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新ボストン便り 第7回 〜2001年9月17日便〜

   National Day of Remembrance

ブッシュ大統領は、先週の20日に行われた議会での演説で、事実上のテロリズムに対 する戦争宣言を行いました。今回の演説では、多くの尊い人命を失い悲しみのどん底 にあるアメリカ国民にとって、その怒りのやり場を明確にし、民主主義に真っ向から 挑戦する「Evil Doer(悪事を働くもの)」に対する断固たる姿勢を示しています。 そしてこの戦いをテロに屈することなく民主主義を守る為の正義の戦いである、と位 置づけしました。その後のブッシュ大統領への評価として、世論調査によれば90パー セントという歴代アメリカ大統領史上最高レベルの国民の支持を得ることが出来まし た。これを見れば国民の多くは軍事報復を伴う戦争に対して賛成という立場をとって いることは明らかです。

この圧倒的な支持を受けて、ブッシュ大統領は今回の特徴であるネットに隠れた見え ない敵を探し出すために、テロリストを捜査する必要があれば個人の電話傍受、メー ルなどのネットの個人情報にアクセスできる権限を政府に与える新たな法律の改正を 推し進めようとしています。

実は、これに対しては根強い反対の動きが起きています。ブッシュ大統領のこの日の 演説に合わせた形で、各種人権団体、弁護士会、ジャーナリストなどにより政府の新 しい法律改正のproposalに対して、以下のような慎重な意見(Statement)が述べら れております。

Statement in Defense of Freedom at a time of Crisis
… We need to consider proposals calmly and deliberately with a determination not to erode the liberties and freedoms that are at the core of the American way of life.
… We should resist the temptation to enact proposals in the mistaken belief that anything that may be called anti-terrorist will necessarily provide greater security.
… We should applaud our political leaders in the days of ahead who have the courage to say that our freedom should not be limited.

(ゼミの諸君、訳してみてください。)

私がケネディ行政学大学院で受けている授業の一つに「Governance of Digital Age (デジタル時代の統治)」があります。(なお、この大学院については後ほど詳しく説 明する機会を設けます。)

この中でStatementが取り上げられ、これに対して授業参加者の意見が各種出されま した。この授業への参加者は、多くが実際政府や報道関係で働いた事があった人達で 構成されている為、説得力のある現実的な意見を述べる事が多いのですが、今回は 「非常時下で行われた過去の法改正の例を見れば、多くの場合必要以上な規制強化に なっているケースが多い」、「すでに多くの個人情報が知らないうちにマーケットで 売買されている事実を考えると、これ以上政府が個人の領域に干渉する事は危険 だ。」などの意見が多く出されました。

実際、個人情報はスーパーマーケットではいつ、誰が、どんな品目を何個買ったとい う細かな情報が買い物をするたびに個別の嗜好の情報として集められているほか、コ ンピューターでインターネット上をサーフィン(様々なWebのページにアクセスする 事)するたびに、その個人別の情報が集計されているとも聞きます。

要するに、このStatementが言わんとすることは、アメリカ国家の理想形としての 「自由」で、「オープン」な社会が、政府の監視の強化によって個人情報が全て政府 によって監視されるような「監視(surveillance)」社会に変わってしまう危険性を 指摘しているわけです。インターネットという技術が社会生活に密接に組み込まれた 現代社会において、今回のようなテロリズムが、自由でオープンというインターネッ トの特性を悪用したことを考えると、テロを取締る必要性から個人情報を政府が把握 する事の必要性は理解できても、必要以上の監視は弊害が多いと考えているわけで す。アメリカのIntelligence Agency(諜報機関)のネットワークに関する技術にまさ る技術を戦うべき相手が持ち合わせているということが、さらに問題を複雑にしてい ます。

さて、9月22日から24日まで私はペンシルバニア州SelinsgroveにあるSusquehanna University (サスケハナ大学)の新学長の就任式に出席してきました。専修大学は現 在18の海外の大学と提携を結んでいますが、サスケハナ大学はそのうちの一つの大学 で、学生数1800人程度の小規模な学部のみの大学です。創立は1858年で、古くから人 文科学や、音楽で知られていましたが、最近では全米でも数少ない学部レベルのビジ ネススクールに近いカリキュラム、通信、情報に特化したプログラムが有名になって きています。専修大学の学生は毎年、春および夏の語学プログラムや1年間の留学制 度を利用してこの大学に数多く訪れておりまして、ホームステイをはじめ、学長主催 のパーティへの参加など、歓待されております。私も一昨年夏期プログラムに学生と 共に来たことがあります。

