はじめに
この論文では、“脱日本型金融システム”と“グローバルスタンダードの確立”を命題とし、その鍵となる三つのファクターに着目した。それは現在の日本の金融界で問題となっている破綻処理問題・不良債権問題・外資対策の三つである。
我々はこの問題の解決こそが“脱日本型金融システム” と“グローバルスタンダードの確立”の突破口になると考えている。
そこで 第1章では、国会の焦点になっている破綻処理問題を、第2章では、金融機関の体質的な問題でもある不良債権問題を、第3章では、日本金融機関の対外資策を検証し、それぞれ独立した章構成となっているが、最終的には“脱日本型金融システム” と“グローバルスタンダードの確立”に繋がっていくことを証明したい。
第1章 破綻処理
9月10月の国会では金融の再建について様々な議論がなされている。しかしながら明確な方向性が定まっておらず、金融再生法案の関連事項においても先送りされる気配すらある。
このような現状の中、先行きを予測する事は非常に困難な事であるが、現時点での日本の破綻処理についてアメリカの例を見ながら今後、日本がどのような破綻処理を進めていくべきかを論じていきたい。
第1節 日本の現状
現在の破綻処理の大きな問題は、どのような方法で銀行救済を進めていくかという点である。長期信用銀行救済に現れるように、現時点では、公的資金の注入による救済、その銀行の普通株式の全株を強制取得し、一時的に国有化し特別公的管理下におく「一時国有化方式」、それに政府案の「公的ブリッジバンク方式」などが挙げられている。
公的資金注入に関しては、「早期健全化スキーム」として自己資本比率に応じて3段階の公的資金投入が検討されている。金融機関の自己資本率が8%を切った場合、新設する整理回収機構(日本版RTC)に不良債権を売却し、優先株や劣後債で資本注入する。また4%を切った場合さらに減資させ、国が普通株を50%以上取得「準国有化」した上で優先株などで資本注入する。2%を切った場合、国が全株式を強制取得する「特別公的管理」に移行する、という方向で協議が進められている。しかし、資本注入に際の経営責任の追及や、資産の自己査定に関する情報開示の強制などの条件が盛り込まれ、自民党内でも厳し過ぎるとの声もあり、このまま行けば自己資本比率の達成を優先する銀行の貸し渋りが更に悪化するのでは、との意見もある。
一時国有化方式については、市場や金融界では「国有化」は実質破綻扱いを意味するため、大手行自ら一時国有化を選択する可能性も極めて低いと考えられ、政府も破綻前の一時国有化は結果として「長銀限定スキーム」になると思われる。
公的ブリッジバンク方式に関しては健全な借り手への融資業務を継続するため、三十兆円の金融安定化資金のうち資本増強用に準備した十三兆円の「金融危機管理勘定」を原資に、平成金融再生機構を通じて資本金や融資資金の貸し付けが行なわれる。
このようにどのような政策を取っても公的資金が注入される事はほぼ決まりつつある。しかし公的資金注入に当たって十分な情報開示、アカウントアビリティーが絶対条件でありまた、モラルハザードの問題などまだまだ問題は山積みである。そこで実際に金融改革を成功したアメリカの例を2章でとりあげてみたい。
第2節
アメリカの例実際に1980年代に金融機関破綻処理問題を経験しているアメリカの例を見て参考にしてみると、よくくひきあいにだされるのが、S&L(貯蓄貸付組合)の処理についてである。これについては当初監督当局は合併を中心とした救済策で対応したが、監督当局の見積もりが甘くモラルハザードを招き不良債権を一気に増加させる結果となってしまった。このため破綻処理すべく1989年金融機関債権改革執行法が成立し、経営破綻処理先の整理スキームやS&Lの預金保険制度・監督制度の改革が行われ早期介入権限が具体化された。そしてS&Lを選別しRTC(整理信託後者)のもとで一括し集中して資産を売却、その結果として投資家が不良債権に興味を示し不動産取り引きが活発化した。これだけを見ると銀行をつぶすというハードランディングが有効と思われるが、巨大な商業銀行に関してはアメリカにおいても救済している。コンチネンタル・イリノイ銀行はその地域において十分なサービスを提供するために不可欠であると判断し「不可欠制原理」のもとに完全救済された。
