,第三章,第四章にわたって,ハードウェアに関する情報機器の状況について,欧米諸国との比較をしつつ,概観してきた.以下は,まとめにかえて,これまでの調査・分析結果を再確認しつつ述べることとする.

【註:第四章】

※4−1 
LAN(Local Area Network) とは,学校,企業などの事務所や教室内のパソコン を接続し,互いのデータのやり取りや情報データ,プリンタなどの資源を共有化す る目的で構築された構内ネットワーク(LAN)をいう.電話用線材を利用した低 速・小規模,同軸ケーブルによる中速・中規模,光通信ケーブルによる高速・大規 模のものがある.形態としては,接続されたパソコン間の関係によって,対等の立 場で処理されるものや,サービスを要求するクライアントと,要求に対してサービ スの提供にあたるサーバーの機能を分担処理するものなどがある.LANシステム の資源共有のため,共有ファイル機能を担うファイル・サーバー(file server) や, 印刷機能を担うプリンタ・サーバー(printer server) 等がある.一般的に,学校 の教室内においては,教室専用LANとして機能が限定され,企業内においては, 汎用LANが採用され,活用内容も多様化している.
黒瀬洋 稿「情報教育のキーワード2」『教育と情報』第446巻,平成7年5月号, p.52.
※4−2 苅宿俊文 稿「第二章 今,活用し創造している子どもたちの現場から−子どもたち に人とのかかわりを再構成させるメディアとしてのネットワーク−」『マルチメデ ィア時代の子どもたち』産調出版, pp.48-56,1995.
※4−3 通商産業省が文部省の協力を得て,このプロジェクトを開始したとあるが,中には, 自治省とも共同で行ったとするものもある.
日本情報処理開発協会 編,上掲書,p.353.
※4−4 日本情報処理開発協会 編,上掲書,p.149,353.
坂元昂 著,前掲書,pp.21-23.
※4−5 蛭田幸太郎 著「キャンパス情報ネットワーク」『最新 教育キーワード 137』
時事通信社,pp.172-173,1995.
※4−6 
※4−7 清水康敬 著「第10章 活かされているアメリカのマルチメディア教育−アメリカに おける進んだ学校では−」『マルチメディア時代の子どもたち』産調出版, pp.333- 346.
※4−8 コンピュータ教育開発センター 編, 前掲書, pp.18-19.
※4−9 文部省, 前掲書 , p.217.
※4−10文部省, 前掲書 , p.62.
※4−11「95年パソコン新製品の動向」日経パソコン WORLD PC EXPO`95 記念特別版,pp.4 -11.


まとめにかえて

最後に,まとめにかえて,本論での研究結果について再度概観することにする.
まず,第一章においては,現在の社会の状況を認識するために,情報化社会の進展と学校教育とを絡めて述べた.本論では言及しなかったが,調査の段階で,東南アジア諸国のコンピュータ普及率等が日本よりも大である場合があることを知って,大変驚いた.卒業論文で触れることができたら,と思っている.
第二章では,まず,情報活用能力に関する答申等の概略をまとめ,日本における,情報教育推進のための諸政策について,最近の状況を幾つかに絞って述べた.
教育へのコンピュータの導入は,多くの国が実施しているが,政策的な動向の違いを見るために,日本とアメリカを取り上げた.その結果,日本では,政策当局の認識,対応が遅く,それ故,教育現場での実施が遅くなっている状況であることが確認された.アメリカでは,教育の管轄は州政府にあるため,独自の教育を展開し易く,教育に効果的な新しい技術を早く取り入れることが可能であるが,反面,格差が広がり,その対応策を連邦政府が率先している状況であることが認識された. 第三章,第四章では,ハードウェアに関してあらゆる角度から概観したため,従来の認識を一部覆すものとなった.日本コンピュータ教育は遅れている,と一言に言ってしまうと,すべてに関して遅れがあるように感じられてしまうが,一つずつ見ていくと,そうではないことが明らかになった.
まず,コンピュータの導入時期はかなり遅れていたといえる.しかし,諸政策によって,その導入は強力に推進され,初等中等教育機関では,86.3%の導入率となった.欧米諸国に比較すれば,その割合はまだ低いが,中学校,高等学校の導入率はほぼ100%であり,これからは特に,小学校への導入を推進していくという目標を掲げることが可能になった.また,けがの巧妙で,導入の遅れはあったものの,新機種タイプのパソコンを導入することができたため,これからのマルチメディア教育に対応しやすい,他の諸国に比べて有利な環境にいることになった.
コンピュータの設置場所としては,小学校では,職員室等が多く,これは,導入台数が少ないためであると推測し,中学校・高等学校では,7割をコンピュータ専用教室に設置していることが認識された.しかし,コンピュータ専用教室は学校の隅にあったり,施錠されていることが多く,コンピュータの使用時間は少ないことが予想された.
最近のインターネット,マルチメディア・ブームによる,情報・通信ネットワークの整備や周辺機器の装備に触れ,アメリカでは,素晴らしいネットワーク環境にある学校が存在すること,周辺機器では,マルチメディア対応のものに人気があること等が確認された.
冒頭でも述べた通り,調査・研究を密にするため,ソフトウェア,校内体制,教員研修,情報教育関連産業等にはほとんど触れなかった.しかし,そうすることによって,ハードウェアについては,詳細な結果を得ることができたと思われる.データの収集の際に,教員研修が最も遅れた分野であることが解されたので,卒業論文では,このことを中軸に据えて,研究していきたいと考えている次第である.

