日本経済の歴史的転換
第7章
思想的基盤としての「平等主義」担当
小野公樹・三冨成樹<戦後植えつけられた平等主義>
戦後の日本において、平等主義は国力の回復に大きく寄与したと思われる。全てが壊滅した状態から一刻も早く立ち直らせるには、
国内の経済を一定の水準まで高める必要があった。戦後の平等主義により、我が国の所得分配は著しく平等的なものになり、企業における所得格差も極めて小さなものにとどまった。また、平等な所得分配は平均家庭の購買力を高めることを通じて、経済発展に大きく貢献した。
日本の企業は平等主義により、独特の愛社精神やライバル企業に対する激しい競争心を生むことになり、そのチームワークのよさが国際競争力を強める要因となった。
しかし、日本経済が先進国の段階に到達した現在、「機会の平等」よりも「結果の平等」が重視されているために、日本人の能力発揮にマイナスの影響を与え始めている。
<教育制度>
日本の教育制度の根本は「知識吸収型」である。欧米との知識ギャップを埋めるために、知識の詰め込みを強要するものであった。キャッチアップの時代であれば、このような教育制度は得策であるといえよう。
しかし、キャッチアップの時代が終わり、自らオリジナルな技術や知識を創造する必要がある今となっては、知識吸収型の教育制度では、独創的なものの考え方を育成することは難しい。
もちろん、ある程度の知識の吸収は必要であるが、今の教育制度のままでは、機械的に知識を吸収する受動的な人間を生み出しやすい。
<企業の体質>
平等主義的な思想は教育制度だけにあるのではなく、その教育制度によって育成された人材が後に働くことになる企業にも根強く残っている。終身雇用、年功序列といったものはその典型といえよう。
学生が就職する際に企業側が求めるものは、その人の個性や能力などといったものよりも、どれだけ従順で忠誠心があるかという点を重視している。なぜなら、そのような人材を確保した方が、企業は組織として動かしやすいからである。
企業内に、平等主義的思想が隅々に浸透しているため、なかなか若い人が大きなことをやれる雰囲気を作ることは難しい。
やってもやらなくてもあまり自分の生活水準に影響がない平等主義のもとでは、よほどモチベーションの高い人ならともかく、大部分の人はほどほどの努力をするところで終わってしまいがちである。
平等主義的思想が残った企業は、新たなコンセプトや革新的イノベーションを生み出すには決してよい環境とはいえない。
<議論点>
平等主義的な思想基盤があったからこそ、戦後日本は奇跡的な発展を遂げた。しかしキャッチアップの時代が終わり新しい発展段階に到達した日本が、従来型のものの考え方で教育を考え、企業も従来どおりの人事政策を推進することは好ましくない。
日本が先進国としての立場を維持し、今以上に発展を望むなら、日本社会に蔓延している平等主義を本格的に見直す必要がある。
特に、教育、企業内でどのような意識改革が必要であるか、考えていきたい。