世界の祭典、ワールドカップが始まる

 

W08−0175B 松木弥来

世界でもっとも人気があるスポーツ、サッカー。その世界ナンバーワンの国を決める「FIFAワールドカップ(W杯)」は、4年に1度開催される、もっとも価値のある最高水準の世界大会である。W杯は多くの人々を熱狂の渦に巻き込む世界最大のスポーツイベントだといわれている。それを証明するのが視聴者の数で、まもなく開幕する仏大会では延べ370億人が見るといわれる。これは単純計算で世界中の0歳以上の男女が平均9試合を観戦するというとんでもない数値である。

このW杯がもたらす影響を政治、経済的な面で見てみる。

政治的な面では、W杯は政府を国民と一体化させる。初出場を勝ち取った翌日が全国民の休日となった国が、今大会日本と戦うジャマイカやカメルーンである。また初優勝決定の翌日を休日にした国がウルグアイやブラジルである。こうした措置が取られるのは政治指導者が熱心なサッカーファンである場合が多い。その例として、W杯の試合をみたいがためにサミットに遅刻したという。それに似たケースとして戦争中にW杯が始まり、それを 見るために戦争を一時中断したのである。このようなサッカー狂の国ではW杯開催中、もちろん軒並み生産力が低下する。また、日本で考えられないのがイギリスではW杯などの大衆に人気のあるスポーツ大会をTVで見るのは基本的人権の一部で、これを「ユニバーサルアクセス権」と規定し法的に擁護されているのである。しかし、W杯は多くの競技種目が混在するオリンピックと異なり11人の戦士が国を代表して戦うため、国家間の戦いという図柄が明確に投射され観客にも愛国者的な感情移入が起きやすい。そのため、国際紛争の引き金になることが多い。そのうちもっとも有名なのが「サッカー戦争」でメキシコW杯予選で、エルサルバドルに破れたホンジュラスがエルサルバドルを攻撃したのである。また、W杯で負けた腹いせに自国にある敵国の大使館を放火するなどの事件も多い。ここまで熱狂的だとプレーする選手も気がきでない。前回のアメリカ大会でコロンビアの選手が自殺点をし負けてしまった。帰国後、その選手はファンに射殺されてしまったのである。日本も初出場の翌日を休日にして欲しかったが、今までのことを考慮すると気の小さい日本人にはTVの前でビール片手に見るプロ野球のほうが性に合っているのかもしれない。

次に経済的な面で見るとW杯はオリンピックに比べ収益をあげやすい大会である。その理由は、W杯がサッカーという単一種目の大会であり、スタジアムや宿泊施設などのインフラがすでに整備されている場合、すべての試合を満員にすることができる観客動員力があれば基本的に放送権料や企業協賛金がなくとも入場料収入だけで収益をあげることが可能だからである。また、開催都市が分散しており、気候、警備、交通規制、そしてチケットの売り上げといった運営上のリスクを分散できるという強みも備わっている。また、W杯スポンサーのメリットをあげてみる、

1 イベントと製品に自然なつながりがある。

2 イベントがマーケティングの戦略にフィットしている。

3 多くの観客がいる。

4 直接的な露出効果がある。

5 プロジェクトにリスクが伴わない。

6 選手やチームの成績によって広告効果が左右されない。

7 法的そして環境関連の問題等が付随しない。

8 しっかりとしたイベント運営がなされている。

9 過去に行ったスポンサーシップと継続性がある。

など、W杯は企業にとって多くのビジネスチャンスを含む魅力ある商品である。例を出すと前回のアメリカ大会で世界有数の電気メーカーであるオランダのフィリップ社が使った 金は二千万ドルで、その見返りとして、試合場の広告看板による七分半程度の露出効果を得た。試合が全世界198カ国に放送され、約1ヶ月に渡り合計320億人の視聴者の目に触れたことを考えると、フィリップ社が投資した金額の妥当性が理解できる。

最後に、日本の今回の予選突破や次回の2002年日韓共催大会の経済効果を見る。まず日本予選突破は、ドラマとヒーローを生みW杯特需と呼ばれる現象を生み出した。電通総研によると、観戦ツアーやキャラクター商品、そしてハイビジョンテレビの販売といったW杯出場による経済波及効果を1650億円と試算する一方、旅行業界は国内からサッカーファンや地方自治体や企業の視察旅行によって、約3万人規模の旅行需要が創出されると目論んでいる。次に日韓共催大会の経済効果は、日本と韓国の共催が決まる前の94年に、2002年W杯招致委員会が行った経済波及効果の試算がある。それによると、W杯開催で動く金は、スタジアム建設などの建設投資額から、関連グッズの売り上げを含む消費支出額まですべてを含めると、総額1兆3134億円と推定された。この数字をもとに90年の産業関連表を用いて経済波及効果を計算すると、生産誘発額は3兆2484億円という巨大な額になった。この時点では、過去の大会がそうであったように、2002年大会も日本の単独開催によって支出を上回る収入が得られ、100億円以上の黒字が生まれるはずであった。しかし、韓国との共催決定によりメーンメディアセンターなどの諸施設が単独開催と同じように必要とされる反面、スポンサー収入や入場料収入が半減するわけで、収支の見通しは明るくないというのが現実的な見方であろう。しかし、98年W杯への出場と2002年の共同開催が、単なる経済的な効果にとどまらず、日韓の新しい関係確立や地域スポーツ文化の発展といった社会的・心理的効果に波及し、想像をはるかに超えた成果をもたらして欲しい。

しかし、今までのことは参考程度にしてもらい、皆さんにはW杯を楽しんでみて欲しい。W杯はお祭りであり楽しまなくては損である。日本の予選突破で興奮した人はW杯でまた味わえるであろう。もし、サッカーに興味のない人でも日本の一国民として日本を応援して欲しい。また日本以外の国も応援してみればサッカーの持つ魅力が分かるかもしれない。

今回のW杯でサッカーに興味を持った人はラッキーである。次回の2002年W杯は、日本で開かれる、これは今後生きているうちにやってこないかもしれないので、とても貴重である。そこで、W杯の熱気を直に触れて欲しい。そうすればあなたもサッカー狂になるであろう。サッカーはたかが1つのボールを両チーム合計22人が取り合うスポーツであるが、そのサッカーにすむ魔物に取りつかれたら麻薬のようにはまってしまうだろう。そんなサッカー狂が日本国内で今回の仏大会、次回の日韓大会で増殖することを期待している。