1998年度  

情報経済論履修者へ  

授業内容の確認  
 

1998.7.8 

 今回は最初にネブラスカ大学からのフュース客員教授を招いてゼミで討論をした時の資料から、情報化社会の特質の一つである格差の拡大とテクノクラートの役割から話を始めた。実際、情報化社会では知力が基本であり、教育を受け、創造的な仕事の出来る人(テクノクラート)とそうでない人との差が広がる傾向が既に出ており、アメリカ経済の将来には現在の大きな知的レベルの格差が社会の発展にマイナスとなることが心配されている。このことは既にダニエルベルが「脱工業化社会」論の中で論じていることである。この他、情報化社会論の系譜を探ると、マッハルップの「知識産業論」、マークポラトの第1次レベル、第2次レベルの情報処理の把握方法、ジョンシャーの「情報財」、「経済財」の2分論、などがあり、最終需要、付加価値の両面から情報化の進展を探ることが試みられている。
 これらの研究で言えることは既にアメリカでは1960年代から情報化は進展を見ていること、そして情報財、および経済財の二つの側面は互いに補完しながら経済全体を推進させること、情報産業の影響が次第に大きくなってきていることなどが上げられる。 その後、その情報産業が大きくなる一つの理由として、こうした産業が収穫逓増産業であることを論じた。本来、産業革命以来収穫逓減を前提とした産業論が展開されたが、情報産業には収穫逓増の要素があることによって様々な点で異なるわけである。また、いわゆるデファクトスタンダードと呼ばれる事実上の標準をめぐる動きも併せて考えると、それらが重なり合った形で情報産業の大きな核であるネットワークの拡大の際の重要な考慮すべき要素となるのである。
 その他今回は、簡単に不確実な情報の下での意思決定の問題に触れ、期待効用の理論(効用を確率によって加重平均したもの)による説明を行った。この考えによれば、期待効用が高くなるような選択を行うことが合理的であることとなる。さらに、効用の受け止め方によって危険に対する態度が異なり、確実性より危険を伴うが平均的により高い効用を求めるケース(risk taker)や、その逆のケース(risk averter)があること、そしてこうした経済主体の態度が今後のビッグバンにおける成功にも影響することを説明した。
 最後に、本来情報化社会はこうした不確実な状態を改善することが可能となる社会でありその利点として次のような例を挙げた。例えば、不確実な情報下では、完全情報下に比べて生産数量が低下するなどの経済効率の低下が見られるため、これの改善が情報化によってなされることが必要である。しかし、同時にこれまで述べたようにブラックボックス化を含めて新たな不安定性が生じることもあることを指摘した。
宿題
前回と今回で述べられた情報化社会で考えるべき視点について自分なりにまとめよ。
 

1998.6.30 
最初に、米国の労働生産性と実質賃金の伸びをインターネットからとってグラフ化した。 
http://www.bls.gov 
米国の伸びの高さが印象的であった。 
次に、自然独占の概念の説明に入った。本来独占は独占力を行使し、完全競争時より少ない生産数量と高い価格設定が行われ、社会的余剰が小さくなる。これが問題となり、独占禁止法などにより規制が行われるものであるが、c(x1+x2)<c(x1)+c(x2)の場合のように一社が独占した方が企業が個別に生産するより低コストで生産を行えるとき、政府の管理下で独占を認可するものである。多くは、固定費が変動費に比べて相当程度大きな装置型産業で、需要が十分でなく、かつ公共政策上どうしても必要なものであるときである。これに当てはまる産業に日本では通信産業があった。1985年の通信規制緩和元年に、日本電信電話公社が株式会社になり、NCC(New Common Career)による市場参入が認められたが、これにはいくつかの要因が考えられる。 
@ 公社組織では、X非効率と呼ばれる組織上の非効率を避けて通られなかったこと。 
A政府の決定する価格設定に当たっても、情報の非対称制に基づく問題が大きかった。 
B 将来の競争力に大きな影響を与える技術開発力に他社との競争によって刺激を与えること。 
C 光ファイバーなど固定費のウエイトを下げるような技術が開発されたこと。 
D需要量が十分に大きくなり、 c(x1+x2)<c(x1)+c(x2)の条件が変わったこと。 

このように規制緩和元年は大きな意味を持っていたが、実際には政府による通信価格設定が最初高く、米国に比べて十分には下がらず、例えばコールバックのようなことが可能となるほどの価格差があった。 
 

