流通経済論夏期提出レポート
提出日
1997.9.25宮澤淳
日本の卸小売業は、その小規模・過密性が労働生産性の低さにつながっていると批判を受けている。
商業統計調査によると、小売店舗数は
1985年以降減少を続けている。その要因は、高地価による出店難や、高度な経営力を必要とすることによる新規出店舗の減少、そして店主の高齢化による後継者不足や収益悪化による既存店の転廃業の多さにある。これら二つの要因による小売店舗数の減少基調に伴い、かつての日本の小売構造の特徴であった「店舗の多数性・零細性」はかなり希薄になってきている。
1985年以降、小規模小売業が減少する一方で、中・大規模店の増加と販売額の上位集中や売場面積の拡大が見られるようになった。現在の小売業に見られる規模拡大と大型化は、従来と異なり多様な意義を持つ。その意義は消費者ニーズの多様化・高度化に対して顧客を確保することにある。しかもその消費者は欧米先進国トップクラスの所得水準、高度成長期以降に登場してきた団塊の世代・ジュニア世代であり、バブル崩壊後の価格破壊や豊富な海外経験による学習効果を持っていて、豊富な商品知識で価格と品質を見分ける厳しい選別眼と独自の価値観を持っているのである。
消費者サービスへの欲求およびその質を見分ける目は飛躍的に肥え、特に欲求については基礎的欲求などの画一的必需的な欲求と個性的・選択的な自己実現欲求という二つのニーズが共存している。前者に対応する大衆(マス)消費市場と、後者に対応する多様化(セグメント)消費市場の両市場を捉えないと、現代日本の消費者は納得しない。つまり、百貨店や総合スーパーチェーンが統合化から専門性への質的転換を図ったのは、消費者の生活内容の多様化に沿って専門性を軸とした専門小売業形態の多様化、細分化を消費者が求めた為なのである。
厳しい選別眼を持った消費者は、より質の高い財・サービスをより低価格で供給するというジレンマを流通業に突きつける。消費者は店員の厚いサービスは勿論、低価格・高品質の商品を豊富に揃えたワンストップショッピングが可能である巨大店舗を求めるのである。これからの小売業は、ローコストオペレーションとマーチャンダイジング力、人的投資力、店舗投資力の両立を問われ、更に高品質要求への対応力が必要となる。
このためには、消費者ニーズの多様化に対応するため売れ筋商品を徹底的に回転よく供給する在庫管理能力を求め、同時に多品種の陳列を可能にするため、売場面積の拡大をしなければならない。これが、前述した小規模小売業者の減少が、小売業の中・大規模化を意味する理由である。
売場面積、つまりは店舗面積が増加すると総売上高が増加し、単位売場面積当たりの売上高が増加する。規模と効率の面からも売上高を伸ばすには店舗面積の拡大は不可欠であり、店舗面積と売上効率との相乗効果で売上が増加するといえるが、そこには難点がある。通産省資料「我が国の商業」によると、売場面積が
2000平方mの店舗規模を境に、これ以下でもこれ以上でも面積当たりの販売額は増えることである。つまり、中途半端な小規模小売業の規模拡大は、かえって売場面積当たりの販売額、売場効率を共に下げてしまうのである。店舗面積の拡大による生産性向上という好影響を述べてきたが、一方雇用吸収力は高まるのであろうか。生産性向上とは言い換えれば余分な人員を削ぎ落とすことであり、雇用吸収力とは相反する課題である。ここにジレンマが生ずる。
流通業の雇用における役割は二つある。一つは、全従業者
1380万人のうち雇用者は900万人と全産業の二割を占めている重要な雇用吸収原であること。二つ目は雇用者の勤続年数の短さや入離職率の高さに現れている限界的な雇用の受け皿であること。ただし、過剰な低賃金雇用が流通業の低労働生産性と密接に結びついているため、雇用と生産性の両立の難しさが現在の流通業の重要な課題となっている。今後の小売業の課題は主に四つある。第一に価格を引き下げること。第二に多種類の商品を豊富に取り揃えること。第三に店員のサービス向上をすること。第四に店舗拡大に伴う駐車場・駐輪場のスペースを確保すること。以上の四つである。
この他にも消費者は利便を求めるあまり、際限なく要求をするが、前述したジレンマを少しでも解消するような適切な方策が求められている。