不良債権処理

担保不動産の証券化による流動化を促すためには

 

担保不動産の流動化

 不良債権がらみの担保として差し押さえている土地、ビル、住宅などが第三者の投資家との間で売買され、活発な取引が行われること。担保不動産そのものの取引に限らず、金融機関が特定目的会社(SPC)を通じて不動産を証券化、多数の投資家に販売して実質的に不良債権を処理できる仕組みなどが進んでいる。

 

証券化とは?

 証券化とは、企業などが保有する資産を証券化商品の発行体(SPC=特別目的会社)に売却し、SPCがその資産を裏付けにして証券を発行し、サービサーが投資家から資産を調達する事を言う。また、この資産を裏付けにして、発行された証券がABSである。

 

ABSとは?

ABSとは、資産担保証券の略でその対象となる資産は、理論的にはキャッシュフローを生み出すものならば、何でも可能といわれ、企業の売掛債権やリース債権、自動車ローンなどがある。

 



 

 

 

 

 

 

証券化によるメリットは?

  1. 自己資本比率の上昇
  2. その企業の信用力ではなく、企業の保有する資産の信用力によって、資金を調達できる事。
  3. リスクを投資家に分散できる

 

 

前提 格付けダブルAの親会社の売掛金を、格付け未取得の下請けメーカーが保有

 

 

 

 


 

 


売掛金10億円を証券化して資金調達し、銀行借入を返済

 

 

 

 

 

 

株主資本比率=株主資本/総資産(負債+株主資本)*100(%)

売掛金は品物を売って相手に渡したが、代金を受け取っていないという営業上の未収入金のこと。

 

まず、売掛金を担保にして証券化し、それで得た資金で銀行借入をしたとする。

  1. 株主資本比率の上昇
  2. 売掛金を売却したため、10億円がバランスシートから落ちる。そのため、このメーカーの総資産は40億円から、30億円へスリム化する。その結果、株主資本比率は証券化前の25%が33%まで上昇した。

     

  3. その企業の信用力ではなく、企業の保有する資産の信用力による資金を調達。
  4. この売掛金の信用力は、このメーカーではなく、格付けダブルAの親会社の信用に裏付けられている。つまり、このメーカーは、自分の信用力ではなく、親会社の信用力で資金を調達している事になる。したがって、自分の企業信用力で資金を調達するより、低いコストで資金を調達する事ができる。

     

     

     

  5. 不動産の証券化を例にしたリスクの投資家への分散

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前の図は、ある企業が、不動産をSPCに売却し、SPCがその購入資金を特定社債と優先出資証券で調達する方法を示している。そして、この特定社債や優先出資は不動産を基にして作られた証券化商品である。

 

前提 SPCは100億円の不動産を保有。この不動産は賃貸ビルで、諸経費控除後のネット利回りは5%=年間億円の純収入。

 

すると、SPCは、特定社債70億円を、期間5年、利回り3%で発行。残る30億円を優先出資で調達する。

特定社債の年間必要支払金利は2億1000万円(70億*3%)

この結果、優先出資への配当は、年間2億9000万円(5億円−2億1000万円)で利回りは9.67%

特定社債は、元本の安全性が高く、決まった金利しか受け取れない(ローリスク・ローリターン商品)

優先出資は元本も配当も変動する(ハイリスク・ハイリターン商品)

不動産の証券化では、このような商品を組み合わせて発行する事によって、不動産の価格変動リスクをバランスさせている。

 

賃料が上がり、SPCが保有する賃貸ビルのネット利回りが6%に上昇した場合、特定社債の利回りは3%で変わらないが、優先出資の配当は3億9000万円(6億−2億1000万円、利回り13%)に増加する。逆に利回りが下がった場合はその分を優先出資が負担する。

 

この様な証券化が担保不良債権処理の方法として注目を浴びている理由

  1. 自己資本比率をあげられる。
  2. 今まで金融機関自らとっていたリスクを投資家に分散できる。

 

担保不動産証券化を行なうための、日本の問題点

 不良債権の処理で重要なのは、担保の大部分を占める不動産の処理である。これには土地市場の再生が課題だ。そこで担保不動産の証券化により、土地取引を活性化し早期処理を促すのが狙いである。しかし、現段階では問題が多く存在する。

 

  1. 土地評価方法の見直し
  2. サービサーの創出の必要

 

