約三ヶ月にわたってこの本で日本経済の現状について学んできたが、今回の不景気は今まで日本が乗り越えてきたものとは質はおろか予測が難しい点からも、深刻な違いがある。時代が変化すれば産業の種類が変化するのは当然であり、その意味では今までの経済体制に無理が生じるのは必然的であり、構造の抜本的な改革(規制緩和等)は避けて通れない。しかし私が深刻であると考える点は、こうした改革が必要とされる以上のスピードで日本社会全体の構造が変わっている点である。高齢化、少子化社会は、労働市場のみならず所得の移転など日本全体の資本の流れにまで影響を及ぼしている。勿論現在の日本経済の低迷の原因は他にもたくさん考えられる。たとえば産業の空洞化。しかしこれは規制を緩和するなり、法人税を下げて外資の流入をより促し産業に刺激を与えるといった、とりあえず現在打てる手段が考えられる。ベンチャービジネスも、もっと政府や銀行の援助を拡大することで、時代に合った独創的な産業が出現するかもしれない。
しかし、高齢化、少子化といった現象は一時的なものではなく、これから将来も進行していくものと考えられる。この現象に伴う経済全体の変化は止められるものではない。もっとこの変化に柔軟に、敏速に対応していかなくてはならない。
まず高齢化に伴う問題点として、公的年金を含む社会保障支出の増加である。ところが、現状の財政は国債の利払いに年金を当てるほどの火の車であり、財政赤字削減が必須であるため予期される支出の増加には手を付けられないであろう。つまり、変化に対応した手段をとることが今現在では不可能なのである。
次に、労働市場への影響はどうかというと、機械化による合理化で人手が以前より必要でなくなったことは確かであるが、頭脳主義であるがゆえに頭の固い年配者層には厳しい状況である。コマーシャルでパソコンスクールに通うおじさんたちが四苦八苦していたが、まさにあれが現実なのである。団塊世代といわれるいわば日本経済を支えてきた世代の人々が何人かで処理してきた仕事も、頭が柔らかくコンピューターに適応した若い人一人で処理できるようになった。つまり高齢化によって働く世代が高くなる一方で、実際仕事に必要とされるのは最小限でよいわけで世代層が狭められてしまう。
今後高齢化社会を支えるためにも、なんとかして現状の日本経済を立て直し財政赤字を解消して、社会を充実させなくてはならない。今までは、機械化という合理化によって経済成長を促進させてきたが、現在ではある程度達成され更なる飛躍が求められている。しかし、いまだ国民の意識の中には「日本の奇跡」が根強く残っており、更なる発展よりも今までの体制を維持しようとする姿勢を崩そうとしない。現実に社会構造が変化し、確実に体制が崩壊しつつあるにもかかわらず、対応しようとしない。何故ならば、日本国民が柔軟に対応できた時代はまさにキャッチアップ型の時代であり、機会かなどの具体策が目前にあったからである。外からある刺激を与えられれば、日本人は柔軟に適応できるが、具体策が目標として提示されないかぎり、それを模索しようと新しいことにチャレンジする積極性にかけている。この積極性の欠落はやがて社会に対して盲目的となり、改革を鈍らせてしまうのではないだろうか。
国民意識を変えるのは、勿論個人のレベルであるがやはりもっと現状の情報を流すべきであると思う。まずそのために、政府が客観的かつクリアな情報をもっと収集すべきである。官僚とのしがらみやお役所任せではなく、それぞれの分野での第三者的な専門家を配備し、しっかり監査して問題点を掘り下げていく必要があると思う。特に日本は義理人情だかなんだか知らないがしがらみというのが根強く、しかも国民の目の届かないところではびこっている。そういった悪習慣を黙認し、身を任せている政府では政策の信頼性がなくなるのも無理はない。内向的な国民を新しい変化に適応させるべくリーダーシップをとる政府なのだから、不信感をあおってはならない。客観的な情報を流し私たち国民もそれをしっかり受け止める。現状の社会、財政、経済成長はどうなのか、将来はどうなるのかを考え利潤追求を怠らない。やはり個々の利潤追求が経済を活性化させるのであり、そこから積極性が生まれる。かつてのように合理化といった具体策が出されていないにしろ、個人の利潤追求のための具体策は個人によって異なるわけで、やがてそれぞれが見つけ出せるものであると思う。それは高齢者層にも言えることであり、もはや年金は生活を支える最小限の援助という認識を定着させるべきである。そういう時代になったのだから、酷かもしれないが高齢者の方々にも利潤追求の姿勢を忘れないでもらいたい。
もう全体主義でなく個人主義であるべきで、平等主義でなく自分の特質を生かせばいい。この先社会全体だけでなく、アジアの台頭などによって国際的な位置でも変化せざるをえないだろう。そういった変化に急かされるのではなく、その現状での利潤追求をしていけばより周囲が見えてくるようになり、新しい「日本の奇跡」を起こすことになると願いたい。
W080161A 市川明子