豊泉卒論


解釈レベル理論を用いた「約束の日が近づくと憂うつになる現象」の説明

豊泉 栞 

 本研究では、①約束の日が近づくと憂うつになる現象の生起プロセスは、解釈レベル理論を用いて説明可能か、また②約束の日が近づくと憂うつになる現象が生起する場合と生起しない場合とでは、そのプロセスにどのような違いがあるのか、解釈レベルによる対象の捉え方の違いのうち、特に抽象的―具体的側面に着目し、質的に検討することを目的とした。約束の日が近づくと憂うつになる現象の生起頻度が高い者1名、低い者1名の計2名を対象に、場面想定法による半構造化面接を実施した。
 戈木クレイグヒル(2016)の手法に従い、GTAによる分析を行った結果、当該現象の生起頻度が高い協力者は、予定までの時間的距離が近づくにつれて、心理的距離も近くなり、考える内容が抽象レベル・抽象―具体レベルから抽象レベル・具体レベルへと変化することで、憂うつレベルが上がっていた。そして、想定した場面において当該現象が生起したと認識していたことから、当該現象の生起プロセスは、解釈レベル理論の具体的―抽象的側面を用いて説明可能であることが示唆された。また、当該現象の生起頻度が低い協力者は、予定までの時間的距離が近づくにつれて、その予定までの心理的距離も近くなっていた。ただし、不変である抽象的楽しみを除いて、考える内容は予定までの時間的・心理的距離が遠い時点から抽象―具体レベル・具体レベルであり、時間的・心理的距離が最も近い時点になると、抽象レベルに変化していた。なお、憂うつレベルは予定が近づくにつれて多少上がっていたが、どちらともいえないまでにしか至らなかった。そして、想定した場面において当該現象が生起しなかったと認識していた。
 両者の結果から、当該現象の生起・非生起プロセスを比較したところ、自身の予定に対する気持ちをポジティブ方向に向け、憂うつを回避するという、自己を理解することで可能となる対策を取っているか否か、予定当日/出発の瞬間に対する心理的距離が近いかなしか、という違いがみられた。したがって、今後は自己理解の高低・予定が始まる瞬間の認識の違いが当該現象に及ぼす影響について検討が必要である。
 加えて、本研究では両協力者ともに、予定までの心理的距離が近い時点で時間的切迫感を感じることで、やらなくてはいけないことに自分のやりたいことを制限された結果、憂うつレベルが上がっていた。心理的距離による解釈レベルの変化に加え、時間的切迫感の影響について検討した研究は見当たらないことから、今後は時間的切迫感が当該現象に及ぼす影響について検討した上で、この点が当該現象の生起要因として一般化可能か、量的研究につなげていく必要がある。