F1のもたらす効果 鎌田大介

 

今年の鈴鹿もまた熱かった。大渋滞の鈴鹿インターをぬけサーキットに着いた時はもうへとへとだった。しかしその瞬間、全身が震え上がるF1マシンのエキゾーストが響き渡る。目の前でシューマッハが、ハッキネンがモンスターマシンを操りながらサーキットを爆走する。これこそが私が1年間待ち続けた瞬間である。

と熱く語っても、モーターレーシングに興味のない人、車にすら興味がない人にとっては訳の分からない事だろうし何のおもしろみもない話である。そもそもF1グランプリはヨーロッパで生まれたスポーツであり、アジアではまだ馴染みが薄い。それでも、日本でのF1開催は10年以上の歴史を数える。しかし、日本でのモータースポーツに対する関心は極めて低く、サッカーワールドカップで多くの国民がテレビに向かって歓喜したような光景をF1において見ることはまずない。それはF1がヨーロッパ主体であるため仕方ないことかもしれない。

私は今回、F1グランプリの存在意義について取り上げてみたいと思う。私の考えるF1は大まかに2つの側面を持っている。1つは普段見るようなエンターテイメントとしてのマシンのバトルやクラッシュであり、これにより多くの人を熱狂させる。もう1つは企業の宣伝活動としての側面であり、今回はこれについて少しふれてみたいと思う。

現在のF1マシンの構成は、各チームの作るマシンに世界の各自動車メーカーがエンジンを供給するという形をとっている。周知のように世界の自動車産業は厳しい国際競争の時代を迎え、ダイムラーベンツとクライスラーの合併に代表されるように生き残りをかけて厳しい競争に凌ぎを削っている。しかし、F1にエンジンを供給している自動車メーカーをみると、メルセデスベンツ、フォード、フェラーリ、ルノー、プジョーを中心に、2000年からは日本のホンダ、トヨタやBMWが参戦してくると言われている。不況の嵐の中、なぜ自動車メーカーは積極的にF1へ進出していくのであろうか。F1へ参戦する場合、エンジンの開発費等含めて年間最低100億円以上はかかるといわれる。それほどの莫大な資金を投資してでも自動車メーカーが重要視するF1とは何なんであろうかと思った。

その最大の目的は自動車メーカーのブランド強化策である。世界3大スポーツと呼ばれものには、4年に1度のサッカーワールドカップ、オリンピックがありもう1つが年間16戦開催されるF1世界選手権である。今年のF1日本グランプリは世界130カ国4億人が注目したと言われている。全世界の人々がこれほどまでに注目し、しかも年間16回も行われるF1グランプリは企業の宣伝活動を行う場としては他に類のない絶好の機会なのである。レースを制したマシンに自動車会社のロゴが入っているだけで、世界中何億もの人の注目の的となり、自動車メーカーのブランド強化につながるのである。世界の自動車メーカーではこのような効果をねらってF1を世界進出の近道と考えているようである。

また、F1マシンには多くの企業のロゴが貼られているが、これらの企業はチームをスポンサードするものである。その額は例を取り上げると、フェラーリではメインスポンサーのたばこ会社Marlboroから年間62億円、ガソリン会社のShellから42億円など莫大なスポンサー額を受け取っている。このような莫大な金額でも投資する価値が企業側にはあるのである。その他にも、昨年からF1に参戦した日本のタイヤメーカーブリヂストンもそのタイヤで今年のワールドチャンピオンを獲得したとあってブランド名を高め、これまで弱かったとされる欧州市場で前年比20%増の売上を記録している。そして、ブリヂストンもやはり年間100億円もの莫大な開発費を投入している。

F1はヨーロッパに根強い人気を持つスポーツであるため、経済的な効果として日本を含むアジア地域にはそれ程影響はなかったと思うが、来年には中国とマレーシアで開催される可能性がある。アジアの発展途上国の自動車普及率は、日本の110でありこれから多くの需要が見込める地域である。21世紀最大の市場として注目されているアジアでF1グランプリが開催されることは、自動車メーカーにとってはこれ以上ない宣伝の場であることは間違いない。ホンダの復帰やトヨタの参戦などこれから多くの自動車メーカーがF1に参戦してくると思われる。

 

F1はどちらかと言えは日本では、暴走族やスピード狂のように誤解されることもあるが、これは自動車メーカーがそれぞれの威信をかけて戦う巨大ビジネスであり、またエンターテイメント以外の何者でもないと思う。

最後にシューマッハがリタイヤして、1000万のステアリングを投げ捨てるシーンは不況も何も関係ないF1の豪快さを表していて好きである。実際の経済もそれくらいに景気よくあってほしいものである。