Ishii.Y つい先日の事だが、東京都教育庁が、「進学重視」の新設高校を2000年度に誕生させることになった。理由としては、大学進学率の落ち込んでいる都立高校の復活を目指すためらしい。 これを読んでいる人の大部分の人には、実際には、ほとんど関係のない話かもしれないが、大学の4年間にわたり、予備校や塾の講師のアルバイトを続けてきた私には、すこし考えさせられることもあったので、この場を借りて自由に自分の意見を述べて行く事にする。最初に断っておくが、私は教育学の専門家ではないし、大学でも教育学など勉強した覚えはない。そのため、独断と偏見に満ちているかもしれないが、自分の感じることを述べて行くつもりだ。意見があったら、いつでも言ってきて欲しい。 東京都教育庁によると、97年に都立高校を卒業した生徒の、短大、専修学校を含んだ大学進学率は27.3%。私立高校は57.1%。全国平均は40.6%となっている。ちなみに10年前は都立高校23.3%。私立高校41.8%。全国平均30.7%である。たしかに、私立高校の大学進学率の伸びに対して、都立高校の伸びは低い。このため同庁では、「進学実績を高めることが都民のニーズに沿う」?と判断したらしく、「進学重視」を打ち出したらしい。 このために新設される高校では、予備校のテキストを積極的に取り入れたり、問題集中心の授業を設けたりするほか、夏休みや冬休みには受験勉強用の泊まり込み合宿を行うらしい。非常に楽しそうである?。「都立高校」ではなく、「都立予備校」などといった名前にしたほうがよさそうな気もしてくる。 さて、この都立「進学」高校だが、どれほど効果があるのだろうか。これは、公立高校と私立高校の差と言うことになってくるが、文部省の決めた「硬い」カリキュラムの中で工夫するしかない公立高校が、私立高校に勝てるのだろうか?実際に進学したい生徒を集めることが出来るのだろうか。 公立高校の魅力と言えば、何と言っても学費の安さであろう。現在、この不況下であるが、それほど公立高校がはやっているとも思えない。本気で勉強をしたいと考えるなら、高い金を出しても、私立高校の充実した環境を求めるのが現在の傾向だろう。最初のうちは、新しいということで人が集まるかもしれないが、実績もない、設備もままならない公立高校がはやってくるとは思えない。逆に好景気になったら、みんな私立に行ってしまう気さえしてくる。 現在、大学の入試形態は多様化しつつある。学部、学科が増えて行くのはもちろん、学校自体も増えつつある。逆に、高校生の数は次第に減っていっている。私の地元の近くの高校では統合の話が持ち上がっているくらいである。この事は、生徒側に大学や高校の選択権が広がっていく事を意味している。であるから、今になって受験第一、進学重視というのは、一歩も二歩も遅いと言うことも出来る。生徒を確保したい、と考えるならば、受験や進学だけにこだわらず、もっと多様化を目指すべきなのである。 この観点からすれば、多様化の一つだという考えから、受験第一とする公立高校があってもいいとも言えそうである。しかし、ここには一つ問題があること注意しなければならない。文部省は、偏差値教育や点数主義、受験戦争といった社会のからの脱却を図るはずなのに、一部では、脱却どころかむしろそれを加熱、推進させてしまっているということである。 新聞などを読んでいると東京都教育庁は、とても変なことをやっているように写るが、それ以上に変なのは、文部省なのだ。公立高校には硬いカリキュラムを押し付けておいて、大学入試制度には手をつけない。そのためにいろいろなところにひずみが出てくる。東京都教育庁のしたことも苦肉の策なのかもしれない。時代や周りの環境の変化は自分達とは関係のないところで起きているものと思っているのかもしれない。教科書を細かくチェックしたり、学費の値上げをする前にもっとする事はないのかと言いたくなってくる。 文部省が時代や環境の変化についていっていないために、周りにひずみが出る。それでも文部省は自分のせいだとは気づかない。公立高校に人が来ないような危機的な状況になって初めて対策を練っても手後れなのだ。 このことは、日本の縮図を表しているように思える。政府が時代に合った政策、制度改革を行ってこないから、危機的な状況に陥る。その時に始めて対策を練ってみても、すぐには効果は出てこない。 完全失業率は調査が始まって以来、初めてアメリカと並び4.4%を記録した。有効求人倍率も0.47%である。仕事が欲しい2人に1人は仕事が見つからないのである。今対策を練ったとしても、果たして、いつ効果は出てくるのか、とても気になるところである。 |