髙岡卒論


気圧の変化が認知機能及び気分状態に及ぼす影響 

高岡紗依

 高気圧下における虚血性脳血管障害患者の動作遂行や認知機能の改善、気圧の低下とアルツハイマー型認知症患者の活動性悪化の関連が観察されていることから、気圧は認知機能に影響を及ぼしていると考えられる。また気圧の低下によるラットの気分障害の悪化が示されていることから、気圧は気分状態にも影響しているかもしれない。本研究の目的は高気圧下と低気圧下での計算課題への取り組みを比較し、低気圧下での認知機能の低下が見られるかを検討すること、及び気分状態に関する質問紙を実施し、気圧の気分状態への影響も検討することであった。計算課題は百マス計算を用い、質問紙はPOMS2日本語版の短縮版を使用した。実験時の気圧と実験前24時間の気圧の日内変動を測定し、実験時の気圧が高い回と低い回、日内変動が大きい回と小さい回を選定した。
 計算課題の平均回答率と平均正答率、POMS2短縮版の各項目の平均T得点についてそれぞれ対応のあるt検定を行ったところ、実験時の気圧について気圧の低い回の方が気圧の高い回よりも有意に平均回答率が低かった。このことから、健常者においても低気圧下である方が高気圧下である場合よりも、認知機能が低くなることが推察される。平均正答率、平均T得点、及び日内変動における平均回答率について有意な差はみられなかった。平均正答率と平均T得点の結果からは、参加者の実験への真面目な態度がうかがえる。
 本研究の実施時期は梅雨であったため、実験時の気圧は標準気圧である1013.25hpaと比べてどの実験回も低く、日内変動も小さかった。したがって今後、高気圧と低気圧の入れ替わりの激しい春や秋、台風の通過前後など実施時期を様々に設定し、より大きな実験時の気圧の差、日内変動の差が生じる時点において検討をしていく必要がある。
 本研究の実験時の気圧が低い回と気圧が高い回は実験初回と最終回であり、平均回答率の違いが実験時の気圧によるものか反復によるものか判別がつかなかった。したがって今後の研究では、実施期間初期の気圧が高い回と実験期間末期の気圧が低い回を比較することで、反復による影響を消失する必要があると考える。