担当:梶山・山條・奥澤
1 社会的費用と負担 これから日本は、人口構造の急激な高齢化に伴い、それによる費用の増大はさけられないようだ。しかし、問題はむだや過大な費用が含まれていないか、ということである。もし、むだや過大な費用を含んで高齢化の社会的費用が膨張し続ければ、それは大きな私たちにとっては重圧となり、人々の勤労意欲や企業の投資意欲を阻害し経済は活力を失い、やがて衰退していくおそれがある。(これを「重い高齢化」と呼ぶ。)しかし、高齢化を支える社会サービスの質を落とさずに、システムを合理化し費用を節約することができれば、費用負担は最小に抑えられ、経済は活力を維持できるのである。(こうしたことを「軽い高齢化」という。) そこで国民の負担を示す指標として国民負担率がある。これは、次の式で表せる。 (租税負担+社会保障負担)/国民所得*100 これは、景気変動に伴う大きな波動があるけれども、長期的には構造的、趨勢的な上昇傾向が見られるようである。また、経済成長率の程度によって将来の給付と負担のバランスは当然異なってくる。つまり、成長が高ければ負担率は低くなるし、成長が低ければ負担率は高まる。そこで現在の日本の現状を考えると、負担率が低くなることは考えられないだろう。今後の日本経済に4,5%といった経済成長率は期待できない。だから、相当な改革を進めても負担率はかなり高いものになる可能性が大きい。負担率の高さは経済成長に逆に影響を及ぼす可能性がある。つまり、労働供給や投資のインセンティブを阻害して経済成長を抑制する効果があり、今後改革を進めていく上で考慮に入れる必要があるだろう。 2 年金制度の現状と問題点 問題点@ 年金の財政と負担の問題 当初、積み立て方式として制度は設計されたが、発足当初の拠出水準の低さと拠出率の引き上げが進まなかった一方、給付水準は着実に引き上げられ高齢化の進展にともなって給付総額は累増した。したがって、積立金は事実上、取り崩される形になり、実質的に現役世代が受給世代の給付をまかなう賦課方式へ移行した。しかし、さらなる高齢化が進展し、積立金の取り崩しが進み、財政危機のおそれが強まってきた。 改革 80年代から90年代については年金制度の改革は高齢化への対応に主眼が置かれるようになってきた。85年には大改正が行われ、現行の2階建て方式がつくられた。まず基礎年金制度が導入され全国民共通の基礎年金として一階部分の共通化が行われ、その上に被用者年金を二階上乗せ部分として再編成した。また、94年にも大改正が行われた。支給開始年齢の引き上げ、部分年金の導入(2001年から)、また雇用保険との給付調整、つまり、二重受給をなくし、働くことで総収入が増えるというインセンティブを確保する制度改革が行われた。また、厚生年金のネット所得スライド゙制も導入された。これは長期的には給付を減少、抑制していく効果がある。それから、厚生年金保険料、国民年金保険料の引き上げなどが行われた。しかし、問題もある。保険料の引き上げによりどんどん国民負担は大きくなり、それに耐えられるかが心配である。 問題点A 制度的不公平 まず、世代間の不公平がある。年金給付と負担の倍率が、60歳代では2倍をこえるが、40歳代でほぼ1となりそれより若い世代では負担よりも給付が少なくなることが示されている。要するに、若い世代が拠出にあった給付が将来得られないと言うことであり、年金制度がシステムとして急速な高齢化社会に対応できていないことを示している。 次に、現役勤労者年齢層と年金受給者年齢層との不公平である。現役勤労者層に比べ、年金受給層が事実上優遇されているということである。年金受給者層は所得水準やストックが高い人が多く、ゆとりが多くある。しかし、現役勤労者年齢層は、ローンに追われ子育てなどに費用がかかり、優遇措置もない。したがって、年金以上に生活の格差は大きいと思われる。これらの不公平は、勤労意欲や、育児などの活動に悪影響をもたらすおそれがある。 次に、世代内の不公平がある。サラリーマンの奥さん(年収130万円未満)は、保険料を拠出しなくても受給年齢がくれば給付が受けられる。これは、働く女性(年収130万円以上)との間に不公平をよんでいる。この給付財源は、他の人が負うわけで、これはシステム矛盾といえる。さらに国民年金の滞納者の問題がある。