序章

経済のグローバルかが進む中で、国際通貨システムは非常に重要視されてきている。まず現在の国際通貨体制である変動相場制に至るまでの歴史と現状について見ていく。

現在ドルは世界的にも広く使われており99年1月にユーロが導入されるが、これがどのように通貨体制に影響を及ぼすかをドルとの関わり合いも含め考えていく。またアジアの通貨危機に際し、通貨の番人であるIMFが果たして適切な処理が取れていたのだろうか。また現在のシステムに問題はないのかといったことを踏まえ、世界経済の安定に必要な国際通貨制度をどう築き上げていくかということについても合わせて考察していきたい。

 

第1章 通貨制度の変遷について

最初に出来上がった国際通貨体制は、国際金本位制であり主要国が金をベースとする通貨制度が確立した結果自然と発生的に形成された制度である。この制度の基本的用件は、中央銀行の金(金貨)への無制限兌換が保証されていること、国際間の自由な金輸出入が認められていること、ならびに各国間通貨当局が金準備高の増減にあわせて通貨供給量を増減させるものである。しかし現実には、金本位制を採用している国の間で金の移動が頻繁であったわけではなく通常はロンドンに保有するポンド・バランスによって決済されていた。この体制では、イギリスの適切な世界経済運営によりポンド不足も発生せず、相場は安定していた。1914年第一次世界大戦の勃発により金本位制はその機能を停止したが、大戦終了後、各国ともインフレの進行に悩まされ、通貨の安定を望むようになり、新しい形で金本位制は復活した。この特徴は一部の基軸通貨国を除きほとんどの国は発見準備として金に加えて、金為替を保有する傾向を強め、この体制は国際金為替本位制と呼ばれるようになったそしてドルがポンドと並ぶ基軸通貨を占めるようになり、フランは醇基軸通貨の地位を占め、複数基軸通貨の体制が強まった。この体制のもとでは、国際流動性の供給は円滑に行われず、世界的にデフレの傾向が強まった。1929年に始まった大恐慌がきっかけで次第に主要国は金本位制から離脱していきブロック化していき、第2次世界大戦に向かうこととなった。1944年、ブレトンウッズ会議において新しい経済秩序として、為替の安定を図る国際通貨基金<IMF>と戦後の世界経済の復興などを支援する<IBRD>そして貿易に関して<GATT>などが発足した。IMF設立の基本的理念は各国が自国本意の政策をせず国際金融協力を促進するためのルールを確立することだった。為替の安定として固定相場制が採用された。為替の変動は1%の範囲に維持され、また金との兌換制持っていたのは事実上ドルであった。そして、加盟国の収支が不均衡になった場合、切り下げも可能だった。また自由で多角的な国際決済が認められ、外貨不足などの国際収支至難に陥ったときには短期間融資が与えられた。この体制は、最初の20年間はうまく機能したが、1960年代になると、アメリカの力が相対的に弱くなり、それによって金準備高とのバランスが悪化していき1971年のニクソンショックによりブレトンウッズ体制は崩壊した。この異常事態を何とかするために、新しい基準相場を設定しその上下を2.25%とした。これがスミソニアン体制だったがこの体制もドルの信用回復がうまくいかずに、結局1973年2月変動相場制に移行した。

 

変動相場制では当初、国際収支の自動調節機能が働くことが期待されていたが、時が経つに連れて、その機能が十分に働かない局面が多く出てきた。例えば、資本取引が活発になり、金利差が相場に大きく影響を与える場面では、為替レートは必ずしも経済収支を均衡させる水準に決まらず、まったくかけ離れた水準で推移する期間があるということである。変動相場制は1973年以来順調に進んできたわけではない。各国の貿易収支の不均衡の問題をはじめ、多くの問題が論じられたが、それに対応するために協調介入や各国のマクロ経済の政策協調などで、何度も崩れかけそうになったこの新しい通貨システムを支えてきた。したがって、現行の変動相場制は当初のものとは同じでなく、先進各国により管理された変動相場制といえる。

 

