テーマ「所得税」

 議論

宇多 課税ベース拡大政策に賛成。定額方式と定率方式の減税の違いについて?

松木 累進課税の構造から、比例課税の構造への変換はどうか

横田 小さな政府により所得税制のフラット化を

矢内 抜本的改革を

白木 減税が有効需要の増加に寄与するためには、減税分が貯蓄にまわることなく支出される事が必要

奥澤 税制改革における短期的政策は景気対策を言うが、長期的視野にたった税制改革は構造改革をも言うことになる。そうした場合消費税についても言及すべきでは。

財政班 我々は中長期的視野にたって所得税制の構造改革を提言している。それは現在の不況は既存の構造不況に起因しているからだ。

 

 財政班のまとめ

 政府の方針として、個人所得減税は、最高税率の引き下げと、各層に納税額の一定割合を減税する定率減税を組み合わせ、規模を4兆円とすることとなっている。しかし、政府税制調査会は、最高税率の引き下げに関する国税分と地方税分の振り分けの調整段階で止まっているのが現状だ。

 つまり、個人所得課税の最高税率を50%に引き下げるにあたり、大蔵省が所得税40%、住民税10%とする方針なのに対し、地方の自主財源の減少を恐れる自治省は、できれば住民税の最高税率15%を維持し、所得税率を35%にしたい考えがあるということだ。個人所得課税の最高税率引き下げが決まらないのは、組み合わせ方によって国税、地方税の収入への影響が大きく異なるからだ。

 しかし、論点は、総額4兆円の枠の中で、最高税率引き下げ分の残り三兆数千億円が、納税額の一定割合を減税する定率減税の財源となるが、最高税率の話が片づかないため、定率減税の規模が決まらない。減税額を何%にするか、減税の上限額をどう設定するのかについて、検討に着手できない状態にあるということだ。

 所得税制改革に必要なのは、単に景気対策に止まらず、高齢化社会に対応した所得税体系の構造改革を恒久減税として、5年から10年のスパンで実施することだ。

 


 政策  1、最高税率の引き下げ    納税額の一定割合を減税する定率減税

      2、累進構造の緩和      構造的

      3、課税最低限引き上げ      見直し(フラット化)

 

 今月20日、経済企画庁の「短期日本経済マクロ計量モデル」によると(図T)民間需要に減税が有効であるという結果がでた。今回の税制改革は、景気対策という側面から判断する必要があり、このモデルは、恒久減税の有効性を証明している。同モデルによる試算によると、補正予算による一時的な財政支出だけではGDPの押し上げ効果は持続しないという結果がでた。また、個人消費など民間需要への波及効果は公共投資より減税の方が大きくなっているという試算になった。

 減税が有効需要の増加に大きく寄与するためには、減税分が貯蓄にまわることなく、支出されることが必要である。所得課税のフラット化政策として、定率減税による低所得階層の税負担の急増を回避するため、課税最低限を大幅に引き上げるなどのレーガノミクスが不況下の日本には参考となる。さらに、税率を2段階にフラット化するぐらいの恒久減税が必要となるような場合もあるだろう。このようなフラット化は、最高税率の引き下げとともに所得税制を簡素化し、勤労意欲の向上と脱税の抑制が図られる要素を持っている。

 

   (図T)経企庁モデルによる財政政策の効果(%)

 

公共投資

継続

所得税減税

継続

1年目

1.21

0.41

2年目

1.31

0.57

  {それぞれGDPの1%分を投入した場合の実質GDPの押し上げ効果を示す}

 

政策の補足説明

最高税率の引き下げと最低税率の引き上げに伴う累進構造の全面緩和

実際今年の特別減税と比べると、最高税率引き下げだけで総額規模8兆円の内、約8千億円を使ってしまうため分が悪いとされる。また、特別減税の1人当たり減税額が一定の定額方式だったため、定率方式に切り替えると低所得層ほど負担増しとなる。しかし、定額方式だと納税額ゼロの世帯が増えるため、税制が歪んでしまう。そのため、最高税率の大幅な引き下げとともに、逆に最低税率を引き上げることで減税の効果を各層平等にしなければならない。こういった累進構造の問題点を緩和するためにも恒久減税による全面緩和を要するのである。問題は、所得税制の水平性と公平性をいかに保つかということ。

資産性所得における納税者背番号制

利子所得や有価証券譲渡益は抜本的税制改革で一律源泉分離課税になっているが、分類所得のような形で固定せずにプライバシー保護の措置を取った上で、納税者背番号制度を導入して、総合課税に持っていくべきである。