今回この大学の学長がLemon氏に代わることに伴い、専修大学からは出牛学長が参加 する予定になっておりましたが、テロ事件が起こった事により、出席を見合わせた 為、在米の私が学長の代理として参加する事になったものです。

多くの小規模の大学の例ではたびたび大学学長の任期は長い事が多く、前任のカニン ガム学長の場合は10年以上になっています。そのため、新学長の就任は大学全体に とって非常に大きな出来事であることがお分かりになると思います。

まず、学長の選出にあたっては特別な委員会が設けられ、学内外から広く適格者を調 べ上げ、長い期間をかけて慎重に候補者を決定します。その結果をBoard of Trustee (理事会)にかけて、最終的に決める事になるわけですが、おもしろいことに、その 理事会には教授の代表はもちろんの事、民主的といっても良いかと思いますが卒業 生、現役学生の代表も入っている点です。

こうした過程を経て選ばれた今回の学長は、奥様と小さな子供を4人持つ41歳の若く 非常に背の高い学長です。これからのサスケハナ大学を託す学長として多くの期待と 責任を担う事になりました。新学長の一番の特徴の一つに一人一人に対して個人的な 親愛感を抱かせる暖かい雰囲気を持ち合わせているため、学内の融和に優れていると いう評価がされております。また、人の名前を良く覚える事も知られています。

23日午後行われた就任式には百数十を数えるアメリカの大学の代表者(学長、理 事、教官、卒業生など)が参加しましたが、創立年代順にそれぞれの大学のガウンを 着てキャンパスを行進しながら、就任式場に向かいました。1636年のハーバード大学 から、ごく最近出来た大学の中にあって、専修大学は創始者4人が選ばれてアメリカ の大学(Harvard, Yale, Columbia, Rutgers)に派遣され、帰国後日本語による教授 を目的として建てられた大学である為、もともとアメリカとのつながりがある大学で あるほか、創立も日本の大学の中では1880年と非常に古いものの一つであり、列の中 では後半3分の1に位置し、意外と他大学との間で違和感を感じることはありませんで した。

1時間半近い式の中で、前任校であったヴァージニア大学の学長が来られ新学長の人 柄、業績をたたえられたこと、また新学長が非常に気さくに一人一人の学生、教官と 接されること、この地に新天地を見出していられる事、また学長職受諾演説の中で、 「テロリズムなどを生み出す教育の貧困」について力説されたことなどが印象深いも のでした。特に、タリバン政権下のアフガニスタンでは教育が宗教教育のみに限ら れ、将来を担う人材はほとんど育っていない事、特に女子は一切の教育を拒否され、 また仕事も禁じられている為、道端で物乞いしか出来ない状態である事を思い起こす と、この言葉の重さを感じました。

新学長とは前日の晩餐会、当日の式後のレセプションでお会いでき、出牛学長からの 祝意と、残念ながら出席できなかったこと、専修大学の学生を毎年快く受け入れてい ただき感謝している旨のことをお伝えしました。新学長は既に春と、夏の2回語学研 修で来た学生たちと会っておられるため、非常に良く専修大学のことを理解されてい らっしゃいました。

特に、レセプションの会では奥様と4人の子供はもちろん、ご両親まで出席され家族 ぐるみでこの地に新天地を見出したいとする新学長の気持ちが良く伝わりました。ま た、前任のカニンガム元学長もいらっしゃったので、これまでの長い間の専修大学と の友好関係について感謝の意を伝えておきました。

今回の就任式に当たっては、専修大学プログラムのディレクターであるMimi Riceさ んと、これまで長い間専修大学の学生をサポートし続けていただいた幸子さんに非常 にお世話になりました。ありがとうございました。

また、9月から1年間サスケハナ大学で勉強する二人の学生にも会う事が出来たことも 成果の一つでした。

望月宏



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