今坂卒論


絵本を用いた健常者に対する高次脳機能障害者への態度変容について 

今坂七海

 本研究では事例理解促進効果のある絵本を用い、健常者の高次脳機能障害者に対する態度変容に読書法が与える影響について検討することを目的とした。長い間、日本において「障害者差別」が問題となっている。健常者が障害理解を深めることは、障害者が暮らしやすい社会を築く上で特に重要である。
 障害理解を促進する手段は様々な先行研究において検討がなされているが、高次脳機能障害といった目に見えにくい障害、一般的に健常者にあまりよく知られていない障害についてはあまり検討されていない。このような目に見えにくい障害の周知と理解を深めることが現在特に必要であると言える。しかし、関心を積極的に持たない限り、健常者がボランティア活動や日常生活上で障害者と直接関わる機会は少ないだろう。そこで、手軽で負荷のかからない手段として、障害者に関する読書教材を読ませる読書法を用い、健常者の障害者に対する知識と理解の深化と態度変容を試みることが効果的であると考えられる。加えて、先行研究では文字のみの読書教材を使用していたため、読書教材を事例理解促進効果のあると考えられる絵本に変更し、さらなる健常者の障害者に対する態度の改善と維持が期待できると言えよう。
本研究は健常な大学生20名を対象に、絵本を読ませる読書群と、読ませない未読群に各10名ずつ無作為に抽出し質問紙調査を実施した。使用した尺度は多次元態度尺度(徳田, 1990b)であった。この尺度は「拒否的態度」、「統合教育」、「特殊能力」、「自己中心性」、「交流の当惑」の5つの次元に分けられており、尺度の妥当性(対象による差)も確認されている非常に弁別力の高い尺度であると解釈されているものである。
 絵本の読書が態度変容に影響するのかについて、群(読書群・統制群)×テスト(プリテスト・ポストテスト・維持テスト)の、2×3の二要因混合計画の分散分析を行い、読書群と未読群で多次元態度尺度の平均得点に差があるのか検討した。その結果、否定的態度次元で絵本の読書による効果がみられ、未読群より読書群の方がポストテスト、維持テスト共に得点が有意に低くなった。さらに、読書群のプレテスト、維持テスト間では維持テストの方が有意に得点は低くなった。つまり、先行研究(川間, 1998)同様、読書法の効果があり態度が改善されかつ維持されたものと言える。否定的態度次元における有効な態度変容技法には、障害者への直接的、あるいは間接的な接触経験を含むものであるとされている(徳田, 1990)。今回用いた絵本は、学問的な内容(定義、数値等)を主としたものではなく、高次脳機能障害者との接触体験や知識を比較的情緒的に描いたものであることから、読書を通して間接的に高次脳機能障害者と接したと考えることが出来る。それゆえ、今回の研究では態度改善が維持されたものと考えられる。しかし、その他の次元には有意な傾向はみられたものの有意差はみられず、本研究の仮説は支持されなかった。
 川間(1998)の先行研究では、知的障害者を想定させ、かつ参加者全員に接触経験がなかった。本研究では接触経験のない参加者よりも元々高次脳機能障害者に対する態度が好意的かつ理解があり、大幅な変容が起こらなかった可能性が考えられるため、今後の研究では当該の障害者との接触経験が無い参加者を抽出することが必要であるだろう。加えて、上述したように先行研究では適度な情緒的内容を含む読書材料が有効であり、学問的知識は態度変容に必要がない可能性を示唆していたが、本研究の結果から学問的知識も必要である可能性が示唆された。この結果から、絵本と学問的知識の内容がメインの本の両方を読ませる群も検討することで、先行研究や本研究よりも大きく態度改善がみられる可能性も考えられると言えよう。