序章

 

日本経済は、アジア地域の通貨・金融市場の混乱、昨秋の金融機関の経営破綻、それに伴う家計や企業の景況感の厳しさが個人消費や設備投資等に影響を及ぼし、景気は停滞状態を示すようになった。これに対し政府は、21世紀を切りひらく緊急経済対策、所得減税、金融安定化策等、累次の景気浮揚のための施策を決定・実施に努めてきたが、内外の悪条件が一斉に重なって、雇用の先行き不安等を背景に消費が低調な動きとなるなど景気停滞は厳しさを増し、極めて深刻な状態となっている。それは97年度のGDPが実質で前年度0.7%減少し、第一次石油危機後の74年度に記録した0.5%減を抜いて戦後最悪のマイナス成長となった事が示している。また、長い間、優等生の座を維持してきた完全失業率も4.1%と戦後最悪となった。このように日本経済は戦後最大の苦境に追い込まれていると同時に、戦後初めてとも言える大きな構造変化の渦中にある事は間違えない。そこで、戦後最悪のマイナス成長は個人消費が戦後初めて減少した事に帰する為、国民生活の向上を概念に置き、21世紀の日本経済の繁栄を築くために必要な改革を財政、金融、産業構造の三つの面で考察していく。

まず、財政では財政構造改革法の問題点について触れ、財政赤字、政府債務増大の財政要因を探る。また、景気回復のための財政政策を考察する。社会保障については、年金、医療、介護の点から論じていく。

次に金融では、第一節で金融システムの効率的市場形成への構造転換を大まかに捉え、その中で今後不良債権処理の上で重要となる証券化について、また、第二節ではそのような構造転換の下で金融機関が取るべき針路について考察していく。そして、日本版ビックバンが消費者にどのような影響を与えるかについて論じていく。

三つ目の産業構造では、軽い高齢化とグローバルスタンダードを目指す方針で論じていく。

 

 

 

第1章 財政

第1節 財政構造改革 景気回復のための財政改革

1.「財政構造改革法」の問題点

・歳出削減の重点を社会保障関係費・民生的経費に置いている

「財政構造改革法」は、2003年度を目標達成年度としている。その意図は、高齢化社会に備えて、福祉対策を充実させるために財政改革に取り組むというものではなく、高齢化の進展による社会保障・社会福祉の財政負担の増大が、財政運営の障害とならないように事前に手を打つというものである。財政再建目標は、「国の一般会計の財政赤字削減に当たっては、特例国債(通称赤字国債)を優先し、目標年度にはその依存を脱皮する」としていることに留意すべきである。特例国債は、第4条債(建設国債)さえも逸脱した、財革法違反の国債である。したがって、この国債を優先的に削除することは当然のことといえる。だが、国債発行を一定の額で減額する財政構造改革の枠組みの中で特例国債減額を優先させることは、第4条国債の減額には手心が加えられることになる。つまり、経費削減・抑制において、社会保障費を中心とする消費的性格の支出が優先され、結果として第4条国債の適債事業である公共事業費が相対的に温存される。

「地方分権推進委員会最終報告」では、機関委任事務の廃止と補助金の整理は先送りされ、国からの税源移譲による財源拡充は見送られた。地方債許可制度廃止については、国との事前協議制を条件とされた。また、地方財政の健全化のために、地方交付税や地方債の削減、給与・定員の改訂、事務事業の見直し、民間委託、公共事業のコスト削減が求められた。補助金については、各省庁所管ごとの合計額を、対前年度比で10%ずつ削減するとしている。財革法は、地方財政に過酷な財政負担を強要するものである。

2.財政赤字・政府債務増大の財政要因

90年代の不況にもかかわらず、税収が増大している。その原因として、個人所得税・消費税など逆進課税を増大する形での大衆課税の著しい強化が挙げられる。一方、租税特別減免措置による課税ベースの縮小措置が大規模法人や高額所得者に傾斜して利用され、所得税率のフラット化など、累進課税に逆行する改変が進められてきた。これら一連の不公平税制の維持強化は、本来徴収すべき税収入を大きく脱漏することになった。