@土地評価方法の見直し

<現状>

現在、日本の地価の算出は周辺の土地の取引事例や取得原価に重点を置いている。このため土地の利用価値の実体が反映されず、利回りが想定しにくいため証券化には不向きである。一方、アメリカでは賃料収入など、個別不動産の収益性に着目して価格(収益還元価格)を算定する、収益還元法が取られているようである。具体的には、ビルの場合は収入(賃料)から費用(管理費や修繕費)を差し引き、各物件がどれくらいの投資利回りを期待できるかをはじき出して、それを基準に価格を決めるのである。不良債権の担保となっている権利関係が複雑になっているようなものにはこうした特殊要因を「原価要因」として反映させ、不動産が持つ最低価格を算出する。こうした不動産評価法はデューデリジェンスと呼ばれ、アメリカではすでに定着している。そこで、国土庁と日本不動産鑑定協会は債務不履行に陥った債権に絡む担保不動産の価格を決める際に収益還元法を使用することになった。

 

<問題>

収益還元法で担保を評価すると、銀行の見込み価格より安く判定される物件が相次ぎ、不良債権要額が膨らむ可能性がある。

 

<今後>

現在、景気の長期低迷により健全債権の不良かが進み、不良債権額は増加している。何も手を打たずにこのまま不良債権が膨らんでいくよりは、一時的には不良債権が増えるかもしれないが現状のままよりは早期の処理が期待できる担保不動産の証券化を迅速に行うべきである。そのためにも担保不動産の消却を促すためには、債務不履行になった不良債権のみに収益還元法を適用するのではなく、灰色債権にもこうしたルールを適用する事が必要であると思われる。

こうした流れにより証券市場の整備が進み、直接金融の比重が以前にも増して大きくなってくれば、資金調達の多様化にもつながる。また、市場から資金調達を行うには情報開示により健全性を示すことが必然的になってくるので、情報開示が進むことも期待できる。

 

Aサービサーの創出

サービサーとは何か?

サービサーは債権回収代行業と呼ばれ証券化対象資産から生まれるキャッシュ(利息や賃料など)の管理、回収を行う。つまり証券化市場を支え、お金の流れを確保するために欠かせないのがサービサーである。だから証券化市場創設において、サービサーが必要なのである。

 

サービサーによるメリット

  1. プロ知識の活用による投資家保護
  2. サービサー間の競争による証券の情報開示の推進

まず、プロ知識の活用とは、担保価値や法的手続きのコストなど諸要素を考慮して妥当なレベルを算定し、債務者と交渉する知識がサービサーには蓄積されていること。証券化前の債権者と債務者の間にサービサーという第三者が介入する事で、担保物件と債務者の経済的側面に焦点を絞り、冷静に解決策を考え出す事ができるそして、これらはそのまま投資家保護につながっているのである。

次に、サービサー間の競争による情報開示とは、サービサーは担保不動産物件の訪問販売・営業収支実績などの収集と分析を通じて情報を標準化する役割を持っており、また担保情報を更新させ、投資家に開示する役割も持っている。そして、競争が激化し、証券化市場で生き残っていく為に投資家への情報開示を充実させる事で、 さらに多くの投資家を証券化市場に呼び込めるのである。

 

日本のサービサーの現状

現段階の日本には弁護士法72条、73条により、サービサーというサービサーは存在せず、インターナショナル債券管理協会(ICMA)と呼ばれる組合が債券管理業務を行っているだけである。そこで、金融再生6法案のうちの債券管理回収業法案により、サービサーの民間会社設立が解禁された。しかし、プロ集団であるサービサーが今まで日本に存在していなかったため、解禁されてもサービサーが一気に出現するかが疑問である。そこで整理回収銀行が、他のサービサーの育成などの中心的役割を果たす事が必要である。

<結論>

不良債権の処理を早期に実現させるためには、

  1. 不良債権の大部分を占める担保不動産が証券化されることによって、取引が活性化され処理が進む。
  2. 証券化によって自己資本が増大する。
  3. 金融機関のリスクを投資家に分散できる。

といった理由から、不良債権の大部分を占める担保不動産を証券化し、流動化する事によって処理することが必要だ。そのために、「債権回収業者」である「サービサー」を強化するべきである。それには、付随する多くの問題を早期に解決しなければならない。