アウトソーシング −その歴史と定義

E08−0630B田辺健太

序章

第1章 アウトソーシングの歴史

第2章 アメリカにおけるアウトソーシングの現状

第3章 日本におけるアウトソーシングの現状

第4章 アウトソーシングの定義

・様々な定義事例

・花田(慶応大学総合政策学部花田光世教授)モデルとBPRROIによるモデル

終章 結論と展望

用語解説

参考文献

 

序章

「アウトソーシング」という言葉を最近耳にする機会が多くなった。アメリカで成功した新し経営の手段として注目されるようになってきたことがその一要因である。しかし、「アウトソーシング」という言葉だけが一人歩きをし、その実態があやふやに理解されているのが現状ではなかろうか。「アウトソーシング」とはいったいどういうものなのか。この論文で突き詰めたいと思う。このような論文では最初に定義付けをしてから論じていくのが普通であろうが、この「アウトソーシング」に関しては、過去5年ほどで発展してきており、非常に流動的であるため、まず、歴史と現状を分析してから現在の定義を見つけ出したいと思う。

具体的には第1章でアウトソーシングの歴史を、第2章でアメリカの現状を市場規模と導入企業率、導入理由の観点から調べ、第3章で日本の現状をアメリカの現状と同様に調べ、第4章で慶応大学の花だ教授のモデルとBPRROIによるモデルをもとにアウトソーシングとはどういうものかを論じたいと思う。

第1章アウトソーシングの歴史

アウトソーシングの歴史

アメリカで「アウトソーシング」が注目されはじめたのは、1980年代であるといわれている。アメリカ経済の「黄金の時代」と呼ばれた60年代を経て、アメリカは70年代に、特に日本や旧西ドイツなどの他国の目覚しい復興に追われ、産業競争力の衰えを悟ることになる。そして、実際にアメリカ企業が自社の経営戦略に目を向け、問題改善に取り組みはじめた80年代が訪れる。

ここに来てアメリカ企業には「量」から「質」への大きな転換が迫られたのである。「エクセレント・カンパニー」などに代表される、柔軟で品質を重視する日本企業の組織のしくみ・人事システムへの関心が表面化するのも、この時期である。加えて“双子の赤字”を抱えるまでにいたった経済的不況という背景から、肥大・硬直化した組織のスリム化に焦点が当てられることになり、いわゆるリストラ、ダウンサイジングリエンジニアリングといったさまざまな経営手法が、アメリカ企業において用いられることになる。「アウトソーシング」もそこに端を発している。

そもそも「アウトソーシング」とは、情報システム分野でまず先に取り入れられた手法であり、当初は概ね、この分や特有の専門用語であると認識されていた。アメリカにおける実例を見ても、当時はまだ「アウトソーシング」という言葉は一般的には使われていなかったものの、1960年代はじめに、情報処理分野の重要性の増加と設備投資、運営費の高さに注目し、この分野で専門的サービスを提供するEDS(Electronic Data Systems)がアウトソーシング・サービスを展開したのが最初だとされている。ちなみに、日本における本格的な「アウトソーシング」の始まりも同様に、セブンーイレブン・ジャパンの情報システム部門の一括委託(1989年)である。

その後、前述のようにアメリカ企業が自らの存続をかけて組織の再編に力を入れはじめた八〇年代、コスト削減を目的とした、事業や部門、ひいては人材の切り捨ての手段としての「リストラクチャリング」、業務プロセスの再構築を目的とする「リエンジニアリング」が構造的不況打開のキーワードとなった。

しかし、「アウトソーシング」とは、今述べたようなコスト削減、ひいては人員削減といった消極的な意味合いでの企業の再編を目的としているのではなく、むしろより質の高い、より効率的なサービスをクライアントへ提供するための、さらには、効率的な業務の流れを構築し新しい組織づくりを可能にする、非常に効率的な経営手法なのである。

つまり、「アウトソーシング」は「リエンジニアリング」のための一手段である、といえるのだ。こうした考え方を広く広めることになったのは「コダック・エフェクト」と呼ばれるコダックのアウトソーシングである。

