日本再浮上の構想 7章「通貨・通商システム」

担当 清水 三冨 鎌田

 

第2次世界大戦以降の半世紀はアメリカ主導のやや特殊な時代であり、戦後の国際通貨・通商システムは、無傷で残されたアメリカ経済の圧倒的力を背景にして設計された。

そして、21世紀は「多極化」「多層化」の時代といわれている。そういう新しい時代のなかで世界のシステムをいかに再構築し、どのように運営していくか。日本の果たす役割は、過去半世紀よりもはるかに大きくなるであろう。なぜなら日本の経済的比重の大きさからいえば、もはや過去半世紀のようにシステムの単なる利用者では済まされず、むしろシステムの再構築と望ましい機能の維持のために、積極的な役割を果たす大きな責任が生まれているからである。

 

  1. 第2次世界大戦後の国際通貨・通商システム
  2. ブレトン・ウッズ体制

    19447月、第2次世界大戦の連合国側44カ国の代表が世界大戦後の世界経済の枠組み再構築について協議した結果、つくられた体制である。

    そこでは通貨については、国際通貨基金(IMF)と世界銀行(当時はIBRD,国際復興開発銀行)の設立が合意され、通商に関してはITO(国際貿易機関)をつくり、多国間の無差別な通商を実現することが理念として掲げられた。

    IMF体制から変動相場制へ

    IMFは国際決済通貨としてのドルの価値を安定させ、その過不足ない供給を目指すもので、ドルを金1オンス=35ドルとして金にパリティーし、その次にIMF加盟各国通貨をドルに対して固定するという、ドルを基軸としたいわゆる金為替本位制度を採択した。

    しかし、この制度は安定的に機能するものと期待されたが、現実にはそうならなかった。

    1950年代を通じて、各国はドル不足の問題に直面した。ドルが不足するとドル高になり、各国通貨はドルとのパリティーが維持できず、軒並み平価切り下げを余儀なくされた。当時のアメリカは、強力な産業競争力を誇っていて、圧倒的な貿易黒字であったために、世界にドルが流れない。その結果、他の通貨が改定を余儀なくされたのである。

    トリフィン教授は、基軸通貨国の国際収支が赤字にならないと、世界の流動性が不足し、世界経済の発展に制約となるような現状の国際通貨システムには欠陥がある、と批判した。

    そして、朝鮮戦争後アメリカが総合収支赤字に転じると、アメリカの金準備は減少し、反対にヨーロッパ諸国が発展する。そして、ヨーロッパをはじめとするアメリカ以外のIMF加盟国の外資準備が増大する。そうすると、その準備をアメリカの金に変えてくれという要望が出てくるが、アメリカは総合収支の赤字が続いているため、兌換はできない。

    つまり、IMF体制下のドルを基軸通貨とした金為替本位制は、根本的な矛盾をかかえるようになったのである。

    この延長線上にあるのがニクソン・ショックであり、これを受けて主要通貨は次々と平価切り上げを行い、各国は変動相場制へ移行を余儀なくされたのである。

    このように第2次世界大戦後の国際通貨システムは、アメリカの力が圧倒的だった最初の10数年間を除けば、結局、適切に機能し得なかったのである。

    GATTの成立としくみ

    ITOは1948年のハバナ憲章で採択された。しかし、トルーマン政権は共和党優勢のアメリカ議会の反発に抗しえず、批准法案の取り下げを余儀なくされた。この結果,1947年に暫定的に発効された「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)に依存した戦後の通商システムが片肺飛行で始まり、9511日のWTOの発足まで続いたのである。

    GATTの役割と限界

    GATTの基本理念は、多国間の一般的なルールによる自由貿易の推進であった。しかし、70年代に入りアメリカは「自由」貿易ではなく「公正」貿易を主張するようになった。つまり、競争条件の違う国々とは自由競争ができないと主張し、無限定の自由貿易を捨てるようになったのである。

    70年代の東京ラウンドでは交渉内容に、ダンピング、補助金、政府調達、非関税措置、それを受け継いだウルグアイ・ラウンドでは、農業、サービス、貿易、知的所有権などさまざまな議題が加わった。これにより利害対立の構造が複雑になり、交渉は長期化し合意形成を難しくした。

