経済原論IA  (通年、4単位)

野口 真


講義概要

私たちが暮らす社会は資本主義社会と呼ばれる。この社会の土台をなす経済がどのような構造をもち、いかなる運動をしているかを知ることは、私たちの暮らしの在り方を問い 直す上で欠かせない。資本主義とは、つまりは「資本」主義のことであるから、「資本」 が何であるのかがわからなければ、その本質を理解したことにはならない。資本の生い立ちは古く商人や高利貸の資本に始まるが、社会の再生産を律する力として人間社会に支配的影響力をもつに至ってはじめて「資本」主義は成立した。市場経済を住みかとする資本 は人間の活動とその成果、さらには自然をも商品として市場へ導き入れ、それを再生し変容させ時には蕩尽しつつ蓄積を進める。資本の蓄積は常にあつれきと動揺を伴う不安定な 運動であり、その変動をとおして資本主義の経済システムは進化を遂げる。講義では市場交換過程、生産過程、蓄積過程に焦点を当て、資本が織りなすシステムとその運動の原型を示し、それが今日の資本主義を把握するための基礎であることを明らかにする。


講義計画
 前期
 序 経済原論と経済学

T 市場経済と資本主義
  @ 生産物と商品
  A 商品貨幣の生成と種々の貨幣
  B 貨幣の諸機能
  C 資本の生成とその諸形態

U 資本主義の生産過程
  @ 労働過程と人間社会の物質代謝
  A 労勘投入と商品の価値

 後期

 B 賃労働と剰余価値の生産
 C 機械制大工業
 D 絶対的剰余価値と相対的剰余価値の生産
 E 特別剰余価値の生産

U 資本主義の蓄積過程
 @ 単純再生産と拡大再生産
 A 労働人口と資本蓄積
 B 資本蓄積のこ様式と労働力の吸収・反発
 C 資本蓄積の歴史的傾向


成績評価の方法
成績の評価は、学年末試験の結果を基礎にしておこなうが、夏休みに課すレポートの宿 題の出来ぐあいと、場合によっては出席点をも加味する。


教科書
伊藤誠『資本主義経済の理論』(岩波書店)


参考書
ふだんから次の古典に親しむよう努めること。
アダム・スミス『諸国民の富』(一)〜(五),岩波文庫
デイヴィッド・リカードウ『経済学および課税の原理』上・下,岩波文庫
カール・マルクス 『資本論』(一)〜(九),岩波文庫
 その他の参考書および現代資本主義に関わる基本文献については講義のなかで触れる。


受講前提条件・備考 
経済原論の学習は,経済学の古典のもつ奥行きの深さを味わいながら、同時に、古典の解釈あるいは再解釈のうえにたって現実の経済現象を新しい角度から捉え直す面白さを知 るところに、その醍醐味がある。古典の解釈と現状の分析との間を絶えず行き来する習慣 を身につけ、古典をどう活かすかについて、日頃から自分の頭で考え抜く訓練を積んでお くことが望まれる。講義では板書を多用するが、ただそれを写し取ることだけで終わらず に、なぜそうなるのかについて自ら疑問を発し理解を深める努力をして欲しい。