1989年、コダックはIBMとEDSのプロポーザルを吟味した結果、IBMにコンピュータ。システムの管理を一括して運営する契約を発注した。この契約は、コダックのビジネスに直結するコンピュータの利用者であるエンドユーザーが現状と変わらないサービスを受けられること、コダックが支払うIT年間総コストを現状より17%削減できることを条件とし、年率30%ずつ10年間にわたってシステムの性能を拡充し続けていく、という総額10億ドルの大型契約であった。コダック社の本社が置かれているニューヨーク州ロチェスターの同じ敷地内には、IBMの施設である新しいコンピュータ・センターが建設され、IBMはカナダを含む北米のコダックのコンピュータ・センターを統合、現在コダックが使用するすべてのコンピュータを管理している。

コダックとIBMの契約は、従来のアウトソーシングのイメージを覆し、業界に大きな「コダック・エフェクト」と呼ばれる影響を与えた。従来、コンピュータ部門のアウトソーシングは、技術力のない企業だけがすることで、弱小企業の証明であるというイメージが強かったが、コダック社のような一流の技術力を持つ大手企業がアウトソーシングしたことで、アウトソーシングがコア・コンピタンスへの回帰を実現するための有効な手段の一つとして認められることになった。アウトソーシングは「企業に競争力をつけるもの」とみなされ、アメリカでは、アウトソーシング契約を発表することによって企業の株価を引き上げる効果を持つようにまでなった。「コダック・エフェクト」以後、アウトソーシング市場が急速に成長することになった。

「コダック・エフェクト」は、アウトソーシングのイメージアップをするだけでなく、IS部門の組織改革の側面にも及んでいる。コダック社のコンピュータ部門で働いていた社員のうち350人が、両者の合意でIBMに移籍することになった。その後、ITアウトソーシングに伴い、米国における「コンピュータ技術者の大移動」現象が頻繁に見られるようになった。IBMセールスマンであったロス・ぺローによって創立された世界最大のEDSも、もともとはIBM色の強い独立系のソフトウェア・サービス会社であったが、自動車メーカーの最大手GMの傘下に入り、GMから移籍されたコンピュータ技術者約7000人が今日のEDSの基礎となっている。EDSは、1988年6月にもファースト・シティー銀行と総額6億ドルのシステム・インテグレーションの契約を結び、約400人のコンピュータ技術者を引き取っている。(1996年6月、EDSは、GMから分離・独立した。)また、デュポンとの契約では、自社IS部門のスタッフ4200人のうち、約1100人はそのままデュポンに残り、2600人はCSCに、残りの500人はアンダーセンに移籍することになる。(CSCは、デュポンの13のデータ・センター、65000のデスクトップ・コンピュータ、同社の全ネットワークを買い取ることになり、アンダーセンは、科学、環境、プロセス関連の専門アプリケーションの開発にあたる。)

「アウトソーシング」がこのように理解されはじめて以来、アメリカでは、たとえばアンダーセン・コンサルティングがブリティッシュ・ペトロリアムに経理部門のアウトソーシングサービスを提供する(1991年)など、情報システム分野にとどまらず企業組識のあらゆる分野に導入されるようになる。今日の米国において「アウトソーシング」は、特にサービス産業の中で非常に大きなウエイトを占めているが、そのきっかけとなったのは、八〇年から八五年にかけてのアメリカ企業における活発な人材派遣の利用から、事業所向けサービスの時代の到来である。そして九〇年代には、特に総務・人事。経理といった間接部門でのアウトソーシング導入の効果が実証されはじめる。このような歴史を経て、アメリカでは今や「アウトソーシング」は企業の成長に必須な、強力な、コアビジネスの強化を可能にする経営手段として認識されるまでになったのである。

