日本再浮上の構想 第三章「歴史の教訓」

―次の世代に何を残すのか―

(担当)石浦政樹・小倉亮二・大前慈子

現時点では、日本経済は国際的に見てもまだ優れた資質と能力を保有している。膨大な貯蓄、よく訓練された労働力、優れた生産技術があり物価も安定し、失業率も低い。戦後のめざましい発展の成果であるそれらの資質を条文に活用し、新たな時代の環境条件に適合する自己改革を実行できれば、更なる発展と繁栄を実現することはできよう。しかし、逆に、それができねば衰退の恐れが大きい。日本は今まさにその歴史的分岐点にいるのである。

 

[ケネディ教授の警告]

ある国が生産性を向上させ、経済発展をする。その結果、富を蓄積し大国となる。植民地や領土を拡張し、世界に発展する。その富を守るため、軍事力を強化する。そして世界に手を広げた大国として、軍事費をはじめ、さまざまな経済負担が増大し、やがてその重圧によって徐々に衰退していく傾向があるとケネディ教授は指摘している。

また、20世紀後半の目覚ましい経済発展により国の内外に富を蓄積した日本については、「貿易国家としての活動だけでは、もはやその利益を守ることは出来ないと認識し軍事力を強化し、より積極的な軍事的存在となる方向を選択したとしても驚くべき事ではない」と述べている。

そこで、日本は生産力の強化、経済発展、富の蓄積、軍事力強化、軍事費や世界負担の増大という経路を進むことが予期された。しかし、現実には、そのはるか手前で経済発展の「成功」の結果、むしろシステムや考え方の硬直性ゆえに内的矛盾が高まり、停滞もしくは衰退への道に陥りはじめたようにみえる。

その直接的原因は、経済の繁栄の頂点でバブルが崩壊し、国内の金融危機が深まり、平成不況下で発動した度重なる大型経済対策を税収低下による財政赤字の累積が重圧となって、経済を圧迫しはじめたことが挙げられる。競争力の強さを反映した円レートの高騰もあったが、しあkし、それに見合う国内の経済構造の改革と転換が進まず、国内産業の空洞化が懸念されている。

 

[オランダ史に日本が見える]

かつてのオランダと同様に現代の日本の繁栄と富の蓄積がとりわけバブル時代に国際社会の嫉妬を買い、また、政治指導力の弱さ、頑固な官僚機構と縦割り行政の弊害、地方自治の未熟さと節度無き肥大化、無責任な平和ボケなど、日本の現状が18世紀のオランダにあまりにも酷似しているのである。

旧同盟国イギリスやフランスの攻撃を受けて衰退していったオランダの歴史は、今、改めて日本のあり方と将来についてあまりにも鮮烈な問いかけを提供しているものといえよう。

 

[大きく変わり得る日本の将来]

1950年、一定の復興を達成したとはいえ日本のGDPシェアは世界の1.6%にすぎなかった。

ところが、それからわずか40年後、92年には世界185カ国のなかで日本のGDPの比重は、15.7%を占める。世界第二位の経済大国に成長したのである。

しかし、成功ゆえに制度が硬直的になり環境変化への適応力が失われている。成功のなかで培われた利益が既得権になり、自己改革を妨げているのである。