蛙化現象になり得る心理的原因の検討について
大島あすか
本研究では蛙化現象の体験、または経験をバーンアウトや自己肯定とどのように関連しているかについて、その実態や起こり得る理由を検討することを目的とした。
参加者は133名(内有効回答数96名)であり、使用尺度は吉田ら(2020)の蛙化現象体験尺度、吉田(2015)の自己肯定感尺度、久保(2007)のバーンアウト尺度を使用し、Qualtricsを使用して質問紙調査を行った。
分析方法は各得点について記述統計を求め、各尺度の関係性を示すために相関分析を行った。さらに尺度同士の関係性について検討するために重回帰分析を行った。重回帰分析については「自己肯定感得点」、「バーンアウト得点」を独立変数、「蛙化得点」を従属変数として分析を行ったが、有意な結果が得られなかったため、各尺度を下位尺度得点に分けて分析を行った。
その結果相関分析では「蛙化得点」、蛙化得点下位尺度の「不信感」「自分への無理解」「かみ合わなさ」で「自己肯定感得点」とそれぞれ弱い負の相関が見られた。この結果は自己肯定感が低いと蛙化現象になりやすいことを示唆している。ここで自己肯定感の定義から考えられることについて、自己には主観的な自己と客観的な自己があり、これら二つの自己肯定の低さが蛙化現象に影響していると考えられる。しかし自己肯定感が低いことは、人間の発達には必要であることが先行研究で明らかになっており、他者からの否定的な評価から身を守る過程で生じた自己肯定感の低さが、蛙化現象に繋がったのではないかと考える。
次に「蛙化得点」、蛙化得点下位尺度の「他責体験」「不信感」「自分への無理解」「被支配不安」「かみ合わなさ」と「バーンアウト得点」で弱い正の相関が見られた。また「蛙化得点」、蛙化得点下位尺度の「不信感」「自分への無理解」「裏切られ不安」「被支配不安」「かみ合わなさ」とバーンアウト得点下位尺度の「E」で弱い正の相関が見られた。さらに蛙化得点下位尺度「不信感」「自分への無理解」とバーンアウト得点下位尺度「D」で弱い正の相関が見られた。このことからバーンアウト傾向にある人は蛙化現象にもなりやすいことが示唆された。バーンアウト主成分である「情緒的消耗感」とは日々過大情緒的資源を要する場面における枯渇状態のことを指し、「脱人格化」はそれに伴った相手に対しての非人間的な対応のことである。また蛙化得点下位尺度の質問項目では、相手に対して常に気を遣うことや、自分はこうであるべきと解釈できる項目があった。そのステレオタイプにはめ込んだ考えが自分を苦しめ、結果的に蛙化現象につながるのではないかと考える。
最後に「自己肯定感得点」、バーンアウト得点下位尺度「E」「D」「PA」を独立変数、蛙化得点下位尺度「自責体験」「他責体験」「周囲の無理解」「不信感」「自分への無理解」「ジェンダー的拘束」「裏切られ不安」「被支配不安」「拒絶体験」「失望体験」「かみ合わなさ」を従属変数にして重回帰分析を行った。結果は蛙化得点下位尺度「ジェンダー的拘束」、「自分への無理解」で有意差が見られた。
「ジェンダー的拘束」では「E」と「PA」が高いほど「ジェンダー的拘束」程度が低くなることがわかった。ここで「ジェンダー的拘束」の質問項目である「相手が自分を人間視していないと感じた」、「相手の好意を知って悲しくなった」傾向が低くなるということは、相手が自分を人間視していると感じられる、また相手の好意を知って嬉しいという解釈ができる。これについて今回の結果では、情緒的資源が枯渇し、個人的達成感の程度が下がることが「ジェンダー的拘束」につながることが示唆される。
また「自分への無理解」では自己肯定感が高いほど「自分への無理解」の程度が下がることが示唆された。これについて今回の結果では自己肯定感が低い状態であること、また自己理解が進んでない状態が「自分への無理解」につながることが示唆された。しかしどちらも説明率は15%程度であるため、今回の実験では測定しきれなかった要因が他にもあり、今後さらなる検討が必要であると考える。