年表 アウトソーシングの歴史

年代

アメリカ

1960年代

伝統的なタイムシェアリングや専門的サービスの台頭

1963

●プリントレイが情報処理部門をEDSにアウトソーシング

●ペンシルベニア、ブルックシールドが情報処理部門をEDSにアウトソーシング

1980年代

80年代後半のリエンジニアリングの流れの中、アウトソーシングが新規情報サービスとして登場

1984

●GM(ゼネラルモータース)が情報システム部門をアウトソーシング

1989

●コダックが情報処理部門をIBMに委託<コダック・エフェクト>

●シカゴ市が駐車場管理をEDSにアウトソーシング

●IBMがアウトソーシングに特化した情報サービス系列企業(ISSC)を設立

●GD(ゼネラルダイナミックス)がCSC(コンピュータサイエンスコーポレーション)へアウトソーシング

●コンチネンタル銀行がコアビジネス以外の分野をアウトソーシング

コアビシネスの生産性の高度化等、積極的・戦略的理由によるアウトソーシングの広がり

1991

●BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)がアンダーセン・コンサルティングに経理部門をアウトソーシング

●コンチネンタル・エアラインが情報システム部門をアウトソーシング

1993

●IBMが人材派遣会社レノル社にスタッフ人員をアウトソーシング

●J.P.モルガンが情報システム部門を競合する4アウトソーサーにマルチ・ソーシング

1994

●ゼロックスが情報システムの運営・管理をEDSにアウトソーシング

1995

●コンパックが低価格パソコンの開発・設計を台湾企業に一部アウトソーシング

企業の戦略分野へのアウトソーシング、コ・ソーシングの時代へ

 

年代

日本

1960年代

コンピュータを自社導入しない中堅・中小企業を中心に、外部の計算センターへ情報システムを委託する動き

1980年代

情報技術の進歩と利用のニーズの高まりによってコンピュータの自社導入が進む。通信回線の開放に伴いリモートコンピューティングシステムや通信ネットワーク等の新サービスが登場

1989

●セブン-イレブン・ジャパンが野村総合研究所に情報システム部門をアウトソーシング

バブル期の好景気による人手不足のため、人材派遣に対する需要が高まり、派遣市場が大幅に拡大

1991

●サンリオが情報システム部門をアウトソーシング

1992

●三洋信販が日本IBMにシステム運用部門をアウトソーシング

●ヤマト運輸が情報システム、通信サービス、物流取扱・代行サービスを長崎屋、NTTにアウトソーシング

企業のリストラ、本業回帰の動きからアウトソーシングの動きが広がる

経理、人事、新製品開発、営業等幅広い分野におけるアウトソーシング導入の動き

1990年代後半

●パソナグループが広範なアウトソーシングビジネスを展開

 

第2章 アメリカにおけるアウトソーシングの現状

アメリカのアウトソーシングの市場規模と導入企業率

アウトソーシングの市場規模

1995年の市場規模と2000年の予測

1996年の市場規模と2001年の予測

The Outsourcing Institute

$76.0B→$121B

$100B→$318B

G2 Research

$114.8B→$282.6B

 

アウトソーシングを導入している企業率

アウトソーシング導入企業率

The Outsourcing Institute

90%(1997)

AT.KEARNEY

58%(1992)→86%(1995)

Nation's Business

87%(1996)

Hewitt Associate

93%(1996)

American Management Association

94%(1997)

 

The Outsourcing Instituteによると、1996年のアメリカのアウトソーシング市場規模は1000億ドルであった。依然として情報テクノロジー分野が全体の40%を占めてはいるものの、総務・人事・財務・経理・マーケティングといった分野が30%と、非常に高い割合を占めている。

「アウトソーシング」の実態を捉えることを目的として、同社はアメリカのリサーチ会社であるDun&Bradstreet社と共同でOutsourcing Indexを作成している。それによれば、1996年第三期の時点の分析で、アメリカにおけるアウトソーシング事業は一年間で35%以上の成長率を期待できることが予測されている。同時に、2001年には3180億ドルの市場規模を誇ると分析されているのである。

実際のところ、「アウトソーシング」の市場規模は調査を行う研究機関によって数値に多少誤差があるが、すでに1000億ドルを超えた市場であり、2000年にはその約3倍の成長率を見せることはほぼ明確である。

