日本経済の歴史的転換を読み終えるにあたって

E07−0851B 石井

この日本経済の歴史的転換を読み終えるにあたり、私がもっとも関心を抱いたのは、日本経済の潜在成長力は、減少していくということである。日本において高齢化、少子化が進行していく結果、労働インプットが減少していき、それが経済成長にとってマイナス要因となるのである。著者はこの対応策、打開策として、革新的なイノベーションが不可欠としている。以下においては、これを達成するにはどんな事が必要であるか、その他にどんな対応策が必要であるかを、本文での内容をふまえ、個人的な見解とあわせながら、考察していくことにする。

ここでまず大事な視点として上げておきたいのは、著者が終章で述べているように「制度的補完性」の問題が存在するということである。日本型制度のいくつかは、互いに補うことによって有効に機能を発揮する「補完性」があるため、改革を行っていく場合、全体としての改革を行わなくてはならないのである。このことは、私たちが考えてきた問題は互いに関係しており、なにをやるべきで、なにをやらないべきか、ということは考えにくいことを表している。であるから、労働インプットの減少という現象に対する解決策は、多方面から考察していく必要があると思われる。

まず、考えられるのがイノベーションの推進である。これは、著者も述べているが、労働インプットの減少による、経済の潜在成長力の低下を、生産性上昇をもたらす技術革新(イノベーション)で補うのである。実際、人口の高齢化、少子化は、労働インプットの減少のみにとどまらず、家系貯蓄率の低下を通じて、資本インプットの拡大にも歯止めをかけることが、予想されているのである。つまり、経済成長には、それを上回るだけのイノベーションが必要なのである。このためには、やはり、革新的技術を生みやすいベンチャービジネスの育成が必要である。このためには、金融システムの見直しが必要であるし、ある程度の規制緩和も必要であろう。

次に、情報化の進展である。第八章で著者が述べているが、アメリカでは情報技術の積極的な利用が、コミュニケーションコストを引き下げ、競争力に強化に大いに貢献しているのである。日本においては、コスト条件の逆転以降、閉鎖的な系列システムの崩壊、変質に直面している。この中で、日本の企業は、国境を越えたグローバルな広がりのある企業間関係を構築してく必要がある。そのために、情報技術の開発、利用に、積極的に取り組む必要があるのである。日本においてもコミュニケーションコストを引き下げることは、生産性を向上させ、企業における競争力を強化することにつながる。情報化の進展は、ある程度、労働インプットの減少を補うことが、可能なのではないだろうか。

三つ目に、「透明性」の必要性である。高齢化、少子化進展していった場合、社会保障の問題、財政収支の問題が出てくると思われる。これらの問題は、必然的に税制の問題となってくる。我々国民が払うわけであるから、政府側が、情報公開を今以上に積極的に行わなくては、新しい制度がうまく機能していくとは、思えない。結局、国民が納得できない制度は、正確に守られていくとも思われず、制度の改革がうまく行かなかった場合、日本経済の発展も、考えにくくなってくるのではないだろうか。つまり、透明性の持たない改革は、成功するとは思えない。しかも、「制度的補完性」の問題があるため、全体としての「透明性」が必要になってくるのではないだろうか。

今あげたように、高齢化、少子化という問題を中心に考えてみた場合でも、多方面にわたる改革の必要性がある。その改革を成功させるには、日本人の「平等主義」を見直す必要があるだろうし、そのためには、教育システムも考え直す必要があるだろう。数多くの問題が関係しており、どれも関係しているのである。私が、この日本経済の歴史的転換を読み終えるにあたって、感じることはこの事である。

今現在、改革が始まっている分野もある。情報化などは非常に速いいスピードで進みつつあるといえるのではないだろうか。しかし、まだ、ほとんど手をつけられていない分野もある。これからは、それぞれの分野でなにをやらなくてはいけないかが、分かっている以上、どのように積極的に進めていくかを考えるべきではないだろうか。