こうした経験をふまえてFDIC(連邦預金保険公社)は1990年の段階で金融機関の破綻処理にあたってのさまざまな政策目標を明らかにしている。
1991年に制定された連邦預金保険公社改善法(FDICIA)によって、
too big to fail原則が否定され、金融機関救済原理がシステミックリスク原理となり、さらにコストが最小となる破綻処理方式を選択するようコストテスト(コストに関するチェック)が更に厳格化された結果、現在の破綻方式は大口の預金者が一定の損失を被るP&A方式が主流となっている。
第3節 結論
これまでの問題、長銀問題や早期健全化スキーム、アメリカの例などを総合的に考察し破綻処理に関して判断すると、私たちは、経営悪化においてその個別行に責任があると思われる場合と、銀行システム全体の問題である場合に分けて結論を出した。
個別行に責任があると思われるときは潰すのが最適であり債権を分割しビジネスチャンスと位置づけていく方向がよい。個別行の問題の定義としては、経営内容の悪い銀行が数行あるものの大多数の金融機関は健全であるという前提をもとに問題銀行を認定する。問題銀行は潰し、預金者は預金保険で対応する。その問題銀行の優良な貸出債権(善良な貸し手に対する債権)は市場で他行に売却する。
しかし、銀行システム全体の問題である時又は連鎖倒産というシステミックリスクを招くような処理に関しては何らかの救済処置を行う必要があるであろう。銀行業界全体の自己資本不足というのは個別行の問題ではなくシステム全体の問題である。なぜならば自己資本が与える影響としては健全な債権が売りに出されても自己資本の不足から貸出しの回収を迫られて(今の貸し渋り)買い手が出てこなくなってしまう。貸出し債権が売却できなければ潰される銀行は預金者にその預金を返すために貸し出しを回収する必要が生じる。回収される企業側としては新たにメインバンクとなった銀行から資金を借りることができれば問題はないがその銀行も自己資本の問題で貸出しができないということになればこの企業は完全に行き詰まってしまう。そうなると何千何万という単位で連鎖倒産が発生し経済全体が混乱するだけではなく残った銀行の不良債権も新たに増加し預金保険はいくらあっても足りなくなってしまう。
このようなシステミックリスクを回避するような具体的な策としては資本注入(公的資金投入)が注目されているがここでこれに関しての意見を載せておきたい。
まず資本注入における目的としては「預金者の保護」という位置づけのもとで行われるべきである。そのため、公的資金の必要がある金融機関については地元経済に対し深刻な影響を及ぼす恐れの強い地域金融機関を除き清算する。問題行においては経営者の退任、株主出資者による損失負担は当然のこととする。さらに背任・横領など違法性の疑いのある取り引きが発見された場合には司法当局への告発を行うなど厳格な責任追及を行う。
このような前提の下で、まず公的資金投入の必要性について自己資本注入が破綻処理型の処理に比べてどのようにしてどの程度社会的コストを小さくするのかという十分な説明(アカウンタビリティー)がなされなければならない。
次に行政主導の横並び一律公的資金投入などが存在してはならない。これは文字どおりの「護送船団方式」であり、銀行業務の差別化を主旨とするビックバンの流れにも逆流するものである。
公的資金の投入金額を最小限に押さえるためにも日本版RTC による不良債権の回収に努め、財政資金負担の軽減を図る。また到達点として不良債権問題再発防止のためセーフティーネットの再構築も重要である。充実しすぎるセーフティーネットは経営者のモラルハザードの招くため徹底したディスクロージャ(情報開示)と自己資本を基準とした早期是正措置における発動基準や措置内容の厳格化を図る。また預金保険料率も自己資本比率に基づき異なった料率とする。これらの措置はいずれも金融機関経営者の自己規律マインドの向上を図るためである。最終的には公的関与(セーフティーネット・規制)自体は縮小され、目的はシステミックリスクの削減ということに絞り、市場規律主軸型の効率的な監督体制が理想であろう。