実際、アウトソーシング市場の成長率の早さは、The Outsourcing Instituteが、95年の時点で予測していた2000年の市場規模の1210億ドルが、96年次の報告では倍以上になっていることからも理解できる。

また、アメリカ企業におけるアウトソーシングの導入率に関しては、研究機関によって報告値に多少の違いはあるものの、現時点でほぼ90%以上の企業が何らかの業務のアウトソーシングを行っていることがわかる。加えて、アメリカのNation’s Buisinessが96年の3月に行い、5月に発表した誌上調査によると、「アウトソーシング」の導入率は、財務・会計部門が最も高い。

アメリカにおけるアウトソーシングの導入理由

The Outsourcing Instituteの調査によると、アメリカにおけるアウトソーシングの導入理由は、第1位は<カンパニー・フォーカスの向上>である。つまり、コア・コンピタンスへの経営資源の投入である。最も競争力があり優位な部門への投資を増やすことにより組織の成長が加速すると述べている。外部企業の専門性を取り入れることで客観性が保たれ、結果として、自社のコアコンピタンスへの集中・特化を可能にする。

2位は<世界レベルの能力へのアクセス>である。顧客の要求を満たす一流のサービスや技術を世界規模で提供できるようになることである。専門性の高い外部企業を利用する「アウトソーシング」を介して、企業は一流のサービス機能を獲得することができる。

3位は<リエンジニアリング効果の加速>である。「アウトソーシング」は、BPR(Business Prosess Reengineering)の副産物である。リエンジニアリングは全く新しい発想のもとで、業務内容・遂行方法の見直し改善をはかる手法である。企業は、すでにグローバルスタンダードにリエンジニアリングしたアウトソーサーにそのプロセスを外部委託することでリエンジニアリングの予測される効果をすぐに実現できる。そして多くの時間を社内の機能を競争力のあるものにするために活用できる。現在、ますます多くの企業が機能をアウトソーシングする決定をしリエンジニアリングの効果をすぐに獲得し、そのリスクを想定している。今日、アウトソーシングはリエンジニアリングの効果を確実なものにする手段になっている。

4位が<リスク分散>である。変化の激しい時代には、多くのリスクがつきものである。マーケット、競争相手、政府、規制、財政状況、テクノロジーなど、すべてはすぐに大きな変化をする。この変化についていくために、それぞれ次にどの世代が重要な資源とお金を必要としているかは極めて難しい。こうした投資を共有することで一つの企業に生じるリスクは限定される。その結果、柔軟な意思決定が可能になり、激しい変化に対応できるというメリットが得られる。アウトソーシングは、modular companyvirtual corporationagile competitorなどと呼ばれるものになるためのマネージメント・ツールである。

5位が<多目的への経営資源の転用>である。すべての企業は利用できる資源に制限がある。アウトソーシングすることにより企業はコア業務に資源を向け直すことが可能になる。ほとんどの場合、アウトソーシングにより向け直される資源は人的資源である。

6位が<設備投資資金の捻出>である。アウトソーシングはコア以外への業務への投資を縮小させる方法である。アウトソーシングはコア業務に資金の有効的な活用を可能にする。

7位は、<キャッシュフローの改善>で、そして、特筆すべきことだが第8位が<コスト削減>である。日本で「アウトソーシング」というとコスト削減ばかりが注目されるがアメリカでは第8位と下位にランクされている。ただ、The Outsourcing Instituteの報告にも、コスト削減はアウトソーシングする極めて重要な戦術的理由であると記している。

9位は<社内にはない経営資源へのアクセス>である。第10位が<経営困難、またはコントロール外の機能への対応>となっている。

アメリカにおけるアウトソーシング

今日、アメリカではあらゆるビジネス部門が「アウトソーシング」の対象になり得ている。製造部門のすべてをアウトソーシングするファブレス企業や、情報ネットワークを活用したアウトソーシング戦略で注目される企業など、戦略的なアウトソーシングによって事業拡大に成功している企業が多く出現している。極端な例では、直接売り上げを計上しない業務(=間接部門)は今後すべてアウトソーシングされていく、という予測すらされているほどである。

