「日本経済の歴史的転換」レポート
企業家と支援者のマインドと社会環境のあり方
E07−0858F
三冨 成樹
「日本経済の歴史的転換」を読み、今の日本経済において、改善しなければならないことは多方面に渡ることがわかった。
今後も日本経済が安定的成長を望むにあたって、今最も必要なものはベンチャーの育成であると思う。もちろん、日本経済の歴史上、ベンチャーが皆無であったわけではない。戦後復興期において言うまでもないが、松下、ソニー、ホンダなどは、最初はベンチャーから始まった。近年でも、京セラ、セコム、ソフトバンクなどの成功例はある。しかしそれでもアメリカに比べると、新規の設立企業数はおよそ6分の1である。
日本でベンチャーが育ちにくい理由としては、起業する側と、それを支援する側のマインドがまだ世界レベルに追いついていないことがあげられる。
今までの日本社会では、優秀な人材は一流大企業に就職し、その企業に骨をうずめることが一般的であった。そこには年功序列・終身雇用といった、戦後植えつけられた平等主義を反映していた。しかしこれからの日本社会において、このような制度は徐々に消滅していくであろう。よって、自らの実力だけがものをいうようになり、実力に応じてサラリーが決められるようになれば、おのずと、高い実力を持ったものは、一つの企業という狭い殻を破り、企業を起こす人が増えるのではないだろうか。なぜなら、いくら実力次第で高いサラリーを手に入れられるとしても、そこには限界がある。それならば、自らで起業すれば、高いリスクを伴うが、その分見返りも大きいからである。
ところで、起業する際の日本とアメリカの意識の差は何なのであろうか。その一つは、アメリカ社会が失敗してもやり直しのきく環境を持っていることである。スティーブ・ジョブズは、アップル社を創業する前に一度失敗を経験している。このような例は枚挙にいとまがない。
それに対して、日本ではどうであろうか。日本は、いくら若い人であっても、一度失敗するとその打撃が大きく後々まで残ってしまう環境にある。だから、社会で経験を積んだ40歳台、50歳台の人が起業することが比較的多いのである。20歳台、30歳台の人が起業することは、失敗することが許されない日本の環境においては、躊躇してしまいがちである。もし若者が、すばらしい革新的なアイディアを持っていたとしても、行動に移さずにあきらめてしまうことは、非常にもったいない。
私たちは失敗した人に対して、その勇気をたたえ、暖かい視線でその後の成功を見守ってあげる社会環境を作っていくことが必要である。起業する人の勇気を期待する前に、その周りの社会が意識改革をし、土台を固めることが先ではないだろうか。
次に、その土台の上で、これから起業する人はどのような事業ですすめていくべきであろうか。その際、どのような分野がもうかるかを考えることも必要であるが、それ以上に、いかに自分のやりたい事業をやってそれに満足する実感を持つことの方が重要であると思う。そうすれば、たとえ失敗したとしても「自分はやりたいことを、やるだけのことはやった。」と自分を褒めてあげ、次の目標に向かって再出発するための十分な肥やしになるはずである。
また、アメリカで起業しやすいもうひとつの要因に、人と人とのネットワークの広さがある。アメリカの企業家は、個人のネットワークを非常に大切にする。そのことが、ベンチャーの結成、ビジネス発展のカギと思っている。ネットスケープ設立の発端は、マーク・アンドリーセンという一人の若者と、当時シリコン・グラフィックスを退職しようとしていたジム・クラークとの劇的な出会いで始まった。
アメリカの企業家たちにとって、頭脳の集積ともいえる大学が重要な場となっている。アメリカ国内だけでなく世界中から多くの人が集まり、優秀なネットワークが形成され、ベンチャーが生まれることが多い。一方、日本の高等教育機関である大学で、アメリカの大学で行われているようなネットワークを形成することは難しい現状にある。
今後、教育改革をすすめるにあたっては、小・中・高等学校はもちろんであるが、大学と企業との間の垣根をなくし、学生が行っている研究を企業がうまく活用できるような環境を作るべきである。そこで人と人とのネットワークが生まれ、ビジネス・チャンスも広がるであろう。
日本の環境がそれほど良くないにしても、最近ではベンチャー熱が加熱している。この大きく燃えかけている炎を消さないためには、起業する側の意識と支援する側の意識、それと社会環境を作っている私たちの意識を、同時進行で早急に変えていかねばならない。