国の一般会計における公共事業は、揮発油税などの目的税による以外はほとんど全額第4条国債の発行によって財源手当てされている。一般会計に計上されている公共事業費は、国の直轄事業費はわずかであって、大部分は国の特別会計および地方の普通会計で施行される公共事業の補助金である。目的税と受益者負担のほかは、一般会計よりの受入れ金と借入金である。借入金の全歳入に占める比重は約62%である。国際的には、公共事業の比重は先進国のなかで最大規模であり、対GDP比率で見るとおよそ2〜3倍である。このように公共事業費が肥大化した原因は、日本の基幹産業となった重化学工業が資本蓄積を進めるために、社会的生産手段の整備が不可欠の条件として要求され、政府がそれに応えたからである。

総額約404兆円という膨大な累積政府債務は、民間金融でファイナンスされた分は約136兆円に過ぎない。政府債務の約7割が日銀を含めた政府内部金融によってファイナンスされている。いわば、市場法則ではなく政府の裁量によって動かされる公的資金に依存しているのである。

3.景気回復のための財政改革

現在望まれる景気対策は、足元の景気が危機的な状況に陥らないよう短期的な需要を創出しつつ、中長期的な成長率を上昇させる施策である。だが、公共投資を行った場合、それぞれのプロジェクトの便益と費用をきちんと評価して、より有効な投資が行われることは稀である。また、公共投資が適切な分野に行われる保証はなく、減税と違い政府のチャンネルを通じて効果が生じるため、政府部門の肥大化を招く可能性が高い。一方、減税は公共投資に比べ需要創出効果は小さいが、設備投資、民間消費という需要を生み出す。また、適切に設計すれば先述のルートを通じて中長期的な供給サイドの強化にもつながる。ばらまき型の公共投資の拡大を行ってもかつてほど景気は回復せず、将来の国民に大きな負担をもたらすだけである。したがって、恒久減税によって景気回復を図ることが得策である。

第1節のまとめ

財革法は、社会保障関連経費などの縮減を図り、財政赤字を改善させるものである。これは、高齢化の進展による社会保障・社会福祉の財政負担の増大が財政運営の障害とならぬよう、事前に手を打っておくものである。しかし、建設国債の適債事業である公共事業は相対的に温存される結果となっている。一連の政策は、国民生活の向上という観点からかけ離れている。高齢者や低所得者層に負担が重くのしかからないようにすべきである。

 

 

 

第二章 金融

テーマ 金融規制緩和以降の金融システムのあり方

 