具体的な例として、テキサス州ダラスを基盤とするヘアケア製品のメーカー、Topsy Tail社があげられる。同社はアウトソーシングの積極的有効活用によって、バーチャルカンパニーとして成功している企業として有名である。1992年に設立され、わずか3人の従業員で年商8億ドルをあげている。製造から販売まであらゆる業務においてアウトソーシングを行っており、20以上の提携企業とのきめ細かいアウトソーシングを展開することにより、同社のコア・コンピタンスである新製品の開発とマーケティング戦略にすべての時間とコストを投入することができているのである。『アウトソーシングは、ビジネスを始めたばかりの企業にとって、その事業を確立させる最短にしてもっとも効率的な方法である』とTopsy Tail社はいう。

もちろん、大手企業でも「アウトソーシング」は効力を発揮している。「アウトソーシングの歴史」のところで述べたように、アメリカにおいて1990年代の大手有名企業による積極的なアウトソーシング活用の事例を見ることがっできる。また、Fortune500社に代表されるような優良企業の経営陣も「アウトソーシング」の積極導入は、『業務の活性化を可能にし、市場における優位性を促進させる有力な経営手段』であると、その効果を認めている。

第3章日本におけるアウトソーシングの現状

日本のアウトソーシングの背景と市場規模

日本でアウトソーシングが注目されるようになった背景は、様々な複合的な要因が考えられる。バブル崩壊にともない経済成長が鈍化し低成長時代に突入したこと、経済のグローバル化、規制緩和等がメガ・コンペティションを引き起こしコスト圧縮、品質の向上、競争力の向上等の必要性が生じた。こうした要因が企業の国際競争力強化、情報化への対応、コア事業への経営資源の集中といった、より一層の戦略的な目的によるアウトソーシングの拡大を生み出す背景となったと考えられる。

通産省は、報道発表資料で以下のような7項目にまとめている。

@景気鈍化等による、売り上げの伸びの鈍化、コスト増への対応。具体的にはリストラクチャリング・リエンジニアリングの推進、景気変動などにフレキシブルに対応するための固定費の変動費化、バブル期に肥大した管理・事務部門、ホワイトカラー層の圧縮、A国際的なメガ・コンペティションに対応するための効率経営志向、B企業経営の高度化・専門家、技術革新、業務の複雑化などに対応するための外部資源の有効活用、C急速な情報化の進展に、自社だけでは対応不可能、D限られた資源を有効かつ効率的に活用するための、競争力のある部門(コア業務)への経営資源の集中的な投入、Eアメリカにおけるアウトソーシング戦略の成功、Fアウトソーシングサービスの多様化、高度化、専門家、量的増加となっている。

市場規模は通産省が総務庁の「サービス業基本調査」より集計した結果によると、1994年の時点で事業収入が約25兆円、事業所数12.5万ヵ所、従業員数約207万人と算定している。これはアメリカに匹敵するものであるがアウトソーシングという言葉自体、まだ正式な認知がないため、その統計データも整えられていないためこれは、アウトソーシングのみに限定された数字ではない。したがって前述のアメリカの数値と直接比較はできない。

日本におけるアウトソーシング導入理由

日本におけるアウトソーシングの導入理由は、第1位が<専門性の向上>、第2位が<コスト削減>、第3位が<業務のスピード化>となっている。

日本のアウトソーシングの導入理由を検証してみると、「コスト削減」が大きな割合を占めている。これは、アメリカにおいて「コスト削減」が8位にランク付けされているのと比較すると大きな違いである。日本のアウトソーシング供給企業は広範な業種の大企業との安定した契約関係のもとに業務展開を図っている。という調査結果もありこれと含ませて考えると日本のアウトソーシングは人件費削減からはじまっているといえ、本来のアウトソーシングと趣をことにしている。

