―生命の科学―

問題1 遺伝子の情報をもとにタンパク質が作られる過程を述べよ。

解答

生殖細胞の染色体を通じて形質(遺伝情報)を伝える基本的単位を遺伝子と呼んでいる。その染色体上にある遺伝子の科学的本体はデオキシリボ核酸(DNA)であり、DNAがウイルスからヒトに至るまで、遺伝現象の主役を果たしているのである。DNAが遺伝子であり、その指示にしたがってタンパク質が合成され、そのタンパク質の働きで一定の遺伝形質が現れる。

このように遺伝伝達の機能を持つ物質はDNAであることがわかる。ではDNAの構造をみてみよう。DNAのヌクレオチドはリン酸、デオキシリボース(糖)、塩基(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)で構成され、数多くのヌクレオチドが長い鎖状につながったポリヌクレオチドから出来ている。また、糖にはデオキシリボースの他にリボースがあり、リボースを含んだ核酸をRNA(リボ核酸)という。RNAは核(核小体)の中にもあるが、主に細胞質中に存在する。この核小体や、細胞質にあるRNAには、T(チミン)の代わりにU(ウラシル)が含まれているので、塩基は(A:アデニン、U:ウラシル、G:グアニン、C:シトシン)の4種類である。

さて、遺伝子情報をもとにタンパク質が形成される過程は、「転写と翻訳」にたとえると説明しやすい。以下その過程を説明する。

DNAは、一方で親DNAから子DNAへ遺伝情報を複製し、他方DNAの情報がRNAを介して読み取られて特定のタンパク質がつくられることが明らかになった。

細部を説明すると、2本のDNA鎖の片方の塩基配列が、RNAポリメラーゼ[DNAがあれば、たとえ試験管内であっても、4種のヌクレオチド-3-リン酸を基質としてあたえると、ポリヌクレオチド(RNA)を合成する酵素]の助けを受けて、リボ核酸(RNA)へと写し取られる。「転写」するのである。RNAはDNAの遺伝情報を受け取って、細胞質のタンパク質を合成するリボゾームに運搬される。このようなRNAをメッセンジャー(伝令)RNA(mRNA)という。核内のDNA塩基配列はこのmRNAに写し取られる。

ここで注意したいのが、RNAとDNAという科学構造の異なる同士でどのように遺伝情報交換が行われるかということである。DNAの塩基配列は「ATGC」であるが、RNAの塩基は「AUGC」である。DNAのチミン塩基(T)に代わりに、RNAのウラシル塩基(U)が、Tと同様にAと水素結合するのである。

ではアミノ酸の組はどのように並べ替えられるのであろうか。DNAの塩基配列を写し取ったmRNAは核膜孔から外に出て、mRNAにそってだんだんと移動する細胞質内の一個のリボゾームの小粒子に付着し、大粒子と結合して、活性リボゾームとなる。(ちなみに、リボゾームは大小2コの粒子が結合したもので、2つの粒子は科学構成はよく似ているが、機能は明らかに異なる。小さいほうの粒子はmRNAとの結合に必要であり、大きいほうの粒子は酵素を含み、ポリぺプチドが合成される。伸長しつつあるポリぺプチドはつねに末端でtRNAに結合しているから、tRNAは大粒子上に結合されるものと考えられている。)

メチオニンとtRNA複合体のアンチコドンがmRNAのコドンと結合し、リボゾームがmRNAを移動する時に、mRNAのコドンに対応したアンチコドンをもつアミノ酸tRNA複合体が、アミノ酸をリボゾームまで運んでぺプチド結合する。つまり、アミノ酸を末端に付けた細胞質に溶存しているtRNA(転移、運搬RNA)がアミノ酸をリボゾームまで運んでmRNAの遺伝情報にしたがって配列しながら、アミノ酸の組が順々にならべられるのである。「翻訳」とは、mRNAからタンパクを合成するために、リボゾームでアミノ酸を並べ替えることを指す。

すなわち、遺伝の情報は、DNAが直接タンパク質の鋳型となってタンパクに伝えられるのではなく、この間にmRNAを介して、アミノ酸の配列順序が決められると、酵素の働きによってアミノ酸の部分だけがポリぺプチドの形に結合して、ここにタンパク質が合成されるのである。