【参考文献】

芦葉浪久「マルチメディア社会の展望」『教育と情報』第442巻,pp.2-7.
江川,高橋,葉養,望月 編『最新 教育キーワード 137』 時事通信社,1995.
大島聡 稿「コンピュータ教育」『教育キーワード 137』時事通信社,pp.204-205, 1995.
金子洋子 稿「インターネットは国境を越えたグローバルな教室」『教育と情報』第442巻,平成7年1月号,pp.14-19.

黒瀬洋 稿「情報教育のキーワード2」『教育と情報』第446巻,平成7年5月号, p.52.
小松親次郎 稿「マルチメディアと文教施策−文部省の取り組み−」『教育と情報』第442巻,平成7年1月号,pp.26-29.
コンピュータ教育開発センター 編『(昭和63年度調査報告書)北米におけるコンピ ュータ教育実態調査団報告書−カナダ,アメリカ合衆国−』コンピュータ教育開発 センター, 1988.
コンピュータ教育開発センター 編『アメリカにおけるマルチメディアの教育利用』 コンピュータ教育開発センター,1991.
後藤忠彦 稿「マルチメディアを教育に生かす」『教育と情報』第442巻,平成7年1月号,pp.14-19.
佐伯 著『コンピュータと教育』岩波書店,1986.
坂元 他著『マルチメディア時代の子どもたち』産調出版,
鈴木勢津子 稿「マルチメディア活用講座D オーストラリアにおけるマルチメディ アの教育の実情−見たままのクインランド州の情報教育」『教育と情報』第449巻, 平 成7年8月号, pp.32-35.
通商産業省機械産業局 監修,日本電子工業振興協会 編『パソコン白書94-95』コンピュ ータ・エージ社,
通商産業省機械情報産業局 監修,情報サービス産業協会 編『情報サービス産業白 書 1995−再生・共性・新生のシナリオ−』コンピュータ・エージ社.
西垣通 著『マルチメディア』岩波書店,1994.
日本情報処理開発協会 編『情報化白書 1995』,コンピュータ・エージ社.
村川雅弘 稿「マルチメディア時代の子どもに求められる能力」『教育と情報』第442巻,平成7年1月号,pp.8-13.
文部省『高等学校学習指導要領』実教出版,1989.
文部省『小学校学習指導要領』実教出版,1989.
文部省『中学校学習指導要領』実教出版,1989.

文部省『情報教育に関する手引き』ぎょうせい, 1991.
『日経パソコン WORLD PC EXPO`95』記念特別版,
『日経パソコン』1995年3月13日号.
『日経パソコン』1995年夏合併号
山極隆 稿「解説 初等中等教育におけるコンピュータの効果的な活用」『教育と情報』第444巻,平成7年3月号,pp.38-43.