第1節 金融システムの効率的市場形成への構造転換

日本版ビックバンの導入によって、間接金融偏重の金融市場から間接金融・直接金融を兼ねた市場へ転換される。そこで、効率的な市場の形成という観点から、資金運用規制の緩和、証券市場の改革、業務の組織形態の自由化、そして金融インフラの整備についての必要性を考察する。まず、資産運用の規制の緩和において、投資信託(投信)の整備が挙げられる。具体的には、銀行による投信の窓口販売の解禁に見られるような、投信の取り扱いに関する参入規制の緩和と、投信商品の中身の改善である。より有利な資産運用の形成を目指した資産運用の見直しは、大手機関投資家の運用規制の緩和のみならず、個人についてもこれら投信の整備が図られることによって、多様な運用手段が確保され、市場の原理が働く形での資金供給が期待される。こうした機関投資家から個人にまで及ぶ資産運用規制の緩和によって、間接金融のみならず直接金融への資金の流れも増え、間接金融の貸出市場と直接金融の株式や債券市場の間の価格裁定機能が高まっていくだろう。次に証券市場の改革については、株式売買委託手数料の自由化のほかに、個別デリバティブの解禁、ABSの解禁などの債権流動化手段の拡充といった証券市場の取り引き手段に関わる改善がある。委託手数料の自由化はまさに、固定的な価格体系から需給によって価格が形成される市場を創り出し、それを取り扱う証券業者に対して競争原理を導入するものであり、ヘッジ機能が期待される個別デリバティブの導入は、株式の価格機能を高める方向に作用するであろう。ABSといった証券化については不良債権の証券化と合わせて後述する。そして、業務の組織形態の自由化、いわゆる銀・証・保険の相互参入の促進より、価格機能が十全に発揮される市場の形成が、先に述べた資産運用規制の緩和、証券化取り引き手段の改善による金融商品の自由化、拡充に、参入規制に緩和を通じた金融プレーヤの多様化を伴って初めて可能となるため重要なのである。これら三つの改革は証券、投信といった金融商品の自由化、拡充と、それを担うプレーヤ間の競争の促進を通じて、金融市場の効率性向上を図るものである。こうした金融取引は一方で、法律、税、会計や決済といったいわゆる金融インフラといわれる制度的な枠組みによって規定されているため、金融インフラも効率的な市場にかなったものに変更することが必要となる。例えば会計について見ると、価格機能の発揮という観点から言えば、その時々の需給によって価格が変動するため、市場で活発に取り引きされる金融資産については、時価でその価値を計ることが必要となる。また、こうした時価で計った資産価値に関する情報を、タイムリーな形で資産の運用者や金融機関の利用者が共有することが必要であるため、時価情報や各種リスク情報を中心としたディスクロージャーを進めることも必要である。こうした金融システムの改革の下で証券化が重要視されている理由は、現在、日本の金融機関が持つ不良債権の処理の主役として、証券化が脚光を浴びているからである。不良債権を解決するには、不稼動資産の第三者への処分が必要である。しかし現実に担保不動産を処分しようとすると、担保権などの権利関係が複雑で執行に問題があり、地価も下落しているので売買が成立するのは困難である。そこで資産の処分に変わるものとして、米国で行われた不良債権の証券化が考えられる。証券化とは、企業が保有する資産を証券化商品の発行体であるSPCに売却し、SPCがその資産を裏づけにして証券を発行し、投資家から資金を調達する事をいう。この資産を裏付けにして、発行された証券がABSである。ABSの対象となる資産は、企業の売掛債権やリース債権、自動車ローンなどキャッシュフローを生み出すものならば、何でも可能といわれる。また、ABSの最大の特徴は、資産が保有企業から切り離されるため、資産そのものの持つ信用力をもとに、資金を調達できる事にある。そして、SPCに売却するため、バランスシートから売掛金を消す事ができるので、総資産を圧縮する事も可能になる。また、その資産の圧縮は金融機関にとって、早期是正措置導入による自己資本比率規制のクリアーとして重要である。そして、ABSの流動化は、その債権のリスクを多数の投資家に分散するため、金融機関のリスク回避につながる。このように、証券化は金融機関にとってメリットがあるが、今日の日本で不良債権を証券化するのには問題がある。確かにキャッシュフローを生む資産ならばなんでも証券化できるが、日本の不良債権の担保は、キャッシュフローを生まない更地がほとんどである。また、米国において不良債権の証券化が成功した理由の一つとして、当時の米国経済が回復基調にあり、不動産価格が上昇する兆しが見られたが、今日の日本の現状は、それと逆である。一方、証券化市場の整備として、SPCの法、税的制約の改革に、倒産リスクを軽減させるための民法の改正が進んでいる。しかし、これらは担保不動産を魅力ある商品にするための景気回復と並んで、時間がかかるため不良債権問題の早期解消は難しいが、証券化は、金融機関のみならず一般企業にもメリットが大きいため、ビックバンでの証券化市場創設は必要不可欠であり、それに当たり景気回復が急務である事は言うまでもない。

 

