2008年10月27日 プッチーニ作曲 オペラ『トスカ』二幕・三幕鑑賞
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三浦:今回の映像を見て一番気になったのはオペラではなく映像そのものでした。私はオペラについても映画についてもなにもわからないのですが、あの映像の作り方はオペラの良い部分と映画の良い部分を殺しあっているような印象を受けました。 オペラは物語性が低いということから、それは物語るためではなくて歌が中心にあるものだと考えたのですが、もしそれが正しければ、例えばトスカが歌い、次にスカルピアが歌うというシーンで交互に顔のアップになるというのは、あまりにつまらなすぎるし、説明的だと思いました。もし表情のアップがリアリティの追求のため、もしくは感情移入のためであるとしたなら歌を歌っていることは反対に非日常性を表しているのであり、もし歌を聞かせたいのであるなら歌っている身体全体を見せるべきで顔のアップにする必要はなく、あまりに野暮な気がしました。
ほかにも実際の城が使われていた点も気になりました。実際の城を使っているということになると、おそらくできる限り衣装も再現したのでしょう。しかしそこで私が見たのはリアルコスプレ大会だったような気がします。どこか嘘くさく、すべての演者が建物や衣装に飲み込まれているように見えました。一言で言えば浮いているという感じです。日本でいうならばNHKが作りそうな下手な歴史ドラマに似ているなと思いました。それを受けて私は映像でリアルを演出する方法とはいったい何なのだろうということを思いました。
まだ他にも気になった部分はあります。特にあの血の演出はどうかと思いました。スカルピアが刺された時とトスカが転落死したときに血が出てましたが、実に半端で雑な印象でした。あんなに半端ならわざわざ血を出さなくてもよかったのではないか?とさえ思いました。それと最後のシーンの飛び下り方も雑だと思いました。たしかにリアルにヒトが屋上から飛び下りならあのような感じになるのかとも思いますが、あれだけ仰々しいドラマの後のラストシーンだったのに『…あれ?まるで2メートル下に飛び降りるみたいな飛び方だなぁ』と興醒めしました。 音楽的には全く聞き方がわからないので、何とも感想がありません。ただ唯一現状でわかったことは声の迫力です。もう声というより楽器だなと感じました。(寺尾:舞台を映像化することのプラスとマイナスということがひとつ、更に言えば、「音楽」と「演劇」と「映像」との相互性をどのように整理するのか、という問題でしょうね。)
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佐藤:モーツァルトを聞いたときのように、音楽と身体表現がピッタリと重なり合っていたような気がする。先生が「物語はあえて伏せておく」と仰っていた時点で、ああいった結末はある程度予測はしていた。嫌な予感がしていたので、トスカが喜びはしゃぐ場面も、ハラハラしながら見ていた。既に死体となっている恋人に、懸命に話しかけるトスカは、健気ながらも滑稽に見えたのは、演出もまた手伝ってのことだったのだろう。倒れ伏す恋人と、それに呼びかけるトスカとが、上から見下ろすように撮影されていたのは、二人――生者と死者――の距離(右上の女は動き、左下の男は動かない)を表現するためだったのではないだろうか。と、適当に書いているのだが。よく考えてみれば、全体的に暗い雰囲気が漂っていたと思う。画面に移る色彩も鮮やかさがなかったし、舞台となった場所も厳かで閉鎖的な感じがした。1970年代(だったか?)という時代の撮影技術も関係しているのかもしれないが……。夜の城(宮殿?)を写すにあたっては、影を強調していた(影で人間が歩くのを表現していた気がする)。運命を知る由もない二人が、抱き合って迎えた朝に、地上を照らした太陽が、希望の朝日というよりも、禍々しい夕日に見えたのは、私だけだろうか(……かもしれない)。と感想をつらつらと書いてはきたが、つまり何が言いたいかといえば、音楽に関しては殆ど覚えていないということである。否、こういう音楽の知識がないので、感想が詳しく書けないというか、上手かったとしか言いようがありません。すみません。(寺尾:上と同様に三つの問題が提示されているようです。)
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寺崎:かましすぎだと思った。冒頭のシーン、警視総監が普通にしゃべりはじめるのかと思ってたら、突然歌いだしたのがまったく予想もしてなくて笑えた。これってオペラに対する無知によるすごく失礼な感想だというのは自覚しているのだけれど、この最初に感じた、違和感をずっと意識しながら、トスカを見ていたら自分の中に一つの仮説が浮かんだ。
彼らが普通にセリフをしゃべらずに歌うのは、バレエにおける「クルクル回る動作」と同じ意味を持つのではないか?僕は演劇に明るくないので、ここから先は全部想像ですが、もともと、演劇の起源は太古の神を呼び出すとか神に通じるとかいう目的の儀式なんじゃないかと思う。そういった儀式を行う際には、やはり短パンとTシャツではいけないし、それ相応の格好をしてそれ相応の舞台を作り上げ、といった日常とは異なる雰囲気を作り上げなくては、参加者になにかしらのスピリチュアルな体験を与えるのは難しいだろう。さらには喋る言葉だって、日常使っている言葉で儀式が執り行われたとしても雰囲気は盛り上がらない。そこで呪文やお経のように、独特の節回しで放たれる言葉が使われたりする。そういった雰囲気づくりの一環としてオペラの歌はあるのではないだろうか?日常の異化?のような意味を持つ行為として。そう考えるとむしろ現代の演劇が普通にセリフをしゃべることのほうが、演劇史において大きな転換であるのかもしれない、と思った。(寺尾:その通りです。様式を基本とした演劇が、「近代」リアリズム演劇へと転換します。でも「リアル」って?と問い直すのが「現代」でしょう。このあたりは演劇史の一番おもしろいところ。)
