鎌倉卒論


事前の話し合いの有無が代理意思決定時の患者家族の心理状態に与える影響 

鎌倉彩香

 医療技術の発展により、救急医療や集中治療領域においても治療方法の選択肢が増えている一方、その高度化・専門化によって終末期の判断が困難になっている (立野・山勢・山勢, 2011) 。患者に意思決定能力がない場合、家族などの近親者が代理者として終末期医療に関する判断を迫られる (立野他, 2011) 。このように代理者が決定を下すことを代理意思決定という。
代理意思決定を求められたとき、もし事前に家族間で話し合いをしていなければ、その家族は自身の判断で患者に関する治療方針を選択しなければならない。IPACCの研究では、意思決定における家族間での意見の不一致や代理意思決定者の役割を担うことはPTSDやうつ病となるリスクを高める可能性が示されている (Gries et al., 2010 立野他による 2011) 。
本研究では、話し合いをしていた場合には患者家族の心身にかかる負担が軽減すると仮定し、事前の話し合いの有無が代理意思決定時の患者家族の心理状態に与える影響について検討することを目的とした。
参加者は神奈川県内の大学生22名 (男性6名、女性16名) で、平均年齢は22.32歳 (SD = 1.81) であった。場面想定法 (事前の話し合いの有無) とPOMS2の成人用短縮版を用いた質問紙を作成した。
POMS2の7因子に関しては2 (条件:あり・なし)×7 (因子:AH・CB・DD・FI・TA・VA・F) の分散分析を行った。なお、群は被験者間要因、因子は被験者内要因の混合計画であった。TMD得点に関しては独立変数を事前の話し合いの有無、従属変数をTMD得点とする対応のないt検定を行った。その結果、事前の話し合いの有無に関わらず各因子のほとんどの得点には差がみられるが、事前の話し合いの有無で得点に有意な差がみられる因子はFIのみであることが示された。t検定には有意な差はみられなかった。
記述統計と分散分析の結果から、事前の話し合いの有無に関わらず、7因子の得点は因子ごとで異なり、高い順にCB・TA・DD・FI・AH・F・VAであった。このことから、代理意思決定を求められたときには、事前に話し合いをしていたとしても、深刻な混乱状態になり、患者や自分の置かれている状況を理解しがたいことが分かった。また、分散分析の結果、話し合いの有無で得点に有意な差がみられた因子はFIのみであった。このことから、事前に話し合いをしていなかった場合は事前に話し合いをしていた場合と比べると、疲労感や無気力感が大幅に強くなることが分かった。
今回の研究では場面設定を念頭に置いての回答が困難であった可能性があるため、今後は場面設定を目に留まりやすくより具体的にする必要があると考えられる。