1997.7.10(Thu)第9回ゼミナール

日本経済の歴史的転換 第八章「情報革命」に乗り遅れた日本

担当 宮澤 淳、鎌田 大介

日本経済が歴史的局面に到達した現在では、旧体制やヒエラルキーの維持はもはや意味を無さず、既成概念に捕われない斬新な発想こそが今後の経済発展を助長するにあたって重要であるという世論が高まっている。

歴史的に見ても、経済構造問題の対処時には「先取の気性」よりも「保守性」が先んずるケースが多い。例えば、昭和恐慌の原因が当時欧米で勃発した「第二次産業革命」に乗り遅れたことによる国際競争力の欠如にあり、日本人の「保守性」がその引き金となったと高橋亀吉は述べている。

現在日本が世界の潮流である「第三次産業革命」たる「情報通信革命」に乗り遅れている原因が、日本人が掲げる「保守性」にあると本書は指摘している。今日の日本人の気概がかつての昭和恐慌時と似ているとすれば、事態は深刻だと言わざるをえない。

本章では、日米両国の情報技術活用状況と情報化投資の現状比較を基に、今後の日本企業形態について議論していきたい。

「Eメールの衝撃」

Eメールとボイスメールは我が社の生命線である…シリコングラフィックス副社長

Eメールは正しく使うと二つの驚くべき変化が起こる…インテル社長

1.何日もかかっていた仕事を数分で出来るようになる。

2.誰か一人の仕事上の仲間にあう努力で何百人の仲間にアクセス出来るようになる。

情報革命はEメールにとどまるものではない。LAN(Local Area Network)、データベース・ウェアハウス、CALS(Commerce At Light Speed)などで、デジタル化された情報がかつてないほど大量に、スピーディに、そして安価に企業内の部門の壁、上司・部下の壁を飛び越え、企業と社会の絆、供給側と消費側の境界、そして国境さえ飛び越えていききしている。→「時間の圧縮、距離の縮減、空間の縮小」

インテル社グローブ社長……経営者は混乱に対して寛容でなければならない。いまや経営者は予測できないことを予測するという不可能なこと仕事を成し遂げる必要がある。

「情報化の流れは止められない」

いまやアメリカ企業は情報通信革命の成果をどうやって企業に取り込めばよいのか、その方向を明確に自覚し始めた。

キャタピラ管理職……情報通信技術を利用した改革は好むと好まざるとにかかわらず、現代企業には避けて通れない。情報革命はもはや抽象的な議論の段階から、以下にこれを上手く利用するかという実行段階にうつった。

アメリカ企業における情報化投資は日本の約2倍である。

(積極的な情報投資以前)

仕事のやり方が徹底した縦割りであるため、横の連絡、調整(水平的なコーディネーション)が非常に悪い。

(簡潔に言うと?)

各部門間のやりとり、また、企業と顧客のコミュニケーションが上手く行かない。

(何故?)

「塀越しにボールを投げ入れる」(throw a ball over the face)と評される“現場”の性質。

部門間の責任分担は明確だが、自分の部門以外の仕事を終え、次の部門に仕事を渡した後は、まったく関与しない(関与できない)。つまり、「後は野となれ山となれ」(none of my business)である。個人間だけでなく、部門間においても水平的コーディネーションが欠落している。また、個々の職場が他の職場の情報や会社全体の情報を持っていないこともアメリカ企業の“現場”の性質だ。

たとえば、アメリカ企業のオフィスで働く従業員の特徴で、隣の人がどんな仕事をしているのか全く知らないといったことがある。自分の責任以外の仕事には全く無関心で、会社の業績には興味はなく、会社との契約で決められた仕事を確実にこなすだけという特徴のことだ。当然従業員の置き換えは簡単にはいかず、リリーフ要員を雇う必要性があり、コストは上昇する。

企業間関係に置いても、日本のような系列に代表される長期継続取引ではなく、あくまで独立した企業がマーケットの中でお互いの利益を見込んで取引関係を成立しているのだ。

(情報投資の近況)

