今週の顔


本−再販について−


経済学部経済学科3年 

 ゼミ内で発表した内容に関しては、あまりにも個人的であり過ぎると考えましたので、内容を変えました。本、得に再販制度に関して考えていることを簡単にまとめました。なるべく一般的な話に留めたつもりです。

 最近のニュースで、日本の古い慣行を破壊する可能性があるものがありました。ドイツ最大の総合メディア企業ベルテルスマンが日本国内で初の書籍値引き販売を2003年から始めます。日本はCDや本に代表されるように、普通値引き販売されません。CDは一部安く売られているところも見られますが、だいたい定価販売ですし、本もほとんど全て定価販売です。どちらも安く買おうとすると、中古で買うくらいしか選択肢がありません。

 それは、日本に古くからある、「再販制度」のためです。1953年から再販売価格維持制度−再販制度があるために、値引き販売されません。その根拠は、文化の振興・普及への影響があるためです。書店にとっては、発注権がありませんが、売り残りは全て出版社に返品できるため、販売店にとっては在庫によるリスクはごく小さくなります。出版社にとっても値下げせずに再販売可能ですし、発注権が書店にないために作った本は発注がないから書店に並ばないということもありません。

 反面、価格が変動しないというのは、問題が生じます。消費者は競争の原理が働かないため、同じものを安く購入することができません。出版社や書店にとっても、売れ残ってはどうしようもないので値下げして売るということもできません。

 アメリカで普及している、インターネット・ショッピングによる、書籍販売(代表格はamazon.com)が日本では今だに甚だしい普及が見られない理由の一つもそれにあります。インターネットでは、実際に書店で買うときのうように実物を見て購入できません。そのため消費者にとっては、そのような短所がある分、何かしらの得がない限り、そのような短所がある面ではなかなか購入するよう行動しないと考えられます。例えば、インターネット上でしか売っていない、忙し過ぎて書店に行って購入する暇が無いなどでしょう。そのような理由がない場合、得というと、書店よりも安くするというのが一番、消費者にとって、インターネット上で本を買う動機になると考えられます。つまり、実物を見て買えないリスクがある分、値段が安くないと買う気にならないというように考えられます。日本の場合、再販制度があるため、このようにインターネット上でも値引き販売ができないために、普及しないと考えられます。最近では、「○○円以上買うと配達料無料」というのが見られるようになりましたが、それが該当しない場合、『書籍価格+配達料』がインターネット・ショッピングでかかるわけですから、なおさら買う気がおきないのも当然と言えます。これはCDにも該当することです。

 日本では近年、出版業界は苦しいというニュースを聞きますが、その原因の一つとして、価格による競争原理が働かないためであることが挙げられると私は考えています。内容による競争も大切ですが、価格も重要な要素です。それを見直す必要があるのではないかと私は思います。また、音楽業界も同じく業績が芳しくないニュースを聞きますが、インターネットによる不正コピーが原因でありそれをできなくするためにCD自体にコピーできなくするプロテクトを始めました。アメリカでは個人が楽しむためのコピーの権利が保障されているため、日本のようにプロテクトされていませんが。これも同じく、内容や価格を問題にせずに、短絡的に決め過ぎている面が強いのではないでしょうか。別のニュースではインターネットによる音楽データの共有により、音楽CDの購入は減っていないというものもあります。著作権を守ることは必要ですが、このような消費者の利益を阻害するものが残るかは疑問です。

 販売量を増やすには、やはり質、内容、価格など基本的な要素を考え直していくことが大切なのではないかと考えます。今回の、ベルテルスマンの日本進出のニュースは、このような古い慣行・制度を淘汰することを私は期待しています。そしてそれを通して、どちらの業界も活性化すればと思います。公正取引委員会はこの制度の廃止を「当面」先送りしました。「競争政策の観点からは廃止すべきだ」という方針は残っているようですが、その「当面」を早く実現するのに一石を投じる形になるのではないかという期待をしています。

 また、逆に再販制の良い面である、既刊書籍が手に入りやすいという面も残して欲しいという贅沢な期待も持っていますが。読書好きな私にとっては安く、欲しいものが手に入るという状態になることを、イチ消費者として望んでいます。それを通して、さらなる日本人の知的水準の向上ということもあるのではないでしょうか。