日本最浮上の構想 第二章 転換点を過ぎて拡大する矛盾

10月23日 担当 宇多良隆 石井豊 飯田雄二

キャッチアップの終了と構造改革の遅れ

「プラザ合意」以後、円はドルに対して100%切り上がることになった。この時点で、日本の名目、実質所得水準は世界のトップレベルになり、キャッチアップは達成されたと言える。そのため、それまでの経済構造を根本的に自己改革する必要があったのだ。

しかしながら、前川レポートにまとめられたような経済構造改革は行われず、他国に比べ大きな内外価格差が存在することになったのである。これは、様々な商慣行によって市場が十分に開放されず、輸入の増大が図れなかったことと、国内産業の効率化や生産性向上が進まなかったことにより、加速されることになる。これにより、競争にさらされる企業ほど海外に移転していくことになり、税収、雇用機会の減少という結果になっている。

また、日本は開発資本主義のもと、政府が情報や資源配分を管理し、経済発展を進めてきた。これも、キャッチアップの終了にともない、情報を公開し透明な市場を目指す方向に代える必要があったのだ。しかし実際には、不十分、不明確、不透明が支配する経済になっており、国内外にとって、公正かつ効率的な競争が阻害される可能性が高くなっているといえよう。情報化、国際化の流れの中でこのような日本経済は、世界に取り残されていく恐れがあるのである。

グローバル化に遅れた金融システム

80年代、世界の金融市場では、資産活用のための様々な金融商品が開発されていくことになり、情報技術の飛躍的な発展により金融のグローバル化が進むことになる。この流れの中、先進各国では、金融と経済の発展を目指して規制緩和を行い、シンガポールや韓国などの国では、急速な経済発展を背景に新しい自由な市場が発展しつつあった。さらに、国内では様々な構造変化を経験し、国内外から見て金融機関に求められる機能は変わってきたといえよう。

このなか、日本の金融システムは、護送船団方式のもとで運営されていったのである。国内外の急速な変化の中、競争と自己革新が立ち遅れることになったのだ。バブルでは、改革が不十分で実力がないのに資産を膨張させたため、バブル崩壊後、資産価値下落によって膨大な不良債権を抱えることになったのだ。この問題に加え、金融市場の空洞化という問題も抱えているのである。制度改革、規制緩和、技術革新を怠ってきたため、市場の競争力が失われているのだ。情報の中心である金融、資本市場の競争力の低下は、経済全体の競争力の低下につながっていくのである。

経済社会の成熟化と財政赤字

日本の経済社会では、前述したキャッチアップの終了と、後述する高齢化により、成熟化という長期的な構造変化をむかえていると言える。これにより、次第に財政構造は硬直化していくと思われる。このような中、先進諸国では、経済の効率化と市場機能を強化する構造改革政策を行い、同時に財政構造改革を強力に進めてきたと言える。

この頃日本では、バブル崩壊後の平成不況を克服するため、政府は大型経済対策を実施していたのである。しかし財政支出による景気の乗数効果は、構造的に低下していると思われる。むしろ景気低迷と税収低下のもとでの大型対策は、財政赤字の急速な累積という問題を、引き起こしてしまったと言える。新たな時代への対応が遅れた日本では、財政赤字の累積による将来への不安が募っているのである。

人口の高齢化と膨張する社会費用負担

日本では、人口の高齢化、少子化という人口構造の変化が起こっている。そのため、生産年齢人口が減少していくのである。これにより、労働力縮小によって国民所得を縮小させることが懸念され、労働者一人当たりの社会的費用は急増していくのである。しかもこれは、世界で類を見ない速いスピードで進んでいるのである。

この加速度的に進む変化の中で、日本の制度は高度経済成長期のままのものが多く、機能不全が顕著になってきている。高齢化社会を支えていくための改革は、明らかに遅れている。この制度的適応の遅れ、自己改革の遅れが、社会的な不安を増幅していると言えるのだ。

冷戦の終焉と沖縄問題

1989年にソ連が解体し、40年以上にわたって続いてきた冷戦体制も崩壊することになった。これは、日本にとっても外交や、安全保障戦略の見直しを必要とさせるものであったのだ。ところが日本ではこの安全保障という問題について、アメリカと沖縄に任せ続けてきたのである。

これは、沖縄への配慮と理解の不十分さとなって現われている。本来であるなら国民で平等に担うべき問題ということを忘れてしまっているのだ。人々の信頼という基盤を疎かにしてきたとも言えるのではないだろうか。また、国家の安全というもっとも重要な問題について、十分に考えてこなかったとも言える。この問題を解決できるかどうかは、国際社会の中で、日本の信用と信頼を左右するとも言えるのである。

 

議論点

以上のように現在の日本においては、歴史的な転換点を過ぎて拡大している矛盾点が多く、すでに手遅れとなっているようにも思える。対策については、次章以降で見ていくこととし、今回は、以上で述べた矛盾点にはどんな要因によるものなのか、また、以上で述べた以外にどんな矛盾点があるか、考えていきたい。