第2章 不良債権処理
現在、日本経済は金融規制緩和以降、競争が激化する事で不良債権を巨額に抱えている金融機関は利益が減少してしまい、これが金融危機を招き不況から抜けだせないでいる。つまり、不良債権処理を行わずに金融規制緩和を推し進めていく事で金融システムそれ自体が不安定になってしまったのである。そのため、金融規制緩和を成功させ不況を打破するには不良債権処理が重要である。不良債権の抜本的解決には多くの担保不動産の処分が不可欠であり、銀行の債権放棄が課題となっている。そこで、不良債権処理の手段として担保不動産の証券化による方法を提示し、その債権を流動化する手段としての「サービサー」の必要性について述べていきたい。
第1節 担保不動産の証券化
担保不動産の証券化とは、担保として取った土地の価格を決定し、小口に分けて証券化し投資家に流動し資金を得る方法である。この方法のメリットとしては、金融機関は自分達の抱えているリスクを投資家に分散でき、リスクの軽減が図れる。また、投資家にとっては景気が回復すれば価値の上昇が見込まれる日本の不動産を格安で手に入れられるというメリットがある。しかし、担保不動産の証券化を行う際、現段階では問題がある。
現在日本における土地評価方法は、周辺の土地の取引事例や取得原価に重点を置いている。このため、土地の利用価値の実態が反映されず、利回りを想定しなければならない証券化は難しい。そこで、欧米各国で採用されている土地を利用して得られる期待収益をもとに地価を算定する収益還元法に変更すれば、利回りを想定しやすく証券化にも適しているようだ。資産の適正評価手続きを国際基準に合わせて、証券化商品の内容を透明化し、担保不動産の流動化を促すのがねらいである。
しかし、収益還元法で担保を評価すると銀行側の担保不動産の見込み評価額より平均で3割ほど下落する見込みで、今まで以上の不良債権額の増加が予想される。また、貸し倒れ引当金の引き当て不足が鮮明になり、各金融機関は引当金の追加投入を迫られることになる。
しかし、現在、景気の長期低迷により健全債権の不良化が進み、不良債権額は増加している。何も手を打たずにこのまま不良債権が膨らんで行くよりは、一時的には不良債権額が増えるかもしれないが現状のままよりは早期に債権処理ができる担保不動産の証券化を迅速に行うべきである。
こうした流れは、これまでの日本における間接金融重視の資金調達方法から直接金融重視の方法に変化していく契機となり、企業は銀行に頼らない資金調達が実現でき、資金調達の多様化で、より多くのビジネスチャンスを生かすことができる。また市場から直接資金調達をするには、情報開示による企業の健全性を示すことが必要であり情報開示が進むだろう。また、市場重視になることで市場による企業の淘汰が進み効率化が期待できる。
第2節 「サービサー」の必要性
次に処理方法の債権の流動化を行う「サービサー」の必要性について考えてみたい。
債権の流動化とは金融機関が貸し付けた債券を特別目的会社が譲りうけて、これを担保とした証券を発行して市場に流通させ、投資家から資金を集めようというものである。そしてここで注目すべき事は、証券化市場を支えるサービサーの存在である。