変動相場制のもとでは相場変動は極めて大きく動いてきた。各年度内の相場の最大変動率を見ると、変動制移行後の21年間平均、また最近10年間、5年間の平均値はそれぞれ15%を超えている。相場の変動はこのように大きかったが、変動相場制のもとで貿易、投資活動は停滞することなく、むしろ着実に増大してきた。貿易量について言えば、アメリカ、日本とも変動相場制に移行してからの伸びは固定相場制の時期を上回っている。国際的な資本移動は盛んであった。だが一方で、変動相場制はやはりこれらの活動の阻害要因として働いてきたと見るべきである。また、これまでに遭遇した相場変動の問題は今後の国際経済活動を消極的にする要因として影響を及ぼすであろう。

 

国際通貨に関わる最大の問題は、国際取引、決済および海外準備資産に圧倒的な役割を占めるドルが、純債務残高5500億ドルを超える世界最大の債務国通貨だというところにある。

 

ロンドン市場

ロンドン市場が取引高で断然世界のトップの座を占めてきているのは以下の理由による。

  1. 歴史的に為替取引の中心地として“シティー”(The City)の機能が確立していること。具体的にはディーリングのためのインフラが整備されているだけでなくディーラーおよびブローカーともに質量面で優位を誇っていること。
  2. 24時間ディーリングが広がるなかで、前場がアジア、中近東、欧州大陸市場と重なり、後場にはニューヨーク市場と重なる地理的な優位性があること。
  3. 為替取引と密接に関連しているユーロカレンシー・ビジネス(ユーロ資金取引、ユーロカレンシー貸付、ユーロカレンシー起債など)がロンドンに集中していること。これらのユーロ資金(ドル、マルク、円など)取引と為替取引が、同じメンバーの銀行、ブローカーの間で行われているので、関連する通過の転換や、裁定取引も自在に行えること。
  4. 以上を背景として各国の銀行支店など活発な市場参加者が多くかつ機能が多様で懐が深い。
  5. ア通貨に対する顧客のニーズが生まれてきており、為替銀行も積極的な対応を見せている。

  6. 経済統合を果たしたEU(欧州連合)の中心市場として、欧州通貨の取引が著しく活発化していること。

市場規模としては先に述べたように全世界の為替取引の27%という大きなシェアを持っており、為替市場の中でロンドンの比重は近年更に高まりつつある。

ロンドン市場の特徴としては銀行間取引を主体とする市場であることが挙げられよう。いわば国際的な卸売市場としての性格が濃く、進出外国銀行による取引の比重が高い。(取引高の80%)。また卸売市場としての性格はスポット(直物)取引の比重が多く、先物取引はほぼ全量がスワップであり、アウトライト先物取引が少ないところにも現れている。

取引される外貨の中で、自国ポンドの絶対量は当然他の市場より多いものの、全取引量の4分の1にも達してないことも国際市場としての特徴といえよう。さらに欧州、EUの国際市場としの性格はマルクをはじめ欧州通貨とECUの取扱比重が大きいことに示されている。

ニューヨーク市場

基軸通貨ドルのホームマーケットであり、またアメリカの大きな経済力を背景とする巨大な為替市場である。世界三極の一つとして拡大を続けているが、自国通貨ドルをベースとする取り引きが圧倒的に大きい。最大の取引量はドル/ドイツマルク(全体の34%)であるが、円、カナダドル為替についてはロンドン市場を凌ぐ取引量をもっている。取引の大きな部分がアメリカ国内の市場参加者の中で行われているのが1つの特徴で、国境を越える取引の比率はロンドン53%、東京市場が46%であるのに対してアメリカ市場は35%にすぎない。

ニューヨーク市場は、かつてアメリカ・タームという自国通貨立ての建値をとっていたが、この慣行を廃して(英ポンド以外の相場建値を)ヨーロピアン・ターム(アメリカにとっての外貨建て)に切り替え、他国の市場に揃えた事が取引円滑化の一大契機になった。そして、アメリカ企業の国際化による為替リスクの増大から、多国籍企業が財務の管理をニューヨーク本社に集中する流れがあってヘッジ取引盛行を招いたこと、アメリカ証券に対する諸外国からの投資が増大したこと、アメリカの銀行が為替ディーリングを収益部門として位置づけたこと、同じくブローカーが国際業務に積極的になったことなどが市場拡大の背景になった。さらに、主要市場一般にいえることである。コンピューター利用の積極化により銀行が為替持高の管理を日→時間→分単位に圧縮したことが直物取引の急増をもたらしたと考えられている。

