転換点を迎えた日本経済

−「日本経済の歴史的転換」を読んで

E08-0630B 田辺 健太

「日本経済の歴史的転換」を呼んで、今、日本経済が大きな転換点にあることを私は痛切に感じている。もちろん、それは、著者がこの本の中で述べている「コスト条件の逆転と系列の崩壊」や「メインバンク制の崩壊」などこの本の全般から読みとることができる。しかし、それらだけでなく、もっと大きな、というよりも異質な変化が日本経済に今、生じているように私には思える。それは、経済成長である。あまり大きな報道をされた印象は私にはないのだが、経済企画庁の月例報告で、景気の拡大期間が戦後三番目に長い岩戸景気に並んだという話が先日あった。今回の景気は、GDP(前年比)の推移を見ると1993年11月にスタートしたということになるから、97年7月現在で45ヶ月間続いていることになる。これは岩戸景気(19587196112)の42ヶ月を抜き、バブル景気(19861219912)の51ヶ月、戦後最大のいざなぎ景気(196511199112)の57ヶ月に迫る勢いである。しかし、実感としては乏しいものである。本当に今は景気がいいと言うことができるのであろうか。いったい誰が戦後3番目の景気として今の経済状態を感じることができるのだろうか。そのように感じる原因は今の景気は過去の大型景気と比べて低成長ということである。つまり、今までのような、上がり下がりを繰り返して上昇した「右肩上がり」ではないということが決定的な違いである。これは、日本の経済が大きな転換点にさしかかっていることを意味しているのではないだろうか。つまり、もう「右肩上がり」の成長などありえないということである。逆の見方をすればこれからの成長は「右肩下がり」といえるのではないだろうか。

私がこのように考えるように至った要因は、莫大な財政赤字にある。今、財政赤字を削減しなければ、将来、大変なことになるということは周知の事実である。この事を具体的に数字を使って分析する。現在の国民負担率(税金+社会保障費)は、約37%である。しかし、これが2020年になると50%を超えると推計(経済企画庁推計−51.5%,通産省推計−56.4%,大和総研推計−49.8%)される。このようになると個人消費が落ち込むことは容易に想像できる。GDPの約6割を占める個人消費が落ち込めば、景気が良くなるはずはないのである。

だからこそ、財政赤字解消が早急に必要になってくる。そうなると必然的に、公共投資が抑制されることになる。しかし、この公共投資抑制は非常に大きな意味を持っている。というのも、戦後の日本経済は、景気が悪くなると政府が公共投資をすることにより雇用を作り出し、その波及効果で経済成長を支えてきた(ケインズの乗数効果)からである。しかし皮肉にも、経済成長を支えてきた、その公共投資が莫大な財政赤字を作り出すという結果になってしまってのである。今後の日本経済は、今までのようなケインズの乗数効果など期待できないということではないだろうか。言い換えれば、これからは戦後の日本が歩んできた道とまったく逆の道を歩むことになるといえると思う。これが私の考える公共投資抑制の大きな意味である。この意味を考えても日本経済は今、大きな転換点に直面しているということが実証されるのではないだろうか。

以上のことを考えると、今の経済状況は、束の間の「安定期」といえると思う。

しかし、日本の景気の先行きがくらいからといって悲観する必要はない。ただ日本経済や景気の行方を総論で語る時代が終わったにすぎないのである。これからの時代は「勝ちぐみ」と「負け組み」が2極化する時代であると考えられる。今後、私たちは2極化する時代の中で常に「勝ち組み」に残れるような努力が必要である。今まで、日本のビジネスマンは、規制と横並び社会の中で、役人との人脈を使って有形無形の利益を国から得ることに腐心してきた。その典型的な例が金融業界の護送船団方式であった。しかし、そのような考え方は、グローバル化し国境がなくなりつつある現在においてはもはや通用しなくなっている。そのことは最近の第一勧業銀行事件や、少し前のアメリカでの大和銀行事件を見れば一目瞭然である。これらの事件は、日本の世界に通用しない悪しき習慣がもたらしたといっても過言ではない。

今まで、日本経済は規制という温室の中で成長してきた。しかし、そんなことをしていては日本市場、経済の空洞化は、歯止めがかからなくなってしまうのである。ここで、私は国際金融業界でトップの地位を築いたアメリカ金融界のヘンリー・カウフマンの言葉を引用したい。「規制の法律より早く、新しい金融商品を次々に開発してゆけば、自由は目前に開ける。」彼はこのように述べている。これこそまさに今、日本のビジネスマンにかけている考え方ではないだろうか。ここにビル・ゲイツを生み出す国と日本の違いがあるように思える。「規制より早く」と考えればビジネスチャンスは無限に広がるのではないだろうか。

確かにGDPの数字と財政赤字のことを考えると、今後の日本社会は先行きが明るいとは言い切れないかもしれない。しかし、問題を一つ一つ解決していけば、日本はまだまだ発展の余地はあると思う。逆説的になるが、こういう時代だからこそビジネスチャンスが存在すると思う。それは、今までの日本経済がキャッチアップ型であり、今後はそれとまったく違い、今までと同じやり方では先が見えているからである。それを認識することさえできればそこにビジネスチャンスが存在するはずである。そうすれば、企業家精神の発揚や革新的イノベーションを起こすことができるのではないだろうか。