一般的に、証券化とは様々な資産を担保にした証券を発行し、投資家から資金を集める事であり、資産から生まれる元利金を投資家に安全に配分しなければならず、高度な構造が構成される。そのお金の流れを確保する為に欠かせないのがサービサーであり、一言で表わせば「債権回収代行業」といえる。つまり、元利金などを円滑に構造の内部に流す為の入り口を担うのである。そして、サービサーは金融機関にとって必要な存在である。その理由は、第1に、巨額の不良債権を処分し、税務上の損金処理をして自己資本比率を高めたい事。第二に、正常債権についても、弁済期を待つことなく早期に現金化したい事。第三に、専門知識を要し面倒な手続きを要する債権の回収を自ら行う事は非経済的である事。第四は、弁護士の数は少なく弁護士費用は高額である事、等から不良債権はもとより正常債権についても、これをサービサーに譲渡したいと考えており、サービサーへの期待は大きい。またサービサーを使う事によるメリットとしては、プロの知識を活用できる事、そしてこれが投資家保護につながる事と、もう一つはサービサー間の競争による証券の情報開示が進む事である。
まずプロの知識の活用とは、担保価値や法的手続きのコストなど諸要素を考慮して妥当なレベルを算定し、債務者と交渉する知識がサービサーには蓄積されている事。証券化前の債権者と債務者の間にサービサーという第三者が介入する事で、担保物件と債務者の経済的側面に焦点を絞り、冷静に解決策を考え出す事ができる事。またサービサーが鑑定・法律の専門家であり、不動産ブローカー経験者等の専門家集団であり債務者が安易に証券を発行し、市場に流通させる事は通用しないのである。そして、これらはそのまま投資家保護につながっているのである。
次にサービサー間の競争による情報開示とは、サービサーは担保不動産物件の訪問販売・営業収支実績などの収集と分析を通じて情報を標準化する役割を持っており、また担保情報を更新させ、投資家に開示する役割も持っている。そして、競争が激化し、証券化市場で生き残っていく為に投資家への情報開示を充実させる事で、 さらに多くの投資家を証券化市場に呼び込めるのである。この様に証券化市場の健全な発展にはこのサービサーが果たす役割は非常に大きいのである。債権の流動化が進む事で金融機関は徐々に体力を回復し貸し渋りの問題も解消されるであろう。
しかし、現段階の日本には弁護士以外の者が法律事務を取り扱う事を禁ずる弁護士法72条、債券を譲り受けてこれを実行する事を禁ずる同73条により、サービサーというサービサーは存在せず、インターナショナル債券管理協会(ICMA)と呼ばれる組合が債券管理業務を行っているだけである。そのため、弁護士しか扱えない債券管理回収業の民間会社への解禁を早急に進めるべきである。その際に、民間のサービサー出現は時間がかかると思われる。そこで、現在債権回収を行っている機関である整理回収銀行や住宅金融債権管理機構は先に述べた回収におけるプロ知識が備わっているため、これらを合併して民営化し、早期に回収を進め、証券化による処理を進める方法が良いのではないだろうか。そして、他の民間サービサーの中心的な役割を果たすと考えられる。しかし、処理できずに残った債権は、最終的には新たに新設した公的機関に譲渡し、そこで公的資金投入による処理をする方法が考えられる。
だが、サービサー解禁において問題がある。金融再生6法案のうちの債券管理回収業法案により、サービサーの扱える債券から一般企業の売掛債権が除外され、業務範囲が金融機関の貸し付け債権などの回収に限られると、サービサーの経営は安定しないのでないかいう懸念である。現に、米国においては80年代のS&L(貯蓄貸付組合)の相次ぐ経営破綻に対する施策として89年にRTC(整理信託公社)が設立されたのを機に、次々とサービサーが設立され、一時は千社に及んだが、95年にはRTCがその目的を達して解散され、サービサーも不良債権が減少するにつれて淘汰が進み、現在では商業不動産ローンにかかるサービサーは五十社以下となっている。しかし、ここで重要なのは不良債権処理をしっかりと行っている事である。長期的に見れば、日本も米国のようにサービサーの経営が悪化し淘汰されていく可能性もある。しかし、日本の金融機関の現状は巨額の不良債権を抱え、貸し渋りが生じ、土地が塩漬けされ、深刻な不況が続く真っ只中であるため、まず当面の問題の不良債権処理を早急に進め、金融システムをグローバルスタンダードにする為には、自己資本比率がほぼ0%に近い銀行が、自らリスクをとって融資事業を行う間接金融から直接金融すなわち証券化に変革する必要があり、その証券化の付加価値としてサービサーの効用を認めるべきである。