スワップ取引、オプション取引、フューチャー取引など新しいタイプの為替金融取引が盛んであることもニューヨーク市場の特徴である。

東京市場

ロンドン、ニューヨークについで世界第3位の市場規模を持ち、80年代にもっとも拡大した市場である。

東京市場が大きく成長した背景には、@年間6000億ドルを超える貿易規模、A世界最大のネット債権国として対外投資、特に証券投資・直接投資が活発であったこと、B国内における外資取引(外貨貯金、インパクトローンなど)が活発で、これら外国為替の手当ての多くが東京市場で行われることなどに加えて、Cアメリカと欧州をつなぐアジアの中心市場としての役割から多くの取引がもたらされるからである。この東京市場の拡大は、為替取引に関する規制が80年代前半に大幅に緩和されたことにより可能となったといえる。

東京市場(広義)の特徴としては、顧客による大きな需給を背景とする市場で、総取引高に占める対顧客取引の比重が大きいことが挙げられる。また、我が国の貿易決済あるいは対外投資に主として用いられる米ドル円為替の取扱高が際めて大きく、総出来高の65%に達している。(1993年)前述のBIS調査で、東京市場のもう1つの特徴とされているのが先物取引に占める比重である。総取引量の57%に達しているが、これはニューヨーク(38%)、ロンドン(47%)の両市場と比較して高い水準にある。理由は顧客が貿易あるいは投資証券などのリスクカバーのために米ドル先物(対円)を売買することが多く、また為替銀行もこれらのカバー取引に加えて自らの資金ポジション操作のためにスワップを多用するためと見られる。

80年代の後半にはマルク、ポンド、スイスフランなどの欧州通貨の取引が増加した時期もあったが、過去数年の規模はむしろ縮小気味である。欧州への投資が停滞していること、一般に欧州通貨は日本の顧客との取引が少ないためコスト高の東京では採算が取りにくいこと、などが背景にあると見られている。巨大なドル/円市場に比べればまだわずかな市場にすぎないが、我が国企業の対アジア進出、貿易、投資関係の深化を背景に各種のアジ

ア通過に対する顧客のニーズが生まれてきており、為替銀行も積極的な対応を見せている。

 

 

 

 

 

 

  1. 国際通貨システムにおけるユーロ

  1. ユーロは国際基軸通貨になれるか

一定の収斂基準を満たした国により単一通貨圏が創られる。

この基準を満たした参加国は、1997年1月1日にはそれら諸国の通貨との間の換算相場が不可逆に固定される。そして2002年1月1日にはユーロ紙幣と硬貨が流通し始め同年7月1日にはユーロ圏参加国の通貨は法定通貨としての地位を失う。

こうしたユーロは国際通貨として重要な位置を占め国際通貨体制を大きく変えていくのだろうか。ユーロが国際通貨として機能を果たすには次のような条件を満たす必要がある。

(1)、通過の汎用性―通貨発行国の経済規模(名目GDP)や貿易額によって測られる。

(2)、通過の信認性―通貨価値の安定に対する金融マーケットの信頼のことで、通貨発

行国の金融・経済政策の安定性と健全性が維持されることにより培われる。

(3)、通過の利便性―金融市場の規模と効率性などによって測る。

このように創出されるユーロはどのような通貨になるだろうか。単一通貨導入のデメリットとメリットを考察してみる。

  1. 単一通貨導入のデメリット
  2. (イギリスを除く)欧州諸国の経済は景気低迷にもかかわらず通貨統合への参加基準を達成するために各国が財政赤字削減と物価安定を過度に重視した政策(デフレ政策)を続けてきたので、伸び悩んでいる。通貨統合後も創設されるECBは金融市場の信頼を獲得するためにも当面はインフレ政策を取らざるを得ない。財政についても財政赤字の抑制を目的とした「財政安定化協定」(通貨統合参加国の財政赤字がGDPの3%を上回った場合は制裁金を課す)が導入される。これにより欧州全体の経済は安定するものの各国は減税などによる景気浮揚策を行う余地が狭まれる。