第2節 日本の金融機関の取るべき針路

ビックバンの導入によって自由競争と需給関係による価格決定をベースとした効率的な市場への転換が決定的となるに伴い、従来の持ち合いや参入規制といった非価格的・競争制限的な仕組みは、経営の行動原理としては早晩維持できなくなってくるであろう。効率的な市場において金融機関は、ROEの極代化の目的の下に、バランスシートの適切な運営を迫られる事になる。では、ROEの極代化を図る経営を実現するには、具体的にどのような活動が必要なのだろうか。これからは、自由で開放的な競争の世界になるので金融機関は自ら儲かる仕組みを戦略的に創り出していかなければならない。そのためには、同一単位の資本投入でも、より高いバリューを生み出す金融投資、金融取引を行う事が重要となってくる。当然、顧客との関係においても、長期的なリレーションだけでなく、顧客との個々の取引について、どれだけリスクを取り、どれだけバリューを増やせるかという視点を持たなければならない。そこで個々の取引のバリューを測るときのベースとなるのは自己資本である。バランスシートを時価評価して自己資本の価値を出し、個々の金融取引が自己資本の価値を高めるか、あるいは毀損するのかを考えることが必要である。企業価値の極代化を目指し、ROEの極代化を図る経営とは、自己資本をどのようなリスクに配分するかを考える経営ともいえる。そこで今後資金をリスクのある顧客にどのように対応し、リスクをいかに回避するかが問題となる。金融機関の重要な機関として仲介機関があるが、これはリスクを回避したい資金提供者とリスクから自由ではない資金需要者の間の仲介であることが基本となる。金融の自由化により、預金で集めた資金を相対的に少ない資金需要に対して貨し出さなければならないとすると、市場で決まる金利を軸として評価し、金利に差をつけることでリスクを回避すべき事になる。すなわち、各資金需要に対する金利は、市場金利にリスク・プレミアムを加えたものと定めるのが、市場の金利との裁定条件になる。このリスク・プレミアムを適切に評価することこそが金融機関の仕事である。そして、リスク・プレミアムを評価する際に、情報を得る必要があり、その情報提供機関である格付け機関の役割が今後大きくなる。前述した証券化によるリスク回避や、先物などのデリバティブ市場を活用することも重要である。また金融機関が顧客のニーズを満たすために創意工夫を生かす業務の自由度が大幅に高まる。そこで販売方法が多様化される中、テレホンバンキングや金融取引の電子化が必要不可欠になる。テレホンバンキングによりマス個人層の取引を集中処理できれば、金融機関は営業店の事務負担を大幅に削減し、その分法人・富裕層といった、より高度な金融サービスの提供を必要とする取引に人員を重点配置でき、営業体制の効率化が可能となる。また、電子マネー、電子決済が普及することになれば、現金はもとより金融機関口座を使う手形や小切手などの従来の決済手段より遥かに利用性の高いものになる。特に、遠距離間での決済が容易に行えるのがその特徴である。電子化とは無人化であるため、金融商品の注文の受付から執行までの行程を電子化することにより、コストが削減・節約でき、従来以上の手数料の引き下げが可能になる。しかし、電子マネー、電子決済が個人や一般企業に普及する様になると電子化に伴なう問題が出てくる。それは、顧客以外の者が、顧客の端末から注文を引き出すということである。これに対しては、パスワード、暗証番号等の本人確認措置を厳重することが必要であろう。これらの金融技術は一部の銀行で行われているが、既に海外でこのような技術を用いた競争に馴染んでいる外資系金融機関に日本の金融機関は太刀打ちできないであろう。そこで、商品開発力や資本運用力の面で、外資系との合弁会社の設立や業務提携の形での協力は免れないであろう。また、今後生き残るためにはせざるを得ない選択といえる。現実に、日本の大手金融機関が外国の銀行や資産運用会社と業務提携を行う事例が数多く見られるようになっている。

 

まとめ

以上のように、日本版ビックバンで市場原理が働く金融市場が形成されることにより、日本の金融機関対外資系金融機関、またそれらの合併、提携同士の競争が激化する。そうした中、消費者はより高度な金融サービス、高い金利を付けた金融商品の恩恵にあずかることが出来るようになる。しかし、消費者は取引先の金融機関や金融商品、サービスの選択とその結果に関して、厳しく自己責任を求められるようになる。消費者が金融機関を利用する場合の基本は、その金融機関の内容をよく把握しておくことである為、金融機関の経営内容開示に金融商品、サービス提供に伴う情報開示や説明の充実、いわゆるディスクロージャーが必要である。

金融は実体経済を映す鏡と言われる為、ビックバンにより日本の金融システムがグローバルスタンダードに近づき活性化すれば、21世紀の日本経済は、今現在の暗く長いトンネルから抜け出し明るいものとなろう。

 

 

 

 

第3章 産業構造

 

