第12章 行・財政改革

官主導から市場主導システムへの転換

横田 真紀 須賀 雅美

 

1.深刻な制度疲労に陥った行・財政・金融システム

日本が欧米先進国に追いつき追い古層としていたキャッチアップシステム時代には、   今までの、行政、財政・金融システムはきわめて効果的に機能した。しかし、日本経済が キャッチアップの歴史的段階を完了し、グローバリゼーションの進展のもとで国際的な相互浸透が不可避になってくるとこれらのシステムの限界が明らかになり、矛盾が拡大しはじめた。これまでのシステムは、グローバル競争のなかで、日本経済の活力を弱め、空洞化に手を貸す結果になっている。

 

2.橋本政権の六大改革

1997年1月20日、橋本首相は六つの改革を発表した。(www.kantei.go.jp)

 

  ・行政改革

・財政改革

  ・社会保障改革

  ・経済改革

  ・金融改革

  ・教育改革

 これらの改革は、国民の間に強い関心を呼んでいるが、本当に実施されるのか、 されたとしてシステムのどこがどう変わるのかが判然としない。

 

3.質の改革・量の改革

今、日本に求められている改革は、官主導から市場システムへの転換である。

官主導システム・・・官が情報を独占し、不透明な行政裁量を多用し、市場を管理し、産業を規制かつ保護して育成する。官に依存しつつ官を批判するという甘えの体質を助長する。

市場システム・・・情報を公開し、明白なルールを定め、透明な行政を行う。ルールのもとで自由競争を促進し自己革新の努力をし、自己判断と自己責任の責任による選択をする。そのために自立した消費者、生産者が育成される。

  

 行政の形も必要だが、その中身を貫く理念が重要である。これらの理念を具体的な次 元でとらえるなら質の改革と量の改革に分けて考えられる。

質の改革

立法、行政、司法の健全な三権分立の確定。

まず、行政をスリムにして本来の役割に専念させ、政治については、立法府として 政策形成力を強化すること、法の強化が必要である。      

−量の改革−

量的にいうならば、中央省よりもむしろ地方行政に大きな問題がある。国と地方を合わ せた一般政府の大半の予算を消化する地方行政を効率化すること。

 

4.財政健全化戦略の基本

作成形成能力の強化を

予算案の編成は内閣が決定することになってはいるけれど、実質的には大蔵省が決めて いるのが、本来の役割を発揮させるために官僚システムに対抗できる実質的な政策形成能力をもたせる必要がある。改革を進めるうえで、官邸の機能強化すなわち官邸政策形成能力と、国会の各政党や議員の政策形成能力の強化が必要である。また、財政計画制度を改革することも必要である。国民が理解できる情報を開示して協力を得ることが必要である。

 

財政構造計画五原則

  1. 財政健全化の当面目標の達成を2003年とする。
  2. 今世紀中の3年間を集中改革期間とし、いっさいの声域なしに歳出の改革と削減を行
  3. う。

  4. 98年度予算において、政策的経費である一般歳出を97年度比マイナスとする。
  5. あらゆる長期計画について、大幅な縮減を行い、歳出をともなう新たな長期計画政策はしない。
  6. 国民負担率が50%を超えないようにする。

 

各論:裁量的経費の削減

公共投資、農業関連事業費、防衛費、ODA、科学技術振興費などの経費の制約をどう克服するか。

 

各論:義務的経費の削減

社会保障や教育などがあり、システムそのものを見直す必要がある。

 

5,地方財政の改革と真の地方分権

地方の中央依存を固定化する「自治行政」

T財政改革を進めていく上で、地方の行政改革の必要性

  1. 日本の財政における地方の比重の大きさを認識する必要性
  2. 94年時点で比較すると、GDPに対し、中央政府の総支出は4.1%であるのに、地方の総支出は15.1%である。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスに比べ、地方の総支出の割合が高い。また、地方歳出がここ15年ほど中央をはるかに上回って伸びつづけている。

    地方財政が膨張しつづけた原因は、地方にばかりあったわけではない。80年代は、“地方の時代”が流行であり、地方のインフラ投資が促進された。90年代前半は平成不況下で大型経済対策が実施されたが、その中心である公共投資は、地方が半分を負担させられた。

    このような事情で、地方歳出は急速に膨張したが、バブル崩壊後の税収不足のもとで、地方も国と同様に財政状況が悪化し、累積債務が急速に膨張している。

  3. 日本の地方財政の国への強い依存性

県や市町村の多くの業務が国によって委任された機関委任事務であり、財源的にも国への依存度が大きいという実態は、 地方独自の判断や創意工夫、財政責任意識を弱める傾向がある。

U地方自治体が、「特定補助金」対象事業を優先し、資金不足分は、地方債を発行し、元利償還優遇制度の下で、交付金などによって元利償還への支援を受けるというしくみによる弊害

  1. 特定補助金対象事業を優先する結果、国の誘導政策への従属は進むが、地方独自のニーズや可能性に創造的に対応する側面が弱まること。
  2. 国の補助金と地方債の元利償還優遇措置に依存して、地方自治体自身の財政規律、財政責任意識が弱まること。

 