1998.6.23 
これまでミクロの立場から技術の導入、そしてその結果としての生産性の向上を検討したが、今度はマクロ的な視点から見ることとする。 
労働生産性の伸びの重要性は、実質賃金の伸びのみならず、国際競争力など、重要な経済変数に影響を与える点である。 
H (労働生産性) 
W(名目賃金) 
e    (為替レート)、e>0円の価値の上昇 
                  e<0  円の価値の下落 
P (国内物価指数) 
Pf(輸入物価指数) 
X (実質為替レート)= e P/Pf 
Xの変化率は国際競争力の変化を表す。Xの上昇は国際競争力の低下。 
@Hの変化率 = W/P(実質賃金)の変化率 
A Xの変化率 = eの変化率+Pの変化率−Pfの変化率 
これらから、戦後の一貫した円高にもかかわらず、生産性の上昇によってこうしたマイナス要因を押さえてきたという、基本的な方向が見えてくる。 
その後、NEEDSからデータを読み込み、演習を行った。 

宿題 
演習の結果を感想を添えてメールで送ること。 
 
 

1998.6.17 

今回から、ネットワークの与える影響を検討を始める。最初にコンピューターの持つ調整コストの低減効果が市場と組織に与える影響を考えた。調整コストとは、実際の取り引きに伴う様々なコストで、例えば「お互いの意志の疎通を図ったり商品やサービスを適時適所に配分する調整活動」に要するコスト(「ネットワーク新時代の企業」、マローン、ロッカート、望月宏訳)でコミュニケーションコストを含むものである。このコストは考える以上に現代の産業経済では大きなものであり、コンピューターのこのコスト低減効果は非常に大きいものである。現代社会が複雑化し、調整集約的な構造を求める中で、情報技術はそうした構造を促進する最大の技術である。具体的には、コンピューターは競争する生産者同士、生産者と消費者をネットワーク化し、不必要な調整コストを下げるのに役立っている。 

例えば、生産者のネットワークが組まれているとき、余力のある生産者にすぐに需要が伝わるケース、商品が売れる都度供給会社がその商品を自動的に補充することにした結果、自社の購買部の多くを圧縮できたワルマート社(小規模のデパート)のケースなどを見れば、調整コストを大幅に減らすことが出来ている。 

また、市場と組織のバランスを考えると、調整コストは組織内よりも様々な取り引き相手を模索しなければならない市場での方が大きくなる、一方で、生産コストは自ら生産する組織の方が、購入すればすむ市場よりも大きくなる傾向がある。コンピューターが調整コストを低減するとすれば、このバランスが崩れ、組織内で自ら生産するより、市場で購入することが増えてくるようになると考えられる。その結果は、例えば、市場化の進展であり、アウトソーシングの推進であり、大型の垂直統合型の従来型組織からより小規模なものへの変換であり、また、トフラーの言うところの柔軟な「アドホクラシー」(プロジェクトの絶え間ない変化に応じるために、各プロジェクトごとに資源を適正配分し、組み合わせ、プロジェクトチームを編成する組織)の登場である。従来型の組織は、情報技術が導入されるまでは、最も調整コストを小さく出来るものであったわけであるが、横のコミュニケーションが非常に大事になる現在のプロジェクトにはネットワーク技術が必需品であり従来の組織形態に変わる「アドホクラシー」のような組織が出現してもおかしくないのである。 

次に後半は、ネットワークの外部性と機会費用との関係、ネットワークの栄枯盛衰の分析を行った。最初に、情報化社会の意思決定の一つの指針として、いわゆるペイオフマトリックス(行動x状況マトリックス)から得られるリグレットマトリックス(各状況における行動選択の結果として得られる最大利得との差)を基準にし、機会損失を最も少なくするような行動を選択するという仮定を置く。一方で、ネットワークの持つ強い外部性の存在、すなわちより多くの構成員からなるネットワークはそれ自体、他のネットワークに対して外部効果(市場を介さない経済効果)を発揮するということを考えたとき、その外部効果はネットワーク間の相対的な機会費用に、技術とともに大きな影響を与えることをモデルで示した。このモデルによれば、ネットワークの拡大、あるいは縮小の過程を示す一つの説明を与えることが出来る。具体的な例として、パーソナルコンピューターのOS間の争い、カーナビゲーションシステムの競争、ハイビジョンの問題などを取り上げた。 

