渡邉卒論


音楽のテンポが生理指標及び心理指標に与える影響についての検討

渡邉ひさら

 本実験では、テンポの異なる曲が気分や感情、脳の右半球と左半球の脳血流量にどのような変化を起こすのかをPOMS短縮版やVAS、レーザー組織血液酸素モニターを使用して検討した。また、曲に対する印象や嗜好の関連により、脳血流量にどう影響が出るかを検討した。参加者は、健常の成人16名 (男性10名、女性6名) であった。分析は、脳血流量測定の不備や実験の不備のあった5名を除き計11名 (平均年齢30.9±7.2歳) を対象とした。内訳は男性5名(平均年齢25.0±5.1歳)、女性6名 (平均年齢35.8±4.3歳) であった。音楽の経験があるものは4名で平均年数は15.3±3.3年であった。参加者にはフェイスシート、POMS短縮版、VAS、音楽経験の有無の質問という順で回答させた。安静時間30秒で脳血流量の測定を行った後、曲の音量調整で30秒間曲を聴取させ、1分間曲を聴取しながら脳血流量を測定することをテンポの違いで2回行った。その際に毎回曲の聴取後にはPOMS短縮版、VAS、曲に関する質問紙への回答を求めた。
 テンポの異なる2曲の聴取後の気分・感情変化についての検討では、VASにおいて聴取前と遅いテンポの曲の聴取後、速いテンポの曲の聴取後でどのような感情変化をするかを検討するために、被験者内1要因の分散分析を行った。その結果、テンポの速い曲を聴取すると気分が興奮する (楽しくなる) ことが分かり、テンポの遅い曲を聴取すると気分が和らぐことが分かった。また、POMS短縮版においても、聴取前と遅いテンポの曲の聴取後、速いテンポの曲の聴取後でどのような感情変化をするかを検討するために、被験者内1要因の分散分析を行った。その結果、速いテンポの曲は抑うつや落ち込みという気分を低減させ、音楽を聴取すると疲労という気分が低減することが示された。また、曲に関する質問紙の中で聴取後に感じた曲へのイメージを自由記述で回答してもらった結果、遅いテンポ曲の聴取後では「落ち着いた雰囲気」「ゆったりとして優しい感じ」「落ち着いている感じ」「歯医者さんの待合室のイメージ」「川の流れ、草原」というイメージを持っていた人がいた。一方、速いテンポ曲の聴取後では「明るい」「軽快」「活気のある曲」「元気な感じ」というイメージを持っていた人がいた。このことから、音楽へのイメージが遅いテンポ曲を聴取すると気分が和らいだという気分変化を生じさせ、速いテンポ曲を聴取すると気分が興奮した (楽しくなった) のではないかと示唆される。
 音楽のテンポの違いによる脳血流量変化の検討では、試行間で右半球と左半球の酸素化血液量がどのような変化をするかを検討するため、被験者内2要因の分散分析を行った。その結果、安静時状態のときから右半球と左半球には差があり、左半球の方が酸素化血液量が少なかったという結果からテンポの違う曲を聴いても半球による差は見られないということが示された。
 曲の好悪による脳血流量変化の検討では、2曲とも好きと回答した被験者、どちらか1曲嫌いと回答した被験者においてそれぞれ試行間で右半球と左半球での酸素化血液量、脱酸素化血液量、全血液量がどのような変化をするかを検討するため、被験者内2要因の分散分析を行った。その結果、2曲とも好きと回答した被験者では、安静時状態のときから右半球と左半球には差があり、左半球の方が酸素化血液量と全血液量が少なかったという結果から好まれる曲かつテンポの違う曲を聴いても半球による差は見られないということが示された。
 音楽経験の違いによる脳血流量変化の検討では、音楽経験の違いによって試行間で右半球と左半球での酸素化血液量、脱酸素化血液量、全血液量がどのような変化をするかを検討するため、それぞれ被験者内2要因の分散分析を行った。その結果、音楽経験の有無の違いによる右半球と左半球での酸素化血液量の差は変化が生じないことが示された。
 脳血流量とリラックス度の関連性の検討では、テンポの違う曲を聴取させ、音楽聴取中の前額血流レベル低下とリラックス度の関係を見た結果、関係は存在しなかったという結果となった。このことから、テンポの異なる曲を音楽刺激にすると音楽聴取中の前額血流レベル低下とリラックス度の関係は見られないことが示された。