    こうした経験を通じて、多くの関係者はGATTシステムの限界を感じるようになり、GATTよりも総合的で、よりしっかりした紛争処理機能を備えた世界貿易機関(WTO)の設立を強く望むようになったのである。

  3. 21世紀への展望
  4. 国際通貨制度改革へのさまざまな提案

    @ 固定相場制への復帰

    具体的には、世界統一通貨制あるいは3極通貨制などの構想もあるが、これらの固定相場制を維持するには、原理的に各国が同様の経済政策目標を共有する必要がある。

    A 目標相場圏

    これは、購買力平価や基礎的な均衡為替レートなどにもとづき一定の均衡レートを決定し、それを中心とする一定幅のゾーンのなかに為替レートを維持するよう各国が経済政策協調を行うというものである。

    B ブレトン・ウッズ委員会の提案

    国際通貨改革のための二段階アプローチをこの委員会は提唱している。その第1段階は主要先進国はそれぞれの財政金融政策の国際的協調を進め、全体としてのマクロ経済の収斂を深める。第2段階としては、これらの国々ははっきりとした信用のできるコミットメントをともなうよりフォーマルな協調システムを確立する。そうしたマクロ経済政策の協調と通貨改革の検討と実施において、IMFが改めて中心的な役割をはたすべきである。

    21世紀への戦略

    結果として、ドル、マルク、(またはEuro)と円の三極通貨による相場安定化への協調を最大限に進める以外はない。これは、ドルの単一基軸通貨体制のもっている構造的欠陥を、マルクや円で補っていく。マルクや円の国際化を進めて、為替リスクのヘッジをしやすくし、日米欧の協調体制を緊密にして、事実上のターゲット・ゾーンをできるだけ安定化させていくものである。

    円の役割

    政策協調を進めるうえで、マルクとならんで円の役割は大きくなるだろう。円の保有量がふえていけばいくほど、利便性の外部経済効果が高まる。しかし、円の基軸通貨としての要件として使いやすさの点に問題がある。日本の金融市場には多くの規制が存在し、取り引きコストもきわめて高い。このため外からの資産運用がしにくいという問題がおきている。これらの難点を改善するために金融市場全体の規制緩和を進め、運用しやすく魅力ある市場をつくることが急務である。

     

  5. WTOとグローバル自由市場体制

WTO体制と日本

日本にとって21世紀の世界経済に自由競争市場体制を確保していくことはその繁栄のために不可欠であるが、そこには次の3つの課題がある。

がどう協力していくか

WTOは、GATT時代に扱ってきたモノの貿易に加え、新しいサービス貿易の一般協定(GATS)や知的所有権の貿易的側面(TRIP)が加わり、これら大きな3分野を包括する広い管轄体制をもっている。このような機関を、これからの世界における自由な貿易と投資を支える確かな制度的インフラとして確立していくためには、WTOが有益な実績を積み、問題解決としての実力を持つ機関として育つよう関係諸国は積極的な活用と協力をする必要がある。そして、日本はこれら関連する分野で率先して市場の開放、ルールの共通化や透明化を行って、世界の自由市場をリードしていくべきである。

地域主義とグローバリズム

今日の世界ではほとんどの国がいずれかの地域統合に属しており、(APECを地域統合に数えないとすれば)入っていないのは日本、韓国、中国などの東アジア数カ国にすぎない。

多くの地域主義の中でまとまった世界シェアを占めるのがEU(23%),NAFTA(8%),APEC(29%)である。

EUは最も深化した地域統合であり、域内の国内諸制度の共通化にまで踏み込んで統合化を進めた結果、明らかに域内市場の拡大による内外の貿易創出効果が認められる。

NAFTAは関税同盟ではなく対外共通関税は定めていないため、貿易転換効果を生むおそれがある。そして、直接投資にも歪みが生じるおそれがある点などが懸念される。

APECは自主自由化を推進するうえで、@仲間の圧力を活用するA技術協力や技術移転を進めるB貿易投資環境を整備するC民間ビジネス協力の促進、などを柱にする方式を採用している。

まとめ

日本は、世界貿易への依存度が高く、世界最大の自由貿易を確保することが国益から見て最優先である。APEC型の開かれた地域協力を促進するなかで、経済発展を支援しつつ自由化を進めることがもっとも望ましい選択である。協力と支援の実績によってとりわけアジア地域での信頼を高めることが、日本の地域主義へのかかわりから期待される最大のメリットであろう。