課題 

@ネットワークの組織と市場に与える影響を検討せよ。また、Aネットワークの外部性とは何か説明せよ。 

1998.6.10 

これまで、技術の導入の組織に与える影響を鉄鋼産業、ソフトウエア産業で見てきたが、今回は、サービス産業のケースを取り上げる。初めに、生命保険業界の例。オンライン化が末端の営業マンの持つ端末まで進む中で、処理案件の性質によって、直接本店に繋がるものや、現場で処理可能なものなど意思決定システムに影響を与えた。銀行業の例では、殊に第3次オンラインの役割について検討を行った。銀行業の国際化、金融の自由化によって、これまで部門毎に行っていたシステムが統合化された。国内の業務、全国銀行システムとの連結、さらに海外市場および海外部門(海外支店など)との連携が可能となった。これによって引き起こされた影響には、業務の連続化によって、瞬時に一つの処理が完結すること、専門家でなくても容易に業務をこなせるようになったことに加え、専門職、一般職、地域限定職など、キャリア選択制度の導入などである。 

これまでのケースから技術、特に情報技術の特性が見えてきた。その最たるものは統合である。統合の経済性は各ジョブの中にある様々な機能間における補完の強化、代替、重複の整理が図られることである。この統合によって、情報技術は連続性、確率性、抽象性という、これまでの技術とは異なる特徴を備えることとなる。これによって、仕事の性質も監督、監視、制御などとなり、抽象的論理的分析能力がより必要とされてきた。また、分業との観点から見れば、逆分業を進めながらも、生産性を上げて行くという新しい方向性を探ることが出来よう。 

また、技術の取り込に際する日本の労働者の態度は、バブル当時までは一部労働者の技能が機械にとって変わられる側面を持つものの、より高い高度な技術習得の可能性に期待を持つものが多く、積極的と見られる。最近の状況についてはいまだデータが集められてはいない。 

課題 

サービス産業における情報技術の役割と影響を検討した後で、情報技術のこれまでの技術との違いを検討せよ。 

  

1998.6.3 

最初、インターネットからのデータの取り込みの練習を行うため昨年の貯蓄と投資のバランスの推移の表を使った。 

次に、本論に入り、リエンジニアリング、リストラ、そして組織の水平化の中で、最後のテーマにつき、その歴史的経緯を説明した。コンピューター技術の導入が組織に与える影響を考える場合、@意思決定への影響、A組織の階層への影響、B人間の能力への影響を問題にすることが多い。1950年代、コンピューター技術の導入は、当時の大型コンピューター技術を背景に中央集権的な意思決定システムを築きあげたが、その後、パソコンの導入によって、逆に分散処理的になるという変遷の歴史がある。その中で、組織の水平化はどちらの場合も生じており、歴史から得られる結論として、一種不可避的なものともいえるかもしれない。 

さて、次に先週鉄鋼産業(ハード)の歴史の中に見られた技術の導入の歴史を検討したが、今回はこれとは逆のソフトの産業を例に取り、技術進歩の影響を考えた。ごく初期のコンピューターが、ハードとソフトの未分化な状態から、OS,プログラミング言語、構造化あるいはモヂュール化という、技術進歩の中で、ソフトウエア労働が分離してきた。米国ではソフトウエア生産が、世界に先駈けて進歩をとげいているが、その方法は立方、行政、司法に比べられるべきSD,Programming,Testerにはっきり分離されているのに比べ、日本ではこれらが交じり合い、未分化である。このことが日本のソフトウエア業界の生産性の低さの一因とも考えられ、ハードの場合とかなり異なる様相を呈する。しかし、長期的にはソフトウエア労働者の動機付け(ProgrammerがSDになりたいという動機付けなど)の面からは未分化の方が良いとする考えもある。 

これらに関連して、日本のソフトウエアの歴史を述べ、国防省などの政府資金の投入があった米国と比べて、民間主体であったこと、技術力の低い派遣が主体であること、大手のメーカーの下請けが多いこと、社内生産が多く国産品の市場が育っていないことなど、産業としての成熟度は米国と比べ見劣りがすることを説明した。しかし、一部にゲームソフトなどの様に創造的な領域や、ソフトウエア工場のように、終身雇用の下で、エラー率の少ない質の高いソフトが作られていることを忘れてはならない。 

課題 

ソフトウエア生産における専門性に基づく分業と、柔らかい分業とを比べ、その功罪を論ぜよ。 

  

