1997年 4月 24日
日本経済の歴史的転換 第二章 日本経済の潜在成長力
担当 安西正幸 宇田良隆
〈要点〉
この二章の主旨は、たとえ財政金融政策や不良債権処理策が本格的に発動されたとしても、日本の低迷は続くという事である。その理由は、日本の潜在成長力が低下しているからである。ではなぜそのような結論を達したのだろうか。
経済理論より潜在成長力とは、生産能力を最大に発揮した時に達成可能な成長力のことである。つまり、国内総生産(GDP)は、国内での総供給力を表し、これが潜在的な成長力となる。この成長力に見合うだけの総需要が実現すれば、潜在成長力は現実の経済成長となる。
潜在成長力を決定するのは、@労働インプット(生産要素投入)の増加率、A資本ストックの増加率、およびBイノベーション(技術革新)による生産性の上昇率である。経済成長の源泉であるこれらを日本が抱えている問題とあてはめてみる。
@労働インプットについて
・労働人口そのものが1996年頃からかなりの速度で減り始めている。
・労働人口の中での高齢化が進むことによる実質的な労働投入の減少。
・自然失業率の上昇によって労働に従事する人数(就業者数)の減少。
・日本的雇用慣行が臨時的色彩の強い形態に移っているため、年間労働時間が減少する可能性が高い。
これらの要因が複合されると、労働投入の減少が日本の潜在成長力をかなり低下させるだろう。
A 資本ストックについて
資本ストックの増加率は主として企業の設備投資の動向に左右される。つまり、好景気には設備投資が盛り上がり資本ストックの増加率は上昇するが、逆に不景気には在庫が増えて設備投資が低迷し資本ストックの増加率は鈍化する。
そのため、投資の減少が単に景気循環だけに問題なのであればやがて投資が回復し、それによって景気も良くなることになる。しかし、もし構造的な問題がより重要だとしたら、設備投資は思うような速度では回復しないだろう。実際、設備投資の回復はきわめて鈍いものにとどまっている。また、設備投資が回復してくるとしても、資本ストックを急激に増大させるような力強い回復は期待できないのではないか。
それは、日本経済における資本効率が長期的に着実に低下してきているため、1%の経済成長を達成するのに必要とされる資本ストックの増加率はこれまで以上に高くなると思われる。また、高齢化社会の到来が高かった日本の貯蓄率を引き下げ、それが資本蓄積の速度を鈍化させると考えられるからです。
Bイノベーション(技術革新)について
イノベーションには二つのタイプがある。一つは、他国から技術を導入しそれを学習・吸収することによって自国の生産性を向上させるという漸進的イノベーションである。これは既存の外国技術を吸収するためリスクが少ないし、コスト的にも安いため、比較優位により途上国で多い。 もう一つは、基本的なコンセプトそのものを開発する革新的イノベーションである。これは、先進国とくに米国に多く見られ、自ら革新的技術の開発に着手せざるをえない運命にある。なぜなら、先進国は通常コスト状態が悪化しており、単に外国から技術を導入するだけでは国際競争力を維持することが難しいからである。
では、高所得国・高コスト国である日本の場合はどうであろうか。やはり、日本もこれまでの改善・改良型のイノベーションでなく、世界の誰もが手がけていないような革新的イノベーションを、さらなる成長のためにもこれからは行わなくてはならないだろう。
しかし、日本のような官が民を指導するような官主導型の体制のままでは、企業に自立性が保証されず革新的イノベーションは期待する事はできないだろう。
このように、現在の日本経済が抱えている問題の本質は、日本の潜在成長力の低下という問題である。そして、日本経済は構造的な問題に手をつけることなく、単にマクロ経済政策を行い需要不足が解消されたとしても、供給側に手をつけなければ、日本の潜在成長力が盛り上がり、日本経済が以前のような状況に回復する事にはならないだろうという結論に達している。
〈議論点〉
本書において、日本経済の本質的な問題は潜在成長力の低下にあり、経済成長の源泉はインプットの拡大とイノベーション以外にはないという結論に達している。しかし、そこには構造的問題や技術のキャッチアップ方式における限界などが生じている。そこで私達は、「日本は果たしてこれから更なる経済成長をする事ができるのか。」について、私達なりにゼミ内で考えてみたいと思う。