日本経済の歴史的転換

第6章 企業家精神の発揚

1997.6.5  永尾 龍太郎  奥澤 啓之

 

このところ、「ベンチャービジネス」育成が大きな政策課題になってきている。それは、先進国経済の仲間入りをした日本経済が将来的に成長を続けて聞くには、画期的なイノベーションや新規ビジネスが次々に生まれるような体質を持つようになることが不可欠であるという認識が一般的になってきたからである。インプットの拡大が見込めない日本経済にとって、イノベーションによる生産性上昇以外に潜在成長力を高めうる可能性はないのである。そのためにも、ベンチャービジネスの活性化は日本経済にとって必要なものだといえる。では、ベンチャービジネスが日本経済を引っ張っていくような状況はどうしたらくるのだろうか。

 

 

<ベンチャービジネスを成功させる3要素>

@ 豊富な資金を援助してくれる人、団体の存在

A 先進技術に精通したベンチャーキャピタルの存在

B やりたいことの夢を追いかける人

 

<日本の問題点>

@資金調達の問題

・創業時の資金調達の高額化は今後ますます進展していくと思われるので、自己資本には限界がある。

・民間金融機関が、成功するかどうかわからないベンチャー企業に融資しようとしないため、資金の調達が困難で、有能な野心のある若者が新しいことに挑戦しようとするチャンスが潰されてしまう。

・金額の制約、お役所的な手続き、業種の制約や形式条件など、公的資金には、公的資金の制約がある。

 

Aベンチャーキャピタルの問題

・日本には、事業に将来性を判断するための専門知識を有したベンチャーキャピタルがほとんどいないため、高度に専門化した先端科学技術分野になればなるほど、新しいビジネスの将来性を正当に評価できない。

・専門的な技術評価能力が無いため、本来、リスクマネーを供給することが仕事であるにもかかわらず、日本のベンチャーキャピタルはどうしても保守的な銀行の融資体制を踏襲してしまう。

 

B日本の規制の問題

・独禁法により、持ち株会社が禁止されているため、ベンチャー企業の株式の取得、所有を行っているベンチャーキャピタルが問題になってくる。

・株式公開基準が高すぎるため株式上場に時間がかかりすぎるので、投資家が早い時期に資金を回収できないために投資機会が減る。

 

C社会環境の問題

・日本では、労働の流動化が少なく(労働市場が不完全であるため)、転職のリスクが大きいため、会社を飛び出して新しい会社を創業しようとする人が少ない。

・資金調達の際に個人補償を行い、事実上無限責任を負うために、一度失敗したら再起が難しい。

・平和主義って樹発送が強い日本の社会では、個性の強い、独創的な人材は基本的に反権威、反組織、反伝統的志向の持ち主だと受け入れられないため、想像力が育たない市、「新しいことに挑戦しよう」という意欲も湧いてこないのである。

 

 

今後どのようにしてこれらの問題点を解決していったらよいのだろうか。

まず、ベンチャー企業が資金を調達しやすい環境を作ることが挙げられる。

・持ち株会社禁止の緩和

・早期に株式を公開できるようにすること

また、ストックオプション制の導入や、そのための税制改革も有効であろう。

 

これらの制度的な問題は規制緩和などにより少しずつではあるが解決されるようである。これから問題なのは、日本に足りないベンチャー精神をどうやって創り出すかではないだろうか。日本がゲームソフト以外の分野で革新的なイノベーションを生み出すにはどうしたらいいか、考えて見たい。

 

 

*持ち株会社…他の会社の株式を投資のためではなく、事業活動を支配するために所有す      る会社で自らは事業を営まない。 

*ストックオプション制度…会社が株式市場から自社株を購入し、給与の一部として経営者や、幹部社員にその株式を購入、売却する権利を報酬として与える制度。