河合修論


重要な他者に対する「心理的居場所感」の違いが時間的展望に与える影響について

河合飛鳥

 「居場所」という日本語は日常的な言葉であり、我々はふだん、様々な文脈でこの言葉を使用しており(中藤,2017)、近年では心理的な意味を含んだ言葉として用いられるようになった(杉本・庄司,2006b)。そして、「居場所」という言葉は、不登校や青少年の犯罪、ひきこもりなど、様々な問題と関連して用いられている。則定(2008)は、心理的居場所感を「心のよりどころとなる関係性、及び、安心感があり、ありのままの自分を受容される場」と定義している。「居場所」とアイデンティティとの関連について調べたものは、特に多くの研究がなされており(中藤,2017)、青年期の重要な発達課題であるアイデンティティの確立と「居場所」が関連していることが示されている。藤村(2011)は過去から現在を経て未来に至る一貫した時間的展望の意識はアイデンティティの達成という児童期の次に続く青年期の発達課題に対しても重要性を持っているとしている。青年期の発達において重要なアイデンティティの確立のために重要な時間的展望に、「居場所」がどのように影響しているのかを検討するにあたって、本研究では、類型化した中学生時の重要な他者に対する「心理的居場所感」の時間的展望への影響について検討することを目的とした。
結果は、中学生時の重要な他者に対する心理的居場所感は、性別やクラスターによって特徴があり、時間的展望に対する影響も異なっていた。男性は、重要な他者に対して役立つという経験が時間的展望に対して影響を及ぼしており、過去・現在・未来を考えるうえで役立ったという経験が重要だということが示唆された。両親に対して心理的居場所感が低い男性は、中学生の時に役立つことと受け入れられていることが過去を受け入れることに影響をあたえており、両親に対して心理的居場所感が高めの男性は、中学生の時に父親に対して役立っていることが現在の充実や将来を明るく、かつ明確に考えることに影響を与えていることが示唆された。また、女性は、母親・親友に対しての心理的居場所感が比較的高く、父親のみ低い場合は、中学生の時に重要な他者に対して安心感を感じることや受け入れられているという感覚があることが重要であることが示唆された。両親に対しての心理的居場所感が低く、親友に対しては高い女性は、中学生の時に母親に対する反抗をし、親友に対して役立っていることが減の充実や将来を明るく、かつ明確に考えることに影響を与えていることが示唆された。