1998.5.27 

最初に、課題のリエンジニアリング、リストラ、組織の水平化の概念の違いを論点に寄せられたいくつかの学生の文章から再度検討した。次に、前回と同様に表計算がまったく初めての履修者に対して、大型コンピューターからGDPのデータを取り込み、前年比を出し、グラフ化をする練習を行った。 

具体的な手続きは以下の通りである。 

  

@Communinetの中のM680Hを起動させる。user idとpasswordを入力。 

A>>が出たら、NEEDS と入力しenter keyを押す(テンキーの右のキー) 

B以下、 

メニュー形式を選択 

日経総合経済データを選択 

所得統計、その中の主要系列、さらに国内総支出(生産)、名目を選択 

Cデータの形式、データの始まりと終わりの時期を確認する。 

D選びたいデータを”S”と入力して、指定する。 

ここでは、民間最終消費(CP)、政府最終消費(CG)、総固定資本形成(I)、在庫増加(J)、財、サービスの輸出(E)、財、サービスの輸入(MP) 

Eenterを押す。 

Fデータの取り込み画面で、MSDOS形式のフロッピー、データの種類(月、四半期、年など)、データの始まりと終わりの時期を指定する。 

Genterを押すと、@HENKAN.DATAにデータが保存されたと表示される。 

Hこのプログラムを一度終了し、再度M680Hを起動させる。user idとpasswordを入力。 

I>>が出たら、IFITと入力。 

JHost−>Terminal(1)、データ名として、@HENKAN.DATA、フロッピーのファイル名として、A:¥DATA(ここは好きな名前を入力) 

Kenterを押すと、データが大型コンピュータから、フロッピーに転送され、transmissionの完了通知が出る。 

LExcelを起動し、フロッピー上のファイル(ここでは”DATA”)を開く。そのさい、ウイザードの中で、カンマ区切りを指定する。 

M前年比=(本年ー前年)/前年*100により、前年比を計算する。 

Nグラフ化 

  

さて、次に本論に入った。 

今日のテーマは技術とそれを受け入れる組織風土の問題である。 

最初に、戦後日本で行われた労働生産性3原則の成り立ちと、それが新しい技術取り入れの際の日本の労使関係に与えた影響を検討した。次に、日本の鉄鋼業における技術の取り入れの歴史を調べた。そこで得られた結論は、 

@新技術はより若く、かつ学歴の高い労働者を要請した。 

A経験の長さを基にした、伝統的な組織体勢は崩れた。 

Bスペシャリスト体制から誰でも出来る体制へ組み替えが行われた。 

C分断されていた分業体制が、コンピュータなどの新技術の導入で連続化され、逆分業がなされた。 

D所属部署の配置転換、また構造不況による会社をまたがる人員の再配置が行われた。 

こうしたケーススタデイからも、いかに日本の労働者が労働生産性3原則に支えられ、新技術の導入に積極的に取り組んだかを見ることが出来た。さらに、この傾向はバブル前の労働者の意識調査においてもおおむね同じであることを見た。ここでも、専門別分業(アメリカ)と柔らかい分業(日本)という、組織風土の差が、技術導入に大きな影響を与えていることを読み取れる。 

宿題 

専門別分業(アメリカ)と柔らかい分業(日本)が、技術導入の際に与える影響について、その功罪を論ぜよ。 

授業の感想を添えて、私あてにメールを送ること。 

1998.5.20 

最初に、表計算がまったく初めての履修者(約半数)に対して、教科書を使って概略説明を行った。内容については、電算機入門、経済学基礎演習を参照のこと。 

後半では、最初にこれまでのリエンジニアリングの方式が、これまでのシステムとどうのように異なるのかを、まとめた後で、リストラ、組織の水平化の概念との違いを説明した。端的に言えば、リストラは不採算部門を切り捨てるものであり、組織の水平化は情報技術が中間管理職をスリム化するもので、プロセスの再検討を行うリエンジニアリングとは似ているもののまったく異なる概念である。日本と米国を比べた場合、日本ではバブル後の不採算部門の切り捨て、バブル前の過剰投資により、バブル後に十分にリエンジニアリング的な前向きの投資が行われにくかった。一方、米国ではリエンジニアリング思想を生かした改革が進み、今日の活況を取り戻すことになった。 