第
3章 外資対策
日本金融市場では、国際金融市場での再編の動きと「日本版ビッグバン」推進の二つの要素が絡み合い、量的かつ質的な変化が起こっている。
この章では、外資系金融機関が日本に進出してきた経由と外資参入への日本金融機関の対応策を検証していきたい。
第
1節 国際金融市場におけるダイナミズム国際金融市場ではメガ合併が続いている。例えば、スイス銀行とスイス・ユニオン銀行の二大銀行の合併に対抗して、トラベラーズ・グループとシティバンクが史上最大の合併に合意し、商業銀行、投資銀行、証券、保険を持つ、金融業のグローバル・スーパー・マーケットを構築しようとしている。他の米銀もこの動きへの追随を計画しており、市場では様々な組み合わせの噂が絶えない。
また、欧州のユニバーサル・バンク間の関係強化は
EU統合の推進にあわせて、これから本格化するであろう。このように米・欧の金融機関は、世界的な金融業界の再編成の中、
M&Aという手法を用いて生き残りをかけているのである。業種、国境というものを超えた企業間協力といったものが必要となってきたのだ。
第
2節 外資系金融機関の日本進出の現状そのような中、外資系金融機関が、日本版ビックバン開始に合わせ、個人金融資産
1200兆円といわれる魅力的な日本金融市場へ本格的に侵食し始めた。日本は米・欧に並ぶ大市場だが、これまで日本独自の規制に縛られ、日本金融機関の独占状態が続いていた。
しかし、長期にわたる低金利政策、株式市場の低迷といった日本経済の問題や、金融不安という状況下での「日本版ビッグバン」を契機に、局面が外資系金融機関にとって有利な方向に傾き始め、日本市場における拡大余地の可能性が出てきた。特にグローバル・ネットワークや商品の多様性といった面では日本金融機関を凌駕しているぶん、外資系金融機関が雪崩を打って日本進出を図るのも当然である。
外資系金融機関は、今日まで主にホールセール部門に限定されていたが、リテール部門への本格的な参入が始まっている。
1200兆円の争奪戦への直接的な参加である。例えば、メリルリンチ日本証券の開業、日興ソロモン・スミスバーニーの設立による個人向けビジネスへの進出である。また、シティバンクやフィデリティ投信は独自の販売ノウハウにより業務拡大中であり、ゴールドマン・サックス投信は飛躍的に残高を増やしている。また、トータルして見ると、外資系金融機関は徹底的に無駄を排除した営業方法が特徴でもある。テレホン・バンキングやインターネットを使った通信販売、独自のネットワーク形成などによって人件費を大幅削減している。コスト高な日本の営業法とはかなり違う。
さらに、外資系金融機関は、日本金融機関の資本面における協力関係や業務提携を通じて彼らとの関係を強化し、日本市場の支配力を強化しようとしている。
第3節 日本金融機関の対外資策
外資系金融機関が日本市場に進出することで一つの焦点となることは、イギリス版ビックバンにも見られたように、ウィンブルドン現象になるかならないかということである。単純に考えると、最近の日本金融機関のイメージでは、強大な外資系金融機関に打ち負けてしまい、日本でありながら外資系金融機関しかないという勢力図になるように思えるかもしれない。
しかし、日本金融機関は、特に大手都銀などは、莫大な資産からもわかるように基礎体力があり、そう簡単には外資系金融機関から乗っ取られるということは可能性として低い。が、それは日本金融機関が日本版ビックバンによって旧金融システムから抜け出し、自助努力によって経営の効率化・透明化などを図り、早急に改革を行った場合である。場合によっては中小の金融機関などは外資系金融機関に買収されることもあるかもしれないが、ウィンブルドン現象までは至らないだろう。
または、外資との業務提携、もしくは日本系同士の業務提携によって互いの弱点を補完し合い、また得意分野を有効活用するという、この企業同士の業務提携が現時点での一番の得策なのであろう。そう考えると、第一勧業銀行と
