1997102 木曜日

日本再浮上の構想 第一章 累積する矛盾と不安

 

担当 秋元亮一 安西正幸 市川明子

 

96年の日本経済は3.6%の実質成長を達成したが、これはOECD諸国の中ではもっとも高い成長率の1つである。在庫調整が進んで鉱工業生産も設備投資も、順調な伸びをしめしている。さらに、マクロの指標でみる限り、国際的に見ても日本経済のファンダメンタルは、むしろ、すぐれている。それは低い失業率、高い貯蓄率、物価安定、経常黒字などを根拠にしている。また、政府や経済調査機関においても、景気は回復基調だという見解を述べている。

しかし、国民は将来への雇用不安、老後への不安、日本という国の安全や国際協力さらには統治能力の問題を抱いている。また、国内だけでなく世界各国も日本の景気低迷に懸念を抱いている。

このように日本経済は、マクロ的パフォーマンスは決して悪くないのになぜ心配と懸念の的となっているのか。

 

<金融システム>

金融に関しては、金融機関が護送船団方式からの脱却ができず、経営力、競争力の強化を怠った。内外の環境条件の著しい変化に対する積極的な対応と、自己改革を行なってない金融機関は、安住した時のツケが累積した矛盾となって病状を悪化させ、人々の不安を増幅している。

<財政危機>

財政危機は、直接にはバブル崩壊後の平成不況下の歳入減少、景気刺激の大型経済政策による歳出増が原因である。しかし、さらに長期的・構造的な原因は、経済成熟化が進む中で既得権が蓄積され、経済構造が硬直化し、政府依存体質が強まった事であり、さらには、補助金、公共工事、福祉などが際限もなく増大し、大きな政府の体質が出来てしまったことである。

<雇用不安>

最近、少しずつ景気が回復してくると、企業は若い労働力の補完をはじめたので若年者の雇用は改善してきた。しかし、中高年者の雇用の展望は、これからの行政改革、金融ビックバン、公共工事の大幅な減少を控え、さらに景気の回復はあまりにも緩やかなためかなり不透明である。

もともと流動性の低い日本の労働市場は、ひとたび失業すると次の仕事が見つかりがたい傾向があるが、最近はその傾向が悪化している。人々は将来の雇用機会の減少に対して、今のあまりに緩やかな景気の回復では不安にならざるを得ない。

<老後不安>

国民は年老いた人々の生活を一体誰が支えるのか、そして果たして支えられるのかという不安を抱いている。

高齢化と経済の低迷のもとで、かつての人口が若い高度成長時代に設計されたシステムの矛盾が現在問題になっている。今後、市場原理の導入、自己責任体制の構築、国民の意識改革、医療・介護サービスなどの供給側の既得権に切り込めるのかなど、社会保障システムの根本的な再設計が求められている。

<国際関係と安全保障>

89年末のソ連邦解体を契機に、冷戦時代が終わった。世界は新しい時代に入った。日本にとっても冷戦体制のもとで、もっぱら米国に追従していく時代は終わった。新しい時代の国際関係をいかに構築し、安全を守り、世界秩序の形成に参画していくか、自ら判断し、自らの責任で選択していく事が求められている。

日本および日本人に、そうした自覚と努力が足りなかった事を象徴したのが、沖縄問題でありそれは現在問題になっている日米安保体制にも影響していると思われる。

 

これらの矛盾は、内外の環境条件が大きく変わる中で、日本が十分に自己改革ができず、適切な対応が出来なかったために累積したものである。日本は今、歴史の転換点にあるといわれるが10年ほど前に日本は歴史の大きな転換点を過ぎているのである。

大きな転換点とは、これまでのキャッチアップ型の発展段階を卒業し、先進国としての繁栄を築くために経済構造や戦略の転換が必要となった事である。また同時に、冷戦が終わり、国際環境が一変したため新しい時代にふさわしい自覚と努力が求められている事である。

そうした内外の条件変化に応じた自己改革が遅れたために矛盾が蓄積し、問題が深刻化し、将来に対する人々の不安が高まっている。

しかし、高い貯蓄率、教育程度の高い労働力、優れた生産技術などがある今、適切な日本の改革が実行できれば、日本は先進国としての新たな繁栄を実現できるだろう。そのためにも、国民や政治家は改革の重要性を理解し強力な政治リーダーシップのもとで、必要な自己改革を実現しなければいけないのである。

 

第一章の議論点としては、なぜ自己改革は遅れたのか、四年生は就職活動を終えて雇用不安に対してどう思っているかなどについて話し合ってみたいと思う。