藤森卒論


日常場面における展望的記憶と遂行機能の関連について

藤森健也

  本研究は、未来のある時点に意図した行為の記憶である展望的記憶(梅田・小谷津, 1998)と目的をもった一連の行為を手際よく行うのに必要な機能である遂行機能(Lezak, 1982)との関連を検討した。これまでの研究から、展望的記憶と遂行機能の関連は示唆されていたが、これまでのような実験室場面での展望的記憶実験、遂行機能評価は、生態学的妥当性の低さが問題となる。また、展望的記憶には、様々な側面があるため構成概念を細かく分類して実験を行う必要がある。したがって、本研究では、日常場面により近い展望的記憶実験を行うこと、日常場面での遂行機能の問題を評価できるBRIEF-Aを用いて遂行機能評価を行うこと、展望的記憶の時間ベース課題で実験をデザインすることを踏まえたうえで、展望的記憶と遂行機能の関連について検討することを目的とした。
 実験参加者は、大学生43名で、遂行機能評価質問紙BRIEF-Aへの回答と、指定された時刻に指定されたひらがな1文字を返送するという展望的記憶課題を1週間継続して行ってもらった。そして、展望的記憶課題成功数とBRIEF-Aの9つの下位尺度得点の関連を検討するために、相関分析、重回帰分析を行った。
 その結果、展望的記憶課題成功数とBRIEF-Aの下位項目である「抑制」「自己モニタ」「計画と組織化」「整理整頓」との間に有意な低い負の相関が見られた。また、重回帰分析の結果、「整理整頓」が展望的記憶課題成功数に影響していることが示唆された。これらの結果から、日常場面の時間ベースの展望的記憶は、予定の想起に干渉する余計な情報を制御する「抑制」、自身が課題とどう向き合い対処するかを自覚し、柔軟に対処する「自己モニタ」、先の課題に必要なことをマネージする「計画と組織化」、環境を整備することで想起を助ける「整理整頓」の遂行機能4領域と関連していることが示唆された。
 本研究において、展望的記憶に遂行機能の「整理整頓」が影響を与えることが示唆されたように、展望的記憶のリハビリテーションを考えるうえでは、メモ帳やタイマーなどの外的記憶補助を目立ちやすくする、環境調整を習慣化させることも重要であると考えられる。
 本研究の課題としては、実験参加者が意図をタイミングよく想起できたにもかかわらず、アルバイトなどの用事により、課題を遂行できなかったという点や事象ベースの課題での検討は出来ていないという点である。今後、これらの課題を踏まえて実験を重ねることで、展望的記憶のシステムが解明されていくと考えられる。