籏野卒論


本邦におけるノスタルジアな感情と機能的特徴

籏野遥香

 本研究では、ノスタルジアを「感傷を伴う懐かしさ」と定義し、ノスタルジックな感情の喚起及びノスタルジアの持つ3つの主要なノスタルジアの機能的特徴である自尊感情の向上、人生への意味付けの促進、ソーシャルサポートの知覚の促進を検討すること、本来性の向上と機能的特徴との間には関連があるのかどうかを検討することを目的とした。また、ノスタルジアの定義を「感傷を伴う懐かしさ」とすることで、本邦においても英語圏と同様のノスタルジアの3つの主要な機能的特徴を確認することができるという仮説を立てた。
 ノスタルジア群と日常記憶群との間にノスタルジックな気分に差は見られなかった。その要因としては、本邦は英語圏よりも日常的な記憶に対してノスタルジアを感じやすい可能性が考えられる。また、ノスタルジア群の想起されたエピソードから、過去への懐古に留まる消極的ノスタルジーに分類されるものが目立ったため、英語圏と本邦ではノスタルジアの種類が異なる可能性が考えられる。
ノスタルジアの喚起による自尊感情の向上、人生への意味付けの促進、ソーシャルサポートの知覚の促進は、確認されなかった。「感傷を伴う懐かしさ」というノスタルジアの定義を用いることで、英語圏の主要な3つの機能的特徴と同様な結果が得られるという仮説は支持されなかった。損失や後悔といったネガティブな要素や、個人が描写されつつ他者も登場する内容など、質的特徴は英語圏と一致する部分がみられたが、機能的特徴は見られなかった要因として、本邦におけるノスタルジアは英語圏よりもポジティブ要素な弱く、ネガティブな要素が強い可能性が推測される。
本研究において自尊感情の向上、人生への意味付けの促進、ソーシャルサポートの知覚の促進および本来性の向上はみられなかった。その要因としては、先行研究と比べ、本研究の参加者はノスタルジックな記憶の想起前において、どの尺度においても得点が高かったことが考えられる。よって、自尊感情、人生への意味付け、ソーシャルサポートの知覚、本来感は高く認知している場合、ノスタルジアを喚起しても向上しない、またはノスタルジアを感じにくい可能性が推測される。
本来性の向上は自尊感情の向上、人生への意味付けの促進とは関連があったが、本来性の向上とソーシャルサポートの知覚の促進は関連が見られなかった。その要因として、ノスタルジアの特徴である心理的成長感と社会的つながりが関わっていると考えられる。自尊感情、人生への意味付け、本来性は自己概念に関わる点において心理的成長感と関連があると考えられ、一方で他者との関わりを示すソーシャルサポートは社会的つながりと関連があると推測できる。
今後の展望として、日常記憶群において、日常的な記憶を想起させる際には時間的な距離を一定に定め、時間的距離の適切な指標を検討する必要がある。また、「感傷を伴う懐かしさ」という定義では、英語圏と同様の機能的特徴の結果は得られなかったことから、もう一度本邦におけるノスタルジアの定義を再検討する必要があるだろう。