第4章アウトソーシングの定義

様々な定義事例

「アウトソーシング」という言葉は最近よく耳にするようになったが、その定義となるとさまざまな解釈の仕方があり、千差万別である。歴史的に見ても「アウトソーシング」は情報システム分野から始まり、戦略分野へと変貌を遂げており、時代と共にアウトソーシングの定義そのものが変化してきている。以下は、様々な研究者、機関によって行われた定義付けである。まずは情報システム分野からはじまったころのアウトソーシングの定義からみていく。

以上が情報システムのアウトソーシングの定義である。次に最近のアウトソーシングの定義を見てみることにする。

以上のようにアウトソーシングの定義は、時代とともに定義が変化していることがわかる。

また、現在においてもアウトソーシングの定義は様々存在して非常に曖昧である。しかし、本質はそれほど複雑ではないと思う。次に二つのモデルからアウトソーシングの本質に迫りたい。

花田モデルとBPRROIによるモデル

ここで二つのモデルを検証してアウトソーシングについて考えたい。

花田モデル

YES

コンサルティング

アウトソーシング

NO

人材派遣

外注(代行)

NO

YES

業務の

運営

 

BPRROIによるモデル

コンサルティング

アウトソーシング

B

P

R

人材派遣業

スケールメリット

労働代替型請負業

追求型請負業

トータルコスト(ROI)

慶応義塾大学総合政策学部花田光世教授が提唱するモデルが上記の花田モデルである。「アウトソーシング」は、従来から企業で伝統的に行われてきた代行や下請けとは概念を異にする。「アウトソーシング」とそれに類似する概念を、サービス供給側(=アウトソーサー)が行う業務の程度に基づいて業務の「企画・設計」と「運営」というマトリックスで分類したのがこのモデルである。

この花田モデルは、わかりやすいのが長所であるが、形態的な分類軸を設定しているために、実際の企業を分類しようとすると「外注」とか「代行」の範疇に入る企業の多くが、戦略的アウトソーシングに入ってしまう難点がある。それを克服するためには、分類の軸を「発注企業絡みた期待項目」に限定する必要がある。

そうすると、横軸の「業務遂行」であるが、発注企業は、業務遂行自体をアウトソーサーに期待しているのだろうか。発注企業が期待しているのは、業務遂行によってもたらされる何らかのメリットのはずである。そのメリットとしては@ROIの向上、A専門性の向上、B業務処理速度の向上、Cビジネスリスクの転嫁などがあるはずであるが、そのうち@ROIの向上が最大の期待要素であると考えられる。ROIとは投資利益率のことで投資額に対して、どれだけ利益を生み出せるかの比率である。ROIが高いほど投資効率は高く、有利な投資ということになる。そのように考えていくと、その下のBPRROIによるモデルが出てくるのではなかろうか。

BPRROIによるモデルは縦軸にBPR(Business Prosess Reengineering)をとり、横軸にROIReturn On Investment)をとったものである。縦軸にBPRを取ることは「アウトソーシング」はBPRの副産物であり、「アメリカにおけるアウトソーシング導入理由」で第3位に<リエンジニアリングの効果の加速>がランクインされていることを考えれば当然のことである。また、第1位の<カンパニー・フォーカスの向上>、つまり、コア・コンピタンスの考え方もリエンジニアリングのコア・プロセスの構築という考え方から出てきたものと理解すれば縦軸にBPRを取ることは納得できる。日本における場合においても、同様なことが言える。アウトソーシング導入理由の第1位が<専門性の向上>、第3位が<業務のスピード化>、いずれもリエンジニアリングの考え方、すなわち、BPRのことである。

このように考えると花田モデルよりもBPRROIの方が適切にアウトソーシング説明しているといえる。アウトソーシングの本質はBPRROIにあると考えられる。したがって「アウトソーシングとはBPRROIをともに達成できるものである」と結論づけられる。

終章

結論と展望

この論文では「アウトソーシング」とはなにかというテーマで調査してきたが、まだ定義そのものが確立されておらず論文のテーマとしてはやりがいのあるものであったが非常に難しいものでもあった。その中で現段階としては最適と思われる定義はBPRROIをキーセンテンスにしたものである。アウトソーシングとはリストラクチャリング、リエンジニアリングと経営手法が多様化する中で生まれてきたもので、最初は情報通信分野からはじまり、時代とともにその定義付け自体が変化してきた。今後も変化を遂げていくと思われるが、本質はBPRROIに基づくものだと考えられる。この2点を無視してアウトソーシングはありえない。「アウトソーシングとはBPRROIをともに成し遂げるもの」以上がこの論文の結論である。

