日本最初の表計算ソフトは、当時ベンチャーの雄であったSORDが1980年に発表した「PIPS」でした。これは、私が日本銀行に在籍中(20歳代の後半)に、調査の仕事の効率化を目指し、プログラミングなしで様々な要求にすばやく応えようとして、仕事の機能のエッセンスをモヂュール化し表上で処理できるよう約4年かけて開発したソフトです。20世紀の最後の年にあたり、最初の表計算ソフトの誕生の背景と、私が当時書いた論文をネット上に公開することはパーソナルコンピューターの歴史を振り返るときに意味があると考え、ここに掲載いたします。 なお、世界最初の表計算ソフトはアメリカの「VISICALC」(1979年)でしたが、表を使った同様なソフトが日米でほぼ同時に誕生したことは決して偶然ではなく、パーソナルコンピューターという新しい技術の種(Seed)が蒔かれたときに、それを利用して潜在需要を掘り起こす利用技術(ソフトウエア)が世界的に同時に生じたのでした。こうした事例は新しい技術の開発時に比較的多く起こりうるものです。私は日本で「PIPS」を発表後、アメリカの「VISICALC」を知り、其の発想に驚きました。 表計算ソフトはその後MULTIPLAN, 1-2-3, などを経て現在のEXCELのように高度な発展を遂げてきました。この間、プログラミングという重い足かせから解放された人たちが多くの仕事に利用し、世界全体で莫大な時間の節約になったことを考えると感慨深いものがあります。 最後に、転載を快く許可していただいたASCII社に対して感謝の意を表したいと思います。


ASCII 2000年10月号、最初の国産表計算ソフト、ソードPIPS、1980年、遠藤 諭(200K)

同、PIPSの画面(1)(94K)

同、PIPSの画面(2)(91K)

なお、PIPSの開発の理念については開発直後に新鮮な状態で書いたものがあります(日経サイエンス「PIPS誕生記」1981年)。これにつきましては近日中に掲載する予定です。