スポーツ障害受容が心的外傷後成長に与える影響
小嶋 真祈
本研究では想定場面を用いて傷害受容を仮定することで、PTGの生起にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることを目的とした。
参加者は大学生75名であり、Seki, R. et al.,(2021)の出来事に伴う心理的苦悩尺度と辰巳(2019)のスポーツ傷害受容尺度、Taku,
K. et al.,(2007)の日本語版外傷後成長尺度を使用して質問紙調査を実施した。
分析方法は、各尺度の得点について相関を明らかにするために、「外傷後成長尺度」を目的変数とし、「心的苦悩得点」「時間的展望得点」「傷害受容得点」を説明変数とした重回帰分析によって行った。
その結果、心理的苦悩尺度が心的外傷後成長尺度に影響しており、受傷の程度が低いほど心的外傷後成長が生起しやすくなることが明らかになった。また、傷害受容尺度も心的外傷後成長尺度に影響しており、競技人生における受傷経験を肯定的に捉えられるようになると、心的外傷後成長の生起も促進されやすくなることが明らかとなった。
さらに詳細に検討するために、「PTG得点」の下位尺度における、「心理的苦悩得点」、「時間的展望得点」、「傷害受容得点」の下位尺度について相関分析および重回帰分析を行った。その結果、「自己努力における意図性」から「人間としての強さ」への正の影響が見られた。この結果は、受傷した状況下で自分が抱えている課題や今後の解決策を明確にすることができると、自分自身に対する信頼が高まり、問題への対処能力にも気づくことができることを示唆する。また、「自己努力における意図性」から「人生に対する感謝」への正の影響が見られたことから、自分の課題や今後の解決策を明確にすることができると、人生において大切なものを再認識することができ、自分自身の命をより大切にしようという意識が生じることが示唆された。また、「精神麻痺」から「人生に対する感謝」への負の影響が見られたことから、受傷経験を想起して身体的な拒否反応が生じる状態では、一日一日をより大切に生きようという人生に対する感謝は生じにくいことが示唆された。