足の民主主義と市町村合併

事態を改善するための提案

T“足の民主主義”を実現するための制度改革をすること。

地方自治体にとって行政改革がメリットになり、自治体が行革のインセンティブを持つような仕組みを作るということ。しかし、現状では、自治体は地方税(個人住民税、法人事業税、固定資産税、都市計画税など)の税率を独自に下げることは難しい。また、地方債の引き受けは6割が大蔵省資金運用部、簡保、公庫など公的資金で賄われ、民間資金も銀行などからの縁故資金が3割であり、わずかな市場公募債も利率などは国と民間金融機関の交渉で一律に決められている。市場は不在という実態である。

“足の民主主義”を実現するための制度

    1. 地方自治体に税率引き下げを含む十分な関税自主権を認めること。
    2. 地方債の発行を自由化すること。自治大臣の認可という現行の条件を撤廃し、同時に元利償還優遇制度も撤廃もしくは大幅に縮減する。
    3. 地方間の財政調整を撤廃もしくは大幅に縮減すること。
    4. 財政投融資制度ならびに公的金融制度を見直し、その規模を縮小するとともに、民営化を進め、市場の評価機能を生かすこと。

U市町村合併などを進め、地方自治体行政の効率を高めること。

規模が小さく行政効率の悪い市町村を合併などで整理統合し、より効率の高い地方行政構造に再編成する提案。こうした構造改革が規模の経済性を生かし、また小規模自治体の横並び投資などによる重複を回避できることなどから、財政支出に大きな節約効果があることは否めない。

 

雇用を犠牲にしない改革

行政改革は、公的部門の経費を削減することに主な目的があり、その大きな部分を占めるのが人件費である。本格的な行革を実現するためには、中央の地方政府や特殊法人などの行っているサービスのうち、準公共サービスを民営化することが必要だが、それを行うには数十万ないし100万人規模の人々に対する雇用機会の再配分が必要になる。こうした雇用の再配分は、本来、経済全体の構造改革の視野の中で行われるべきものである。

 

新都建設は国民の論議を深めよ

首都機能移転の意義は、明治初年ないし幕末以来の日本のキャッチアップの歴史に代わり、世界の再先進国としての21世紀以降の新しい時代作りを象徴するということである。東京を中心に、世界最高水準の一人当たり国民所得を実現するという意味でその戦略の歴史的役割が終了した今、求められているのは全国各地の自治体や企業や個人が、自らの責任で自らの発展の道を選択し、開放された市場のもとで切磋琢磨していくというあたらしい政治、行政、経済そして社会の在り方であり、そうした生き方を実現できる戦略である。新都建設は、日本の改革を国民全体で考えるための、貴重で重要な機会なのである。

 

6.財投・公的金融および金融システムの改革

財投システムとその役割

財投と公的金融システムの改革は、日本の金融システム再生の重要な鍵を握っている。

財政投融資制度とは、郵便貯金資金、厚生年金・国民年金積立金、簡易生命保険積立金、政府保証債発行金などの有償資金を、財政投融資対象機関と呼ばれる地方公共団体、国の特別会計、公団・事業団、特殊会社、公庫、銀行などに配分し支出、あるいは、国債などの引き受けに用いる仕組み。

財投システムは、国の産業や生活インフラの整備などの事業を有償資金を用いて、政策金融の手法によって行うもの。

このようなシステムが、キャッチアップの時代には経済発展を促進する上で一定の戦略的役割を果たした。

 

財投システムの矛盾と改革の方向

  1. 財投制度の弊害

    1. 巨大な財投制度の存在が、先進国の民間金融にふさわしい発展を阻害する恐れ。
    2. 人為的に設定された金利と市場実勢の乖離。
    3. 財投システム全体に金利リスクへの対応が不十分であり、資源配分に歪みが生ずる。
    4. 財政による支援を前提にして、モラルハザードが起きる。

  1. 新たな時代に向けての改革

    1. 民間金融の質的保管に徹するためのシステムの根本的な見直し。
    2. 財投−公的金融に市場原理を更に導入すること。
    3. 情報開示を進めること。

 

不良債権処理を本格化せよ

本格的な不良債権処理を行うためのパッケージ

    1. 情報開示の徹底
    2. 早期警告、経営改善指導、業務停止命令などの執行体制の強化。
    3. 預金保険機構の拡充・強化。
    4. 土地など不良債権担保物権の処理。
    5. 不良債権処理に必要な公的資金投入。

 

金融機関の自己改革とビッグバン

日本の金融資本市場の空洞化と金融機関の相対的弱体化という状況を打開するための金融システムの自己改革と金融機関の競争力強化が急務である。

橋本総理の提示

    1. Free(市場原理が働く自由な市場に)
    2. Fair(透明で信頼できる市場に)
    3. Global(国際的で時代を先取りする市場に)

外国為替管理制度の抜本的見直し

    1. 外国為替公認銀行制度を廃止し、事業法人などでも自由に外国為替業務ができるようにする。
    2. 内外資本取引に関わる事前の許可、届出制を廃止し、事後報告制度に切り替える。

 

金融機関の競争力強化と、市場の競争環境の整備は、相互に補完的な関係にある。外為法の改正は、市場の競争条件の整備と金融機関の競争力強化といった自己改革を前倒しに加速せざるを得ない状況を作り出す。

 

公正な市場競争枠組みの整備

開かれた自由な競争市場の枠組みを支える要素

    1. 情報の開示、公開
    2. 明確なルール
    3. 監視機能
    4. 安全の担保