第13章 再分配システムの改革

―真に必要な社会的費用を効率的に負担―

 

 

高齢化社会で、不可避的に増大する社会的費用を負担していくには、国民全体で社会的費用のうち真に必要な部分を、合理的・効率的に分担するシステムを作り出す必要がある。社会的費用を分担するしくみとして、社会保障システムや税制などがあるが、現行のシステムは第二次世界大戦直後に再編成されたものなので、これからいちじるしく負担が重くなる高齢化社会を支えるためには、これらのシステムを根本的に再設計する必要がある。これらのシステムは、社会費用を押さえるために所得と富を再分配するシステムであるといってよいが、以下、社会保障(年金・医療・介護)、税制、資産流動化の3つについて、改革の方向性を提案したい。

 

1、社会保障

  1. 年金
  2. 現行の年金制度については、大きく分けて2つの問題がある(第五章)

    1、年金財政と負担の問題

    2、制度上の不公平の問題、世代間(コーホート間)、世代内(三号被保険者問題)

    その他制度間の不公平の問題

    これからの高齢化社会で“軽い高齢化”を実現するための、年金における改革案

    @公的年金給付水準の引き下げ

    A支給開始年齢の引き上げ

    B基礎年金部分の財源

    C公的年金の部分的民営化

     

  3. 医療

高齢化が進む中で、医療費増大の負担が深刻な政策課題になっている。しかし、 問題は、本当に必要な医療費が増えているのだろうか。

医療保険制度の財政危機が深刻化してきているため、政府は患者負担の増加を中心とする医療保険法改正法案を97年通常国会へ提出し、可決された。これにより健康保険財政の危機は当面回避される事になるが、それでも財政危機をせいぜい1〜2年先送りするに過ぎず、根本的な制度の見直しが必要である。

医療システムの最大の欠点は、供給が需要を創るという現実になっていて、市場による自立的な調整による適正な価格と医療サービスの供給が決定されていないことである。

本質的な問題は、患者側に医療サービスの質や必要性を判断するに足りるだけの知識と情報がなく、医師と患者の間に著しい情報の非対称性があるということである。

また、現行の薬価制度や診療報酬体系などが、医療資源の効率的な配分と需給の適切な調整を妨げている。真に必要な医療サービスが効率的に分配され、そのコストが適正に負担されるためには、市場原理を導入し、関係者のコスト意識を生かしたシステムの再設計をする必要がある。

    1. 医療評価・情報提供と健保組合の役割
    2. 薬価基準の廃止
    3. 診療報酬体系の抜本的見直し
    4. 患者のコスト意識と自覚の喚起

 

  1. 介護

高齢化にともなって介護ニーズが増大してくる。しかし実際に、どれくらい本当に必要な費用が増えていくのかは依然として分からない。したがって、いかに効率的な介護システムを構築するかが重要な課題になる。

介護保険制度の導入は、これまでの措置主義型の福祉介護の欠点を克服するというメリットはあるが、問題点もある。

問題点

 

これらの問題の回避案

この二つの条件を提供すると、各世帯はクーポン券の範囲内で、官民どこからでも、よりやすく、より良いサービスを提供する主体からサービスを買うことになる。そうすると、サービス主体間の競争が行われ、効率化が促進される。効率化が促進されれば、コスト上昇圧力も削減される。

 

2、税制

税が経済における資源配分のあり方を変えるほどの積極的な政策的役割をになうべきかどうかについては意見が分かれる。しかし、少なくとも環境条件の変化に効果的に適応するための望ましい経済のあり方と税が矛盾するものであってはならない。高齢化が進み、社会的費用負担の重圧が高まる中で、勤労意欲、投資意欲を低下させないように、そして、人的、物的資源の活性化と活用を促進されるように改革していく必要がある。また、経済活力の増進と国際的調和を支える方向での税制の改革が求められる。

  1. 消費税
  2. 所得税
  3. 法人税
  4. 土地税
  5. 資産課税
  6. 地方税

 

3、資産の流動化計画

高齢化の社会的費用をまかなうために、土地などのようなストックの固定資産の価値をフロー所得として流動化することが重要である。ストック価値の流動化によって、フロー所得が創出できれば、高齢化社会を支える有力な手段となる。具体的には、リバース・モーゲージという考え方がある。土地の価格を土地証券という形で金融市場で評価し、流通させることによってフロー所得を生み出そうという土地資産の証券化構想である。日本の土地ストックは、バブル崩壊後も公示価格で約1000兆円あるといわれている。これをそのような形で流動化して、活用することが出来れば、高齢者社会の費用負担戦略として非常に大きな役割を果たすことができる。