  1. 超高齢化社会 −高齢化社会の産業構造−
  2. 1990年に「1.57ショック」という言葉が社会的に大きな問題となった。人口の再生産をを長期的に安定させる合計特殊出生率は2.1である。しかし、女性の社会進出による晩婚化、未婚などで、1975年頃から出生率は低下し続け、1977年度の出生率は1.39までに下がった。一方、死亡率の推移を見てみるとこれも戦後一貫して低下傾向にある。このような出生率の低下と死亡率の低下という状況が続き、日本は急速なスピードで超高齢社会に向かい、この影響として労働人口の減少、貯蓄率の低下とそれにともなう投資需要の減退、国民負担、社会保障や年金に対する不満といった問題が浮かんでくる。日本経済の長期的な衰退を防ぐために、今産業構造の変化による軽い高齢化が必要である。ではどういった改革が必要なのであろうか。 まずは労働力資源の活用と生産性の向上である。高齢者や主婦など、潜在的な能力と、就業意欲のある人が働きやすくなるような制度を整えなければならない。高齢者の雇用において、定年制の延長も一つの方法であるが、高齢者が従事しても顕著に労働生産性が低下しない職種を見つけ、高齢者=低生産性といった考えを改めるべきである。個々の能力を見極め退職後の雇用機会と再就職といった制度を導入し、生涯雇用といった形にするのが望ましい。女性の雇用においては、年々の労働参加率は上昇してきているが働く母親に対して幼児の世話や産休制度が充実していないといったケアが不十分であるため、働きたいのに働けない主婦が多くいる。社会的労働供給の低下を避けるためには女性(特に30代〜)の労働しやすい環境を作り、労働力参加を高めするべきであろう。また、こうした制度を整えた上で、なお労働力人口の低下は避けられず、労働時間の短縮傾向を逆行すべきではないという状況において「技術革新」と「労働力の質の向上」を鍵に生産性を向上させることも重要である。

    次に、高齢化が進み、長寿国となった日本において、今後の成長産業となる医療サービス・介護サービスの問題が深刻になっている。医療サービスにおける現状の最大の欠陥は市場原理が働いていないことである。供給が需要をつくり、市場における適正な価格調整と医療サービスの供給が決定されていないのである。患者側に医療サービスに対する情報と知識がないため判断と選択をする余地がないのである。患者側のコスト意識を高め、供給者主体のシステムを作ることが必要である。介護サービスでは、高齢化の進展にともない、福祉・介護のニーズが高まることは明らかである。これまでのシステムでの問題は、本人負担が少なくコストの高い病院に長期入院すると、莫大な医療保険の負担となることだ。そこで、できるだけ高齢者が自宅で生活できるよう医師とホームヘルパーの連携により日常生活の継続とするのが良いだろう。今後、在宅医療のニーズはますます高まるであろう。医療・介護サービスの重要性は高まっている中、ただ寿命をのばすだけでなく身体的、精神的にゆとりを持った豊かな長寿を目指していくべきである。

    4人に一人が高齢者という超高齢社会を目前に、日本の経済の成長を停滞させないために、各分野で改革を行い、軽い高齢化を実現させなければならない。

     

  3. 国際社会 −グローバル化時代の産業構造
  4. 日本は戦後、経済成長の過程で政府が情報を独占し、資源配分を管理し、市場に任せるより政府が主導するという形で経済成長を成し遂げた。85年9月のプラザ合意後、名目所得はトップになり、キャッチアップ時代は終了した。グローバル化の進展のもとで、日本の今までのような不透明な戦略を続けるわけにはいかなくなっている。内外価格差が拡大し、国内の物価水準や生活コストが高いため、日本の立地条件は不利であり、企業は海外移転の傾向を強めている。低価格商品の生産を発展途上国にゆだね、国内生産は付加価値の高い多品種少商品の生産に移行しつつある。このような時代で、日本の経済が国際分業の進展で「悪い空洞化」となるのか、それとも産業構造の高度化により国際社会の中で成長を遂げるのか、重要な分かれ道となっている。そこで求められる構造改革は何であろうか。