急速に進展しつつあるデータベースウェアハウスは「意思決定の分権化の進展」を促し、全社の情報を入手出来るという点では以前よりも現場改良がされつつあるといえる。

◎日本企業

日本企業の情報処理のコミュニケーションは横断的コミュニケーションにすぐれている。特に製造現場での情報共有度の高さは、現場の裁量による意思決定を可能にし、末端従業員のモラルを高めている。

デザインインやジャストインタイムシステムなどの高度企業間コーディネーションが実現している。

「現場主義」と呼ばれる日本企業の意思決定はかなりの程度分権的である。情報を職場間で横断的に共有しながら、環境の変化に対応していく。

問題点

「意思決定」の部分が多すぎて、企業全体の方針がまとまらない。企業の規模が大きくなれば成る程、事業戦略の曖昧さが浮き彫り。

◎では、成熟した日本経済の取る道は?

日本経済が先進経済の仲間入りを果たし、人々の欲求が多様化するにつれて企業は付加価値の源泉を広く世界に求めざるをえなくなる。

成熟経済では、ここの企業が独自の事業ドメインに自らの経営資源を集中的に投入することが競争力維持のために不可欠。横並びの事業体質では、どの分野でも競争力が伸びず、企業の存続が問われることになる。

CALSやコンカレントエンジニアリングの流れは、国境を越えた企業間の機能的な結びつきを作り出す。系列企業間の関係とは段違いの付加価値を生み出せるのではないか?グローバルな広がりを持つオープンネットワークの進行も進むであろう。

 

 

各種データ

意思決定

日経12/9 私の意見―新村鋭男

グループウェアの世界では、企業秘密に関わる情報以外は、水平にしかも同時に流れるのが原則。当然組織もフラット化する。仕事の進め方は変化し、社内のコミュニケーションが活発で濃密なものとなり、会議や稟議の形式に拘る必要性が薄くなする。結果として“意思決定”の時間を飛躍的に短縮させる効果をもたらす。

管理職の役割も変わる。他社がやっているからという横並び意識や、「全て自分に報告を先にせよ」という上司がはびこる企業では、高価な投資となる。

経営者は将来へのビジョンとそれなりの覚悟を持って臨んでもらいたい。

 

社内LAN

日経10/25 最大級ネット構築 日航、本社とセンター結ぶ。

日本航空は大容量の通信に対応する社内ネットワークを構築、運用開始した。

既存のLANとATM網を相互に接続する形態にしたため、既存のLANにつながるパソコンでも、ATM網に簡単に移行が可能。

 

Eメール

日経11/7 ビルゲイツからの電子メール

情報を得るためだけにコンピューターの前で無駄な時間を私語している人が多いといういう質問似たいして、・・・・・・「確かに時間を浪費している人もいるが、問題は使い方である。コンピューターは道具であり、使いこなせばいいのだ。」

 

データベース

日経5/23 研究・技術者データベース

神奈川県は98年度にも、県内の企業や大学の研究者・技術者の情報をデータベース化する。

専門分野や経歴とともに登録。研究施設などで研究開発に従事する現役の技術者や定年退職者の情報を集める。

人材を必要とする側に情報を提供できるしくみを整備、経験を活かした社会貢献の場を増やす。

神奈川県内では、企業などのけんきゅ拠点が相次ぎ立地、研究開発機能の集積では全国でもとぷクラス。

日経5/27 ネットで技術情報 データベースの利用促進

神奈川県産業技術総合研究所は、県内企業の技術情報データベース「DATIK」の情報をインターネットで提供するサービスを開始。

DATIKでは県内約5000社の技術情報を提供する。販路開拓や技術提携のパートナー探しに利用してもらう。さらに、季語湯野利用向けに開放した産業総合研究所の研究・実験施設や研究成果、一万冊を超える図書や2700種の雑誌情報も公開。

 

通信白書1996

日米データベース比較1994年

指標

日本

アメリカ

日本

アメリカ

@

データベース売上高

1

6.6

2000億円

1兆3220億円

A

パスワード数

1

8.7

337000

2932000

B

プロデューサー数

1

10.9

130

1412

C

参入企業数

1

11.2

200

2423

D

データベース数

1

2.6

3100

8000

E

国産データベース数

1

5.2

1050

5500

F

ビジネス・データベース数

1

2.2

1200

2600

G

ファクト・データベース数

1

2

2600

5100