わが国では、最近になって戦略的なアウトソーシングの活用が増えてきたとはいえ、それはいまだ少数派である。単純な「代行」、「外注」から一歩踏み込んだ、業務の企画・設計から運営まで一括して請け負い、BPRROIの効果をもたらす本格的なアウトソーシングが急速に拡大しない背景には、わが国特有の事情が存在している。

わが国の場合、特に大企業においては依然として、すべての機能を自社または自社グループで抱え込んでしまう「自前主義」が強い。しかも、「総務や人事は企業の要」というように、組織や人を優先する傾向があるため、過去から脈々と築かれてきた経営概念を突き崩してアウトソーシングを導入することに対しては、抵抗が大きい。また、戦略的アウトソーシングは従業員の移籍や組織の統廃合を含めて、ドラスティックに行う必要があるため、終身雇用など特有の雇用慣行を引きずるわが国企業にとっては「人」を含めたアウトソーシングは容易ではない。バブル期に肥大化した管理部門が問題となっている現状でもなお、企業の販売管理比率やホワイトカラー比率が低下せず、むしろ上昇しているのは、この事を裏付けている。

アウトソーシングの供給企業(アウトソーサー)は、ここ数年で急増している。事業所向けにユニークなサービスを供給する企業が次々に店頭公開を果たしており、こうした分野の90年以降の公開企業は80社あまりに達している。ただ、その実態はいまだ情報システム分野など一部の分野を除くと、高度な専門性を有する企業は決して多いとは言えない。供給マーケットの未成熟は当然ながらユーザー需要を顕在化させる上で阻害要因となる。

アメリカに比べてわが国で高度なアウトソーサーが育たないのはアウトソーシングマーケットそのものの成熟度の違いはあるが、その他にも以下のような背景の違いが考えられる。すなわち、アメリカの@利益率重視の企業経営、A活発な情報化投資、B企業の多さ等が、アウトソーシング育成の土壌になっているのである。また、アメリカでは大企業で長年専門業務に従事してきたプロフェッショナルが、独立してその経験やノウハウを活かしたアウトソーシング企業を設立する事例が多く見られる。一方、ゼネラリスト志向の強いわが国では、大企業でも特定分野の専門家が育ちにくく、したがって高度でユニークなアウトソーシング供給ベンチャーも育ちにくいといった事情も見逃せない。

アウトソーシングは企業がもっとも得意とするノウハウや経営資源を相互に提供しあうという点において、企業の経営効率を格段に高める可能性を有している。このため、アウトソーシングの戦略活用は、ひいてはわが国経済の効率を高めることにつながるのである。ただ、アウトソーサーの供給量を増やし、専門性を高めるためには、ユーザー市場の一段の拡充が望まれる。その点において今後の鍵を握るのがベンチャービジネス市場と、公的サービス部門であろう。

用語解説

エクセレント・カンパニー

超優良企業と訳される。トーマス・ピーターズとR.ウォーターマンの二人が、過去20年間を通じて革新性を発揮しつつ、財務内容のよい会社を選んだ。

リエンジニアリング

全く新しい発想のもとで、業務内容・遂行方法の見直し改善を図る手法。従来行ってきた遂行方法を変えることなしに業務の合理化を行うことには限界があり、全く発想を変えて業務遂行方法を抜本的に変革することで、大幅なコスト低減、品質の向上を実現させようとしたもの。

リストラよりもさらに積極的な合理化策がリエンジニアリング。

アメリカで生まれた考え方で、効率のよくない業務の流れ(ビジネス・プロセス)を組み立て直すことにより、業務のシステムを抜本的に革新する。このため「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」ともいわれる。

