星野卒論


トーキングエイドを使用した失語症コミュニケーションの心理的負担軽減の検討 

星野彩花

 失語症によるコミュニケーション問題は抑うつや不安に影響を及ぼしている可能性は充分に考えられる。失語症臨床では、補助代替コミュニケーションが注目を集めていて、近年では失語症患者のコミュニケーションを支える電子機器の開発が行われてきている。
本研究では、トーキングエイドのアプリケーション利用が心理的負担を軽減するか、気づきがある場合にもトーキングエイドのアプリケーション利用が心理的負担を軽減するかについて検討した。
 実験素材としてタイ語の音声による質問をコンピューターで実施した。また、日本語版 POMS2 成人用全項目版を実験素材として気分の測定を行った。仮説としては、アプリケーションの利用は、失語症者の心理的負担を軽減の効果があり、フィードバックによる言語機能に障害があることへの「気づき」がある場合はより大きく心理的負担を発生させ、トーキングエイドによる心理的負担の軽減が起こりやすくなると考えた。
参加者は健常者を対象とし、横山(2005)の研究を参考に、日本語を母語とする参加者にとって馴染みのない外国語の質問をする疑似失語の状況で実験を実施した。参加者は不正解のフィードバックなし条件群・不正解のフィードバックあり条件群とし、トーキングエイド無しでの質問解答とトーキングエイドを使用しての質問解答をそれぞれ実施した。また、実験の前後においてPOMS2 の気分調査を3回行い、その結果を比較した。
 分散分析の結果、POMS2結果において不正解のフィードバックの有無は心理的負担に影響しなかった。よってフィードバックによる言語機能に障害があることへの「気づき」がある場合はより大きく心理的負担を発生させるという仮説は支持されなかった。気分の測定については、実験前後における、混乱・当惑と友好尺度において疑似失語条件での気分強化、怒り・敵意と緊張・不安尺度においてトーキングエイド投入後の気分緩和が見られた。白川(2011)は、失語症者の不安やいらだちなど、障害受容に関わる面でのストレスは計り知れないとしたが、この結果はその不安やいらだちをトーキングエイドにより軽減できるという可能性を検討できると考えられるものとなった。【抑うつ-落ち込み】の主効果は有意のみがあったが多重比較を行ったところ、POMS2結果の間の差が全て有意ではなかった。  これはトーキングエイドがQOLを向上させ抑うつ効果を低減させるという仮説も支持しない結果となった。本研究には患者側となる参加者の、一人ひとり異なる状態に適切と思われる刺激の整備や、反応が得られた場合のフィードバックを強化していく余地もあると考えられる。今回の実験を発展し、伝え合いのできる人間同士のコミュニケーションとしてトーキングエイドを使用した上で心理的負担にどのような結果が出るのかという検討の余地は十分にあると考えられる。