    この結果、通貨統合が失業問題を悪化させかねない。デフレ効果により経済成長は抑制され新規雇用は伸び悩む。その一方、歳出削減の影響により失業給付が抑制され社会不安が高まる。また職業訓練や産業構造の転換促進など雇用に向けての政府の取り組みも停滞してしまう。

  3. 単一通貨導入のメリット

  1. 国際基軸としての可能性

ユーロが国際基軸通貨になれるかという点では、(ドル並みの)国際通貨となる資格は兼ね備えている。その根拠としてまず、ユーロ圏GDPの合計や外国為替取引に占める通貨別シェアはアメリカに匹敵すること。金融市場の規模の面でも、外国為替市場や債券市場はアメリカに同等であること。このほかにもECBの独立性が保証されていることなどがあげられる。また、先に述べたデメリットを克服していけば国際通貨としての重要な地位を占めるだろう。

他方、国際通貨としてのドルの地位は低下しつつあるとはいえ、その優位性は当面続くだろう。なぜなら、永年の市場慣行はなかなか変化するものではないという「慣性効果」の存在があるからだ。日本の地位低下は続いている。その理由には日本の金融市場の閉鎖性、マクロ経済の低迷、アジアにおける円のプレゼンスの低さ(アジアという高成長地域に位置しながら、そのチャンスを活かしていない)があげられる。

このことから当面の間ドルとユーロの二極体制になるのではなかろうか。これはドルの一極体制を安定の方向へ導くだろう。なぜなら国際通貨がおきた時、ECBはドイツ連銀より危機収拾のために多くの資金を市場介入に使える。よって為替相場の乱高下は起きにくくなり、現在より安定するだろう。

 

第3章国際通貨安定に向けて

第1節 IMF体制

「世界の成長センター」として高成長を遂げていたアジア経済を通貨危機が襲った。アジア通貨危機は外貨資本の流出が急激かつ大規模に変化したことにより発生、金融資本市場のグローバリゼーション化が引き起こした21世紀型の通貨体制である。これにより現在までのIMF体制への再検討の声が高まった。またアジア通貨危機に関しIMFは包括的かつ厳格ともいえるコンディショナリティーを課し、当該国に対し緊縮的な経済政策を余儀なくしているとの懸念も広がっている。IMFは今後21世紀に向けどう当該国と密接な連携を取り21世紀型の通貨危機に対し独自の機能を果たしていくかを考察していく。

  1. アジア(インドネシア・韓国・タイ)通貨危機とIMFの支援

インドネシア

国有銀行の資金内容、金融システムの脆弱性、民間対外債務の残高統計不在に伴う債務履行への懸念によりルピアの下落テンポが一気に加速、IMFに金融支援を要請した。支援条件(図1)。しかしIMFの金融支援決定後もルピアの下落に歯止めがかからずその上強制的なIMFコンディショナリティーにより両者は鋭く対立した。スハルト氏はルピア相場にCBS(カレンシーボード制)を導入する独自の方針を打ち出したが「親族推輓主義」のための措置と受け取られ外貨準備高の不十分を理由に却下された。最終的にIMFにより独自の方針も廃止されることとなった。

韓国

輸出不振、金融システム不安による対外債務の履行、企業の資金繰りの悪化による財閥破綻によりウォンの大幅な下落が発生した。韓国の危機の基本的な原因は資本の大部分が金融機関経由の海外からの短期資金で賄われていたことにある。そこにIMFはメスを入れた(図2)。これによりIMFなどから融資が与えられたことにより韓国は当面通貨・金融危機を回避できる見通しとなったがIMFからは98年のGDP成長率を3%以内に抑え、BIS規制により国内業務を営む金融機関に最低8%の自己資本比率を要求されている。

タイ

ドルペッグ制もとで外貨流入が発生、ポートフォリオ投資により経済が過熱し、産業構造の未成熟にもかかわらず民間部門の資産バブルの発生が起こった。後に輸出の減速、不動産バブルの崩壊に伴う金融システム不安から為替リスクヘッジのドル買いが加速した。これにより融資条件に沿って包括的経済再建築(図3)を受け入れた。

