地域経済論夏期提出レポート
提出日
1997.9.18宮澤淳
1997
年4月14日長崎県諫早湾で堤防締め切り工事が行われた。農林水産省が諫早湾で進めていた干拓事業は、高潮などの防災を目的として、湾内の
3500haを堤防で閉め切り、1800haを干拓地にして残りを調整池にするもので、平成元年に着工された。堤防の閉め切りに賛成派と反対派の度重なる衝突は紙面を賑わせたものである。以下、干拓事業の着工理由と賛成派反対派の言い分を基に、その是非を述べる。有明海・諫早湾は潮汐の変動が最大約6
mあり、干満の大きさと遠浅な地形のため、湾奥部では有明海から運ばれる土粒子が堆積しやすく干潟が発達している。堆積した土をガタ土といい、堤防の前面には海の働きによって堆積し始め、長い間に背後地よりも高くなり、背後地の常時排水を困難にするだけでなく、ガタ土が水の流れを邪魔して洪水時に被害を受けやすくなっている。この為、諫早湾奥部は地域の排水が不可能になると、排水改良と農地造成が二つの目的を兼ね、数百年も前からその都度干拓を繰り返してきたのである。堤防閉め切りをギロチン処刑と称した反対派の理由は、干潟内の生物の死滅防止や生態系の保全、沿岸漁業の存続維持、干潟をつぶしてまで農地を作る意義の見直しである。しかし賛成派の理由は平たん農地の確保、背後地の排水不良などの複合災害の解決、生活保全である。片方の意を汲めば、片方がたたなくなるのは必至であり、片方の意見がすべて反映するとは考えにくい。
昭和
32年の諫早大水害と昭和60年の高潮被害を経験している長崎県は台風の移動路にあたることも多く、災害が起きやすい。防災の観点からみても水門の閉め切りは望ましいことである。既存の海岸堤防の嵩上げによる高潮の防災だけでは、費用をかける割には高潮の防災しかできない。それに対して現在進めている諌早湾干拓事業では、高潮災害を防ぐと共に背後地の排水不良という悩みを解消し、さらに洪水対策にも貢献し、地域が渇望した広大な農地を造成するというメリットもまた持っている。潮受堤防の水門を開放して干潟を守るという議論に対しては、この地域の干満の激しさによるガタ土の堆積が進み、潮受堤防外での漁業にも多大な影響を与えるという点からも否定するべきである。ただ、干潟の生物環境の維持は干拓する側の責任として行われねばなるまい。
また、干拓事業で確保される平坦農地(約
1500ha)は、21世紀の長崎県の発展を展望する上で重要な資源になると考えている。長崎県は県内全体が中山間地という厳しい条件下にある。狭い棚田での農業は生産コストが高く付き、道路状況は悪く、耕作放棄地が増加してしまう。全耕作地に対する耕作放棄地率は全国で高いほうとなっているのは以上の理由によるのである。反対派の「減反で宅地を作っておきながら、次は2370億円かけて干潟をつぶして農地をつくるのは不当」という意見は当然であるが、それは長崎県の地理的状況を知るものならば強くは推せないものであろう。大都市圏である関東などでは近郊農業を展開可能だが、長崎県は日本の西端に位置し、大市場からは遠い位置にあるため、今後の市場開放などの国際化に対して周辺諸国との競争を図る上で有利とはいえない。長崎県農業の生き残りのために周辺諸国との競争の打ち勝つ条件整備を急ぐ必要があるのである。そのため、新たに創設される平坦な農地は、
21世紀の長崎県農業の基になる期待がされるのである。最後に、賛成派の「干潟には、人気者のムツゴロウがすむばかりでなく生活を脅かす一面もあることを本当に理解されているのか」という新聞に掲載された問いかけには、現地の住民の意が強く反映していると思う。生態系の破壊も問題であるが、真の問題とは、住民生命を脅かしているという事実なのではないか。私は干拓事業には以上の理由から賛成である。ただ、反対派や自然保護派の人々が掲げる意見には責任を持って対処してもらいたいのである。