この問題は、所得のない人や不明な人々に納付を強制しているシステムに無理があるといえる。最後に制度間の不公平の問題もあるようだ。 今後の年金制度の課題 高齢化社会の社会的費用を節約しつつ、合理的で公平なシステムを再構築することである。年金給付水準については、長期的に合理的な水準に引き下げていくことである。その場合に既得権にどう切り込むか、また、公平で合理的なシステムが必要だが、それらの制度改革について、国民の理解と合意をいかに確保するかということが重大な問題となるのである。 3 国民医療費の現状と問題点 これからの経済はますます成熟化し、長期的に成長が鈍化していく。他方、人口は高齢化していく。このままでは医療費増大の傾向が加速することは明らかである。したがってそうした事態を克服するために、医療サービスの質を落とさずに、コストを削減していくにはどうするか。このためには医療システムの根本的改革、再設計が求められる。 近年医療保険システムの財政危機が深刻化している。高齢化の進展にともなう医療費の支出が増大し、とりわけ政官健保、組合健保、国民健保、など各保険制度から老人保険制度への拠出金が増大して、各保険の支出増大を膨らませている。一方、不況が続き各保険への拠出収入が伸び悩んだ。その結果、各保険で収支差(赤字)が急増したのである。 そこで健康保険財政危機を回避するには、一方では保険料を引き上げて収入を増やすこと、あるいは患者負担を増やして、保険料からの支出を削減することの二つが考えられている。その結果、サラリーマンの自己負担が一割から二割へ、高齢者(70歳以上)外来自己負担、月1200円を一回500円(4回まで)、薬の自己負担を一定程度増やし、政官健保保険料率が月収の8.2%から8.5%に引き上げられることになった。しかし、これは一時的な効果であり本当の改革にはならないようである。なぜなら現行の医療システムでは、矛盾とむだがあまりにも大きいからである。したがってこれらの問題を回避するには抜本的なシステム改革が求 められる。 今後の対策 医療システムには健全な市場が機能していないのが現状である。したがって公正な競争が行われていない。その結果、供給側が需要を強制的に創出するという現状になっている。そこで、市場の原理を導入してこうした現象を改善し効率的な需給のバランスが公正に達成されるような医療システムを構築することが急務である。 4 福祉・介護の現状と問題点 社会的入院の大きな問題がある。本来長期療養者は福祉施設で介護を受けるべきだが、本人負担が少なく、コストの高い病院に長期入院している事例が多い。そのため、医療保険に多大な負担になっている。これらの矛盾と問題を緩和・克服するために政府当局は介護保険システムの導入を提案した。それは、被保険者というのは40歳以上の人で、被保険者であれば介護給付を受ける権利がある。これが第1号と第2号被保険者に分かれる。総費用のうち、国が25%、都道府県が12.5%市町村が12.5%ずつ負担する。すなわち、費用の半分は公費負担である。被保険者は、各種の介護サービスを受けられる。ただし、サービスを受けるには市町村が要介護者であることを認定し、ケア・プランを作成しそれにしたがって介護サービスが提供されるという仕掛けになっている。 今後の対策 介護保険制度の下では、保険制度の成熟化にともない、保険料による介護費用負担が徐々に増大していくことが見込まれる。したがってその分、医療保険負担が減り医療保険負担の減少になると予想されている。しかし、費用の半分が公費負担になっているため公費負担への依存度が高くなり、誰が払っているか分からないことがコストの意識を希薄にさせる可能性がある。だから、いまからコスト意識を高め効率化を促進する要素を促進する要素を組み込んでおく必要がある。 まとめ 高齢化に伴う財政危機の中で、社会保障システムの変化が求められてきているが、そこで弱者を無視した改革は行ってはならないと思う。公平に社会保障を受けられるシステムを創るべきであると思う。 また、今後高齢化に伴う費用増大で負担が増えると思われるが、いかに、合理的にかつ効率よく負担するか一人一人の意識改革も必要になってくるのではないだろうか。 以上が今度のゼミでの5章の内容です。読んでおいて下さい。