吉田卒論


高次脳機能障害に対する健常者の態度変容—絵本を用いた読書法の効果— 

吉田真悠

 本研究では高次脳機能障害者との接触経験がない人を対象に、絵本を用いた読書法が高次脳機能障害者に対する態度変容にどのように効果を与えるのかについて検討することを目的とした。高次脳機能障害者と接触経験がない健常な大学生20名を対象に、絵本を読ませる読書群と絵本を読ませない未読群に各10名ずつ無作為に抽出し、質問紙調査を実施した。使用した尺度は多次元的態度尺度(徳田,1990b)であった。この尺度は「拒否的態度」、「統合教育」、「特殊能力」、「自己中心性」、「交流の当惑」の5つの次元に分かれている。
読書群、未読群で読書の効果を検討するために次元ごとに二要因混合計画の分散分析と、読書群で絵本の効果が維持されているかを確認するために次元ごとに1要因分散分析をおこなった。その結果、拒否的態度次元では、絵本を読んだことによる態度改善はされなかった。一時的に拒否的態度が強まったが、維持はされなかった。統合教育次元では、絵本を読んだことによる態度改善はされなかった。一時的に拒否的態度が強まったが、維持はされなかった。特殊能力次元ではテストの主効果のみが有意で、群の主効果および交互作用は有意ではなかった。そのため絵本を読んだことによって平均得点が高くなったとは言い切れない。得点があがった理由が絵本のみの効果であるとは言い難い。自己中心性次元では、絵本を読んだことによる態度改善はされず、自己中心的であると感じる傾向が強くなり、その傾向が維持された。交流の当惑次元では、態度は改善されず、絵本を読んだほうが読まない時よりも交流において当惑する傾向が強くなり、維持された。結果を総合的に見てみると、今回用いた読書法は接触経験がない人にとって、障害についての理解が深まるものであった。しかし、自由記述とポストテストの平均得点から、障害に対してネガティブな印象がついてしまい、態度は改善されなかったと言える。今回の結果から、接触経験がない人の態度を改善・維持させるには、さらに説明する素材と内容の要素の組み合わせが大切になってくると考えられる。その組み合わせによって、介入の効果(好意的か非好意的か)が変わってくると考える。
 今回の研究では先行研究の課題であった参加者の高次脳機能障害者との接触経験の有無に関して考慮して行った。その結果、各次元で有意な差を見ることができた。しかし、この有意差は態度が改善されたということを表すものではなく、絵本を読んだことによって、障害について参加者にネガティブな印象を与えたということを表すものであった。接触経験があり、ある程度知識がある人に対しては今回用いた絵本は態度改善の効果は表れている。しかし、態度改善・維持を目的として今回用いた絵本を接触経験がない人に対しては、非好意的に効果が働いてしまうことが分かった。