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渡辺:ベタベタのオペラは先の展開が読める分安心して見ることができると思いました。ベタな展開は登場人物の感情の動きやそれをこめた歌が理解しやすく、大衆に認められるのも分かる気がしました。ただ、自分には少し退屈でしたが。ドラマに欠けるというか、ありきたりすぎて物語そのものに感情移入しづらかったです。「歌」そのものの技術的な面、というか「迫力」には圧倒されたんですが。自分の素養不足というのもあるでしょうが、なんともいえないです。(寺尾:イタリアのド演歌と言っても良いかもしれません。ベタな世界にドップリと入れるかどうか。)
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黒岩:前回トスカを見たときに寝ている人が多くて、なぜつまらないかを考えながら見ていた(すいません)私個人としては結構楽しめた、特にラストは。当然、生の舞台でやるものを映像化していることでかなりオペラの価値は変わっている。まぁ映像だからこそ可能な表現もあって最後の飛び降りるシーンなどはよかった。寺崎君が終わったときに「全部歌っているんですね」というよ
うなことを言っていたように思う。これはオペラなんだから当たり前!なんだけれど、ほとんどが歌で常に歌っているからこそ、退屈に思えてしまうような気がした。もちろんアリアとか重要なシーンでの歌は歌唱力、音楽ともに最高なのだけれど、オペラを見慣れていない私たちは歌が多す
ぎてどこが重要なのかが分からなくなってしまう。私たちが普段見る、演劇や映画やテレビドラマは重要なところのみBGMを使い強調する。それがこんなに音楽が豊富に使われていたら少し混同してしまうのではないだろうかと思った。生で見ればそれは役者の細かい表情や音程の使い分けなど、そして生という臨場感で全く違うとは思うのだが。
★岡田利規が阿部公房の『友達』を演出します。チェルフィッチュの舞台ではないので、どうなるかは全く分かりませんが、学生申し込みをすれば半額の2500円。場所 三軒茶屋 世田谷パブリックシアター 11月11日〜24日まで。時間などはHPで。あと、そろそろ梶川君のバルナが公演やるころじゃないかと思って調べてみたんですけど、今回は10月にやっていたそうです!残念〜(寺尾:舞台をたくさん見ている黒岩さんらしい感想です。「おもしろいか」「つまらないか」自体は趣味判断なので、人それぞれですが、その相違はどこから来るのかは、おもしろいテーマになりえます。それから、テレビ的、映画的な見方もまた、この種のオペラの蓄積から出てきたわけです。舞台情報は感謝です。)
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塩田:昔の音楽劇のストーリーの展開を見ていると今では創造(想像?寺尾)のつくような内容でしたが、オペラ歌手のセリフに合わせた歌い方が新鮮で印象的でした。現代のミュージカルとの違いを感じることができてよかったと思いました。(寺尾:これはめずらしく肯定的な感想。結局、音楽・クラシック!の部分をどう感じるかでしょう。)
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中野:冒頭の始まりかたとか、おもしろそうだと思っていたのに、途中で寝てしまった・・・・。前に歌舞伎をそれなりに楽しみにして行った時も途中でうとうとしてしまった。つまらないわけじゃないのに、何で寝てしまうんだろう。素養がないからその世界に入っていけないのかなぁ、などと考えた。でも、起きて真剣に見ているときでも、全然関係のないことをふと考えたりしてしまう。おもしろいと思っても、最初から最後まであっという間だった!と思うことがあまりない・・・ただ単に見慣れてないだけ、集中力がないだけかもしれないけど。先生が、プッチーニは大衆に人気がある、いわばイタリアの演歌だ、というようなことを言っていただけあって、なんだか聞きやすかった。感情移入しやすい、というか。歌って、聴きたい歌と歌いたい歌があると思う。歌いたい歌は演歌みたいに、歌っているときに自分の世界にひたれる、没入できる。でもそういう歌って、音楽的な評価は低い気がする。売れて、人気があってもだ。何でなんだろう?(寺尾:トスカを聞きながらウタタネというのも、ずいぶんゼイタクでよろしいんじゃないでしょうか。)
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宇和島:トスカ、オペラを見ての感想ですが、演技をしながらあれだけ声が出せるのは素晴らしいと思います。また、今回は歴史的な建物を貸しきってやっていたそうですが、こういう事が出来るのもヨーロッパの強みなのかなと思いました。日本でやることはまず無理だと思うので。(寺尾:見慣れると色々なヴァージョンの相違が気になってきます。)
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鈴木:オペラが映画っぽい感じになってて楽しめた。トスカの高い歌声も魅力があったが、カヴァラドッシやスカルピアなどの男の歌声も迫力があり楽しめた。劇中で三人、一斉に歌いだしたところがあったが、それでも音楽的なものがしっかりしており感動した。あと、飲みはなかなか楽しめました。ありがとうございます。(寺尾:だんだん肯定的な感想も出てきて良かった。)
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大出:悪役であるスカルピアの演じ方が悪役の見本となるような演じ方で良かったと思います。しかしトスカは最後に自殺して話が終わる等、悲劇に徹していて個人的には余り面白くはありませんでした。映像的は実際のローマの町が使われていて壮大に感じました。(寺尾:悲劇への感覚は現代では以前とはずいぶん変わってきています。)
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高木:トスカ初めて見ました。出演者の声量がすごかったのが印象的でした。そして最後にはトスカが自ら身を投げ出すシーンになりましたが、何か救われない感じがして私はこうゆうのはあんまり好きじゃなかったのが本音です。最後に幸せになるのが物語ってわけではないですが、少し希望をもった終わりの方が見終わって後味が悪くない気がします