リストラの場合、不景気から脱出するために、人員削減・経費削減などいわゆる後ろ向きの合理化策を取ることが多いが、リエンジニアリングの場合は、逆に成長部門には人員をたくさん配置し、資金を投入するなど、前向きに業務の流れを立て直していく。

アメリカの自動車メーカー・クライスラー社が日本の自動車メーカー・本田技研工業のシステムをモデルに、企業の経営システムを抜本的に変えたことなどがこの代表的な例。

リストラクチャリング

企業が経済環境の変化に対応し、収益力を高めるために行う企業の再構築。具体的には成長部門への資源の再分配、不採算部門からの撤退、組織の簡素化、バランスシートの改善などを通して実施される。

コア・コンピタンス

他社には真似できない自社ならではの価値を持つ中核的な企業能力、あるいは自社が事業を行っていく上で社外に委託不可能な能力。

ファブレス企業

ファブレス企業とは、自社工場を一切持たず、製品規格と開発に主力を置くメーカーのこと。製造工程のうち部品加工や組み立ては行わず、独自に企画・設計した商品の製造を外部メーカーに委託する。いわばフロー型経営の典型である。

ファブレス企業の場合、経営資本をその分野だけに集中させればよいため、少ない経営資本でも成功する確率が高い。このためアメリカベンチャー企業の多くはこの形態をとっている。日本でもあっという間に一流企業に仲間入りしたゲーム機メーカーの任天堂がそのはしり。最近では、日本国内で開発した製品を生産コストのやすいアジア地域の工場に委託して製造してもらう傾向が強くなっている。

ただ、こうした形態では技術やノウハウが他社などに流れやすい。また、産業の空洞化を助長する恐れもあるなどのデメリットも指摘されている。

コ・ソーシング

アウトソーシングという元請け・下請けという垂直的な関係ではうまくいかない事例が多く、共同、共生といったイコール・パートナーとして問題解決していくポスト・アウトソーシングの考え方。EDSを代表に、コンピュータ・ベンダーのカスタマー部門では、このコ・ソーシングを自らのビジネス・コンセプトに捉えている。

BPR(Business Prosess Reengineering)

BPRとは、企業が事業全体の向上を図るという視点から、仕事の仕方や業務の流れを見直し抜本的に改革する、ビジネス・プロセスをゼロから再構築するということ。

modular company

コア・コンピタンス以外の機能を、外部に頼り、自分たちの力以上の実力を発揮することを目的とする。概念的には、バーチャルコーポレーションと同義である。

virtual corporation

仮想企業、仮想事業体。バーチャル・カンパニーとも呼ばれる。帰属組織にこだわらず、ある共通の目的を持った人間同志が集まって、あたかも企業のような組織を作りビジネスを行うこと。現実社会よりもサイバー・スペースにおいて、可能性と期待が高い。

agile

迅速な対応力や機動力が、企業の競争優位を決する経営資源と捉える考え方。大量生産を進めながら、迅速に小ロットの生産を実現させ、顧客の個別ニーズに応えるマスカスタマイゼーションを思考する競争戦略において、キーワードとなる。

ROI(Return On Investment)

投資利益率のことで投資額に対して、どれだけ利益を生み出せるかの比率。ROIが高いほど投資効率は高く、有利な投資ということになる。最低の投資の条件は、ROIが資本コストより高いことである。

OEM(Original Equipment Manufacturing)

相手先商標製品。委託を受けた相手先のブランドで完成品や部品を供給すること。家電や自動車などで広く行われるが、大型小売店がプライベート・ブランド(その店独自のマークをつけた商品)として利用するケースもある。

参考文献

「アウトソーシングの実践と組織進化」 ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部

「アウトソーシング」 経済界 牧野昇著

「アウトソーシングがわかる本」 日本能率協会

「知恵蔵」 朝日新聞

The Outsourcing Institute’s Top Ten Reasons Companies Outosource

The Outsourcing Institute

「アウトソーシング産業の育成に関する調査研究報告書」

通産省産業政策局サービス産業課

協力

野村証券金融研究所 経営調査部 副主任研究員 小松 信多佳様