自己受容および他者受容が抑うつに与える影響
大須賀敬太
本研究は,自己受容,他者受容,抑うつとの関連を調べると同時に,自己受容と他者受容のバランスが抑うつにどのような影響を与えるのかを性差も含めて検討することが目的であった。124名の大学生(平均年齢20.2歳)を対象に上村(2007)で使用された自己受容・他者受容尺度とベックの抑うつ尺度を用いて質問紙により検討を行った。その結果,男性は女性よりも自己受容が高く,女性は男性よりも抑うつが高いことが示唆された。これは伊藤・吉田(2019)が,男子の方が有意に自己受容的であり,女子の方が有意に自己拒否的であると述べていることや,自己嫌悪は女子のほうが高いことなど(水間,
1996),先行研究を支持する結果となった。また,男子は自己受容と抑うつとの間に負の相関がみられたが,女子は自己受容と他者受容に弱い正の相関,自己受容と抑うつに負の相関,他者受容と抑うつに弱い負の相関がみられたことから,女子には特有の人間関係が抑うつに影響していることが考えられる。そして,自己受容と他者受容の高低を組み合わせて,抑うつとの関連を検討した結果,自己受容と他者受容の両方が高い群と自己受容が高く他者受容の低い群は,自己受容が低く他者受容が高い群と自己受容と他者受容の両方が低い群よりも抑うつが低く,男女別にみても同様の結果が得られたことから,抑うつに影響するのは自己受容と他者受容のバランスではなく,自己受容が大きいということが示唆された。しかし先行研究では,自己受容と他者受容のバランスから研究することの重要性や,抑うつを含む様々な精神的健康および良好な人間関係には自己受容と他者受容の両方が寄与していることが明らかである。そのため,今後は,自己受容のみが抑うつに影響する可能性の検討および,自己受容と他者受容のバランスと抑うつ以外の精神的健康も含めた研究が必要である。
加えて,本研究は,自己受容が低く他者受容が高い群には過剰適応的傾向が強いことと(上村, 2007),過剰適応傾向は特に抑うつや対人恐怖に繋がりやすいこと(益子,
2009)から自己受容と他者受容のバランスと抑うつの関連を検討したのが研究理由の一つであった。分析の結果,自己受容が低く他者受容が高い群は抑うつも高いことが確認されたため,自己受容が低く他者受容が高い群にみられる過剰適応的傾向は抑うつに影響する可能性が示唆された。したがって,今後は本研究の内容に加え,過剰適応的傾向も同時に検討する必要がある。