次に、リエンジニアリングの結果として分業の変更が行われることが多いが、これからしばらくの間、「分業と技術」との関係を検討することになる。 

分業がその国の社会的要素を反映することは多く見られる事実である。アメリカでよく耳にする「It's not my business」の言葉の背景にある、専門性志向、また、詳しいジョブ規定の考えには自分に関係のないジョブに対する冷淡な態度が見え隠れする。また、このような考えの下ではジョブ規定を超えたところで業務を改善する動機が働かない。これに対して、日本では品質改善の運動に見られるように、常に緩やかなジョブ規定の下で協力しながらの業務改善運動が起きてくる。このように日本では柔軟な柔らかい分業が日本的社会を背景として長い間存在していた。(工作機械のプログラムコントロールを工員にも委ねる日本と、一切手を触れさせないイギリスの例にも同様な視点が見られる)。 

課題 

「リエンジニアリング」と「リストラ」、「組織の水平化」の概念との違いを、一つの例を挙げながら再検討し、説明すること。併せて、授業の感想も送ること。 

1998.5.13 

最初に、インターネット上の経済データにアクセスする試みを行った。 

http://www.stat.go.jp 

この総務庁のホームページから主要経済データをエクセルのフォーマットで取り込んでみた。 

次に、海外にサイトへのアクセスの練習として、 

http://www.yahoo.com 

にアクセスし、その中から、経済学のサイト、さらにはAdam SmithのWealth of Nationsの全文があることを確認。次に、 

http://www.harvard.edu 

にアクセスし、ハーバード大学の学生主催のクラブ、協会などを検索。質量共に、日本と比べものにならない。また、学生が毎日発行する新聞のことを説明した。これは、マスコミに仕事を持ちたい学生が本気で発行しているものである(ケネデイ大統領もこの新聞を作っていた) 

後半は、本題に入って、「リエンジニアリング革命」の第2、第3のケースを取り扱った。第2のケースとして、フォードの場合は、購買部、支払部、受け取り部の3つに別れ、最終的に注文書、請求書、受取書の3つが合致したときのみ支払部が納入業者へ支払いをした。これに500人もの人が必要とされたが、実際はその80%の時間は合致しない場合の例外処理を行うものであった。プロセスの見直し後、支払いは受け取り部門によって、商品到着後コンピューターのデータベース上で、注文の確認が取れた段階で、コンピューターが小切手を支払うこととなった。これによって、専門的な支払部門は必要とせず、人員は3分の1ですんだ。 

第3のコダックのケースではCAD/CAM型のコンピューターにすべての情報を集中し、開発関係者が日々これにアクセスし、コミュニケーションを取り合いながら開発を進めることとした結果、従来の半分の時間で設計段階から工場へ受け渡しが行えた。また、工場の意見も設計段階から取り込むことが出来た。 

この二つのケースでも、情報機器の役割と設置の仕方に注意すべきである。すなわち、単なるオートメーションでは従来の方法を強化するだけであり、抜本的な改革にはむしろ阻害となる。プロセスの見直しをした上での導入が必要である。 

また、最後にこれまでの,問題発見--->解決方法の探索という、演繹的な方法の限界を述べ、むしろ最初に解決方法 --->問題発見という帰納的方法による創造的な展開が期待されるとした。演繹的な方法では、現在の技術水準が与える需要しか考えられない。しかし、帰納法は、セイの法則のように供給が需要を作るとする考えに似ており、新しい情報技術が需要を創造することを示唆している。実際、ソニーがウオークマンを開発するときには、市場調査は行わず新しい需要を創造した。 

  

宿題 

@先週各自が考えてきた「矛盾」についての考えと、私の提示したモデルとを比べ、再度検討してメールで送ること。(まだ、提出していない人) 

A次の点について各自プロフィールを送付すること(電算機で既に載せた人は除く) 

@ 高校時代の思い出  
A 興味のあること、あるいは趣味  
B 現在の大学生活について  
C この授業への期待  
D 将来の職業について  

B演繹的方法と、帰納法的方法の両者を技術と需要創造という観点から論ぜよ。 

C今日の授業の感想を送ること 

D来週、表計算を行うため教科書を購入しておくこと 

  

1998.5.6 

前回、コンピューターがまったく初めての人のインターネットの設定が十分に出来なかったため、再度ネットの設定を確認し、私あてにメールを送付する実験を行った。この授業では、出来るだけゼミのように双方向のコミュニケーションをとりたいため、ネットを最大限活用する。また、3年生以上の専門の授業なので、特に自分で論理的に思考する能力を高めたい。そのため、毎週、私が与えるある論点について、自分の考えを整理して上で、メールを送付してもらう。 