    一番に求められるのはやはり「情報開示」であろう。情報開示は国際的な相互依存のうえからも不可欠である。日本に魅力が欠けているのは、システムが不透明で信用されていないという点である。企業や市場のシステムが不透明では、投資も招き入れられず日本は取り残されてしまうであろう。そして次に求められるのは「規制緩和」である。政府の規制は、国内産業の保護の必要性から正当化されていたが、現在の日本の経済にとっては、むしろ非効率で高コストの源である。これらを撤廃して、国内企業だけでなく、外資系企業の市場の参入を促進することで、競争圧力を高め、市場の効率化を向上させ経済活性化を図る必要がある。

    「情報開示」と「規制緩和」を実行した上で、国際化が従来以上のスピードで進むと、情報通信革命を通じた新産業改革が不可避となる。米国、東南アジア諸国では予想を上回る速度で情報通信改革が進み、日本の対応の遅れはそのまま日本産業の国際競争力の喪失につながる。また、情報通信改革下では、ネットワークの重要性が高まってくる。ネットワークの活用は、市場競争を促し、経済効率を高めるであろう。

    日本はかつて欧米から技術を学び、技術を積極的に導入し応用して独自の技術を開発し欧米を追い越した。こういった日本の勤勉さ、器用さ、柔軟な対応により日本の産業は強まっていった。品質のよさという点で日本は世界のトップレベルにある。国際社会の中で日本の強さを全面に出し、弱い部分を修正し適切な対応をしていけば国として豊かになる道は確実に存在するであろう。

     

  5. 今後の産業構造

経済の発展とともに産業構造は、第1次産業中心から第2次産業中心へ、そして第2次産業中心から第3次産業中心のへと高度化していくと考えられた。今の日本の成熟化した社会の中で、第3次産業のあり方は大きく変わってきている。消費者主体で、消費者のニーズに即対応できるサービスが必要となっている。教育・福祉・介護・医療のなど潜在的需要の多い分野にも多くのニュービジネスが発生し、成長していくであろう。

しかし、今後の日本の産業構造は第3次産業よりむしろ第2次産業、製造業の比重が多くなると思われる。規制緩和の進展により、運輸、通信、電力といった製造業にとってのインフラコストは引き下がり、製造業の国際競争力を回復させる。中でも、集積回路、半導体、超精密加工技術を生かした日本製品電子部品、パソコンを中心とした情報通信機器の新製品の需要が高まるだろう。労働供給力不足をカバーするため生産性の水準を高い水準に維持するには、技術革新を続ける必要がある。特に情報通信技術の確信はあらゆる製造業のプロセスイノベーションを刺激し、新たなビジネスも発生するであろう。生産システムの革新により第2次産業のウェイトは高まっていくであろう。

国内経済が悪化している中で、産業構造は今、大きく変化している。グローバル化、高齢化、情報化といった社会変化の到来で、各産業で新産業が生まれてきている。規制緩和を実行させ人材を開放し、新しい産業に挑戦しやすい環境を作り、成長の可能性のある産業に力を入れることができれば日本経済が発展していく可能性は十分にあるであろう。

 

 

 

 

終章

 

 

かつてのキャッチアップ時代の日本経済は、急速な成長の可能性があった。また人口構造も若かった。したがって、政府が開発資本主義型の戦略を採用し、市場を管理して資源配分を行う事には、それなりの正当性と妥当性があった。ところが、経済社会が成熟し、急速な成長と若い人口構造という前提条件が失われた今日、こうした戦略は完全に機能不全に陥ってしまった。このような状況のなかで、財政、金融,産業構造の3つの面について国民生活の向上と照らし合わせながら考察してきたつもりである。

 

過去一世紀のキャッチアップの時代には、発展が優先されるあまり経済社会システムの整備はなおざりにされてきたが、二十一世紀に先進国としての繁栄を実現するためにはこれまでのシステムそのものの改革が求められている。

そのため、必要な情報が十分に開示され、明瞭なルールによって運営される透明で公正な経済社会のしくみが整備されれば、国民は事態を適切に理解し、責任を持って選択することができるであろう。またそのことで、国民生活の向上がより一層計られることになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

財政

日本財政の改革

財政のしくみ

財政改革が日本を救う

 

金融

金融改革と日本経済

銀行勝ち残り戦略

金融大改革のゆくえ

 

産業構造

新・日本産業

日本再浮上の構想