第2項 IMFの課題と今後の展望

IMF支援を受ける国は財政均衡化や経常収支の改善など目標達成のため歳出削減や増税、緊縮的な経済政策をを余儀なくされている。IMFは経常収支の悪化に対応した支援メカニズムは持っているが、短期の流動性危機に関する備えは十分ではない。IMFの政策とはあくまで国際基準に即したものであり、それが当該国の内情に合っていない部分がありそれが弊害を起こした。構造的改革なくしてこれからの国々の更なる発展は有り得ないということは言うまでもない。しかし改革進行については当該国がIMF処方箋の実行姿勢を強調表示した上でIMFと当該国が金融システムの状況を慎重に見極めつつ密接な連携を行うべきであろう。

今後21世紀に向け、IMFはどう機能していったらよいのか。長期的展望としてみていく。

  1. グローバル金融市場が形成される中で多国籍金融資本援助を監視するのに十分な協調体制として地球規模の中央銀行のようなものを設立し国際金融支援体制の整備とともに世界的な資本監視体制の強化を行なう。
  2. 世界をブロックに分け、かくブロックごとの中央銀行と監視組織の形成

今後の通貨危機に備えたアジア独自の支援体制「アジア通貨基金(AMF)」の構築 第2節 国際通貨システムの安定化に向けて

はじめに

低迷する日本経済を象徴するように、円相場が1ドル=140円台まで下落した。こうした今日の為替水準の変動は、米国、欧州の経済の好調さと、日本を含むアジア経済の低迷を象徴的に示している。こうした展開に拍車をかけているのは、足元の経済格差だけではなく、通貨の競争力そのものだ。

現行の国際通貨システムの現状は、このように様々な問題を提起している。第1項で、現行の変動相場制における展望を論じ、第2項で、今後の国際通貨システムのあり方、国際通貨システム安定化への提言をしてゆく。

第1項

まず、変動相場制の短所と長所を述べる。短所@短期的浮動性A実質均衡レートからの大幅で持続的な乖離Bマクロ経済政策における節度と協調の欠如 長所@国際収支調整の促進A海外インフレからの隔離B国内金融政策の独立性と有効性などである。

これら短所からいえることは、為替相場の不必要な変動を最小限に抑え、必要な調整を秩序だって行えるような国際通貨システムを築くことが挙げられる。為替相場は2国間の価格の比較であり、その通貨を発行する2国の政策当局のどちらの政策によっても影響される。従って、長期的な均衡レベルから為替相場がかけ離れることで経済的コストが生じる場合は、不当な通貨変動を是正するために、政策当局が市場に介入する。その際、考慮すべき点がまさにその国がとる政策が外国為替市場とそれらを通じて相手国の当局に影響を及ぶことである。

だから、為替相場を制御するための国際協力こそが、すべての国にとって利益となるような各国経済の政策協調を実現する一つの方法である。また、各国政策当局がそうした国際協力を破るのを防ぐためには、情報の共有や、遵守状況のモニタリング、ルール違反者への制裁などの制度化が必要と考える。

今度は、長所から国際通貨制度を述べる。各国政策当局は外国為替市場における自国通貨の価値を安定させるために市場介入するが、絶えず介入し続けるわけではない。政策当局はある水準では為替相場を抑えようとするが、それ以外では市場に任せている。つまり、自国通貨と基準通貨との間の為替相場を一定の変動幅で維持しようとする。それは、為替相場の目標を明示した条件付きルールを目指す傾向があるということである。こうした案は、インフレーションの抑制や国際的な経済統合を促進する目標と、国内の経済安定政策の自立性を確保したいという欲求とを調和させることを目指したものである。

つまり、条件付き為替制度の目標は、固定相場制と変動相場制のそれぞれの利点と組み合わせていることになる。すなわち、通常時における通貨の安定性、予測可能性、インフレに対する信頼性を持ち、いざという時には、為替相場安定の目標と対立する各種政策を適切に調整する柔軟性も備えていることになるのだ。