また、授業ではPowerPointを使ったプレゼンテーションも行う。このソフトを理解してもらう意味から、今回は就職の面接を想定し、自分の大学生活を振り返り、自分をアピールするために、このソフトを使ったプレゼンテーションを実際に行った。 

次に、本題に入り、「リエンジニアリング革命」の最初のIBM Creditのケースを復習し、そこから得られる結論を検討した。特に強調した点は、Adam Smithの説く、「分業」の推進が生産性を向上させるという考えと、このケースで見られた「逆分業」による生産性の向上という、一見矛盾した考えをどう考えるかであった。そのため、「国富論」の原著から、ピンの工場の例を読みあげ、分業によって、一人の生産性が1日20本から、4,800本に飛躍的に上昇した事実を確認した。 

次に、生産性と分業との関係を、プラスとマイナスとにわけ、それぞれの曲線の合計した曲線を考え、そこから最適分業点を導出した。この概念を使えば、Adam Smithの領域は、最適分業点までであり、「逆分業」は最適分業を超えてしまった場合に、最適に戻す運動と見ることが出来る。 

なお、マイナスの影響の中で、特に分業の拡大に伴うコミュニケーションコストの増加(Cordination cost=調整費用)が大きく、これに対処するために情報機器の導入がされることが多いこと。さらに、分業が生産性に大きな影響を与えるか、それは新しい技術の導入とは独立であることに注意。これらの点について、詳しくは私の博士論文(Flexible division of labor and the assimilation of new technology by selected Japanese industries,   presented to the deparment of sociology, Harvard University, 1993)を参考のこと。 

  

  

 

宿題 

先週各自が考えてきた「矛盾」についての考えと、私の提示したモデルとを比べ、再度検討してメールで送ること。 

  

1998.4.22 

    この授業でも、ゼミのように出来るだけ受講者との間のコミュニケーションをとりながら、双方向の授業を行いたいと考えている。そのために、まず最初にインターネットとの接続を行った。 

インターネットの設定については、センター発行の手引書、ないしは「電算機入門」の個所を参考のこと。設定後、最初のメールを送付した。また、BBSにアクセスする試みも行った。 

その後、最初の講義「リエンジニアリング革命」を行った。 

アメリカ再生の一つの要因と考えられているものに、リエンジニアリング革命と呼ばれる、業務のプロセスの抜本的な見直しがある。その具体的な例として、IBMクレジットの受注業務の改善の例を取り上げた。 

伝統的な方法では、電話による受注から、審査報告の送付までに平均一週間は要していた。具体的には、それぞれの業務が専門家と、独自のコンピュータシステムを利用し、その間を紙で伝達する方法を取っていた。しかし、実際一人の顧客に要する処理時間は1時間もかからなかった。そのほとんどが、担当部署に紙を伝達する時間に取られている。このことが判明した段階で、業務のプロセスを見直し、一人の担当者が、一つのコンピュータシステムを使ってすべてこなすことになった。これによって、時間は数時間に短縮、かつ処理案件は100倍となった。 

ここでの大事な点は、専門性の排除、そして逆分業である。また、例え一つの部門に新しいパワフルなコンピュータを導入しても、大きな成果は見られず、むしろ場合によってはコスト高となってしまうこともある。 

この例は、アダムスミスが「国富論」で論じた、分業が生産性を向上させるという考えと、まるで逆の方向であることがわかる。ピンの例でも言われているように、新しい技術が導入されなくても、分業を行えば飛躍的に生産性は向上する。この例は、むしろ逆分業であり、それによって生産性が向上しているのである。この二つの間の矛盾を、どう考えるか? 

宿題 

この点について、各自検討し、BBSもしくは、私あてのメールで意見を送付すること。 

  

1998.4.15  
  

ガイダンス授業  
    この授業は基本的に情報経済論の講義形式の授業であるが、コンピューターによるプレゼンテーション、表計算を使った分析、そして、インターネットを使った情報の収集と発信、コミュニケーションの活性化をも目指しているので、端末室のBで全講義を行なうものとする。評価としては、出席と宿題、そして最後の論文で行なうものとする。優れた論文については、インターネットのホームページに載せることとする。  
 来週までに、コンピューター利用手続きを情報センター事務課で行なっておくこと。来週はインターネットのアクセスを試みる。  
 情報開示、コミュニケーションの意義については、「電算機入門」の同日の授業内容を参考のこと。