小野卒論


音楽によるストレス想起後の気分の改善効果の検討 

小野紗於里

 本研究では音楽聴取によるストレス想起によって引き起こされたネガティブ感情、不安低減効果について検討することを目的として実施した。仮説として参加者選曲群が実験者選曲群より音楽におけるネガティブ気分、ポジティブ気分の変化率に有意に差が生じ、ネガティブ気分の改善効果、ポジティブ気分の回復効果が高くなると予測した。大学生15名を対象とし、参加者は実験者選曲群、参加者選曲群にランダムに振り分けた。質問紙はPOMS2、STAIを使い、課題は八木他 (2018)の先行研究で用いられた「最近3ヶ月のうちでもっとも強くストレスを感じた出来事」を自由記述形式で回答させた。
2要因混合分散分析を行った結果、POMS2の「怒り―敵意」、「混乱―当惑」、「抑うつ―落ち込み」、「疲労―無気力」、「緊張―不安」、総合的気分状態得点とSTAIの「状態不安」、「特性不安」の音楽による得点の変化率がストレスによる得点の変化率よりも低くなっていた。音楽聴取によってネガティブ気分が改善すること、「活気―活力」、「友好」の音楽による得点の変化率がストレスによる得点の変化率よりも高いことから音楽聴取によってポジティブ気分も回復することが言える。ストレスにおける変化率と音楽における変化率で相関分析を行い、「抑うつー落ち込み」と「友好」及び特性不安のみ有意な差が見られた。ストレスによって気分が大きく変化するほど音楽によって改善することが明らかとなった。
しかし、参加者選曲群と実験者選曲群で音楽における変化率が全ての因子・尺度で有意な差が生じなかったことから好みの音楽による気分改善効果が見られなかった。音楽との日常的な関りが強い者でのみ身体的反応が強く現れる可能性があり、音楽聴取によるストレス緩和効果もそのような敏感性の高い者で生じ、そうでない者には生じにくいのかもしれないため本研究では音楽の好みによる違いは見られなかったことが考えられる。また、参加者選好が低い曲を実験者選曲群で使用することで今回の実験とは違った結果が見える可能性がある。
今後の研究では音楽聴取の影響の受けやすさを考慮しながら、音楽聴取によるストレス緩和効果を検討していくことが望ましいだろう。リラックスを促す音楽を聴いても、その効果は性格特性で差異があるという指摘がされている(小竹他,2004)ため、それに関連する性格特性を考慮する必要があるといえる。