JPモルガン、日本興業銀行と第一生命、住友銀行・住友信託銀行と大和證券などといった一連の提携合戦は時代の流れに合った対応だといえる。さらに具体的な営業面での他との差別化も必要である。ホールセール部門からリテール部門に流れが向いている中、他の金融機関と同じような営業を行っていては総額
1200兆円という個人資産を担う顧客獲得は難しいだろう。日本版ビックバンとは、簡単にいえば市場原理の導入ということである。それもグローバル・スタンダードとしてのルールである。そのような中では淘汰される金融機関も現れるかもしれない。しかし、その淘汰される姿が本来の市場というものなのである。
そのような市場の中、“ガイシ”という強力な対抗馬も出現し、それぞれの金融機関はよりいっそうの経営努力を迫られ、その結果市場が必然的に活性化していくものだと思う。
日本金融機関は外資系金融機関を視野に入れながらも、金融システムの健全化といった根本的な問題を解決し、自由化の波を乗り切るような強靭な肉体を一刻も早く完成させなければならない。
おわりに
最後に、各章の総括を述べたい。
第
1章破綻処理に関して、経営悪化においてその個別行に責任がある時は潰すのが最適であり、債権を分割しビジネスチャンスと位置づけ、銀行システム全体の問題である時、また連鎖倒産というシステミックリスクを招くような場合は何らかの処理を行う必要があるということである。
その処理に関しては、公的資金投入が最有力と思われるが公的資金投入により、自己資本注入による破綻処理に比べてどの程度社会的コストが小さくなるかという十分な説明(アカウンタビリティー)がなされ国民の十分な理解を得なければならず、また公的資金の投入額を最小限に押さえるためにも日本版RTCの早期構築、セーフティーネットを充実させるためのディスクロージャーの徹底などを厳格に行う必要がある。
将来的には公的関与自体は縮少され、目的はシステミックリスクの削減ということに絞り、市場規制主軸型の効率的な監督体制となるのが理想であろう。
第
2章不良債権処理においては担保不動産の証券化、証券化した債権を流動させるための「サービサー(債権回収代行業)」の必要性について述べたが、そこには必ず「リスク」が生じてくる。しかし、市場を重視するハイリスク・ハイリターンな方向への移行が予想される今後にリスクが生じるのは仕方のない事だ。そうしたリスクに対して投資家も意識改革をすべきではないだろうか。
そうした投資家のリスクを少しでも回避するためにも法的整備は急ぐべきだろう。その中でも情報開示の徹底は急務である。
第
3章国際金融市場において独自のノウハウを利用し活躍している外資系金融機関が、個人資産1200兆円の日本市場に参入することは避けられない。事実、本格的な活動を開始している金融機関もすでに存在している。そのような中、日本金融機関は何をすべきか。一つは、資本提携や業務提携などで企業間の協力体制を結ぶこと。そうすることで双方の弱点を補完し合い、さらに得意分野を互いに活用し合える。もう一つは、具体的な営業面での他との差別化である。それにより顧客獲得の手段に幅が広がる。
ビックバンによってグローバルスタンダードに変化することと、外資系金融機関が参入することにより日本市場での競争が激化し、自助努力を続ける金融機関は更なる成長を続け、怠る金融機関は淘汰されていくであろう。しかし、それが本来の市場なのである。
総括
現在、日本は早期に金融システム不安を解消する事が求められている。そのためにも官僚型の旧金融システムから脱却し、市場原理に基づいた新システムを構築する事が必要だろう。そのための手段として、金融システムの市場重視型システムへの移行と間接金融から直接金融体制への移行、それに伴うリスク管理のための法的整備が必要だろう。また、外資系金融機関の日本市場参入を日本金融システムの効率化と日本市場活性化の手段として利用するべきだろう。
こうした手段をとる事により、日本の金融システムは早期にグローバル・スタンダードを確立できるのではないだろうか。