第2項

第1項で述べてきたように、各国は依然に為替相場の変動にあわせて自国のマネーサプライを自ら調整することはできるだろう。しかし、自国通貨を相当期間にわたって特定通貨に固定連動して行けるのか。現時点において、安定した重心を持たず、為替相場の安定が相互の利益になるというコンセンサスもない現在の国際通貨システムの環境下では、主要国が、様々な自己規律の要素を備えた国際通貨システムを制度化することで合意にもっていく基盤ができていない。こうした現状をふまえて、国際通貨システムの安定性は、基軸的な中心国があるか、あるいは主要国間の力関係が適切な均衡状態にある場合、一番達成されやすいという理念に基いていることを確認し、国際通貨安定への提言をする。

各国が選べる国際通貨制度の選択肢は様々ある。各国は、他国の決定を所与として、それぞれ自国の立場からみて最適となるような国際通貨体制を選ぶだろう。例えば、国際的な信用供与制度を伴ったターゲットゾーンや、相互に市場介入を義務付けた管理変動相場制、あるいは通貨同盟などがあるが、これらの選択肢は1国の政府だけでは活用できないものだ。しかし、グローバルに移動する資本の規模は非常に膨大で、巨大な資本移動が始まるのをコントロールする一つの手段となるだろう。

ここで提言したいのは、経済のファンダメンタルズでは説明のできない市場の振れに対処するためのある種の危機管理メカニズムを作り上げることだ。そのためには国際通貨の動きを安定させるためにもっとも重要な条件は、主要国同士が、国内の貯蓄と投資の不均衡、すなわち対外経常収支の不均衡を抑制するための政策をとるべきだという共通認識を持つことだ。

このことはIMFの組織の中に危機管理メカニズムを機能させる機関を造ることだ。その機関のメンバーが市場を混乱させる動きを見つけたときは、彼らはそれが過度の乱高下か、あるいはミスアライメントかであって、修正が必要なものであるかどうか突き止めようとし、機関は当該の政府と中央銀行にマクロ経済政策か、外国為替市場の調節か、あるいはその両方を含む行動をとるよう要求する機能をつけることである。

 

 

 

 

<終章>

戦後一貫して世界の基軸通貨であったドルは、既述のようにその信任の面で大きな問題を抱えている。この間、日本円とマルクが国際通貨として台頭しつつあり、準備通貨としても、また貿易、貸与、起債などの民間投資に用いられる通貨としても地位を向上させてきた。現在日本は先にも延べたが、円の価値が低下してきている。よって日本はビックバンによる金融システムの閉鎖性の解消、規制緩和による日本経済の活性化、アジアでの円の使用の促進などの改革を行い、日本の円の地位向上を目指すことが課題である。一方ユーロは、国際通貨となる可能性が高い。(ユーロ)と円の国際通貨としての機能をさらに深めていくことにより、ドルの基軸通貨としての負担を軽減され、この三極間の関係を安定的に保つこと、つまり複数基軸通貨体制がこの先世界経済に望ましい仕組みになるのではないか。これを将来の国際通貨制度として米、日、EUの間で政策協調を行いつつ相場の変動幅を縮小し、他の通貨はそれぞれの経済関係と基軸通貨の信任度をベースにいずれかの基軸通貨にリンクし、全世界としての通貨関係を安定させていくことになるだろう。また三極体制が深まれば現在国際通貨が抱えている問題の打開にも有効であると考えられる。なぜなら多くの通貨が、基軸通貨としての機能の代替をはたすどあいが大きくなればなるほど、通貨価値の安全と金融センターの効率性をめぐっての実質的な競争が生まれそれぞれの基軸通貨国が経済の運営節度、金融制度を盛らざるを得なくなるという効果を生むからだ。

 

 

 

参考文献

 

「外国為替入門」 古海 建一 日本経済新聞社

「外国為替のしくみ」 小口 幸伸 日本実業出版社

「国際金融のしくみ」 忠夫 本田 景吉 有斐閣アルマ社

図解「ユーロ」を読む 亀井 弘和 中経出版

欧州単一通貨のすべて 東京経済新報社 国際通貨研究所

顔のない国際機関 IMF−世界銀行 北沢 洋子、村井 吉敬 学陽書房

検証 アジア経済 平田 東洋経済新報社

二十一世紀の国際通貨システム 岩波書店

経済学辞典 岩波書店

アジ研ワールド・トレンド NO、35 6月号

orbs July1998

世界経済評論 5月号

外交フォーラム 2月号

国際問題 4月号 日本国際問題研究所